• 検索結果がありません。

自己表現活動分析 2: 自己理解(人生時計)

本節では,実践第

2

回に実施した自己表現活動「自己理解(人生時計)

Jにおける自己表現・専

有化過程の分析を行う。以下では,この活動の概要および自己表現活動としての特質について述 べたのち,学習者の自己表現・学習分析を行う。

.活動の概要と選択意図

日本語自己表現活動としての自己理解活動「人生時計

J

32は,一日の内,自分が一番大切だと 思う時間を選択し,その理由を開示・表現する活動であるが,時間選択において,床に大きく書 かれた時計の図の上を実際に身体を動かし移動し,また他者との物理的距離感を体感することを 取り入れた活動である。 HLAとしては,第3章での技法分類であげたGalyean(1976)の構成原 理では特に(7)

r

選択し,その選択の結果を受け入れることに対する責任Jに関わり, Moskowitz 

(1978)の分類では, Discovering Myselfに分類される。縫部(1998)では同様に「自分を知る」

目的の活動として入国児童・生徒対象に紹介されている。

自分の大切な時間を選択することから,自分が何を大切にしているかを知る自己理解のための 情意的活動として開発された活動であるが,身体感覚を取り入れている点も特徴とする。

2

回目 の活動実践として,身体を用いることで楽しさを創出し,クラスにリラックスした雰囲気を生み 出すとともに,言語学習としては「大切な時間とその選択理由」についてのまとまりのある談話 として自己表現を行う活動であることからこれを選択した。また, 日本での大切な時間と中国で の大切な時間を比較することで,異文化で生活する自分自身を内省する機会ともなり,日本で生 活する学習者にとって必要であると考えた。

この活動には,好きな月を選ぶ,季節を選ぶ,等のバリエーションがあるが,本実践では筆者 が他の実践で用い,慣れていることもあり,時間を選ぶ活動とした(家根橋,2006)。

実際の授業・活動展開の概略を下表に示す。

表4.3.1 授業と活動の展開

l 展 開 │ 授業・活動の内容 W B  

│イントロダクション:簡単な手順説明 地図

2  I

活動:①床の上の大時計の上を移動し, チン 時間の選択とその理由を自由に話す。

3  │活動:②机上の時計の絵を使って 4  │ベアワーク:ベアで理由を話す 5  │全体で発表

宿題│作文(添削後,返却)

2 .

自己表現活動の展開

本実践では,簡単な活動のインストラクション 後,床に大きく描かれた時計の上を,教師・学習 者が言った時間(例えば一番楽しい時間」等)

に移動し,その時間を選択した理由を言い合う活 動を行った(展開 2)。この活動後,自席に戻り,

再び机上の時計の絵を用いて「日本で大切な時

ユウ

32 自己理解(人生時計)

Jの背景理論の詳細は第 3

章参照。

リン 西川

O

コウ

ー「ー、、

,〆 l

/、、 l 〆'¥

/ 、 l ノ 、 白

/ 、 、 1

1 ¥ 1 '

r‑‑‑‑‑:; 1

l、 J

、"、、'

、〆 i f

、 〆 ! 、 . . '、

、、、̲1̲‑

時 計 の絵

図4.3.1教室配置図(着席時)

間・中国で大切な時間」を選びその理由を簡単に一巡述べた(展開 3)。その後,べアワークで再 び大事な時間と理由について話し(展開 4),続いて全体の前で再び述べる(展開 5)活動形式を

とった。

この内,ベアワーク,全体発表では構成的グループ・エンカウンターの時間構成を応用し,表 現時間をベアワークでは各自

3

分,全体発表では各自

1

分に制限し,行った。これは,前章で述 べたように,時間を制限することで逆に自分の表現したいことが明確化できるとの考えに基づく 時間構成法である

( M o s k o w i t z

1 9 7 8  ; 

Kr

a m s c h

, 

1 9 9 3  

;圏分,

1 9 9 2 )

。また,ここでこの構成法を用 いた理由は,展開2が終了した時点で既に授業時間の3分の2が経過しており,実施機関側から の必ず時間内に終了するようにとの要請上,時間を構成する必要があったためでもあった。

このため,展開

3

では一問一答形式,展開

4

,展開

5

のベア発表・全体発表では初めから他者 による介入なく独力で

3

分間・

1

分間の表現を行うことがタスクとして課せられており,本分析 の目的であるインタラクションの中で言語を選択していく過程を逆に制限するタスク形式となっ てしまった。本分析では特に教室インタラクションにおける専有化を分析の焦点とすることから,

以下では特に活動展開中の大時計を移動する部分(展開 2) を分析対象とする。

3.

