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PwC 調査結果に基づいた CFA 協会の主張

第 2 章 CFA 協会と公正価値-浮き彫りとなる公正価値会計の問題点-

V. 包括的ビジネス報告モデルから明らかとなる公正価値会計の問題点

2. PwC 調査結果に基づいた CFA 協会の主張

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(1) PwC調査の結果:混合属性測定モデルの支持

2010年にPwCが投資専門家を対象として実施した調査(PwC調査)の結果、調査回答 者の大半が金融商品の会計処理には、FASBが提案していた公正価値測定モデルではなく、

IASBが提案していた混合測定属性モデルを支持していた。それにもかかわらず、混合属性 測定モデルを適用することで、現行の財務報告実務の有用性を損なっていることがPwC調 査によって示されているため、混合属性測定モデルが意思決定に最も有用なモデルではな いとCFA協会は主張していた(CFAI[2010a], p.15)。

既に述べた通り、金融商品の会計処理について、当初、FASBは公正価値測定モデルを、

IASB は混合属性測定モデルを提案していた。PwC 調査では、貸借対照表で開示する金融 商品の分類と測定方法を決定する際に考慮すべき要素について、図表2-5で示す結果が出 ている。

図表2-5:金融商品の報告方法を決定する際に考慮すべき要素

金融商品の報告方法を決める際に考慮すべき要素 当該要素を重要と考える PwC調査回答者の割合 企業の事業目的またはビジネスモデル 72%

金融商品の特性 68%

金融商品のタイプ(種類) 47%

金融商品に関する情報が企業間で一貫していて、

比較できるように報告されている限り、

報告の合理性は重要ではない

40%

(出所)PwC[2010], p.11より作成。

図表2-5で示した結果は、IASBが提案するモデルと整合して、貸借対照表における金融 商品の報告方法を決定する際には、企業の事業目的またはビジネスプランと金融商品の特 性が第一に考慮すべき要素であることに、PwC 調査回答者からの支持が集まっている

(PwC[2010], p.11)。さらに、図表2-6より、投資専門家にとって、金融商品の公正価値も しくは償却原価のいずれの情報が重要なのかは、金融商品の特性によって異なっているこ とがわかる。

図表2-6で示したPwC調査の結果は、金融商品の公正価値と償却原価それぞれの測定値 の重要性を、金融商品の種類ごと示している。この調査結果から明らかなことは、企業が 短期的に保有する金融商品には償却原価よりも公正価値が、また、企業が長期的に保有す る金融商品には公正価値よりも償却原価が重要であり、それらを貸借対照表に計上するこ とが望ましいことである(PwC[2010], p.12)。

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図表2-6:金融商品の種類と公正価値および償却原価による測定値の重要性の比較

(1=重要でない~100=とても重要である)

貸付金 負債証券 自己資本

売買目的 有価証券

デリバテ ィブ証券

預金金融 機関の コア預金

企業独自 の長期的

債務 売買

目的 長期 保有 目的

満期 保有 目的

売却 可能

非トレー ディング

公正

価値 80 58 71 91 91 97 95 55 60 償却

原価 61 88 79 60 54 33 32 89 86

(出所)PwC[2010], p.12より作成。

図表 2-6の数値を見ると、償却原価情報の方が公正価値情報よりも重要である金融商品 であっても、公正価値情報も同様に重要であると捉える見解もある。

たとえば、売買目的有価証券の公正価値の重要性は97であり、償却原価の有用性は33 である。その数値の差は64であり、売買目的の貸付金の場合、その差は21である。一方 で、償却原価の方が重要であるとされる金融商品の場合、「償却原価の重要性-公正価値の 重要性」の差は、34(預金金融機関のコア預金)~8(満期保有目的負債証券)となる。こ れらの数値を比較すると、償却原価の方が重要であると考えられる金融商品であれども、

公正価値も重要であると考えるPwC調査回答者が多いことがわかる。しかしながら、当該 公正価値は、注記での開示が最も適切であると考えられている(PwC[2010], p.12)。 図表2-5と図表2-6で示した調査結果より、PwC調査の回答者である投資専門家は、金 融商品の測定方法について、企業の金融商品の保有目的または金融商品の特性に基づいて 適切な測定基礎を適用する混合属性測定モデルを適用する方が望ましく、混合属性測定モ デルによる財務報告は、基礎となる経済状態と企業の業績を最もよく反映する貸借対照表 と損益計算書をもたらすと考えている(PwC[2010], p.12)。このような調査結果が出ている にもかかわらず、CFA協会は、混合属性測定モデルを適用することは現行の財務報告実務 の実用性を損なうと主張している。

