• 検索結果がありません。

NT 薄膜へのイオン液体を用いたキャリア注入後の電気抵抗温度特性

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 167-172)

第5章 付録

WS 2 NT 薄膜へのイオン液体を用いたキャリア注入後の電気抵抗温度特性

特性

本項ではカリウムイオンインターカレーション後の低温測定を述べる前の先行研究とし て,我々の研究室が独自に開発したメンブレンフィルターを用いて作製したWS2NTネット ワーク薄膜に,イオン液体を用いた電気二重層キャリア注入を施し,PPMS で4 端子法に よる電気抵抗温度特性を測定した実験の様子について述べる.

◼ デバイス作製

まず,Si/SiO2基板を切り出して洗浄し,Ti/Au = 5 nm/100 nm を蒸着して,作製した WS2NT薄膜をアセトン還流で転写する(図 5-59).

図 5-59:金電極を蒸着したSi/SiO2基板の4本の電極上に,

減圧濾過法によって作製したWS2NTネットワーク薄膜フィルムを アセトン還流によって転写したデバイス写真と

WS2NT薄膜デバイスの作製手順のまとめ

ここに銀ペースト,直径50µmの金線,エポキシ樹脂(二液混合接着剤),シリコンゴム プールを用いてEDL-TransportおよびPPMS測定用のデバイスを作製していく.

まず電気二重層キャリア注入を施す際にGate,Reference,Source,Drainの役割を担う それぞれの金電極上に,有機溶媒(酢酸ブチル,酢酸ブトキシエチル,こはく酸ジエチルの いずれか)を用いて分散させた銀ペーストを垂らす.その上に数cmの長さに切った直径50 µmの金線を置き,少し時間を置いて銀ペーストを乾かしたら,あらためて銀ペーストを塗 布する.銀ペーストを分散させる有機溶媒によって銀ペーストの粘度や乾く速度が異なる ため,状況に応じて取り扱いやすいように溶媒を選択する必要がある.金線はPPMSの4He

168

Resistivity Optionパックの端子にはんだ付けをするのに使用するため,適当な長さに切る.

一度真空引きして有機溶媒を完全に抜き,銀ペーストが固まったら,エポキシ樹脂で固定 する.同時にシリコンゴムプールを装着し,こちらもエポキシで固定をする.この時シリコ ンプールは,試料とGate,Reference電極にのみイオン液体が触れることができるように型 取る.このようにしてEDL-Transport測定が可能で,かつ配線を施したデバイスができる.

この Si/SiO2 基板上に配線を施した試料を,N グリースを敷いた PPMS 4He Resistivity

Optionパックに乗せ,はんだ付けをすることでEDL-Transport測定をPPMSで行うこと

が可能となる.

本来,EDL-Transport測定にはWS2NTネットワーク薄膜がまたがっている2本の電極

のみをSource とDrain電極として使用するが,今回は EDL-Transport測定と電気抵抗温

度特性測定のいずれも行うため,WS2NTネットワーク薄膜がまたがっている4本の電極に はすべて配線を行う.これによって,外側の 2 本の電極を使って電気二重層キャリア注入 を施したのち,内側の2端子を電圧端子として使用することでPPMSにて4端子測定を行 うことができるのである.

このようにして完成した PPMS での EDL-Transport および電気抵抗温度特性測定用の デバイスが図 5-60である.

図 5-60:EDL-Transportおよび電気抵抗温度特性測定が可能な PPMS用WS2NTネットワーク薄膜デバイス

169

◼ 電気二重層キャリア注入後の電気抵抗温度特性測定

作製したデバイスにイオン液体:TMPA-TFSI(N,N,N-Trimethyl-N-propylammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide,関東化学株式会社)を用いて正の Gate 電圧にて電子 注入後,電圧を印加したまま 200 K まで冷やし,イオン液体を凍らせ電子注入状態を保持 し,PPMSで電気抵抗温度特性を4端子法にて測定する.

