a1,a2, . . . ,ar をn次のベクトルとするとき,次の形の式をa1,a2, . . . ,arがみたす1 次関係式という:
t1a1+t2a2+· · ·+trar=0.
t1, t2, . . . , tr が全て 0 ならば, この関係式は明らかに成り立つ(自明な 1 次関係式という). a1,a2, . . . ,ar
は, 自明でない1 次関係式をみたすとき1次従属であるといい,そうでないとき1次独立であるという.
注意6.9 a1,a2, . . . ,arが 1次独立であるとは,スカラーt1, t2, . . . , tr に対して t1a1+t2a2+· · ·+trar=0 ⇐⇒ t1=t2=· · ·=tr= 0 が成り立つということに他ならない. 命題5.6より,この条件は行列 A:=(
a1 a2 . . . ar)
に対応する線型 写像φA:Ar→An が単射であることと同値である(cf.注意6.5). つまり,上の条件は
t1a1+t2a2+· · ·+trar=t′1a1+t′2a2+· · ·+t′rar ⇐⇒ t1=t′1, t2=t′2, . . . , tr=t′r と書き直すことができる.
6 部分空間と次元I 39 例 6.10 (n次の)基本ベクトルe1,e2, . . . ,en は1次独立である. 実際,
t1e1+t2e2+· · ·+tnen=
t1 t2
... tn
が零ベクトルとなるのはt1=t2=· · ·=tn= 0のときに限る.
次の命題は定義から直ちに導かれる(証明は演習問題):
命題6.11 (1) a1,a2, . . . ,ar の中にひとつでも零ベクトルがあれば,これらは1次従属. (2) a1,a2, . . . ,ar の中に同じベクトルがあれば,これらは1 次従属.
(3) a1,a2, . . . ,ar が1次独立ならば,任意のj≤rに対してa1,a2, . . . ,aj も1 次独立.
注意6.9において特にr=nの場合を考えると,定理5.14の(2)より:
命題6.12 n次のベクトルa1,a2, . . . ,an が1次独立であるためには,行列(
a1 a2 . . . an
)が正則である ことが必要かつ十分である.
線型写像と 1 次独立性 f : An → Am を線型写像とし, a1,a2, . . . ,ar ∈ An が自明でない 1 次関係式 t1a1+t2a2+· · ·+trar = 0 をみたしたとする. このときf(a1), f(a2), . . . , f(ar)∈ Am も自明でな い 1 次関係式t1f(a1) +t2f(a2) +· · ·+trf(ar) =0 をみたす. つまり, a1,a2, . . . ,ar が 1 次従属なら ばf(a1), f(a2), . . . , f(ar)も 1次従属である. また,f が単射である場合にはt1f(a1) +t2f(a2) +· · ·+ trf(ar) =0からt1a1+t2a2+· · ·+trar=0が従う. 以上より:
命題6.13 f :An→Am を線型写像,a1,a2, . . . ,ar∈An とするとき,f(a1), f(a2), . . . , f(ar)が1 次独 立であればa1,a2, . . . ,ar も1 次独立である. また,f が単射ならば逆も成り立つ.
例 6.14 上の命題を線型写像
A3∋
x y z
7−→
(
1 0 0 0 1 0
)
x y z
= (
x y
)
∈A2
に適用することにより,t(a, b),t(a′, b′)が1 次独立ならばt(a, b, c),t(a′, b′, c′)も 1次独立であることがわ かる(逆は成立しない).
基本変形と 1 次独立性 a1,a2, . . . ,ar を n 次のベクトルとし, A=(
a1 a2 . . . ar)
と置く. このとき,
a1,a2, . . . ,arがみたす1 次関係式を求めることは斉次方程式Ax=0を解くことと同値で,方程式が自明
でない解をもてばa1,a2, . . . ,ar は 1 次従属である. しかし,以下のように考えれば, 1 次関係式を具体的 に求めることなしに1次独立かどうかは容易に判定することができる:
P を r次の正則行列,Qを n次の正則行列とするとき,φA が単射であることとφQAP =φQ◦φA◦φP
が単射であることは互いに同値である. 従って,注意 6.9より, a1,a2, . . . ,ar が 1次独立であるためには QAP =(
a′1 a′2 . . . a′r)
により定められるベクトルa′1,a′2, . . . ,a′rが 1 次独立であることが必要かつ十分 である. すなわち:
命題6.15 行列A=(
a1 a2 . . . ar
)に基本変形を繰り返してA′ =(
a′1 a′2 . . . a′r)
が得られるとき:
a1,a2, . . . ,arは 1次独立 ⇐⇒ a′1,a′2, . . . ,a′rは1 次独立.
