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NT ネットワーク薄膜作製技術の確立 [18]

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 132-140)

第5章 付録

WS 2 NT ネットワーク薄膜作製技術の確立 [18]

◼ 背景・目的

一本のWS2NTにおける電界効果トランジスタ動作の研究報告があるなど,WS2NTの特 徴・利点については第1章で述べた.しかしながらWS2NTがネットワーク構造をとった薄 膜の作製技術およびその物性評価については未解明であった.したがって本研究では,

WS2NTネットワーク薄膜の作製技術を確立し,物性評価するためのデバイス作製技術の確 立することを目的とする.

◼ WS2NT/トルエン溶液滴下法を用いたWS2NT薄膜作製法

あらかじめ有機溶媒還流で洗浄したSi (525 µm)/SiO2 (300 nm)基板にTi/Au = 5 nm/100 nmを蒸着する.シリコンゴムシートを有機溶媒で洗浄し,WS2NT薄膜をつけたい大きさ になるよう基板に乗せてセットする.以下シリコンゴムプールと呼ぶ.

まず,WS2NT 120 mgをトルエン100 mlに入れ,15 分間Bath type sonicationし,WS2NT をトルエンに分散させ,WS2NT/トルエン溶液を作製する.

WS2NT/トルエン溶液をパスツールで取り,プールの中に滴下していき,適宜窒素ガンを優

しく吹きかけて溶液を乾かしていき,WS2NT を堆積させて薄膜を作製する.トルエンは WS2NTの分散性があまり高くなく,すぐに沈殿してしまうため,動作は素早く行う.ただ し,窒素ガンを強く当てすぎるとWS2NT溶液が飛び散ってしまうため,風を強く当てすぎ ないように気を付ける.また,シリコンゴムプールがトルエンによって弱くなり,下から溶 液が漏れないよう注意する.堆積したWS2NTによって金電極が完全に見えなくなるくらい まで溶液の滴下を続ける.その後,真空アニールを200 ℃,2時間行い,基板上にWS2NT 薄膜を作製することができた.

上記と同様の方法でWS2NT薄膜を作製し,走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しWS2NT 薄膜の状況を確認した.今回はシリゴンゴムプールと窒素ガンは使用せず,基板の下にホッ トプレートを100 ℃設定で敷き,WS2NT/トルエン溶液を1滴ずつ適量滴下することでト ルエンを蒸発させ,WS2NT 薄膜デバイスを作製した.図 5-22 はこの方法で作製した WS2NT薄膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である.

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図 5-22:WS2NT/トルエン溶液滴下法を用いたWS2NT薄膜のSEM画像

WS2NTがネットワーク構造をつくっていることが確認できる.しかし一方で,密度が不均 一で場所によって WS2NT が塊になっていたり薄くなっていたりする個所が多く存在して いることが判明した.これはそもそもWS2NTに対するトルエンの分散性が高くないためだ と考えられる.これでは電解質ゲーティングなどを行うデバイスには適さないと考えられ る.そこで,WS2NTの新たな分散溶媒の探索を行う.

◼ WS2NTの新たな分散溶媒の探索

WS2NTネットワーク薄膜と同様に,溶媒に有機溶媒に分散させて薄膜を作製するとナノ チューブネットワーク構造を形成することがわかっているカーボンナノチューブ(CNT)

の分散溶媒として,シクロヘキシルピロリドン(CHP),ジメチルテトラヒドロ-2-ピロリド ン(DMPU), N-メチルピロリドン(NMP),ジメチルホルムアミド(DMF)などが知られ ており,中でもCHPは最も分散力が高く,次に分散力の高いDMPUの約5倍の値を示し ている[31].

そこで,CNTの分散溶媒として高い分散性をもつCHPとDMPU,また,CNTの分散 溶媒としてよく他の実験で用いられているというDMFと NMP の4つの溶媒について,

WS2NTの分散性を評価する実験を行った.まずそれぞれの溶媒の粘度は次のようになった

(表 5-9).

表 5-9:使用した有機溶媒と粘度

略称 正式名称 粘度

CHP Cyclohexyl-pyrrolidinone 高

DMPU Dimethyl-tetrahydro-2-pyrimidinone NMP N-methyl-pyrrolidinone

DMF Dimethylformamide 低

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これらの溶媒を各10 ml,バイアル瓶に用意し,WS2NT 5 mgを入れて,1分間Bath type

sonicationした.その後,1日置いて様子を確認したところ,次のようになった(図 1-1).