活動における自己表現過程と学習

本項では,活動中のインタラクションの展開と特質を特徴的な断片をつなぎ示し,その中での 個々の学習者の参加と自己表現・学習を記述・分析してし、く。

3 . 1  

インタラクションの展開と特質

授業二日目とあって,学習者たちは前日より慣れた様子で入室し,前日と同じ席に着いた。授 業開始後,インストラクションに続き,教室後方の時計の描かれたスペースに移動した。この学 校の授業は座学中心であり,はじめは立つての活動の指示に学習者たちにも戸惑った様子が見ら れたが,実際に活動が始まると,特に女子学生たちから楽しそうな声があがりはじめた。

3.1.1  ユウの参加

活動開始とともに,いつもとは違う授業形態に学習者たちは戸惑いながらも楽しそうに移動し,

互いの位置を指さしあっては笑いとともに言葉を交わしていた。この和気あいあいとした雰囲気 の中で教師が「一番勉強したい時間」を指定すると,前回ほとんど自己表現ができなかった大人 しい3組の女子学生・ユウが「いつも」を示す時計の中央に立った。この回答に驚いた教師がユ ウに選択理由を問うた。はじめにこのユウの参加の様子を見ていきたい。

【断片

1

①】一番勉強したい時間:ユウ①

01教 師 : じゃあ,一日で,一番,勉強したい時間 (全員移動)

02教 師 : ユウさんどうしてそこですか?いつも?

03ユ ウ : いつも 04教 師 : いつも?

05コ ウ : いつも,パソコンしたい 06教 師 : いつも勉強したいです

07ユ ウ : うん。でも,いつも,勉強,しない(笑顔)

08教 師 : 気持ちがあるのが大事ですよね。ね,先生(隣の西川に) 09西J11  :  じゃ私もそこです

ユウは

0 8

では,

0 7

で教師がユウに代わって行った発話「いつも勉強したい」を引き継いで、,

r

で も,いつも,勉強,しなし、」とたどたどしい日本語ながら自分なりの応答をしている。また,そ れに対し教師は,通常の会話のように

0 9 r

気持ちがあるのが大事ですよね

J

と応答し,次の西川

1 2 8  

も含め教師の質問一学習者の回答」型ではない自然な会話の流れを作っている。

また,次の断片

1

②のユウの発話12以降では,ユウは

1

組の男子学生・リンに対し,教師の提 示した言葉をそのまま反復するのではなく,それを取り入れながら自分なりの表現をしている(リ

ンは午後

1

時を選択)。

【断片

1

②】一番勉強したい時間:ユウ②

10教 師 : じゃ,ユウさん,誰かに理由を聞いてください

11ユ ウ : うー。リンさん 12教 師 : どして

13ユ ウ : 午後は,眠たいでしょう。[勉強したい 14教 師 [ ね む た い の に 15教 師 : ねむたいのに,どうして

16ユ ウ : どうして,勉強したい

前節での「カラーワーク」でのユウは,下の断片のように「教師の質問ーユウの返答Jとしづ 隣接対で構成され,教師が表現を進行させていた。

‑第1回『カラーワークJにおけるユウの発話(第 2節 断 片 2) 56教 師 どう,楽しかった?

57 ユ ウ ん ?

58 教 師 どんな気持でしたか?

59ユ ウ ああ(間)うれしい 60教 師 うれしい(間) 61 ユ ウ 以上。以上です

62 教 師 入っているのは何ですか?

63 ユ ウ はいってる?

64 教 師 入ってるのは何ですか?

65 ユ ウ コーフ

66教 師 どうしてコーラですか?

