n 次正方行列A の固有多項式δA(t) = (t−α1)(t−α2)· · ·(t−αn)が重根をもたないとき,A は対角化 可能で, Jordan標準形はJ1(α1)⊕J1(α2)⊕ · · · ⊕J1(αn)で与えられる. しかし,定理E.1や例E.6からわ かるように,固有多項式が重根をもつ場合にはJordan 標準形がδA(t)から一意的に定まる訳ではない. と
ころで,注意D.4より,AのJordan標準形の最小多項式はAの最小多項式に一致する. このことを利用す
ればJordan標準形の候補を絞り込む(場合によっては決定する)ことができる.
例 E.7 3 次正方行列の Jordan 標準形は, 最小多項式によって完全に決定される(α, β, γ は相異なるスカ ラーを表す):
Jordan標準形J 固有多項式δJ(t) 最小多項式εJ(t)
J1(α)⊕J1(β)⊕J1(γ) (t−α)(t−β)(t−γ) (t−α)(t−β)(t−γ) J1(α)⊕J1(α)⊕J1(β) (t−α)2(t−β) (t−α)(t−β) J2(α)⊕J1(β) (t−α)2(t−β) (t−α)2(t−β)
J1(α)⊕J1(α)⊕J1(α) (t−α)3 t−α
J2(α)⊕J1(α) (t−α)3 (t−α)2
J3(α) (t−α)3 (t−α)3
従ってAのJordan標準形J は以下のようにして求めることができる:
(1) δA(t) = (t−α)(t−β)(t−γ)のときJ =J1(α)⊕J1(β)⊕J1(γ).
(2) δA(t) = (t−α)2(t−β)のとき
(A−αE)(A−βE) =O =⇒ J =J1(α)⊕J1(α)⊕J1(β);
(A−αE)(A−βE)̸=O =⇒ J =J2(α)⊕J1(β).
(3) δA(t) = (t−α)3のとき
A−αE=O =⇒ J =J1(α)⊕J1(α)⊕J1(α);
A−αE̸=O かつ (A−αE)2=O =⇒ J =J2(α)⊕J1(α);
(A−αE)2̸=O =⇒ J =J3(α).
注意E.8 4 次以上の行列に対しては, Jordan 標準形は最小多項式によって決定されるとは限らない. 例 えば
J2(α)⊕J1(α)⊕J1(α) =
α 1 0 0
0 α 0 0
0 0 α 0
0 0 0 α
, J2(α)⊕J2(α) =
α 1 0 0
0 α 0 0
0 0 α 1
0 0 0 α
の最小多項式は共に(t−α)2 である.
一般の n次正方行列の Jordan標準形は,次の定理(証明は演習問題)を用いて求めることができる:
E Jordan標準形 149 定理E.9 記号や仮定は定理E.5と同じとするとき, 各iに対して次が成り立つ:
n−rank(A−αiE)k =
si
∑
j=1
min(mij, k) (k= 1,2,3, . . .).
ここでmin(mij, k)はmij とkの小さい方を表す.
上の定理でk= 1とすると, n−rank(A−αiE) = dimW(αi)とmin(mij,1) = 1より,次を得る:
系 E.10 dimW(αi) =si. 例 E.11 多項式
f(t) = (t−α1)m1(t−α2)m2· · ·(t−αr)mr (α1, α2, . . . , αrは相異なるスカラー)
の同伴行列C に上の系を適用すると,例14.7よりdimW(αi) = 1であるから,si= 1がわかる. よってC のJordan標準形は
Jm1(α1)⊕Jm2(α2)⊕ · · · ⊕Jmr(αr) で与えられる.
演習問題
E.1 正方行列A1, A2, . . . , Ar に対し,次が成り立つことを示せ:
rank(A1⊕A2⊕ · · · ⊕Ar) = rankA1+ rankA2+· · ·+ rankAr. E.2 (1) k= 1,2,3, . . .に対してJm(α)k を計算せよ.
(2) Jm(α)の最小多項式は(t−α)m であることを示せ.
E.3 n次正方行列Aがスカラーαに対して(A−αE)n=O ならびに(A−αE)n−1̸=O をみたすとし, (A−αE)n−1x̸=0なる(n次の)ベクトルxをとってxj= (A−αE)n−jx(1≤j≤n)と置く.
(1) x1,x2, . . . ,xn は 1次独立であることを示せ. (2) P =(
x1x2 . . . xn
)と置くとき,P−1AP を計算せよ.
E.4 定理E.9を証明せよ.
E.5 次の行列のJordan標準形を求めよ:
2 −1 1
0 4 −2
0 2 0
,
1 2 −1
1 0 4
1 −2 5
.
F 幾何学的説明
§7.4で述べたように,連立1次方程式Ax=uが解x0 をもつとき,解の全体はx0+ KerφAにより与え
られる(命題7.19). 本節では,このような形をしたRn の部分集合の幾何学を概説する. 以下ではスカラー
の範囲はRとし,数ベクトル空間Rn を標準的な内積により計量ベクトル空間と見なす.