図 5-23:有機溶媒にWS2NTを分散させて,1日放置した後の写真

(有機溶媒は左から,DMPU,CHP,NMP,DMF,トルエン)

結果を見るとDMFはWS2NTがほぼ沈殿しており,分散性は非常に低いとわかった.(比 較用に作製したトルエン分散溶液もほぼ沈殿していた.)NMP はやや沈殿しているが分散 状態は保ったままとなり,DMPUとCHPはほぼ分散した状態となっていて,この2つの 溶媒が WS2NT に対して高い分散性を持つことがわかった.したがって各溶媒 10 mlに対

し,WS2NT 5 mgを分散させようとした時の分散性は次の通りである.

トルエン < DMF << NMP << CHP < DMPU

・吸収スペクトル評価

DMPU,CHP,NMP 各10 mlに対し,WS2NT 5 mlを入れて20分間Bath type sonication し,1日放置すると,NMPは溶液の上部から下部にかけてグラデーションのように色が変 化している(沈殿している)のに対し,DMPU とCHPは最上部のみ若干薄くなっている ものの,ほとんど分散状態を保っていた.(すなわち,図 5-23の結果と変わらない)

そこで,これらの溶液を用いて吸収スペクトル評価を行いたいが,CHP はDMPU に比 べて粘性が高く,また溶液自体が黄色掛かっており,光学評価に適さないと考え,DMPU の分散溶液を作製,遠心分離でゴミを取り除き,吸収スペクトル評価をすることにした.

DMPU 10 mlに対し,WS2NT 5 mgを入れ,20分間Bath type sonicationして,遠心分 離を試みた.まず,1000 rpmで1分間遠心分離を行ったが全く分離されていなかったので さらに10分追加した.それでも分離されなかったので,3000 rpmを1分間,さらに3000

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rpmを10分間行ったところ分離された.この溶液と,さらに5000 rpmで5分間遠心分離 した溶液の2つの吸収スペクトルを測定した(図 5-24).

図 5-24:吸収スペクトル測定グラフ

WS2NT由来のA peak(~650 nm), B peak(~500 nm)を確認し[32],より遠心分離した サンプルはピークが減っており,遠心分離の度合いによってピークが大小する,すなわち WS2NTの濃度を調節できるということがわかった.

・薄膜作製方法の模索

DMPUがWS2NTの良い分散溶媒であることがわかったので,このWS2NT/DMPU =

0.5 mg/ml溶液を用いて,電解質ゲーティングデバイスを作製するために不可欠なWS2NT

薄膜の作製を試みた.吸収スペクトルの実験でも使用した5000 rpmで5分間遠心分離し

たWS2NT/DMPU = 0.5 mg/ml溶液を,あらかじめ洗浄・電極蒸着した基板に垂らし,

DMPUを蒸発させることでWS2NT薄膜を作製しようとした.ホットプレートで100 ~ 200 ℃に熱しながら溶液を滴下し,窒素ガンを吹きかけるなどしたが,DMPUが直ちに 蒸発することはなく,真空乾燥してSEM評価を行ったがWS2NT膜の状態はあまり良く なかった.よって,この分散溶液を滴下し溶媒を蒸発させる薄膜作製法は,デバイス測定 に適した均一できれいな薄膜作製には適さないという結論に至った.

・さらに濃い分散溶液の作製

先の実験により,WS2NT/分散溶媒 = 0.5 mg/mlの時,DMPUが最も良い分散溶媒であ ることがわかったが,さらにWS2NT濃度をさらに高くしたとき,この結果がどうなるかを 検証した.

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DMPU, CHP 各10 mlに対し,WS2NT 20 mgを20分間Bath type sonicationし,長時 間放置した後の写真が次のとおりである(図 5-25).

図 5-25:有機溶媒にWS2NTを分散させて,1日放置した後の写真

(有機溶媒の種類は左から,CHP,DMPU)

結果を見ると,DMPUよりもCHPのほうがより分散性が高いことがわかる.CHPはCNT においてもDMPUに対して約5倍の分散性を持っていることから,溶質の濃度が高くなっ たときにその分散力を発揮すると推測できる.