67 ユ ウ 食べたい,ん.飲みたい 68 教 師 今,今飲みたいから 69 ユ ウ lまし、

70教 師 普通の,キャンプとは関係ないコーラ

71 ユ ウ ああ

この第

1

回に比較し,簡単な日本語表現である点は変わりないが,ユウには一つの発話を作り,

会話しようとする態度が見られる。

この後,ユウに指名されたリンが選択理由についての表現を行う。

3.1.2 リン・コウの参加と冗談中心の教室インタラクション

【断片

1

③】一番勉強したい時間:リン ユ7ユ ウ :

18 リ ン : ユ9教 師 : 20 リ ン : 21西J  : 11 22教 師 : 23 リ ン : 24教 師 : 25 リ ン : 26教 師 :

どうして,勉強したい

ん" ,というか,この時間ねむいですからー,本を見ても,

寝られますよねえ

寝られます,と,思って(みんな笑) 本を読んだらすぐ眠れるから 眠れるから勉強したい

うん

それは勉強したいんじゃなくて それは,寝るのために,勉強する

寝るために勉強する。じゃ, リンさん,もう一人誰かに。え,この時間どうしてとい う人に聞いてください。

129 

27西)11 :  28教 師 :

ここ,いつですか(夜

3

時のところにいるインのところを指して) そこね,夜

3

時(イン,笑い)

29教 師 : 30 リ ン : 31教 師 :

リンさん,ぜひ質問を(インを指して) どして,この,こんなパカな,ことを パカはないね,パカはxx

ここでリンは冗談で答えており,前回の「カラーワーク」同様,リンは自己開示的な内容にふ れない。また, 30ではふざけた調子で日本語を用い,リンの冗談に他の参加者には笑いが広がっ ている。

談話はインに引き継がれる。

【断片

1

④】一番勉強したい時間:イン

32イ ン : 夜,静かに,えと,何もしなくていいこの時聞を,勉強したい

=

33コ ウ : 夢中

34教 師 : ああ,熱中,勉強にね,夢中になってるんだ 35コ ウ : いやいや,そういう[意味じゃなくて

36教 師 [ あ , 違 う ほ う だ 。 37教 師 : あ,夢の中の

38コ ウ : 夢の中で

39教 師 : 夢中には,日本語で,夢中と書くと(紙に書く),これは,一生懸命の意味です(コ ウ:ああ) (字を指しながら)これは夢中で一生懸命の意味。でも,これにのが 入ると(書く)

40ギョウ [夢の中 コ ウ :

41教 師 : [夢の中。寝ています。どっちですか?

42イ ン : 夢中

43教 師 : 夢中のほうです。じゃ,西川先生,次の。

3 3

でインは,誤用を含みながらも,自身の午前

3

時の選択理由を述べた。しかし,ここで先の リン同様に,コウも「夢の中で勉強しているのだ」とインをからかう冗談の発話を行う。このよ うに, リン,コウは活動中,冗談としての発話において日本語を用い,いずれも一語あるいは短 い表現を即興で投入する発話が中心となっている。

ただし,

3 3

でコウが間違えて「夢中(むちゅう)

J

と い う 言 葉 を 使 っ た た め 夢 の 中

J

と「夢 中」の違いについての教師による言語上の説明が挿入されている。このような教師による言語説 明の挿入は,この活動においてしばしば見られた。

活動は,このような短い言葉での元談を中心とした応答の中で進んだ。以下は「一番遊びたい 時間Jで,時計外(該当時間なし)の位置に移動したコウに教師が理由を尋ねた場面である。

【断片 2】遊びたい時間

①=キ 01 教 師 : コウさんも全然遊びたくないですか?

02  コ ウ : はい。いま,たぶん,えー, 40歳, 50歳

②=争 03 教 師 4 0歳きついね 04  コ ウ

@=争 05 教 師 06 コ ウ 07 ギョウ:

08  コ ウ 09 ギョウ:

10  コ ウ 11 ギョウ:

12 西 川 13 ギョウ:

14  コ ウ 15 西 川

そのあとは,たぶん,遊びたい。今は,遊びたくない ぜんぜん

ん。考えです

若いときにあそ, (教師:遊んだほうが)遊んだほうがいいよ そう思いません

年とったら,動かないよ 4 0, 50歳

もう動かない

20代の後半も結構つらいよ そうですねー

つらい,人生

だって,年取ったら,徹夜ができなくなりますよ 130