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普通株主が利用可能な純資産変動計算書

第 4 章 包括的ビジネス報告モデルの有用性の検討-普通株主が利用可能な純資産変動

II. CFA 協会の提案する財務諸表と現行の財務諸表の比較

3. 普通株主が利用可能な純資産変動計算書

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77 普通株主持分の変動額を指している。

現行の財務諸表における純資産は「資産-負債」として導出される。一方、図表4-2の 貸借対照表の貸方で表示されている項目が「請求権」と「普通株主持分」に関する項目で あることからもわかるように、CFA 協会は、「純資産=普通株主持分」と規定している

(CFAI[2007], p.15)54。つまり、ボトムラインの純資産変動額は普通株主に帰属している。

ここから、当該財務表が、「普通株主が利用可能な」情報を提供することを強く意識してい ることが窺い知れる。

図表 4-4で示している純資産変動計算書では、当該財務表に計上される項目が、事業活 動(営業活動および投資活動)もしくは財務活動に分類され、それぞれの測定値が、①当 期取引、②見積り、③資産と負債に関連する公正価値の変動のいずれかの列で計上される。

そして、それらの合計が④純資産の変動として報告される。

ここで、図表4-4の横軸である事業活動と財務活動それぞれのカテゴリーに計上されて いる項目を確認すると、事業活動のうち、営業活動に該当する項目は、企業の営業活動に 関する情報であり、これらは現在、損益計算書で表示されている情報である。また、事業 活動のうち、投資活動に該当する項目には、営業外収益および損失に関する情報、つまり、

現在、損益計算書に計上されている情報と、建物や有価証券の再評価による公正価値の変 動という、現在、その他の包括利益(OCI)として包括利益計算書で表示されている情報の 両方が示されている。そして、財務活動として示されている情報は、現在の損益計算書で 表示される情報となっている。

図表4-4を一目見ただけでも分かるように、多くの測定値が、①当期取引、および、② 見積りのカテゴリーに記載されている。これらの列は、伝統的な発生主義会計に基づいて

いる(CFAI[2007], p.26)。また、第③列で示される資産と負債に関連する公正価値の変動は、

現行の財務諸表において、OCIに該当する項目である。つまり、純資産変動計算書は、現 行の会計基準が報告することを要求していない情報の報告を求めているのではなく

(Mcenally[2007b], p.28)、現行の損益計算書と包括利益計算書で表示されている情報と同 一の情報を、異なる方法で表示しているに過ぎない。

なお、当該財務表は、CFA協会の目指す全面公正価値会計の適用にむけて鍵となるため、

後にも検討を加えるが、以下では、現行の損益計算書および包括利益計算書からの変更点 について検討する。

54 椛田[2014]は、会計目的(投資意思決定目的および受託責任目的)の観点から、CFA協会が「純資産=

普通株主持分」と定める資本直接規定説に依拠した場合、会計目的として、理論的には受託責任目的が結 びつくため、CFA協会の示す投資意思決定目的と資本直接規定説が対立することがあることを指摘してい る(pp.115-116)

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(2) 現行の損益計算書と包括利益計算書からの変更点

上述したように、純資産変動計算書では、現行の損益計算書と包括利益計算書から得ら れる情報と同じ情報が提供されているが、CFA協会は、次に示す4つの点を変更している。

(a) 財務諸表に計上される項目は、事業活動(営業または投資活動)と財務活動に区 分して表示する(CFAI[2007], pp.20-21)。

(b) 財 務 諸 表 に 計 上 さ れ る 項 目 は 、 機 能 で は な く 性 質 に 基 づ い て 表 示 す る

(CFAI[2007], p.25)。

(c) 恣意的な業績の指標である会計上の純利益を重視しない(CFAI[2007], p.26)。

(d) 純資産の変動額はすべて、純資産変動計算書に表示する(CFAI[2007], p.24)。

(a) 財務諸表に計上される項目は、事業活動(営業または投資活動)と財務活動に 区分して表示する

現行の規定に準拠した場合、キャッシュ・フロー計算書に対してのみ、計上する財務諸 表項目を営業、投資、または財務活動に区分して報告することが求められている(IAS第 7号, par.10, SFAS第95号, par.14)。図表4-5では、各活動の定義を示している55

図表4-5:企業活動の区分と定義

活動の区分 定義

営業活動 企業の主たる収益獲得活動およびその他の活動のうち、投資活動でも財 務活動でもないもの

投資活動 長期性資産および現金同等物に含まれない他の投資の取得及び処分 財務活動 当該企業の拠出資本および借入の規模と構成に変動をもたらす活動

(出所)IAS7号, par.6より作成。

一方、CFA協会は、図表4-4の通り、企業活動を事業活動と財務活動に分類し、その後、

事業活動という枠の中で、営業活動と投資活動を区分することを提案している(CFAI[2007], pp.20-21)。

CFA 協会が主眼を置いている金融サービス業は、彼らの顧客に対して資金を提供する。

かかる貸付金は、金融サービス業を営む企業の主たる収益獲得活動、すなわち営業活動で

55 SFAS95号では、パラグラフ15において投資活動、パラグラフ18において財務活動、パラグラフ21

において営業活動について説明されている。FASBが規定する各活動が意味することは、IAS7号での 定義と、言い方は異なれど、同じである。

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あるものの(IAS第7号, par.15)、資金提供先企業への投資活動としての要素を持ち合わせ ていないと言い切ることができない。つまり、営業活動と投資活動を明確に区別すること は困難である(CFAI[2007], pp.20-21)。その一方で、長期社債の発行のような第三者と行う 資金調達活動は、企業の営業活動と直接的な関連を有していない(CFAI[2007], p.21)。 そこでCFA協会は、財務諸表に計上される項目が、企業の営業活動との関連性を有して いるかという点に着目し、これらの間に関連性がある場合には事業活動に、そうでない場 合は財務活動に区分し、事業活動という枠の中で、投資活動を営業活動とは区別すること を提案している(CFAI[2007], p.21)。

