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第 2 節 自己表現活動分析 1 カラーワーク

75  L L 笑)

76  リ ン : たてもの,たてものはー,意味は,なん,なんですか?

77 コ ウ : 箱 ?

78  教 師 : さっき言ったよね 79  コ ウ : 知ってるじゃないか

80  リ ン : 知ってる,でも,詳しく,知りたいです,が 81  教 師 : 詳しく知りたいです(サイカを促すジェスチャー) 82  サ イ カ 問 )

83  リ ン : そ,そのは,ん一,将来の,住む,たいところですか?

←リン質問

←リン質問

←チン回答

←教師質問

←チン回答

←教師確認

←チン回答

←リン質問

←チン回答

←教師質問

←チン回答 いいえ。もちろんいいえ (NOの意味)です。将来の,

分で, xxマン,マンション マンションに住みたい。

lまし、

家は,マンション?

これは,簡単な,ん一, うちです。私は複雑の,マンションはできません でも,これは自分が住みたい家?

いいえ,あの,時聞がないし,さっき,

うん

でも,どして,そのたてものを描きますか?意味は?

意味は,今,あの, うちを思い出す。

ああ, うちを思い出す。自分の家?

はし、

(リンに)ちゃんと聞いてー

ああ。聞いて,でも,と,途中,なにか,だれと,住みたいと,言ってー それは,それは,ちょっと,私が冗談を言ってしまった

あ,あ,そうか。突然,は一,えとー,は,

うちは, , 自 ん一,

サイカ:

教 師 : サイカ:

教 師 サイカ:

教 師 : サイカ:

教 師 : リ ン : サイカ:

教 師 : サイカ:

ギョウイ:

リ ン : 教 師 : リ ン : 84 

5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9   8 8 8 8 8 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9  

チンの表現は,自分の既有知識をリソースに,教師のそれに対する訂正や補足を受ける形で進 められてきた。そしてそれはほぼ成功してきた。しかし,ここでチンが持ち出した「イメージの 家」という表現は,教師,そしてその混乱した談話を聞いていたリンには理解できなかった。

ここで,教師である筆者の立場から述べると,この時,教師は,チンの50["さびしいですから,

それで,あの,イメージのうちを描いた」という発話から["故郷の家を思い出して描いたのだか ら,この絵の家は故郷の家だろう」とし、う推測し, ["故郷の両親のいる家に戻りたしリという応答 を引き出そうとした。教師は「イメージ」を今ここにはない具体的な何かを思い浮かべる・想像 するという意味で捉えていた。

一方,フォローアップ・インタピ、ューにおいて,チンに本実践でこの「イメージ

J

の語をどう いう意味で用いていたのかをたずねたところ,チンはちょうど手に持っていた缶コーヒーの缶に 描かれた絵(ラベル)を「これです」と指した。そして本実践の少し前の授業で用いられた読解 教材の中にあったと話し,その読解教材の内容と担当教師の意味説明を明確に覚えていた。その 読 解 教 材 で は イ メ ー ジ 」 は 「 商 品 の イ メ ー ジJ,つまり,言いたいこと・伝えたいことを象徴 化した絵のこととして説明されていた。チンの絵は,商品のラベルのように「さびしさJを象徴 して描いたもので、あって,現実の何かを描いたもので、はなかった。したがって,明確化するとす れ ば そ の 家 は 自 分 の 家 か

J

ではなく,リンが93で質問したとおり「その家の絵を描いた意味 は何か」ということを問うことが必要で、あった。

この教師・チン双方の「イメージ」の意味の違いから,矛盾した質問一回答の隣接ベアが繰り 返され(断片

3:  4 6 " ' ‑ ' 5 7 )

,それを聞いていたリンにも混乱をきたした。しかし,いったんはチン が

5 7

["ん一。はし、」と答えることで,双方がわからないままに交渉は打ち切られた。しかし表現 終了後の質問タイムにおいて再びリンによって問題が取り上げられることで,リン,教師によっ て様々な質問が試みられ,それにチンが様々に応答を試みる中で,最終的にリンの質問「でも,

