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投資専門家の考える公正価値の有用性②:アンケート調査の結果を用いた検討 . 90

第 4 章 包括的ビジネス報告モデルの有用性の検討-普通株主が利用可能な純資産変動

IV. 公正価値測定の適用範囲拡大に伴う CFA 協会が提案する財務諸表の有用性

3. 投資専門家の考える公正価値の有用性②:アンケート調査の結果を用いた検討 . 90

の意思決定有用性に対する評価の理解を増すために、意思決定にあたり財務情報を利用し

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ているヨーロッパの投資専門家らを対象とした調査を実施した(pp.497-499, p.506)63。当 該調査で用いられた測定基礎は、①歴史的原価、②低価法による測定値(lower of cost or market)、③使用価値(value in use)、④時価による公正価値(fair value (mark-to-market))、

⑤モデルによる公正価値(fair value (mark-to-model))の5種類である64

図表4-8は、(a)無形資産(のれんを除く)、(b)のれん、(c)有形固定資産、(d)棚卸 資産、(e)金融資産、(f)非営業資産という6 種類の資産それぞれに対して投資専門家が 選好する測定基礎の調査である。

図表4-8:特定の資産に対して、投資専門家が選好する測定基礎の順位

(a) (b) (c) (d) (e) (f)

無形資産 のれん 有形固定資産 棚卸資産 金融資産 非営業資産

1 時価による公正価値

2 歴史的原価 低価法による

測定値

モデルによる

公正価値 歴史的原価 3 使用価値 歴史的原価 低価法による測定値 4 低価法による測定値 使用価値 歴史的原価 使用価値 5 モデルによる公正価値 使用価値 モデルによる

公正価値

(出所)Gassen&Schwedler[2010], p.505より作成。

調査の結果、調査回答者である投資専門家が最も熟知しており、また、6 種類すべての 資産にとって最も意思決定有用性の高い測定基礎は「時価による公正価値」であった

(Gassen&Schwedler[2010], pp.504-505)65。その一方で、同じ公正価値であっても、「モデル による公正価値」の意思決定有用性は、金融資産を除くすべての資産において最も低いと いう結果になっている(Gassen&Schwedler[2010], p.505)。

図表4-9は、(1)公正価値の有用性、(2)情報の重要性、すなわち、公正価値情報と償 却原価情報のいずれの重要性が高いのか、そして、(3)公正価値の適切性という3種類の アンケート調査の結果である。

63 AIMR等のアメリカの投資専門家を対象とした研究が存在することを受けて、当該調査は実施されてい

る(Gassen&Schwedler[2010], p.497)

64 SFAS157号で規定されている公正価値ヒエラルキーのうち、レベル1のインプットを用いて算出さ

れる公正価値は「時価による公正価値」(mark-to-market)、レベル2とレベル3のインプットを用いたそれ は、「モデルによる公正価値」(mark-to-model)と言われている。なお、レベル3のインプットを用いて算 出された公正価値は、「判断による公正価値」(mark-to-judgment)と呼ばれることもある(大日方[2012a], p.93)

65 5つの測定基礎に関する調査回答者の熟知度は、(1)時価による公正価値、(2)歴史的原価、(3)低価 法による測定値、(4)モデルによる公正価値、(5)使用価値の順となっている(Gassen&Schwedler[2010], p.503)

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図表4-9:公正価値の有用性、重要性、および、適切性

(1) (2) (3)

公正価値の 有用性

情報の重要性 公正価値・償却原価

公正価値の 適切性

金融商品

売買目的 高:84-86%

低:2-4% 公正価値

適切 > 不適切 長期保有目的 高:58%

低:21% 償却原価 非金融資産・非金融負債 高:47-51%

低:17-23% ― 適切 < 不適切

(出所)CFAI[2009a], pp.27-28 , PwC[2010], p.12 , Tang et al.[2016], p.566より作成。

金融商品に関して、調査結果は、金融商品の保有目的によって異なっている。金融商品 を売買目的で保有している場合、ほとんどの調査回答者が公正価値は有用かつ適切であり、

償却原価情報より公正価値情報を選好している。その一方で、金融商品を長期に保有する ことが目的の場合、調査結果は、売買目的の結果のように一定したものではない。公正価 値は適切であるとした回答者が、適切でないとした回答者よりも多かった一方で、売買目 的の調査結果とは異なり、公正価値の有用性が高いとは言い切れない。さらに、より多く の調査回答者が、公正価値情報よりも償却原価情報の方が重要であると回答している。非 金融資産・非金融負債に関して、公正価値は不適切であるとする回答者の方が、適切であ るとする回答者よりも多く、公正価値の有用性は、金融商品に対する結果よりも低くなっ ている(CFAI[2009a], pp.27-28, PwC[2010], p.12, Tang et al.[2016], p.5)。

