第 4 章 包括的ビジネス報告モデルの有用性の検討-普通株主が利用可能な純資産変動
II. CFA 協会の提案する財務諸表と現行の財務諸表の比較
2. キャッシュ・フロー計算書
図表4-3で示しているCFA協会の提案するキャッシュ・フロー計算書には、現行のキャ ッシュ・フロー計算書とは異なる点が2つある。1つ目は、この後に検討する純資産変動 計算書でも見られる企業活動の区分方法であり、2 つ目は、キャッシュ・フロー計算書で 示される営業活動によるキャッシュ・フローの報告方法である。
現在、期中に発生したキャッシュ・フローは、営業活動、投資活動、財務活動に区分し て報告されているが(IAS第7号, par.10, SFAS第95号50, par.14)、CFA協会は、企業活動
50 SFAS第95号「キャッシュ・フロー計算書」(Statement of Cash Flows)は現在、Topic230としてコード 化されている。
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図表4-2:比較貸借対照表
(出所)CFAI[2007], p.23より一部抜粋し、作成。
を事業活動(Business Activities)と財務活動に区分した後、事業活動に該当するキャッシ ュ・フローを営業活動と投資活動に再度、区分している(CFAI[2007], pp.20-21)。この区分 方法を用いた変更は純資産変動計算書でより顕著に表れているため、後に検討することと し、ここでは、2つ目の相違点のみを取り上げる。
現在、キャッシュ・フロー計算書を作成する際、営業活動によるキャッシュ・フローに 対して、企業には、直接法か間接法のいずれを適用するかという選択肢が与えられている が(IAS第7号, par.18, SFAS第95号, par.27, par.28)51、CFA協会は、概念フレームワーク の第9の概念(キャッシュ・フロー計算書は、会社の分析にとって不可欠な情報を提供す るものであり、直接法のみを用いて作成されるべきである)において、直接法を用いてキ ャッシュ・フロー計算書を作成することを求めている(CFAI[2007], p.13)。
富を創出するプロセスにおける最終的な目的は現金を生成することであるため、企業が 現金を生成する方法、および、企業が現金収支を管理する方法を理解することが、投資家 にとって非常に重要となる(CFAI[2007], p.19)。
キャッシュ・フロー情報は、「企業が現金及び現金同等物を生成する能力を評価するうえ
51 ただし、SFAS第95号では、直接法を適用することが推奨されている(par.27)。
20X3年 20X4年
資 産
現金 € 4,000,000 € 5,918,411
市場性のある有価証券
売掛金 595,000 845,000
控除:貸倒引当金 -20,000 -70,500
正 味 売 掛 金 575,000 774,500
…
総 資 産 € 8,925,000 € 12,241,711
請 求 権 お よ び 普 通 株 主 持 分 買掛金
…
永久優先株 300,000 300,000
請 求 権 総 額 € 1,379,738 € 4,387,648 普通株式(資本金) € 600,000 € 600,000 追加払込資本(資本剰余金) 4,000,000 4,000,000
自己株式 -100,000 -100,000
純資産の留保額 3,045,262 3,354,063 普 通 株 主 持 分 総 額 € 7,545,262 € 7,854,063
請 求 権 と 普 通 株 主 持 分 の
総 額 € 8,925,000 € 12,241,711
12月31日
変動額(€1,918,411)を キャッシュ・フロー計算書 で説明
すべての項目の変動額を 財政状態調整表で説明
変動額(€308,801)を 純資産変動計算書で説明
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図表4-3:キャッシュ・フロー計算書および現金によらない重要な財務活動と投資活動
(出所)CFAI[2007], p.25より一部抜粋し、作成。
で有用」(IAS第7号, par.4)な情報である。しかしながら、間接法を用いて作成されたキ ャッシュ・フロー計算書は、純利益から非現金項目を取り除き、当期の損益に反映されな いキャッシュ・フローの変動額を調整することで収益の数値をつなぎ合わせているため、
キャッシュ・インフローとキャッシュ・アウトフローに関する本質的な情報を提供してい ない(CFAI[2007], p.13)。すなわち、間接法を用いた場合、分析を行うために十分な情報が 提供されていない(CFAI[2007], p.12)。それだけでなく、最も有用なキャッシュ・フローの 構成要素は、直接法を用いて作成されたキャッシュ・フロー計算書からのみ入手すること ができる(CFAI[2007], p.24)。これらを理由に、CFA協会は、営業活動によるキャッシュ・
フローの表示には直接法のみが用いられるべきだと考えている52。
現金による取引ではないため、現在はキャッシュ・フロー計算書で表示されていないが、
営業活動、投資活動、そして、財務活動における重要な取引について、CFA協会は、これ らの取引の透明性を提供するために、付属明細表を用いて情報を表示することを要求して
いる(CFAI[2007], p.24)。かかる明細表は、図表4-3で示したキャッシュ・フロー計算書の
右側で示されている53。
52 当該見解は、IASCが公表した「原則書-キャッシュ・フロー計算書」に対して、AIMRが1990年7月 に寄せたコメントでも示されていたことから(AIMR[1993], p.65(八田・橋本訳[2001], p.100))、長年にわ たり、CFA協会は一貫した見解を有していることがわかる。
53 これらの項目の付属明細書をキャッシュ・フロー計算書に含めることが、投資家が潜在的な将来キャッ キャッシュ・フロー計算書 20X4年
事業活動 補 足 の 開 示
顧客からの回収 € 2,700,000 顧客からの回収
仕入商品の支払い € -1,750,000 現金売上 € 250,000.00
人件費 前受金 200,000
貸借料 信用売上に対する回収 2,250,000
その他のサービスへの支払い
… 総 額 € 2,700,000.00
営業活動による正味キャッシュ・フロー € 518,800
関連会社への投資 仕入れ商品の支払い
資本支出―建物 前期までの仕入に対する支払い -850,000
… 当期信用買い -600,000
投資活動による正味キャッシュ・フロー € -1,385,750 総 額 € -1,750,000.00
事業活動による正味キャッシュ・フロー € -866,950
現 金 に よ ら な い 財 務 活 動 と 投 資 活 動
財 務活動 投資活動
支払利息 リースによる建物および土地 € 31,700
配当の支払い
… 財務活動
財務活動による正味キャッシュ・フロー € 2,840,000 リース債務―建物および土地 € -31,700
法人所得税 -54,639
現金 の 正 味 変 動額 € 1,918,411
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