3 業務実施結果
3.2 検討文献
3.2.10 POL アプリケーション向け宇宙用耐放射線耐量横型パワーMOSFET の開発
(1) 要約
本論文では衛星用POLコンバータに適した横型パワーMOSFETの放射線耐量(トータルドーズ 耐量、高エネルギーパーティクル耐量)について考察する。
横型パワーMOSFETは高エネルギーパーティクル耐量(SEB耐量)に関して敏感である。デバイ スシミュレーションと実測を元にそれらトレードオフ関係を研究した。
横型パワーMOSFET においてもデバイス設計的、プロセス設計的な改良が進み、SEB 耐量は 大きく改善してきたが、最適な POL 製品を製造するためには放射線耐量と電気特性のトレードオフ の最適化は考慮するべきである。
衛星用において小型・軽量化、ローパワー化が求められており、デジタルプロセシングコンポーネ ントではハイレベルの集積化、低電圧化が必要になる。これらは従来の衛星用パワーシステムでは 実現が難しい。低電圧化・大電流化は
ケーブルやコネクタの大型化・パワーロ スにつながる。現在のような集中電源シ ステムではこれら動向に追随できない。
それに対し、分散電源システムではこれ ら諸課題を解決できる可能性を秘めて いる。
分散電源システムは、図 3.2.10-1 の ような構成であり、デジタルコンポーネン ツなどの負荷の近くで POL(Point Of Load)電源を構成することで、大電流ラ
文献名 Development of a Radiation-Hardened Lateral Power MOSFET for POL Applications
出典 IEEE Transaction on Nuclear Science, Vol.56, No. 6, pp. 3456-3462, Dec. 2009.
著者名 P.E.Dodd, M.R.Shaneyfelt, B.L.Draper, R.W.Young, D.Savignon, J.B.Witcher, G.Vizkelethy, J.R.Schwank, Z.J.Shen, P.Shea, M.Landowski, and S.M.Dalton 対象デバイス 20V Drain-Extended (DE) MOS
実験設備 TAMU (Texas A&M Univ.), Sandia 照射線種及び
エネルギーの区分
トータルドーズ耐量;Aractor 4100 10keV x-ray SEE耐量;
TAMU (Texas A&M Univ.)
2.2GeV Au ions (LET=86MeVcm2/mg) 2.6GeV Xe ions (LET=42MeVcm2/mg) Sandia
36MeV Si ions (LET=14MeVcm2/mg) 20MeV C ions (LET=4MeVcm2/mg) 単発現象又は
積算線量効果の区分
単発現象 積算線量効果 実験又は理論の区分 実験
図3.2.10-1. 衛星アプリケーション用POL分散電源構成
インを極力短く構成でき、上述の問題点をクリアできる。しかし、残念ながら宇宙用途のPOL 電源シ ステムについての報告は少ない。
(2) 回路構成・デバイス構造・ターゲット
POL電源の1つの魅力的なアーキテクチュアは図3.2.10-.2に示す同期整流ステップダウンコン バータシステムであり、2つのn-channel Power MOSFETで構成される。よって、宇宙用POL電 源の実現には放射線耐量のあるPower MOSFETの開発が必要である。
商品化されている電気特性の優れたPower MOSFETは残念ながらTotal Dose耐量、Heavy Ion耐量(SEB耐量)が低い。逆にTotal Dose耐量、Heavy Ion耐量の優れたPower MOSFET はPOL電源としては電気特性が悪い。
また、最近の研究では新世代の横型高耐圧CMOSトランジスタがPOL電源で検討されてきてお り、例えばDeep Sub-micron ICプロセス上にDrain-Extended(DE) MOSを構成するパワーIC 技術がある。この技術により、POL制御回路部(ASIC)と出力段n-channel Power MOSFETを1 チップ構成できる。
通常の DC/DC コンバータアプリケーションでは、電気特性面で優位である縦型のディスクリート
Trench Power MOSFETが使用されるが、高周波化、高密度DC/DCが求められるPOL電源で
は横型Power MOSFETが優位になる。しかし、放射線環境下でのきちんとした評価は行われてい
ない。
本論文では、パワーIC、特に出力段デバイスであるDE-MOSの放射線環境試験を実施し、その 改善策を提案する。
POL電源構成;同期整流ステップダウンコンバータ ICライン; Sandia Microelectronics
ICプロセス;Deep Sub-micron Power IC process (Sandia’s radiation-hardened CMOS6R) 出力段デバイス;20V Drain-Extended (DE) MOS
Gate Tox=35nm , Lg=0.6um , LN=0.75um , Pepi=5e18/cm3 /2.5um
図3.2.10-3にDE-MOSのデバイス構造を示す。図のようにLightly-Doped-Drain拡散層(Nwell) が形成されている。また、その部分にnitride層が追加されている。
工程的には、Nwell形成後、nitrideを形成し、その後N+drainを形成するが、N+drainイオン注入
時に nitride が遮蔽膜として残存するため、その直下には N+drain が形成されない。これによって
図3.2.10-2. POLパワーコン バータ回路 同期整流回路と
コントローラーASIC 図3.2.10-3. 標準的な横型 n-channel MOSFET構造
DE(Drain-Extended)長:LNを確保し、高耐圧化を実現している。このLN長は電気特性に大きく影響 する。
【Target】
・TID耐量; >100krad(SiO2)
・SEE耐量; LET 80MeVcm2/mg
@SEGR耐量;ゲート電圧=15V, ドレイン電圧=20V at R.T.