以上より WS2NT の濃度を高くしたとき最も WS2NT を分散させる溶媒は CHP とわか

り,WS2NT/CHP = 2 mg/ml溶液をその後の実験で使用することとなった.

◼ WS2NTに対し高い分散性を持つ溶媒とメンブレンフィルターとの相性探索

以上の実験より,溶液滴下法による薄膜作製ではなく,メンブレンフィルターを用いた減 圧濾過によって薄膜を作製し,それを基板に転写することでWS2NTの均一で適度な厚さを 持った薄膜デバイスの作製を行う運びとなった.その第一段階として,WS2NTの分散溶媒 と,様々なメンブレンフィルターとの相性(溶けるか溶けないか)を探索することになった.

まず研究室として保有していたメンブレンフィルターは表 5-10の通りである.

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表 5-10:研究室で保有するメンブレンフィルター一覧

よって,WS2NTの分散性の調査に使用した有機溶媒,トルエン,NMP,CHP,DMPUに 加え,代表的な溶媒であるアセトンとメタノールの6種類の溶媒に対し,各メンブレンフィ ルターの耐性を調査した.

表 5-11 は各メンブレンフィルターの種類・材質,および有機溶媒への耐性をまとめた ものである.

表 5-11:各種メンブレンフィルターの有機溶媒耐性

したがって,親水性 PTFE であるオムニポア(J○WP)シリーズはこれらの有機溶媒すべ てに耐性があり,逆にポリカーボネイトはすべての溶媒に耐性がない(溶けてしまう).そ してセルロース混合エステルのフィルターはトルエンにのみ耐性がある.ということがわ かった.

つまり,オムニポアフィルターに有機溶媒分散させたWS2NT溶液を通して減圧濾過する ことで,そのポアサイズより小さいゴミ(例えばsonication処理によって剥がれてしまった WS2NT の壁や,そもそも NT になっていない WS2のかけらなど)はフィルターを通り抜 け,逆にポアサイズより大きなWS2NTはフィルター上に堆積させることができ,ゴミと試 料を分離して,WS2NT ネットワークをフィルター上に形成させることができる.しかし,

オムニポアフィルターは有機溶媒に耐性があるため,アセトン還流などによってフィルタ ーを除去し,試料のみを基板上に残すといった転写法を用いることができない.そこで我々 は,まず初めに,オムニポアシリーズの中で最もポアサイズの大きいJCWP(ポアサイズ:

10 µm)フィルターにWS2NT溶液を通して減圧濾過しゴミを取り除いた後,JCWPフィル

ター上に堆積したWS2NTをトルエンで再分散させ,今度はアセトンで溶かすことができ,

名称 種類 ポアサイズ (単位) 材質 適用(参考) 実験の有無

Nuclepore (Whatman製 filter) 0.2 µm ポリカーボネイト

RTTP アイソポア 1.2 µm ポリカーボネイト 水溶液

JCWP オムニポア 10 µm 親水性PTFE 水、有機溶媒

JMWP オムニポア 5 µm 親水性PTFE 水、有機溶媒

JAWP オムニポア 1 µm 親水性PTFE 水、有機溶媒

JHWP オムニポア 0.45 µm 親水性PTFE 水、有機溶媒

JGWP オムニポア 0.2 µm 親水性PTFE 水、有機溶媒

JVWP オムニポア 0.1 µm 親水性PTFE 水、有機溶媒

GSWP ミリポア 0.22 µm セルロース混合エステル 水溶液

VMWP ミリポア 0.05 µm セルロース混合エステル 水溶液

VSWP ミリポア 0.025 µm セルロース混合エステル 水溶液

メンブレンフィルタ一覧 (研究室の在庫として持っていたもの) 参考:ヤマト科学カタログ

アセトン トルエン NMP CHP DMPU メタノール

Nuclepore ポリカーボネイト × × × △ × △

JCWP 親水性PTFE ○ ○ ○ ○ ○ ○

GSWP セルロース混合エステル × ○ × △ × ×

名称 材質 有機溶媒への耐性 

各種メンブレンフィルターの有機溶媒耐性 (×:すぐ溶ける、△:長時間放置で溶ける、○:不溶)

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