• 検索結果がありません。

二次元層状化合物系① ~半金属材料 WTe 2 ~

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 30-42)

第2章 ゲート制御アルカリ金属イオンインターカレーション

WS 2 NT network 薄膜へのカリウムイオンインターカレーションの試み

2.4 二次元層状化合物系① ~半金属材料 WTe 2 ~

WS2NTネットワーク薄膜デバイスでは,T = 280 Kに温度を維持しながらカリウムイオ ン電解質でゲーティングを行うことでVG = 10 Vという高いGate電圧を印加し,その電荷 輸送特性測定に成功したものの,残念ながら明らかなアルカリ金属イオンインターカレー ションの振る舞いは観測できなかった.そもそもネットワーク系材料は,ナノチューブから 隣接するナノチューブへキャリアがホッピングするホッピング伝導をすることで知られて おり,そのホッピング界面では抵抗が生じるなど,伝導機構については未解明な部分の多い 複雑系材料である.

そこで次はナノチューブネットワーク系のような複雑系試料と比べて,極めて一様な,二 次元層状化合物である遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDCs)の結晶を機械的剥離(劈開)

法によって薄膜として取り出した結晶薄膜系デバイスでのインターカレーションを試すこ ととした.

半金属材料 WTe

2

について

まず,TMDCsの一種であり,半金属材料である二テルル化タングステン(WTe2)にカ リウムイオン電解質を用いて電解質ゲーティングした結果について述べたい.まずは材料 の選定理由,結晶薄膜系デバイス作製の方法について述べ,測定結果をまとめていく.

◼ 材料の選定理由および目的

はじめに,WTe2を研究対象に選択した理由を述べる.WTe2は遷移金属ダイカルコゲナ イド(TMDCs)の一種であり,二次元層状化合物である.半金属材料であり,伝導体の下 部と価電子帯の上部がフェルミ準位をまたいでわずかに重なるバンド構造を持つ.巨大磁 気抵抗効果を示すことなどが知られている[24].この半金属二次元層状化合物のWTe2にア ルカリ金属イオンインターカレーションを施すことでその物性がどのように変化するのか に興味があり,まずWTe2結晶から薄膜デバイスの作製に着手し,その物性評価を行うこと を目的とし,実験を進めた.

結晶薄膜系デバイスの作製方法

結晶薄膜系における基本的なデバイス作製方法,および測定方法はナノチューブネット ワーク薄膜系デバイスと同様であり,基板上に試料を定着させ,電極端子を付けると同時に Gate電極を配置し,Gate電圧を印加することで,アルカリ金属イオン電解質をGate絶縁 体として用いた電気二重層構造をつくり,電気二重層キャリア注入,およびアルカリ金属イ オンインターカレーションを試みる.ナノチューブネットワーク薄膜系では,メンブレンフ

31

ィルターを用いて薄膜を作製し,あらかじめ金電極を蒸着しておいた基板上に後から薄膜 を有機溶媒還流によって転写してデバイスを作製したのに対し,二次元層状化合物の結晶 では,機械的剥離(劈開)法によって結晶から薄膜を取り出し,それを基板上に転写した後 から薄膜上に金電極を蒸着する方法でデバイスを作製する.理由は,劈開した試料を転写す る際に,粘着力を持つ素材のテープを使用するため,あらかじめ電極を蒸着しても,転写の 際に剥がれてしまうからである.また,転写の成功には転写先のフラットネス(平坦さ)が 重要なポイントであるため,あらかじめ電極が蒸着してあると,そもそも試料が転写できな い可能性が高いと考えた.

ネットワーク薄膜系デバイスと二次元層状化合物結晶薄膜系デバイスの作製方法の違い を明確にするため,それぞれの大まかなデバイス作製手順と断面図の概略図をまとめたの で,図 2-15に示す.

図 2-15:ネットワーク薄膜系および

二次元層状化合物結晶薄膜系デバイスの作製方法の違い

32

◼ 劈開WTe2結晶薄膜の具体的なデバイス作製方法

では,二次元層状化合物結晶薄膜系デバイスの具体的な作製方法についてまとめる.ま ず機械的剥離すなわち劈開法だが,基本的な動作はシンプルで,スコッチテープや

NITTO社の金属保護用テープ(NITTOテープ)など粘着力を持ったテープで結晶を挟ん

で剥がし,再び挟んで剥がし,を繰り返して結晶を薄く・細かくしていく.これによって 薄く・細かくした結晶薄膜をテープごと基板に貼り付け,ゆっくりとテープを剥がすこと によって基板上に結晶薄膜のみを残す.これが転写である.転写にはテープの粘着力,テ ープの剥がし方,結晶の厚さや大きさ,基板の種類,基板のフラットネス(平坦さ)や綺 麗さ,など様々な要因を最適化する必要があり,すべては経験的に培われる実験者の技術 力に依存する.

