第 5 章 CFA 協会の示す公正価値測定の本質
VI. CFA 協会の示す公正価値測定の本質
4. CFA 協会の示す公正価値測定の本質
金融商品や有形固定資産に含まれる将来指向の情報にかかわる CFA 協会の説明に共通 することは、将来指向の情報には、経営者による見積りや予測が含まれていることである。
これは、先にみた1995年改革法における定義の(b)将来の事業に関する経営者の計画と 目的と整合しているのかもしれない。そうならば、経営者の見積りや予測が含まれていれ ばいるほど、かかる情報は将来指向であるため望ましく、投資家に有用だとCFA協会は捉 えていると解釈できる。
前章でも検討したように、数々の先行研究が、経営者の見積りや予測という主観的な情 報が含まれることを1つの理由として、公正価値ヒエラルキーのレベル3のインプットを 用いた公正価値の有用性や公正価値測定の適用範囲の拡大に対して批判的な見解を示して いる。しかしながら、CFA協会にとっては、経営者によるそれは、情報の有用性を低下さ せるものではなく、むしろ、情報が「将来指向」であるために必要な要素となり、かかる 情報を公正価値で測定することこそが、公正価値測定に求められることなのだろう。
VII. おわりに
本章の目的は、CFA協会はどのような概念を有する公正価値を測定しようとしているの か、すなわち、CFA協会の示す公正価値測定の本質を明らかにすることであった。
1993年に公表されたAIMR報告書で示された将来の活動に対する指針のうち、財務諸表 で示される数値に関連し、かつ、報告モデルの概念フレームワークで示されている項目で ある公正価値、オフバランスシート項目、包括利益に着目したところ、オフバランスシー ト項目に関する提案、すなわち、1年を超える未履行契約を資本化することは、FASB、IASB の定める会計基準の改訂により、実現していた(第2節)。そこで、未だAIMR 報告書で の提案が実現に至っていない包括利益に着目し、第3節において、包括利益に関するCFA 協会の見解を、FASBやIASBに対してCFA協会が寄せたコメントレター等の公表物を辿 ることで検討した。その結果、CFA協会は、利益を含め、財務諸表で表示される数値には、
経営者の意図が介入しておらず、経済を基礎とすることを求めていることが窺い知れた。
第4節では、CFA協会の有する利益概念とヒックスの所得概念の理論的整合性を検討し た。なぜなら、公正価値会計支持者が援用している理論がヒックスの所得概念だからであ る。検討の結果、FASBやSEC、AAAの財務会計基準委員会といった基準設定主体、規制 当局、職業会計士団体もが、1 会計期間における企業の純資産の変動額である包括利益と
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ヒックスの所得概念を結び付けていた。しかし、ヒックスの所得概念は完全完備市場にお いて成り立つものであり、公正価値会計支持者が援用する事後の所得第1号は、その提唱 者であるヒックスによって有用性が否定されていた。本節での検討結果に基づくと、CFA 協会の有する利益概念もヒックスの所得概念に立脚しているものと考えられる一方で、利 益概念に関するCFA協会の主張は、堅固さに欠けるといえる。そこで第5節では、CFA協 会の示す利益概念に対応するといわれているヘイグ=サイモンズの所得概念を用いて、そ こから見出せる公正価値概念を検討した。
ヘイグ=サイモンズの所得概念は、所得を「一定期間における純資産の変動額」とみな しており、概念的にいうと、すべての資産と負債が公正価値で測定され、純資産の期首と 期末の変動を利益とみなす報告モデルで示された利益概念と整合していた。しかし、ヘイ グ=サイモンズの所得概念に準拠した所得は、市場価値で測定されるものであり、将来キ ャッシュ・フローの割引現在価値で測定されるわけではない。つまり、現在、将来キャッ シュ・フローの割引現在価値によって公正価値が算出されることもあるため、CFA協会の 有する利益概念とヘイグ=サイモンズの所得概念が完全に一致しているとは言えず、当該 所得概念と一致する公正価値は、公正価値ヒエラルキーのレベル1のインプットを用いた 公正価値のみになることがわかった。
CFA協会の財務報告に対する指向を端的に示すと、「利用者指向」、「経済指向」、「将来指 向」だといえる。第6節では、そのうちの1つである「将来指向」に着目し、CFA協会に とって、将来指向の情報とはどのような情報を指すのかを検討した。その結果、CFA協会 のいう将来指向の情報とは、1995年改革法で規定された「将来指向の記述」の定義に基づ いたものであり、それを定量的に示したものが公正価値であった。
数々の先行研究が公正価値の有用性を低下させる1つの理由として掲げている「経営者 による見積りや予測」という情報に関して、CFA協会は、当該情報が含まれていることで、
情報は、より将来指向になると考えていることが窺い知れた。すなわち、CFA協会は、経 営者による見積りや予測が含まれた公正価値を財務諸表で報告することを求めているとい える。
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第 6 章
利用者指向の公正価値測定の本質