@SEB耐量 ;ゲート電圧=0V , ドレイン電圧=20V at R.T.
(3) TID耐量試験結果
Total Dose コンディション;
Aractor 4100 10keV x-ray*wafer level at R.T.
VGS =10V, VDS=0.1V
ΔVot, ΔVit ;midgap charge-separation techniqueにて抽出 結果;
100krad ではVthシフトは小さく良好であった。多くの衛星での使用に耐えうるレベルである。Vth
シフトはTotal Dose量増加に対してマイナスにシフトしていくことを確認。
図3.2.10-5は VthシフトをΔVot(酸化膜トラップ)と ΔVit(インターフェーストッラップ)に分解・解析し たものである。ΔVotとΔVitは逆のシフトを示す。大きなΔVitが発生しているが、その理由はゲート酸 化膜厚が35nmと厚膜のためである。
最近の実験結果によると、energetic particles (proton, neutron, or heavy ions) は非常に低 いトータルドーズ量でもPower MOSFETを劣化させることが報告されている。文献[9] [10]
*両論文ともに本論文の執筆者Grからの論文。
上記論文では、縦型のトレンチ構造、プレーナ構造ともに、proton トータルドーズ試験にて 10rad(SiO2)以下でサブスレッショルド領域のリーク劣化が確認されている。これらはproton環境下 の核反応生成物(Nuclear reaction products) によるmicro dose effectによるものと推定される。
(4) SEGR耐量評価結果
SEB コンディション; ion flue 1e7ions/cm2@destructive , 2e6ions/cm2@non-destructive TAMU (Texas A&M Univ.)
図3.2.10-4. ウェハレベルTotal
Dose依存性 図3.2.10-5. ウェハレベルTotal Dose
依存性ΔVot(酸化膜トラップ)とΔVit
(インターフェーストラップ)
2.2GeV Au ions (LET=86MeVcm2/mg) 2.6GeV Xe ions (LET=42MeVcm2/mg) Sandia
36MeV Si ions (LET=14MeVcm2/mg) 20MeV C ions (LET=4MeVcm2/mg) SEGR結果;
SOA (Safe Operating Area); Vg=~14V, Vds=20V@86MeVcm2/mg
目標 80MeVcm2/mg VGS=15V, VDS=20Vに対して若干未達成であった。SEGR耐量はゲート 酸化膜厚とゲート酸化膜破壊耐量の関数である:文献[12]。
経 験 則 Whestley-Titus 計 算 式 (53MeVcm2/mg: 文 献[12]) よ り 、SiO2 絶 縁 破 壊 電 圧 を 10MV/cmとすると、35nmゲート酸化膜ではVg=14V@86MeVcm2/mgと計算される。
この結果は今回の測定結果と一致する。
(5) SEB評価結果
SEB コンディション; ion flue 1e7ions/cm2@destructive , 2e6ions/cm2@non-destructive TAMU (Texas A&M Univ.)