有形固定資産および無形資産に関して、投資専門家が最も選好する測定基礎は時価によ る公正価値、その次は歴史的原価であり、モデルによる公正価値は最も選好されていない という図表4-8で示した結果を踏まえると(Gassen&Schwedler[2010], p.505)、これらの項 目に対して、投資専門家が公正価値測定を選好しているとは言い難い。さらに、金融商品 に関して、モデルによる公正価値が時価による公正価値に次いで選好される測定基礎であ ったものの(図表4-8参照)、図表4-9の結果を踏まえると、投資専門家がすべての金融商 品に対して公正価値測定を適用することを支持しているとは言い切れない。したがって、

66 Tang et al.[2016]は、会計関連業務従事者、外部監査人、アナリスト等の投資専門家、事業評価人(business

valuer)を対象とした調査であり、投資専門家のみを対象とした調査ではない。しかしながら、公正価値に 対する信頼は、職務の専門性が異なっても相違はほとんど無かったという結果が出ていることから(Tang

et al.[2016], p.7)、本章では、投資専門家の見解を反映した調査として取り上げることとする。

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次なる疑問は、モデルによる公正価値、すなわち、公正価値ヒエラルキーのレベル 2、レ ベル3のインプットを用いた公正価値が信頼(trust)できるものなのかということである。

図表4-10は、公正価値の信頼度を公正価値ヒエラルキーのレベル別に調査した結果であ る。この調査結果よると、半数以上の調査回答者が、レベル1の公正価値は信頼すると回 答した一方で、レベル2、レベル3と、公正価値ヒエラルキーのレベルが下がると同時に、

公正価値の信頼度も低下している(Tang et al.[2016], p.6)67

図表4-10:公正価値ヒエラルキーのレベル別にみる公正価値の信頼度

(単位:%)

公正価値ヒエラルキーのレベル

レベル1 レベル2 レベル3 公正価値を

信頼

する 55 31 19

しない 13 23 39

分からない 32 46 42

(出所)Tang et al.[2016], p.6より作成。

さらに、Gassen&Schwedler[2010]は、投資家は、公正価値ヒエラルキーのレベル2、レベ ル3 のインプットを用いて算出された公正価値を熟知していないこと(p.503)、また、よ り経験のある投資家や金融サービス業に焦点を置く投資専門家は、「時価による公正価値」

と「モデルによる公正価値」を明確に区別していることを見出している(p.506)。 これらの調査結果を踏まえると、有形固定資産や無形資産は言うまでもなく、モデルに よる公正価値が選好されている金融資産に対しても、時価による公正価値以外の公正価値 の信頼度、すなわち、有用性は低くなる。換言すると、投資専門家のいう意思決定有用性 の高い公正価値とは、時価による公正価値、つまり、公正価値ヒエラルキーのレベル1に 該当するインプットを用いて測定された公正価値のみと解釈できるだろう。

4. 公正価値測定の適用範囲拡大に伴うCFA協会が提案する財務諸表の有用性の検討 アナリストという投資専門家の立場から公正価値の有用性を検討した先行研究によると、

公正価値ヒエラルキーのレベルが下がるほど、アナリストの情報の質は低下し、アナリス トが稼得利益を予測する能力にも影響を与えていた。また、投資専門家が選好する公正価

67 公正価値を信頼しない人は、公正価値ヒエラルキーのレベルが下がると同時に増加している(Tang et

al.[2016], p.6)。ここからも、公正価値ヒエラルキーのレベルが下がると公正価値の有用性が低下すること

が窺い知れる。

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値は、公正価値ヒエラルキーのレベル1に該当する時価による公正価値であり、モデルに よる公正価値、とりわけ、レベル3の公正価値の信頼度は低かった。

確かに、開示、内部統制、コーポレート・ガバナンスを整備することによって、公正価 値の有用性は高まるであろうし、Siekkenen[2016]が指摘するように、投資家を保護する環 境が整っているかで、公正価値の有用性も変わってくるだろう。

しかし、第3節で検討した通り、CFA協会の提案する財務諸表には、SFAS第157号で 規定されている3つのレベルの公正価値だけでなく、歴史的原価といった公正価値以外の 測定値で当初認識され、その後、調整された価額も公正価値として財務諸表に表示される ことになる。これは、全面公正価値会計の適用を追求した結果、公正価値の概念がSFAS第 157 号で規定されているそれよりも広義なものになっていると解釈でき、先にみた先行研 究からは、このような公正価値が投資専門家にとって有用であるとは言い難いと考える。

換言すると、CFA協会は、公正価値は、情報の質、透明性、そして、意思決定有用性を 向上させると主張するが(CFAI[2010f], p.2)、時価による公正価値が入手可能でない限り、

公正価値測定の適用範囲が拡大するほど、投資専門家にとって意思決定有用性の低い公正 価値が財務諸表に計上されることになる。したがって、CFA協会の提案する財務諸表で提 供される情報の有用性は低下する可能性があると考えられる。