A, B をそれぞれ(m, n)型, (n, m)型の行列とすると,ABは(m次の)正方行列になるから,行列式|AB| が定義される. いま,A=(
a1 a2 . . . an
), B= (bij)とすると,
AB= ( ∑n
k1=1
bk11ak1
∑n k2=1
bk22ak2 . . .
∑n km=1
bkmmakm
)
(cf.問2.5)となるから,定理8.9より
|AB|= ∑n
k1=1
bk11ak1
∑n k2=1
bk22ak2 . . .
∑n km=1
bkmmakm
=
∑n k1=1
∑n k2=1
· · ·
∑n km=1
bk11bk22· · · bkmmak1 ak2 . . . akm.
最後の和において,k1, k2, . . . , kmの中に同じものがあれば,定理8.12よりak1 ak2 . . . akm= 0となる. 従って, 上の多重和は, 相異なるk1, k2, . . . , km,すなわち1,2, . . . , nからm 個を選び出す順列に渡ってと るだけでよい. m≤nであるとき, そのような順列は1≤k1< k2<· · ·< km≤nなるk1, k2, . . . , km と σ∈Smによってkσ(1), kσ(2), . . . , kσ(m)と一意的に表せることに注意すると,
|AB|= ∑
1≤k1<k2<···<km≤n
∑
σ∈Sm
bkσ(1)1bkσ(2)2 · · ·bkσ(m)mak
σ(1) akσ(2) . . . akσ(m)
となることがわかる. ここで,系 8.15よりakσ(1) akσ(2) . . . akσ(m)= sgnσak1 ak2 . . . akm. また,
∑
σ∈Sm
sgnσ bkσ(1)1bkσ(2)2 · · ·bkσ(m)m=
bk11 bk12 . . . bk1m
bk21 bk22 . . . bk2m
. . . . bkm1 bkm2 . . . bkmm
(cf.定理8.8). なお,m > nの場合には,相異なるk1, k2, . . . , kmがとれないため|AB|= 0 となる. 以上を まとめて:
定理C.7 A= (aij), B= (bij)をそれぞれ(m, n)型, (n, m)型の行列とするとき,
|AB|= ∑
1≤k1<k2<···<km≤n
a1k1 a1k2 . . . a1km
a2k1 a2k2 . . . a2km
. . . . amk1 amk2 . . . amkm
bk11 bk12 . . . bk1m
bk21 bk22 . . . bk2m
. . . . bkm1 bkm2 . . . bkmm
.
ただしm > nの場合には|AB|= 0.
定理9.10は,上の定理においてm=nとした場合に他ならない.
例 C.8 m= 2, n= 3の場合,上の定理は次の等式を意味する:
(
a11 a12 a13
a21 a22 a23
)
b11 b12 b21 b22 b31 b32
=
a11 a12
a21 a22
b11 b12
b21 b22
+
a11 a13
a21 a23
b11 b12
b31 b32
+
a12 a13
a22 a23
b21 b22
b31 b32
.
演習問題
C.1 補題C.1を証明せよ.
C.2 n次の置換σに対し,i < j かつσ(i)> σ(j)であるような(つまりi, j とσ(i), σ(j)の大小関係が逆 になっている)組(i, j)の個数をσの転倒数 (または反転数)といいr(σ)で表す.
(1) 2次と3次の置換について,転倒数を求めよ.
(2) sgnσ= (−1)r(σ) となることを示せ.
C.3 補題C.6を証明せよ.
C.4 上で述べた定理C.7の証明を定理9.10の証明に簡略化せよ.
C.5 定理C.7から次の恒等式を導け:
∑n i=1
x′ixi
∑n i=1
y′iyi−
∑n i=1
x′iyi
∑n i=1
yi′xi= ∑
1≤i<j≤n
(x′iyj′ −x′jy′i)(xiyj−xjyi).
D 行列の最小多項式と対角化 141
D 行列の最小多項式と対角化
本節と次節では§14,§15に続いて行列の標準化を扱う. 以下ではK をひとつの体とし,行列や数ベクト ルの成分ならびに多項式の係数はKの元であるものとする.
A を§14.3の条件(⋆)をみたす正方行列とする:
δA(t) = (t−α1)m1(t−α2)m2· · ·(t−αr)mr (α1, α2, . . . , αrは相異なるスカラー).
定理14.11で述べたように, Aが対角化可能かどうかを調べるためには,mi ≥2 であるような全てのiに
対してA−αiEの階数を計算すればよい. しかし,Aが具体的に与えられていない場合には,そのような計 算を実行するのは極めて困難である. 本節で述べるのは, 行列がみたす代数方程式を利用した,より簡潔な 判定法である.
D.1 行列の最小多項式
A は上の通りとするとき,f(A) =O をみたす多項式f(t)̸= 0 で次数が最小かつ最高次の係数が1 であ るようなものをAの最小多項式という. そのような多項式が存在することはHamilton-Cayley の定理(定 理 15.7) により保証される. いま f(t)を Aの最小多項式とし, g(t)をg(A) =O をみたす多項式とする. このとき,g(t)の f(t)による割り算を考えることにより
g(t) =f(t)q(t) +r(t), degr(t)<degf(t) なる多項式q(t), r(t)の存在がわかるが, f(A) =g(A) =Oであるから
r(A) =g(A)−f(A)q(A) =O.
従ってf(t)の定義よりr(t) = 0でなければならない. つまりg(t)はf(t)で割り切れる. これより最小多 項式の一意性がわかる. すなわち,g(t)もAの最小多項式であるとすると,次数と最高次の係数を比較する ことによりg(t) =f(t)が得られる. 以下ではAの最小多項式をεA(t)で表す. 上の議論より:
命題D.1 f(A) =O をみたす多項式f(t)はεA(t)で割り切れる. 特に,Aの固有多項式δA(t)はεA(t)で 割り切れる.
αをAの固有値,xを αに関するAの固有ベクトルとすると,容易にわかるように,多項式f(t)に対し てf(A)x=f(α)xが成り立つ. 従ってf(A) =Oであればf(α) = 0となる. すなわち:
命題D.2 多項式f(t)に対してf(A) =O が成り立つとき,Aの任意の固有値はf(t)の根である.
よってAの固有値α1, α2, . . . , αrは全てεA(t)の根で,命題D.1と併せて次を得る:
系 D.3 Aの最小多項式は次の形:
εA(t) = (t−α1)l1(t−α2)l2· · ·(t−αr)lr (0< li ≤mi).
特に,δA(t)が重根をもたないならばεA(t) =δA(t).
注意D.4 注意15.6より,正則行列P に対してεP−1AP(t) =εA(t)が成り立つ(cf.注意14.4).
例 D.5 (1) A=αE であれば,Aの最小多項式はt−αとなる. また,εA(t)が1 次式となるのは,このよ うにAが単位行列のスカラー倍であるような場合に限る.
(2) 2次正方行列A= (
α 1 0 α
)
の固有多項式は(t−α)2であるから,最小多項式はt−αまたは(t−α)2 でなければならない. 従って(1)よりεA(t) = (t−α)2.
同伴行列(cf.例14.7)の最小多項式に関しては,次の事実が知られている(証明は演習問題):
命題D.6 n次式f(t) =tn+cn−1tn−1+· · ·+c1t+c0 の同伴行列の最小多項式はf(t)に一致する.
D.2 最小多項式と対角化