財務会計基準審議会(FASB)が規定する公正価値は、狭義では「出口価格」であるのに 対し、広義では「現在価額」である。これは、過去、現在、未来のいずれの時制における 価額であっても、「現在」の価額に変換すると公正価値になることを意味する。換言する と、財務諸表に表示される数値は、現在、公正価値であるか、過去において公正価値であ ったことになる。
このような概念をもつ公正価値には、出口価格と規定されている公正価値の定義に矛盾 が生じており、また、特に、公正価値ヒエラルキーのレベル3のインプットを用いて測定 された公正価値において、公正価値が経営者の見積りによって測定されることで生じる測 定値の信頼性にかかわる問題がある(木下[2010], p.23, p.27, 山口[2010], p.117)。これらの 問題点は先行研究で指摘されているものの、解決には至っていない。
現行の財務報告では、公正価値の有用性を保つために、公正価値の測定にかかわる情報 を注記で開示したり、内部統制やコーポレート・ガバナンスの整備が行われている。この ような取り組みも必要不可欠ではあるが、会計が「認識→測定→表示→開示」というプロ セスを踏んで行われることを踏まえると、どのような公正価値が、財務諸表に認識、測定 されるかを解明することも重要だと考える。
本論文は、このような問題意識のもと、財務諸表の利用者であり、かつ、FASB や国際 会計基準審議会(IASB)が実施する基準設定に直接的、間接的に参画しているCFA 協会 が公表した包括的ビジネス報告モデル(以下、「報告モデル」とする)を中心に据え、公 正価値の概念を検討することによって、公正価値測定の本質を明らかにすることを目的と した。
CFA 協会は、公正価値情報が財務的意思決定に最も適合的な情報であると考えている。
それは、歴史的原価情報が「古い」情報であるため、目的適合性および信頼性に欠ける一 方で、すべての取引は公正価値で行われていること、また、公正価値は将来キャッシュ・
フローの総額、時期および不確実性を含む資産と負債の価値に関する期待と見積りにかか わる情報を提供するからである。また、CFA協会が混合属性測定モデルに反対する理由は、
混合属性測定モデルに基づいて作成された財務諸表は、知識のある投資家ですら解釈が難 しいこと、そして、投資専門家は、混合属性測定モデルに基づき報告された金融商品に関 する情報を調整した上で利用していることがある。これらを理由に、CFA協会は全面公正 価値会計を支持している。
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CFA協会の見解から全面公正価値会計の適用可能性を検討したところ、(1)FASB、IASB ともに、金融商品の測定には混合属性測定モデルを適用しており、金融商品に対する全面 公正価値会計の適用は容易でないこと、(2)PwCが投資専門家を対象に実施した調査の結 果、調査回答者は明らかに混合属性測定モデルを支持しており、また、当該調査の結果か らではCFA協会の主張が受け入れがたいこと、そして(3)非金融資産および非金融負債 に対して、公正価値測定を適用することが適切であるとは考えられないため、金融サービ ス業よりも多くの有形固定資産を所有する製造業の財務報告に、全面公正価値会計を適用 することは困難であることが明らかとなった。つまり、CFA協会のゴールである「資産と 負債の測定基礎に公正価値を適用すること」を達成することは難しい。
また、公正価値で測定され財務諸表本体で開示される数値について、公正価値ヒエラル キーのレベル3だけでなくレベル2に該当する公正価値も、測定の質の観点からは問題が あると指摘されている。財務会計基準書(SFAS)第157号「公正価値測定」は、公正価値 の測定に関する情報を開示することを要求している。しかし、最も早く公表される決算報 告で入手できる公正価値情報は、財務諸表本体に表示されている公正価値の測定値のみで あることがほとんどである。そのため、公正価値の測定に関する注記情報が開示されてい ない状態で、財務諸表本体で開示された公正価値をより有用な情報とするためには、測定 の質を向上させることの必要性も浮き彫りとなった。それにはまず、公正価値の概念を明 確にする必要がある。
第3章では、CFA協会が報告モデルで示す公正価値が有する概念を、CFA協会の示す公 正価値の定義と、報告モデルの概念フレームワークで示される有用な情報の質的特性に関 する概念を用いて検討した。その結果、CFA 協会のいう公正価値とは、FASBの示す公正 価値とおおむね整合しているものの、出口価格に留まらず、市場価格という概念を有する ことを見出した。
報告モデルで提案されている1組の財務諸表は、混合属性測定モデル、全面公正価値会 計への移行期、そして、全面公正価値会計の適用期のすべての時期に適用できるよう設計 されている。第4章では、現行の損益計算書、包括利益計算書、および、持分変動計算書 を置き換えた純資産変動計算書に着目し、全面公正価値会計への移行期、および、全面公 正価値会計の適用期における純資産変動計算書の様式を比較することによって、当該財務 表で表示される公正価値の概念を検討した。
CFA協会は、混合属性測定モデルのもとで歴史的原価を基礎とした測定値が帳簿価額と して報告されている項目について、全面公正価値会計への移行期には、当該帳簿価額を公 正価値に調整することで生じる変動額を、「公正価値の変動額」として表示するとしていた。
ここから、CFA協会の有する公正価値の概念には、SFAS第157号で規定される公正価値