研 究 活 動 報告
一 一 一 白 川︑
ES
細胞研究への政府助成を解禁する大統領令
に署名しました︒先述したように倫理上問題があると
してブッシュ前大統領が二
OO
一年に禁止して以来の政策転換となります︒オパマ大統領は︑この署名式の
スピーチで﹁健全な科学と倫理的価値は矛盾するもの
ではない﹂と指摘し︑今後医療など科学分野で世界を
主導する考えを示しました︒
AV
イギリス連邦の場合
一九九
O
年に﹁ヒト受精・睦研究(胎生学)法﹂が成立しヒト駐を研究に使うことを許可制で認め︑そ
のための組織としてHFEA(ヒト受精および匪調査
当局)が設立されました︒この法律によって
クロ
l
ンによるヒト個体の複製は禁じ︑生殖目的によるヒト
クローン匪の作製や︑治療を目的とするマウスなどの
E
S
細胞研究も禁じられました︒二
OO
一年一月には同法が改正され︑クローン技術
によってヒト匪を作製し︑その旺を医学研究に使うこ
とを認めました︒これによってヒトクローン旺からE S細胞を培養することができるようになりましたがそ
の
一方でクローンによるヒト個体の複製は禁止し
つ哨
つけ
てい
ます
︒これらの研究は受精後十四日までの
未分化の怪に限定され︑ヒトクローン妊の研究からク
ローン人間作りにつながらないように配慮しています︒
さらに二
O
も同様にスコットランド幹細胞研究ネットワークが形 成され︑幹細胞研究とその臨床応用が進められていま す AV
シンガポールの場合
幹細胞パンクの運営の他︑政府資金による幹細胞研 究と外部研究を繋ぐシンガポール幹細胞研究コンソ
1
シアムが設立されています︒
また︑国立バイオプロセ ス技術研究所内にマウスおよびヒトの幹細胞研究グ ループが活動しているほか︑研究者個人や研究機関が 会員となり会員相互の連携や情報交換を促す非営利研 究組織である幹細胞研究シンガポールが設立されてい
ます︒
‑カナダの場合
二
OO
二年にヒト多能性幹細胞研究指針を独自に設
定し
︑
カナダ衛生研究所
( C H I R )
を通じて研究開
発を支援しています
︒また︑幹細胞ネットワークによ
り幹細胞研究の臨床応用︑商品化︑公共政策等を支援 するほか︑研究者︑企業︑政策担当者等の交流を進め
ています︒
96
AV
オーストラリアの場合
幹細胞研究を先導し︑革新的治療薬の開発を目指す 全豪幹細胞センターユニットが設立されています
︒同
ユニットは幹細胞研究の倫理と価値についての声明を 発表し︑研究推進を図っています
︒また︑臨床治療に
用いられる薬品︑装置などの評価とモニタリング活動 を行う保険省薬品・医薬品行政局が幹細胞の臨床治験
の圏内指針を作成する作業を行っています︒
‑ドイツの場合
ドイツでは一
九九
O
年に制定された﹁旺保護法﹂によってヒトの卵子や受精卵の研究利用が禁じられて
おり︑クローン眠︑つくりも実質的に不可能な状況となっ
ています︒
カトリックの影響もあり︑与党キリスト教 民主同盟など禎数の政党が︑受精卵の研究費用の政府 支出に否定的なことが︑その理由として考えられます
が︑それ以外にも︑
ナチス時代の優生政策や人体実験
といった暗い過去への反省から︑
ヒトの受精卵や遺伝
研究活動報告
子を使う研究に強い抵抗があると指摘さています︒
‑ EU
の場合
第七次フレームワークプロジェクト
( F P 7 )
幹で
細胞研究を支援
( 8
カ国日研究機関が参加)するほか︑
幹細胞研究とその臨床応用の情報交換を行う欧州幹細
胞ポ1
タルサイトが立ち上げられています
︒また幹細
胞研究の成果を科学分野に展開することを目指したコ
ンソ
l
シアムである敵州システムプロジェクト
8 カ 国国研究機関が参加)が推進されています︒
救世主(救済者)兄弟に関する問題
着床前遺伝子診断と生殖補助技術を用いて︑病気の 子どもの治療ために臓器ドナ
!として適合する匪を選
別し︑弟や妹を生むことが︑英・米・仏・スウェ
lデ ンなどで認められており︑すでにアメリカを中心に 二
OO
人以上が誕生しています︒英語では
E 3 2
凹
E
百四
﹁救世主(救済者)兄弟﹂と呼ばれています︒体外受精 によって受精卵を複数作り︑治療を必要とする兄姉と
遺伝子が適合するものだけを選び出して妊娠・出産さ
せるのです︒
乙の状況に対してイギリスでは︑二
OO
八年に改正
された前述の﹁ヒト受精・匪研究(胎生学)法﹂によっ
て︑それまで規制のなかった救世主兄弟に関して︑血 液の病気に限って作ることは認めましたが︑臓器移植