(2) CFA協会のPwC調査に対する主張

CFA協会の主張の根拠として、PwC調査回答者の大半が、財務諸表もしくは注記におい て開示されている金融商品の情報に調整を加えていることをあげている。調査回答者が、

金融商品に関する情報を調整する理由は図表2-7で示す通りである(PwC[2010], p.9)。 金融商品に関する情報の調整は、通常、①コアとなる事業から発生する収益のうち発生 していない利益と損失を取り除くため、②異なる評価の仮定を適用するため、③資産と負

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図表2-7:金融商品の情報を調整する理由と調整していると答えた PwC調査回答者の割合

金融商品にかかわる情報を調整する理由 調整をしていると答えた 調査回答者の割合 異なる評価方法の仮定による影響を反映させるため 53%

資産と資産に対応する負債に適用された測定・評価技法との

間にミスマッチがあるため 45%

金融商品に適用された測定・評価技法が有用ではないため 42%

損益計算書の影響を報告するために金融商品の価値が用い

られる方法が有用でないため 40%

(出所)PwC[2010], p.9より作成。

債のミスマッチを取り除くため、もしくは、④会計年度終了後に発生した市場の動向を貸 借対照表に反映させるために行われている(PwC[2010], p.9)。

PwC調査回答者のうち62%の回答者が日常的に調整を加えていること、また、調整を加 えたことがないと答えた回答者が5%しかいないことから22、財務諸表や注記において開示 されている金融商品の情報が、調整なしに利用できるとは言い難い。しかしながら、図表 2-7 で示した理由からでは、混合属性測定モデルが最も適合的ではないとは言いきれない と考える。

なぜなら、金融商品の測定方法が有用でないことを理由に開示された測定値を調整する 場合、償却原価で測定されている情報を、公正価値に測定し直していると考えられる。し かし、金融商品を測定するために用いられた評価技法が有用でない場合や異なる仮定を適 用する場合、公正価値で測定されている金融商品に対しても調整が行われている可能性が 考えられる。つまり、PwC調査の結果からでは、償却原価で測定された金融商品のみに調 整が加えられているとは言い切れない。換言すると、公正価値で測定された金融商品の測 定値に対しても調整が行われている可能性があるのではないだろうか。

PwC調査は、FASBとIASBの金融商品の会計基準の修正案に対する個々の投資専門家 の見解の理解を増し、それらを広く共有することを目的として実施された。そして、当該 調査の結果は、2010年当時実施されていた金融商品プロジェクトの議論に有用なインプッ トを提供するために、投資専門家にとって新たな手段を提供することを意図としていた

(PwC[2010], p.4)。つまり、PwC調査は、金融商品の会計基準設定において、投資専門家

の見解をFASBとIASBに伝えるための1つの方法であったと捉えられる。

22 19参照。

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PwCは、62名の投資専門家に個別でインタビューを実施することにより、投資家とアナ リストのコミュニティーから横断的に情報を得て、数々の見解を収集している(PwC[2010], p.6)。その結果、投資専門家は、金融商品には混合属性測定モデルに基づいた会計処理を 支持したのである。その一方で、投資専門家が会員であるCFA協会は公正価値測定モデル を支持している。同じ投資専門家の見解であるにもかかわらず、PwC 調査とCFA 協会で は支持する金融商品会計のモデルが異なる。

CFA協会が認定するCFA協会認定証券アナリスト(CFA)もしくはCFAの志願者の多 くがPwCに雇用されているという事実を踏まえると(CFAI[2015b])、CFA協会とPwC調 査の結果が、金融商品会計に対して異なる見解を有していることが望ましいとは考え難い。

CFA協会は、PwC調査が実施される2010年以前から全面公正価値会計の支持を表明し ていた。そのため、混合属性測定モデルを支持するという結果となったPwC調査から全面 公正価値会計を支持するための根拠を見出す必要があったのではないかと考える。しかし、

PwC調査の結果は明らかに混合属性測定モデルを支持しており、また、IASBとFASBの 金融商品の測定に関する基準の動向からも、CFA協会の主張のように、金融商品の会計に 混合属性測定モデルを適用することを拒むことは難しいといえる。