どして,そのたてものを描きますか?意味は?Jで,チンが表現しようとしたことがようやくリ ン,そして教師に了解されている。質問一返答の繰り返しの中で,教師だけでなくリンも様々に 質問を試み,チンも必死で応答し,その中で,チン・教師・リンの「イメージjの意味が検討・

再検討されている。

教科書や教材から得た語を自己表現という文脈で用いようとしたとき,それがその場の対話の 相手には異なって受け取られ,自分が表現しようと思った意図が通じないことが生じる。このと き,リンがあくまで理解にこだわらなかったら,教師はチンの表現意図をわからないまま。そし てチンも「イメージ

J

の語の多義性を体験していくことはなかった。聞き手のあくまで理解にこ だわる態度と応答する側の理解してもらおうとする態度によって語の意味が交渉され,表現は理 解される。逆に,このような追求する態度が双方になければ,既有知識は自己表現のための言葉 として十分に生かされていかないのではないだろうか。理解を追求するインタラクションの中で 既有知識は自分を表現する言葉として利用可能になっていくとも言える。

114 

6.

学習者の自己表現・学習分析

4:

イン

6 . 1  

自己表現の進行と専有化

チンに続き 1組の女子学生・インが発表を行った。

インは,小鳥が飛び交う森の木々の聞を犬を連れた自分が散歩している絵を描いた。

インは表現内容をメモしていたが,それを読み上げるのではなくえと

J

["なに」とフィラー を挟みながら,いつもの小さな声で,しかししっかりした口調で,森の空想の光景とそこを歩く 自分の心情を表現した。

【断片

4

】インの自己表現

01教師: じゃ,テイさん,お願いします。

02 イン: あー,ある日,私ひとりで,なに,森林に行って, 遊びに,行きます。 え ←表現開始 ーと

03  コウ: ちょと見せて 04 教師:

05 イン:

06教師:

07 コウ:

08 イン:

①=今 09 教師:

10 イン:

②=辛口教師:

12 イン:

13 教師:

14 イン:

③=宇 15教師:

16イン:

④=辛口教師:

18 イン:

19教師:

ください。じゃ,私がもとっか?はい。

(中断)

なに,あの,森林のなかに,歩いて xx?森林のなかで

あー怖くない?サイ:しんりん)

歩いていって(コウたち森林の意味をギョウに聞いて,ギョウが答えてい る)きれいな花,見たり,烏の声,聞いたり,えと,はす,葉ずれの音,

(教師:あ,葉ずれ,はい)聞いたり

葉ずれというのは,こう,木の葉と葉がこすれる音です(ジェスチャー) あ,青いの空,見たり,なに,リラクスの気が,する

リラックスしている気持ち

はい。えと,心の中におちついて,嫌なこと全部忘れてしまった。

うん。です です。終わり

いやなことってどんなことですか?

なにって。(笑)あまりうれしくない,こと 今はどうですか?

落ち着いてる

落ち着いてる?はい。リラックスした感じで。けっこう自然が多いですよ ね,皆さんね(終わりの拍手)

インの表現は短く,その途中には教師が発話を挿入している(矢印①②)。

←教師解説

←教師解説

←教師訂正

←表現の終了

←教師の質問

インのユウとのベアワークに教師が付き添っており,教師はインの絵とその表現内容を一部知 っていた。教師の発話 10の「葉ずれ」という言葉は,ベアワーク中に教師がインの個人的質問に 提示した語であり,ここでは他の学習者に対して説明しているものである。また,教師の発話12 は,同様にベアワーク中に教師が教えた「リラックス」という語について,インが発音と用法を 間違えていたためにそれを訂正している。インと教師のインタラクションというよりも,教師が インの発表内容を全体に解説していたとも言え,インと教師の聞にインタラクションが生じてい るとは言えない。そしてこの発表の中で,インが言葉を吟味したり・選択する様子もみられない。