F.1 部分アフィン空間
Rn の部分ベクトル空間W と x0∈Rn によってx0+W ={x0+y; y∈W}と表せるような集合を (Rn の)部分アフィン空間(またはアフィン部分空間)という.
z
*
0
x0
y
x0+y
W
L=x0+W
L=x0+W を部分アフィン空間,x′0=x0+y′∈L(y′ ∈W)とすると, 任意のy∈W に対して x′0+y= (x0+y′) +y=x0+ (y′+y)∈x0+W
ならびに
x0+y= (x′0−y′) +y=x′0+ (−y′+y)∈x′0+W
が成り立つから,x′0+W =x0+W がわかる. また,x=x0+y, x′=x0+y′∈L(y,y′∈W)とすると,
x−x′ = (x0+y)−(x0+y′) =y−y′ ∈W
が成り立つから,{x−x′ ; x,x′∈L} ⊂W. 逆に,任意の y∈W に対し, x=x0+y, x′=x0 と置けば y=x−x′ と x,x′∈Lが成り立つから, W ⊂ {x−x′ ; x,x′∈L}. 以上より:
命題F.1 部分アフィン空間L=x0+W について:
(1) 任意の x′0∈L に対してL=x′0+W. (2) W ={x−x′ ; x,x′∈L}.
上の命題の (2)より,部分ベクトル空間W は部分アフィン空間Lから一意的に定まることがわかる. W をL に付随する部分ベクトル空間という. また,W の次元をLの次元ともいい, dimLで表す.
問 F.2 部分アフィン空間L=x0+W とL′ =x′0+W′ について,以下の問いに答えよ:
F 幾何学的説明 151
(1) 次の同値性を示せ:
L′⊂L ⇐⇒ W′⊂W かつ x′0−x0∈W . (2) W′⊂W かつx′0−x0̸∈W であればL∩L′=∅となることを示せ.
例 F.3 1次元の部分アフィン空間,すなわちx0+⟨u⟩={x0+tu; t∈R}(u̸=0)の形をしたRn の部 分集合を直線といい, uをその方向ベクトルという.
: 0
x0
u ⟨u⟩
x0+⟨u⟩
x0= (x(0)i ), u= (ui)とすると, x= (xi)∈Rn に対して x∈x0+⟨u⟩ ⇐⇒ x1−x(0)1
u1
= x2−x(0)2 u2
=· · ·= xn−x(0)n
un
が成り立つ. ただしui= 0のときにはxi−x(0)i = 0であると見なす. 最後の等式を直線x0+⟨u⟩の方程 式と呼ぶ. なお, 2次元の部分アフィン空間を平面という.
L=x0+W を Rn の部分アフィン空間とし,r= dimL(= dimW), s=n−r と置く.
y1,y2, . . . ,yrをW の基底とし,xj =x0+yj (1≤j≤r)と置く. このとき,x0ならびにx1,x2, . . . ,xr はL に属する. また,任意のx∈Lはスカラーt1, t2, . . . , tr を用いて
x=x0+
∑r j=1
tjyj =x0+
∑r j=1
tj(xj−x0) = (
1−
∑r j=1
tj )
x0+
∑r j=1
tjxj と表せて,t0= 1−∑r
j=1tj と置けば∑r
j=0tj = 1が成り立つ. 同様の計算により,スカラーt0, t1, t2, . . . , tr
が∑r
j=0tj = 1 をみたすならば∑r
j=0tjxj ∈ L となることもわかる. 従って, L は∑r
j=0tjxj (ただし
∑r
j=0tj = 1)なる形のベクトルの全体に一致する.
W⊥ を W の直交補空間とする. 問 17.3より, dimW⊥ = s, (W⊥)⊥ = W となっている. これより, a1,a2, . . . ,asをW⊥ の基底とすると,x∈Rn に対して
x∈L ⇐⇒ (ai,x−x0) = 0 (1≤i≤s) ⇐⇒ taix=taix0 (1≤i≤s) が成り立つことがわかる. A=(
a1 a2 . . . as
)と置けば,最後の条件はtAx=tAx0とも書けるから,Lは 連立1次方程式tAx=tAx0 の解の全体に一致する.
部分アフィン空間との距離 W をRn の部分ベクトル空間, x∈Rn とし,x′ を xの W への直交射影と する:
x=x′+x′′, x′∈W, x′′∈W⊥.
このとき, (W⊥)⊥ =W より,x′′ はxのW⊥ への直交射影となっている. また,注意16.15で述べたよう に,yをW の中で動かすとき,∥x−y∥はy=x′ のときに最小値∥x′′∥をとる. つまり∥x−y∥の最小値は xの W⊥への直交射影のノルムに一致する. 同様に考えることにより,yを部分アフィン空間L=x0+W の中で動かしたときの∥x−y∥ の最小値はx−x0のW⊥ への直交射影のノルムに一致することがわかる.
この最小値をxとL との距離という.