この変更点は、企業活動を、事業活動と財務活動に区分することで、財務諸表の明瞭性 が向上し、投資活動を営業活動と分けて報告することで、現代企業の実際の経済活動をよ り良く反映できるというCFA協会の見解に基づいている(CFAI[2007], p.21)。

(b) 財務諸表に計上される項目は、機能ではなく性質に基づいて表示する

現在、損益計算書で示される情報は、売上原価や販売費および一般管理費といった主要 な機能別のカテゴリーに集約されている(CFAI[2007], p.59)。

この区分方法は、たとえば減価償却費や年金費用という経済的特性や測定基礎の異なる 項目を集約して表示するため、情報の損失や情報の透明性の低下をもたらしている

(CFAI[2007], p.13)。ゆえに、投資家は、投資意思決定を行う際に、機能別に集約された情 報を分解することが必要となり、それに多くの努力を費やしている。また、測定値の算出 には限られた情報しか利用できないため、見積りを必要とする。その結果、無視できない 程度の誤差が発生し、情報の有用性に影響を与えている(CFAI[2007], p.59)。

CFA協会は、これらの問題点を解決する方法として、項目を、労務費や原材料といった 項目の性質に基づいて表示することを提案している。この表示方法により、①投資家は、

投資意思決定を行うにあたり項目を分解する必要がなくなる、②個々の項目の性質、およ び、これらの項目が企業の活動にもたらす影響の透明性と理解可能性が高まる、そして、

③企業間の比較可能性と、企業が作成する財務諸表の一貫性を向上させるとCFA協会は考 えている(CFAI[2007], p.14, p.24)56

(c) 恣意的な業績の指標である会計上の純利益を重視しない

従来、損益計算書や包括利益計算書では、企業が1会計期間に生み出した利益がボトム ラインで報告されるが、CFA協会の提案する純資産変動計算書では、「利益」という用語が

56 財務諸表項目を性質に基づいて表示することは、IAS1号でもすでに認められており、新しい概念で はないことも、CFA協会は指摘している(CFAI[2007], p.59)

さらに、IAS1号は、費用の性質に関する情報が将来キャッシュ・フローの予測に有用であるため、

費用を機能別に分類した場合には、かかる費用の内容に関する情報を追加で開示することを求めている

(par.104, par.105)

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用いられておらず、ボトムラインで報告される情報も、「純資産の変動」として表示されて いる。これは、単一の利益数値のみを用いて投資意思決定を行うことはできないという CFA協会の見解によるものである(CFAI[2007], p.18)。

CFA協会が純利益のような利益数値に焦点を置かない理由は、これらの数値が、会計上 の構成概念、つまり、人為的な数値であり、透明性のある経済状況を基礎とした測定値で はないからである(CFAI[2007], p.12, p.26)。

利益数値が人為的であるということは、かかる数値を算出する際に、経営者は、彼ら自 身のニーズに見合うように数値を操作することが可能となる(CFAI[2007], p.12)。このよう な操作の影響を受けやすい利益数値に焦点を置くことは、無益で正当な根拠のない市場の ボラティリティと、株式市場に参入している投機家の短期主義を煽ることになる市場の過 度の反応を引き起こすことになると、CFA協会は述べている(CFAI[2007], p.26)。

CFA協会は、企業の業績の評価は、経営者ではなく、投資家の責任であるという見解を 有している。ゆえに、純資産変動計算書は、現行の損益計算書や包括利益計算書にみられ るような単一の利益数値を報告するのではなく、投資家それぞれが持ち合わす特有の視点、

分析のための要件、そして、目的に関連した測定値を、投資家自らが選択できるように設 計されている。これにより、すべての財務諸表利用者のニーズを満たすことが可能となる

(CFAI[2007], p.25)。

(d) 純資産の変動額はすべて、純資産変動計算書に表示する

すべての純資産の変動額を単一の財務表に記録することには、2 つの目的があると考え られる。1つ目は、OCI項目のリサイクリングを排除すること、もう1つは、現行の損益 計算書と包括利益計算書だけでなく、持分変動計算書(株主資本等変動計算書)も純資産 変動計算書に置き換えることである。

概念フレームワークの第5の概念において、CFA協会は、資産、負債、持分に影響を与 える取引と事象はすべて、発生と同時に財務諸表に認識することを要求している。そして、

それらの項目の変動も、第8の概念(公正価値の変化を含む純資産のすべての変化は、普 通株主が利用可能な純資産変動計算書のような単一の財務表において記録されなければな らない)に基づき、純資産変動計算書のような、透明性のある単一で包括的な財務表に記 録しなければならない(CFAI[2007], p.12)。

これは、現在、OCIとして報告されている項目のようなカテゴリーがあってはならない というCFA協会の見解を反映したものであるが(CFAI[2007], p.12)、その根底に、CFA協 会が、OCIとそのリサイクリングに反対する立場にいることがある。

CFA協会がOCIに反対する理由は、OCIが会計もしくは経済の用語として正しく定義さ れていないことにあり(Peters[2012](今井訳[2012], p.2))、CFA協会は、次の通り説明して