15でインが発表の終了を告げると,教師はチンの場合のように全体に質問を求めるのではなく,

教師自身がインの表現中の九、ゃなこと」の内容を問う質問をしている。しかし,インは明確に は答えず,教師も追及することなく,拍手でインの発表順の終了を告げている。

インの発表では,表現自体が短く,相互行為の中で言葉を吟味・選択する専有化の過程は観察 されない。インの自己表現では,教師が既にインの表現内容を知っていたことが教師の発話行動

に影響していたことが指摘される。しかし,それだけではなく,インの表現内容とインと教師の 関係にも原因が見出される。以下にこの点について検討する。

6

.2  表現内容とインタラクション・専有化

インは,

r

今の自分の気持ちJというテーマから,森を歩く自分を空想し,その空想の光景と自 分の心情を表現している。インはこの「空想の世界」を表現するのに,既習の表現を中心に,い つも手元においている電子辞書から得た新たな語を加えて表現している。一方,全体発表時では,

教師や他の学習者との間でのやりとりを経た言葉の吟味や獲得は見られなかった。

インの空想の世界は,現実の経験ではない。空想の世界を了解することは九、っ・どこで・誰 と・何を」を具体的に知ることではない。空想の世界は,その事物も感情も,言語によって継次 的に語られることによって理解されるより,イメージ的に理解されうる。しかし,逆にこのこと が,言語による交渉の機会一他者との間でことばの意味を吟味し,交渉していく機会を減じさせ ていたとも言える。

一方で,教師は,この空想についての表現の後に,

r

いやなこと」というインの心情の詳細を問 う質問をしている(③)。これに対し,インは笑って明確な返答をしない。教師は質問を変えて今 の状態を聞き(④),インの「落ち着いている」との回答に,教師は談話を終了する。

ここで,この教師(本研究者)として述べると,この頃,教師はインから受験勉強がはかどら ないこと,進路を決められなくて悩んでいることを聞いていた。それで、,教師はインがここで述 べている九、ゃなことJ

r

リラックスしたい」という表現内容の背景にこれらの事情があると考え,

できればそれをインが他の学生に対して表現する機会となることを期待していた。しかし,イン は笑いとともに明確な答えをしないことから,教師はインが話したくないのだと判断し,更に詳 細を追求することをやめ,今の気持ちを問い,インが「落ち着いているJと答えると,それを追 求することもなく,そこで打ち切った

( 2 0 r

はいJ)。

ここでは,当該相互行為の場を超えた人間関係にもとづく共有基盤は,専有化のための言葉の 吟味・交渉の基盤とはなっていない。逆に不十分な言語表現形式でも了解がすでに可能であるこ とから,そこで言語による表現行為が話し手・聞き手ともに終了し,さらなる言語的相互行為と それを通した専有化を阻害するものとなっていたことが指摘される。

教師とインの関係とそれをもとに共有されている情報がインタラクションに反映し,結果とし てインが言語表現を吟味・交渉するチャンスを阻害しているとも言える。

7.

学習者の自己表現・学習分析

5:

リン

7 . 1  

リンの自己表現の展開

最後に男子学生二人が残り,この内,リンが先に発表を行った。

絵が得意なリンは,描画時間を過ぎても描き続け,山に登る自転車の絵,台湾の伝統人形,自 身のイラスト,そしてコーヒーカップの中身として札束を描いた。ここまでの学習者と異なり,

絵は教室前方のW Bにはられ, リンはその前に立って表現を行った。リンは,言い淀み・言い直 しを繰り返しながらも,大きな声で早口に,一昨日と昨日の出来事を時間軸に沿って

8

分間,話 し続けた。

リンの表現内容は,二つの別々の話からなっていた。一つは一昨日と昨日のボランティア活動 での出来事,二点目は自分の趣味の台湾伝統人形とカメラについてのもので、あった。

【断片

5

】リンの自己表現

01  リ ン : えと,順番は 1,2, 3 1, 2, 3で。えー,んー,きのう,きのうと,おと とい,で,んー,ボランティアの活動をさかして,それから,んー,おとといは=

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