◼ WTe2結晶の劈開の様子とその評価

次にWTe2結晶の劈開の様子(図 2-16)と,酸化インジウムスズ(ITO)基板に結晶 薄膜を転写した後の顕微鏡画像(図 2-17)を示す.

33

図 2-16:WTe2結晶の劈開の様子

図 2-17:劈開後,ITO基板に転写したWTe2結晶の顕微鏡画像

上記の方法で劈開・転写したWTe2結晶をラマンスペクトル測定によって評価した(図

34 2-18).

図 2-18:劈開・ITO基板に転写したWTe2結晶の顕微鏡画像(上)と,

それぞれの位置を赤+・青+・緑+で示した結晶のラマンスペクトル評価(下)

顕微鏡画像を見ると,青+と緑+は結晶が同じような色をしているのに対し,赤+は結晶の 色が青+緑+と異なるように見える.ラマンスペクトル測定の結果を文献と比較すると

[25],163cm-1付近と212cm-1付近のピークの関係性より,青+と緑+はよりBulkに,赤+

はより単層に近い結晶になっていると考えられる.

35

◼ 劈開・転写に用いるテープの選定

二次元層状化合物結晶の劈開・転写にはいくつかのテープを試した.それぞれの特徴と 結果を表 2-1にまとめる.

表 2-1:劈開・転写に用いたテープの種類と適性

以上の内容を踏まえ,NITTOテープで結晶を劈開し,それを一度Gel Pak 8に移した後 で,Gel Pak 8から基板に結晶薄膜を転写する方法を取ることにした.この手間を加える ことによって基板上にNITTOテープの粘着成分が付着する量を極力抑えることができ,

さらに狙った結晶薄膜以外の細かいかけらなどが基板に付着する量も減らすことができ る.WTe2結晶薄膜デバイスに限らず,今後記述するMoS2やWS2結晶薄膜デバイスにつ いてもこの方法を用いて劈開・転写している.

◼ 新メタルマスクの使用

次に新しいメタルマスクの使用について述べたい.これまでのナノチューブネットワー ク薄膜系デバイスの作製にはGate電極が試料の両サイドに配置されたメタルマスクを使 用していた.この従来のメタルマスクはGate電極の面積を最大限確保できるというメリ ットがあるが,試料の形状や大きさの制限が厳しい構造となっている.結晶を劈開・転写 した薄膜の形状や大きさは様々なので,こうした試料に対し電解質ゲーティングするのに 適したメタルマスクを使用する方がより適切といえる.したがって試料に伸ばす電極の上 側に1つのGate電極が配置された構造のメタルマスクを選択した(図 2-19).

36

図 2-19:結晶転写用メタルマスク

候補として4種類のメタルマスクが挙げられたが,より結晶の形状や大きさに余裕が持て

るNo. 7のメタルマスクを使用することにした.

◼ ななめ蒸着の試み

これまで電極蒸着は,Ti/Au = 5 nm/100 nmを真上から試料および基板に飛ばして蒸着 していたが,この方法では試料の厚さが蒸着する金属の厚さより厚いと,断線してしまう 可能性が高い.実際に,劈開・転写によって作製する結晶薄膜デバイスは,試料の端面が ギザギザしていたりわずかな浮きがあったりしており,電極蒸着後に導通が取れないケー スが生じた.

これを受けて,ななめ蒸着という手法を試した.この方法では蒸着機の構造上,Tiなど

37

の接着層をAuなどの電極層と試料の間に挟むことはできなくなるが,代わりに試料の片 側のみ,断線する可能性を抑えることができる.以下にその概略図(図 2-20)と,実際 にななめ蒸着を行った際の様子(図 2-21),そして作製したデバイスの写真(図 2-22)

を示す.

図 2-20:通常の蒸着とななめ蒸着の状況の違い

38

図 2-21:実際のななめ蒸着の様子

39

図 2-22:ななめ蒸着を用いて作製したデバイス(上)と試料付近(下)の写真

◼ 試料の浮き

ななめ蒸着を用いて作製したデバイスで測定を試みたが,電解質を垂らした後の時間経 過で導通が取れなくなってしまった.測定後のデバイスの様子を見てみたところ,WTe2

結晶薄膜の一部が基板から離れ,電解質中に浮いてしまっていることを確認した.一方で 薄膜に着けた金電極は断線していなかった(図 2-23).

図 2-23:測定後の試料の写真.電極は断線していないが,

薄膜自体が浮いてしまい,その影響で断線してしまったと思われる.

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 30-42)