2.2GeV Au ions (LET=86MeVcm2/mg) 2.6GeV Xe ions (LET=42MeVcm2/mg) Sandia
36MeV Si ions (LET=14MeVcm2/mg) 20MeV C ions (LET=4MeVcm2/mg) SEB結果;
図3.2.10-7にSEBしきい値電圧のLET依存性を示 す。42MeVcm2/mg までは単調に減少し、VDS=7~8V で 破 壊 が 発 生 す る 。 非 常 に 弱 い 。 そ の 後 86MeVcm2/mgまで飽和を確認。
(6) SEB耐量に関する考察
プロセスシミュレーション;TSuprem4
デバイスシミュレーション;Medici(2次元), Davinci(3次 元)
コンディション;4デバイス、深さ8umまで拡張ドレイン領域 にイオン注入
結果;Medici,Davinci ともにほぼ実測結果を模擬できた。
図3.2.10-7参照。
考察;
イオン注入部の拡張ドレイン-ドレイン部でインパクトイオ
ン化が発生。イオン注入によって生成されたキャリアは拡張ドレインの電界で加速され、インパクトイ オン化される。
図3.2.10-7. SEB耐量評価結果・シミュレー ション結果
図3.2.10-8. SEB照射時のデバイス シミュレーション結果(インパクトイオン 化)
上記で発生した正孔はベースコンタクトに向けて流れ るが、この電流をトリガーに寄生バイポーラ(N ソース/P ボディ/N 拡張ドレイン)が動作。この寄生バイポーラ動 作により電子電流も注入され、さらにドレイン部電界集 中が加速。という悪循環に陥る。
この際、他の3つのMOSにも影響が及んでいる。
(7) SEB耐量改善 対策;
寄生バイポーラ動作を抑制することで上述の破壊メカニズムの進行を抑制することができる。図 3.2.10-9に示すように、P-body層の直下にP+埋込層を形成することでのベース抵抗の低減を検討 した。この P+埋込層は高電圧加速イオン注入にて形成する。この効果により、P-body 層の電位が ソース電位に固定され、寄生バイポーラ動作を抑止する。
(8) 電気特性とSEB耐量の最適化
気特性とSEB耐量の最適化(シミュレーション);
図3.2.10-10のように耐圧はDrain extension 濃度依存があり、かつその最適値はLN(Drain extension長)が長いほど大きくなる。しかし、図3.2.10-11のようにLNが長いとオン抵抗が増加する というトレードオフの関係にある。この際、SEB耐量はLNが長いほど大きくなる。
LNに関して、耐圧,SEB 耐量 vs オン抵抗のト レードオフ関係がある。また、図 3.2.10-12 のように Epi 厚を厚くするほど耐圧は増加するが、SEB 耐量 は低下するというトレードオフ関係にある。
電気特性とSEB耐量の最適化(実測結果);
図3.2.10-13に主要電気特性(耐圧、オン抵抗)と SEB 耐量の実測結果を示す。シミュレーションで予 測された、LNに関する耐圧,SEB 耐量 vs オン抵 抗のトレードオフ関係が確認された。
図3.2.10-10. 耐圧のDrain extension濃 度依存性シミュレーション結果
図3.2.10-11. SEB耐量・オン抵抗のLN 依存性シミュレーション結果
図3.2.10-9. 改良構造(P+body contact , P+buried追加)
図3.2.10-12. SEB耐量・耐圧のEpi厚 依存性シミュレーション結果
今回は14MeVcm2/mgでの評価結果を示し たが、より高い LET でもこのような評価が必要 であろう。
図3.2.10-14にSEB耐量のEpi厚、P+埋込 層濃度依存性を示す。このようにEpi 厚の薄膜 化 、P 埋 込 層 濃 度 の 最 適 化 で 、SEB 耐 量 40V@14MeVcm2/mgまで改善される。
*この際の電気特性に関しては記載なし。
(9) SEGR耐量とTID耐量の最適化
現状構造では TID 耐量は十分であるが、
SEGR耐量は不十分であり、これらはトレードオ フ関係にある。ゲート酸化膜厚膜化により TID 耐量と SEGR 耐量の最適化を検討した。その 結果、ゲート酸化膜厚は60nmが最適であるこ とを抽出した。
・SEGR 耐 量 ;Wheatly-Titus 計 算 式 よ り 、 Vg=24V @80MeVcm2/mg と推測。
・TID 耐量;図 3.2.10-15 参照。100krad で 0.2V 程度のシフトであり、実使用問題ないレ ベルであることを確認した。
(10) まとめ
・衛星などへ搭載されるPOL電源用デバイスと して横型パワーMOSFETを検討。
・この横型パワーMOSFET はパワーIC プロセ スで作られるため制御回路との 1チップ化が 可能。
・横型パワーMOSFET の電気特性、トータル ドーズ耐量、SEB 耐量、SEGR 耐量に関す る考察を行った。
・これらはトレードオフの関係にあり、最適化が 必要。
・特にSEB耐量に非常に敏感であり、デバイスシミュレーションによって寄生バイポーラ動作が破壊 の原因であることを確認した。
・寄生バイポーラ動作を抑制する構造として、P+埋込層追加、Epi厚薄膜化などを提案。
(11) 考察
TID耐量、SEB耐量、SEGR耐量ともに非常に高いレベルを目標とし、研究している。耐放射線
@LET=14MeV cm2/mg
図3.2.10-14. SEB耐量のEpi厚、P+埋込層 依存性実測結果
図3.2.10-13. SEB耐量・耐圧・オン抵抗の LN依存性実測結果
図3.2.10-15. 改良構造のウェハレベルTotal Dose依存性実測結果
@ゲート酸化膜60nm