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第 5 章 CFA 協会の示す公正価値測定の本質

V. ヘイグ=サイモンズの所得概念から窺い知れる公正価値概念

2. SFAC で示される包括利益

1976年、FASBは、後にSFAC第6号へと置き換えとなるSFAC第3号やSFAC第5号

「営利企業の財務諸表における認識と測定」(Recognition and Measurement in Financial Statements of Business Enterprises)の公表に先立ち、「FASB 討議資料 財務会計および財務 報告のための概念フレームワークに関する論点の分析:財務諸表の構成要素とその測定」

(FASB Discussion Memorandum: An Analysis of Issues Related to Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting: Elements of Financial Statements and Their Measurement:

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December 2, 1976 (FASB[1976](津守監訳[1997])), 以下、「討議資料」とする)を公表した。

この討議資料では、財務会計および財務報告のための概念フレームワークの基礎として、

資産負債アプローチ、収益費用アプローチ、もしくは、非連携アプローチのいずれのアプ ローチが選択されるべきかという問題提起がなされている(FASB[1976], par.25(津守監訳 [1997], p.50))。

辻山[1991]は、討議資料で示された見解が、後に公表された SFAC でどのように反映さ れたかを検討し、SFAC に新しく組み込まれたこととして、包括利益の概念が導入された こと、そして、発生主義会計の概念が新しい解釈のもと、再構築されたことをあげている

(p.127)。その上で、SFACは、ストックホルム学派の流れを組むリンダール(Erik R. Lindahl) やヒックスの所得概念を潜在的に意識し、本来ならば、企業価値評価に基づかなければな らないものの、測定上の困難が伴うため、その代替として、企業が保有する資産に基づく 所得を用い、資産に評価においては、必要において現価概念を適用しようとしているよう に見受けられるとしている(pp.133-134)。ここでも、FASB が、利益概念とヒックスの所 得概念を結び付けていることが窺い知れる。しかしながら、SFAC に新しく組み込まれた 包括利益の概念について、辻山[1991]は、かかる概念とヘイグ=サイモンズの所得概念に は、用語に類似性があり、これらには共通性があるとして、ヒックスの所得概念ではなく、

ヘイグ=サイモンズの所得概念と結び付けているのである(p.129)。

SFAC第5号によると、包括利益とは、価格の変動を含む資産と負債の変動額であり、

(par.91(平松・広瀬訳[2002], pp.255-256))、資産と負債の変動をもたらす事象には、資産 の取得や負債の発生というインフロー、および、資産の売却や負債の弁済といったアウト フロー、ならびに、企業が所有している資産や企業が負っている負債の価額の変動の2種

類ある(par.89(平松・広瀬訳[2002], p.254))。さらに、「現在の価格に基づく情報は、それ

が当該情報に関連するコストを費やしても妥当と認められるほど十分に目的に適合するも のであり、かつ、信頼性、目的適合性の条件に適えば認識されなければならない」(par.90

(平松・広瀬訳[2002], p.254))とされている。

3. 1962年公表『企業会計原則試案』で示される利益

FASBが公表するSFACは、資産負債アプローチが採用されている。1976年に公表され た討議資料で問題提起されている当該アプローチが初めて提唱されたのは、スプローズ

(Robert T. Sprouse)と、アメリカ公認会計士協会(American Institute of Certified Public Accountants, AICPA)内に設立された会計原則審議会(Accounting Principles Board, APB)の 調査部門である会計調査研究部(Accounting Research Studies, ARS)のディレクターであっ たムーニッツ(Maurise Moonitz)によって、ARS第3号として1962年に公表された『企

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業会計原則試案』(A Tentative Set of Broad Accounting Principles for Business Enterprises,

(Sprouse and Moonitz[1962](佐藤・新井訳[1962])), 以下、「1962年原則試案」とする)

である86

1962年原則試案が公表された当時、採用されていた会計モデルは収益費用アプローチで あったため、当該試案で示された見解は、現行の一般に認められた会計原則とは極端に異 なっているという見解が APB より示された(Sprouse and Moonitz[1962], Statement by the Accounting Principles Board(佐藤・新井訳[1962], p.221))。したがって、当該アプローチは 採用されなかった。

その後、APBに代わり会計基準設定を行う組織としてFASBが1972年に設立されると、

スプローズは理事に就任し、概念フレームワーク・プロジェクト、すなわち、SFACの開発 に携わった。SFAC の開発においても、収益費用アプローチの支持者と資産負債アプロー チの支持者がいたが、議論が重ねられた結果、FASB は資産負債アプローチを採用するこ ととなった。かかる議論において、スプローズは、資産負債アプローチ支持者の知的リー ダーの1人であった(Swieringa[2001], pp.214-216)。つまり、スプローズが提唱した資産負 債アプローチは、1962年の段階では採用されなかったものの、スプローズがFASBの理事 として基準設定に携わることになったことで、採用されることになった。

1962年原則試案では、利益について、次のように説明している。すなわち、「利益とは、

企業実態の純資源の増加関数」(Sprouse and Moonitz[1962], p.11(佐藤・新井訳[1962], p.124)) である。会計の主要な役割は、「経済実体の保有する資源の歴史を測定すること、すなわち、

すべての資源とこれらのすべての変動を測定すること」(Sprouse and Moonitz[1962],

pp.11-12(佐藤・新井訳[1962], p.124))であるため、すべての資産と負債が認識され、また、そ

れに関して客観的に把握できる変動、具体的には、企業との取引によって生じる変動だけ でなく、物価水準やその他の事象を原因として生じる変動もすべて認識すべきであるとい う見解が示されている(Sprouse and Moonitz[1962], p.53(佐藤・新井訳[1962], p.176))。こ れは、先にみたSFACでの見解と同じであり、上述したSFACの開発に携わったスプロー ズの存在を踏まえると、SFACは、1962年原則試案での見解が踏襲されているといえる87。 CFA協会の有する利益概念が、1962年原則試案で示された見解を踏襲しているSFACの それと整合しており、SFAC の利益概念がヘイグ=サイモンズの所得概念と整合している のであれば、SFACで規定される包括利益やCFA協会の利益概念だけでなく、1962年原則

86 なお、企業会計原則試案の原案は、スプローズによって作成されている(Sprouse and Moonitz[1962], p.ix

(佐藤・新井訳[1962], 序言)

87 その上で、市川[2016]は、1962 年原則試案で示された考え方を計算構造の観点から検討し、その結果、

1962 年原則試案で想定されている測定基礎は時価であり、資産と負債を評価することを基礎理念とする 資産負債アプローチの純粋型であると結論づけている(p.126, 市川[2010], p.76)

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試案もヘイグ=サイモンズの所得概念と対応していることになるだろう88