測定結果は以下の通りである.まずEDL-Transportの測定グラフを図 5-61に示す.

図 5-61:Transfer Curve (WS2NT networks×TMPA-TFSI)

Source-Drain間にBias電圧を100 mVかけ,Gate電圧(VG)を -2 ~ 3.4 Vの範囲でかけ

ると,VG= 3 V付近からDrain電流が急増していることがわかる.このときWS2NTネッ

トワーク薄膜には電子が注入されており,伝導度が増加している.

次に,VG = 3.4 Vを印加したまま,PPMSの温度設定を200 Kに設定する.このとき温

度変化のRateは数K/minとし,なるべくゆっくり冷やす.理由は急激な温度変化による熱

収縮によって試料が壊れるのを防ぐためである.Gate電圧を印加したまま200 Kに冷やす ことで,イオン液体はGate界面およびWS2NT薄膜試料界面にそれぞれ移動したまま凍る.

これによってWS2NTに電気二重層キャリア注入を施したまま,4端子法による電気抵抗温 度特性の測定が可能になるのである.下図に電気抵抗温度特性のグラフを図 5-62に示す.

170

図 5-62:VG = 3.4 V印加したまま凍らせて電気抵抗温度特性を測定した結果

温度が低温になるにつれ,抵抗値は指数関数的に上昇している.これは明らかに絶縁体の 振る舞いである.したがって,イオン液体を用いてVG= 3.4 V印加した状態では,電気抵 抗温度特性は絶縁体的な振る舞いをするということがわかった.

◼ 考察①:ゲート制御アルカリ金属イオンインターカレーションへ

我々はこの結果を受けて,イオン液体ではWS2NTネットワーク薄膜には十分にキャリ ア注入をすることはできず,金属転移あるいは超伝導転移させることはできないと考え た.そもそも本研究で用いているWS2NTは1本1本が数十層の層状化合物であり,

TMPA-TFSIのようなイオン半径の大きいイオン液体は試料の最表面のみにしかキャリア

注入できないと考えられる.WS2NTネットワーク薄膜で金属転移あるいは超伝導転移を 観測するためには,ネットワーク構造を構成する1本1本のWS2NTをすべて金属あるい は超伝導状態にする必要があり,そのためにはWS2NTの表面だけでなく内部にもキャリ ア注入する必要があると考えられる.したがって,WS2NT試料の表面のみにしかキャリ ア注入できないイオン液体を用いた電気二重層キャリア注入ではそれは実現不可能だと結 論付けた.

そこで我々はイオン半径が小さく,層状化合物の層間にイオンをインターカレートす ることで表面および内部,つまり試料の系全体の伝導度をコントロールすることのできる アルカリ金属イオンインターカレーションをWS2NTネットワーク薄膜試料に施すこと で,金属転移あるいは超伝導転移させることができないかと考えた.

171

◼ 考察②:低温測定デバイスの耐久性

この測定からもう一つ重要な結果が得られた.それは温度変化による測定デバイスの破 壊の確認である.上記の測定後,WS2NT薄膜試料は導通が取れなくなってしまった.

PPMSからデバイスを取り出してみると,図 5-63のようになっていた.

図 5-63:極低温まで温度変化させたWS2NT薄膜デバイスの測定前後の写真

(左が測定前,右が測定後)

蒸着された金電極の一部が剥がれ,WS2NTネットワーク薄膜に大きな亀裂が入り破れてい ることがわかる.このように,従来はシリコンゴムプールにイオン液体をいっぱいに満たし て測定していたため,熱収縮による試料へのダメージが大きく,デバイスが壊れるケースが 何度も発生した.これについては後にシリコンゴムプールを廃止し,カバーガラスで電解質 を挟む方法に改良することで,熱収縮による試料へのダメージを最小限に抑え,結果として 測定中にデバイスが壊れる数を減らすことに成功した(第3章参照).

172

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 167-172)