を目的としたものは完全に禁止されました︒一
方 ︑
メリカをはじめその他の国では︑法規制はなく︑現在は︑
医療者の良心に任されている状況
です
︒
この問題に関しては︑生まれてくる子どもが 生い立ちのために自分は兄や姉ほど愛されていないと の思いに苦しむ弊害も指摘され︑すでに映画のテ
l
マ
(ア
メリ
カ 映 画
﹁私の中のあなた﹂)としても取り上げ
られるなど︑大いに議論の余地のあるところですが︑
アメリカでは概ね生命倫理学者らが説く﹁家族全体の 利益は︑その子どもの利益でもある﹂との論理で正当
化
されているため︑現在のところ法による規制があり
ません︒
イギリスの場合も︑法規制はあるものの︑英
ア そ
の
国医師会の見解は︑救世主兄弟の心理的負担を﹁仮想 的な害﹂とし︑病気の子どもの苦しみゃ死の可能性を﹁リ
アルな害﹂として対置させて︑救世主兄弟を誕生させ
ることそのものは正当化しています︒
この問題は︑単なる先端医療技術利用に関する倫理
的な議論にとどまらず︑家族とは何かと言った︑人間
のあり方そのものが抱える課題として︑より包括的な
議論が必要と思われます︒
(水 谷浩 志)
2
日 本 国 内
行政機関の動き
再生医療の分野では︑
E
S細胞研究が進み︑さまざ
まな人間の器官が再生できるようになってきました︒
しかし
E
S細胞研究には二つの大きな問題点が指摘
されています︒一つはヒトの受精卵を壊して取り出す
という倫理的問題︒今一つは︑他人の受精卵から造り
出されるために起る拒絶反応の問題です︒これに対し て︑京都大学の山中伸弥教授によって樹立されたもう
98
一つの万能幹細胞であるi
p
S細胞研究に注目が集ま
りました︒
再生医療に関して︑日本政府側からの取り組みにつ
いては︑文部科学省︑厚生労働省︑通商産業省を中心
に大きな動きが見られます
︒二
OO
七年四月に︑総合
科学技術会議において︑社会還元プロジェクトの考え
が打ち出されました︒国が主体的に進めていく先駆的
なモデルとしてのプロジェクトを創出し︑これにより
実証研究を通して成果の社会還元を加速することを目
的としています︒このプロジェクトでは︑再生医療の
実現︑人体機能を補助・再生する医療機器の実現のた
め︑文部科学省は基礎分野を中心に︑厚生労働省は臨
床応用に近い部分の研究を中心に︑経済産業省は早期
に臨床研究に結びつくような橋渡し研究の支援を中心
に︑各省が連携を図りながら推進することで研究成果
をあげることとされています︒
二
OO
八年一
月に
︑
ipS細胞研究の支援策を検討
研究活動報告
する総合科学技術会議の作業部会が聞かれ︑文部科学
省・厚生労働省・経済産業省から計
三
O
億円以上に上る支援策が報告されました︒文部科学省は二
O O
八年一月
二三
日︑京都大学に山中伸弥教授を中心とするi
P
S細胞研究センターを設置し︑ipS
細胞研究の拠
点︑さらに治療に使うことを狙った技術開発を進める
複数の拠点設立など計
二二
億円を
二
OO
八年度に投入
しました︒
厚生労働省は︑再生医療を推進する拠点整
備などに約一
O
億円︑経済産業省もipS細胞を効率 的 成作 する 技 術 開発 など
毒
を し て ま す二
OO
九年度︑国内行政機関はipS研究に対して
研究や拠点整備などに約
一四五億円を投入しました
︒
政権交代を経た二
O
一0
年度予算でも︑この分野の研
究については過去最大規模の予算がつけられています︒
文部
料品
子省
文部科学省はipS
細胞研究をはじめとする万能細
胞研究について︑以下の二点を強調しています︒
O
京都大学山中教授により樹立されたipS細胞
は︑
再 生医 療 疾 患 研r;'回 7tJ
等 幅 広く 活 用 さ れる
と が 期
侍される我が国発の画期的成果
O
この研究成果を総力を挙げ育てていくため︑i p
S細胞等の研究をオlルジャパン体制のもと戦略
的に推進﹁ オ
lルジャパン体制﹂という表現は︑取りも直さず
アメリカをはじめとする諸外国の取り組みに対する危
機感から生まれたものであり︑文部科学省も︑
AV
オパマ政権発足に伴う米国における
E
S細胞研究
への政府助成解禁(
二
OO
九年三
月)
. 米
国ジエロン社による︑
E
S細胞を用いた臨床試
験 の 開 始
(二
OO
九年一
月)
‑ 研
究費︑研究者数から見ても︑米国より劣ってい
る状況
の三点を指摘しています︒
再生医療全般に関して︑﹁再生医療の実現化プロジェ
クト﹂は二
OO
三年度からの十カ年計画で実施されて