第3章 低温での電気抵抗温度特性測定
MoS 2 結晶薄膜デバイスの低温での電気抵抗温度特性測定の試み
3.5 MoS 2 結晶薄膜の超伝導転移の観測
4 端子デバイスによる超伝導転移の観測に成功
◼ MoS2 Device 13:Fastモードを用いて精確な温度特性測定を行った試料
新しいデバイス作製方法(図 3-26)を用いて MoS2 Device 13 を作製した(後述する
Device 9 ~ 12より後に測定,図 3-27).電解質を滴下する前に膜厚測定を行ったところ,
膜厚は約110 nmであった.(低温測定前の膜厚測定についてはDevice 11,12(付録5.4.
8)を参照.)
図 3-27:MoS2 Device 13 (thickness ~ 110 nm)
・カリウムイオン電解質ゲーティングと抵抗温度特性測定の繰り返し
本試料ではVG = 12,16 Vでカリウムイオンインターカレーションと見られるDrain電 流の急上昇を観測している(図 3-28).
図 3-28:Drain, Leak電流のGate電圧依存性
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また,VG = 3, 7, 9, 12, 16 Vにおいて抵抗温度特性を測定しており,VG = 3 Vで絶縁体 的,VG =7, 9, 12, 16 Vで金属的振る舞いを示している(図 3-29).
図 3-29:VG =3,9,12,16 Vの電気抵抗温度特性
ここで,Sheet resistance (RS)とは面抵抗率のことであり,電気抵抗値(R)にチャネル幅
(W)をかけ,チャネル長(L)で割ることで得られる物理量である.WとLは膜厚測定 の際に撮影した試料の写真とスケールバーを用いて算出した.(算出方法については付録 5.4.9を参照.)
VG = 12 Vで,T = 10 K付近からさらに低温の領域において,抵抗値が急激に減少して
いることがわかる.この極低温領域での抵抗減少は超伝導物質において特徴的な振る舞い であり,MoS2結晶薄膜が超伝導転移した可能性を示唆している.したがって,このT = 10 K付近から起きる抵抗値の急激な減少が超伝導転移によるものなのかを明らかにするた め,試料に一定の磁場を印加しながらT = 2 ~ 10 Kの抵抗温度特性を測定する,という実 験を複数の磁場の強さによって行い,極低温における抵抗温度特性の磁場依存性を調査す ることにした.
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・極低温領域における電気抵抗温度特性の磁場依存性測定による超伝導転移の確かめ この測定においては電気抵抗温度特性の測定プログラムであるSequenceをSweepモー ドからFastモードに変更して行った.Sweepモードは温度を上下する速度を一定に保つた めに極低温領域で測定点間隔にムラが生じるのに対し,Fastモードは設定した温度間隔で 確実に電気抵抗値を読み込むため,今回のFastモードを採用した測定結果(0.2 K間隔)
は,より精確に抵抗温度特性をプロットすることができた.Sequenceの書き方については 付録5.1.2に記載したので参照してほしい.
極低温領域におけるVG =12 Vの抵抗温度特性に注目した結果を示す(図 3-30).磁場 の印加量を変えて抵抗温度特性測定を繰り返し行い,その振る舞いについて議論する.
図 3-30:極低温領域におけるVG = 12 Vの電気抵抗温度特性の磁場依存性
磁場を印加していない時(B = 0 T)では極低温領域で抵抗の減少が見られるのに対し,印 加する磁場が大きくなるほど抵抗の減少は見られなくなった.すなわち磁場印加による超 伝導の消失であり,極低温領域における抵抗値の急激な減少は超伝導転移に基づく振る舞 いであることが確認された.したがって,本試料はVG = 12 Vで超伝導転移したと言え る.
この結果から,改良を重ねたデバイス構造において,元々絶縁体だったMoS2結晶薄膜を カリウムイオンインターカレーションによって絶縁体-金属転移,さらには超伝導転移へと 導くことに成功したと言える.したがって,本研究の目指していたアルカリ金属イオン電解 質を用いた電解質ゲーティングによる層状化合物半導体材料の超伝導化に成功したのであ る.
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・オーバードープと見られる振る舞い
本試料の抵抗温度特性の振る舞いについて,もうひとつ興味深いのがVG =16 Vの極低温 領域の測定結果である.本試料はVG = 12 Vでカリウムイオンインターカレーションおよ び超伝導転移が見られたが,その後VG = 16 Vでも再びカリウムイオンインターカレーシ ョンと見られるDrain電流の上昇を観測した(図 3-28).しかしVG = 16 Vの抵抗温度特 性は,高温領域でこそVG = 12 Vより抵抗が低くなっているものの,極低温領域における 抵抗減少は見られず,VG = 12 Vの超伝導状態から金属状態に戻っているように見える(図 3-29).これはカリウムイオンインターカレーションがさらに進行したことで,オーバード ープにより超伝導層が減少し,金属層が増えたためと考えられる.
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDCs)へのゲート制御アルカリ金属イオンインターカ レーションによる超伝導研究の論文を参考にすると,アルカリ金属イオンがインターカレ ートされた量に応じて試料は絶縁体層・金属層・超伝導層に分かれているのだが,元の試料 に対するアルカリ金属イオンの濃度が適当な範囲にあるときのみ超伝導層となり,仮にア ルカリ金属イオンの濃度が高すぎてしまうと超伝導層が減少してしまう,オーバードープ 状態になってしまうことが分かっている[12].
この結果はDevice 9(5.4.6参照)でも見られた現象であり,MoS2結晶薄膜へのカリウ ムイオンインターカレーションは,その量が多すぎても超伝導転移しない,すなわちMoS2
結晶薄膜を超伝導転移させるためにはGate電圧を細かく振り,インターカレーションの量 を適切に調節する必要があることを示唆している.