1 次独立なベクトルが張る空間 a1,a2, . . . ,ar を1 次独立な n 次のベクトルとする. このとき, まず a1 ̸=0 より, ⟨a1⟩ は“2 点 0,a1 を通る直線” に一致する. いま仮に直線 ⟨a1⟩が a2 を含んだとすると, a2 =ta1 なるスカラー t が存在することになり, ta1+ (−1)a2 =0と仮定に反する. 従ってa2 ̸∈ ⟨a1⟩ であり, ⟨a1,a2⟩ は“3 点 0,a1,a2 を含む平面” に一致する. 以下同様に考えて, j = 2,3, . . . , r に対して aj ̸∈ ⟨a1,a2, . . . ,aj−1⟩が成り立つことがわかり,
{0}(⟨a1⟩(⟨a1,a2⟩(· · ·(⟨a1,a2, . . . ,ar⟩
なるAn の部分空間の(真の)増大列が得られる(cf. 系6.7). 逆に, そのようなa1,a2, . . . ,ar は1 次独立
となる(証明は演習問題). 従って:
命題6.16 ベクトルa1,a2, . . . ,ar が1次独立であるためには
{0}(⟨a1⟩(⟨a1,a2⟩(· · ·(⟨a1,a2, . . . ,ar⟩ が成り立つことが必要かつ十分である.
1次独立なベクトルの個数 b1,b2, . . . ,bs∈ ⟨a1,a2, . . . ,ar⟩とし, s > r であると仮定する. このとき,命 題6.6より(
b1 b2 . . . bs)
=(
a1a2 . . . ar)
C となるような(r, s)型の行列 Cが存在する. また,系 5.17 よりCx=0となるような(s次の)ベクトルx̸=0が存在する. 従ってb1,b2, . . . ,bsは1 次従属である:
(b1 b2 . . . bs
)x=(
a1 a2 . . . ar
)Cx=(
a1a2 . . . ar
)0=0.
すなわち:
命題6.17 b1,b2, . . . ,bs∈ ⟨a1,a2, . . . ,ar⟩とするとき,s > rであればb1,b2, . . . ,bs は1 次従属である.
An は n個の基本ベクトルe1,e2, . . . ,en により張られるから,上の命題より:
系 6.18 n次のベクトルa1,a2, . . . ,ar は,r > nであれば1 次従属である.
6 部分空間と次元I 41
演習問題
6.1 A3 の次の部分集合のうち, 部分空間であるものを全て挙げよ:
W1:={t(x, y, z)∈A3 ; x, y, z は整数}, W2:={t(x, y, z)∈A3 ; xyz= 0}, W3:={t(x, y, z)∈A3 ; x+y=z}, W4:={t(x, y, z)∈A3 ; x2+y2=z2}. 6.2 命題6.11を証明せよ.
6.3
a1=
1 0 1 0
, a2=
2 2 1 1
, a3=
3 1 1 1
, a4=
4 2 3 1
とするとき,次のベクトルが1 次独立かどうか調べよ(1 次従属なものについては,自明でない1 次関係式 を求めよ):
(1) a1,a2,a3. (2) a1,a2,a4. (3) a1,a3,a4. (4) a2,a3,a4.
6.4 命題6.16の十分性の証明を与えよ. すなわち,ベクトルa1,a2, . . . ,arが
a1̸=0, a2̸∈ ⟨a1⟩, a3̸∈ ⟨a1,a2⟩, . . . , ar̸∈ ⟨a1,a2, . . . ,ar−1⟩ をみたすとき,a1,a2, . . . ,ar は1次独立であることを示せ.
6.5 ベクトル
a1=
1 2 1 2
, a2=
1 3 2 1
, a3=
3 2 a b
が1 次従属であるための条件を求めよ. また,自明でない1 次関係式を求めよ.
7 部分空間と次元 II
7.1 基底と次元
W ̸={0}をAnの部分空間とするとき,W =⟨a1,a2, . . . ,ar⟩をみたす1次独立なベクトルa1,a2, . . . ,ar をW の基底という.
注意7.1 a1,a2, . . . ,arが W の基底であるとは, 任意のx∈W に対してx=t1a1+t2a2+· · ·+trar となるようなスカラーt1, t2, . . . , tr が一意的に存在するということに他ならない(cf.注意6.5,注意6.9).
例 7.2 n次の基本ベクトルe1,e2, . . . ,er はAnr の基底を与える.
例 7.3 n次のベクトルa1,a2, . . . ,an がAn の基底を与えるためには, 行列A:=(
a1 a2 . . . an
)が正則 であることが必要かつ十分である(cf.命題6.12). 実際,Aが正則であるとき
x=t1a1+t2a2+· · ·+tnan ⇐⇒ A−1x=
t1 t2
... tn
.
基底の存在 部分空間W ̸={0}の基底は次の手順で求めることができる: (A0) a1∈W\ {0}を任意にとる;
(A1) ⟨a1⟩(W ならば,a2∈W\ ⟨a1⟩を任意にとる;
(A2) ⟨a1,a2⟩(W ならば,a3∈W\ ⟨a1,a2⟩を任意にとる;
. . . . ; (Ar)∗ ⟨a1,a2, . . . ,ar⟩=W となったら操作は終了.
このとき,命題6.16よりa1,a2,a3, . . .は 1 次独立である. また,系 6.18より上の操作は有限回しか繰り 返せないことがわかる. 従って,このようにして得られたa1,a2, . . . ,ar はW の基底を与える.
なお, 1次独立なベクトルa1,a2, . . . ,as∈W が予め与えられているときには,上の手順を (As)から始 めれば,a1,a2, . . . ,as,as+1,as+2, . . . ,ar がW の基底を与えるようなas+1,as+2, . . . ,ar が得られる.
次元 例7.3 から明らかなように, 部分空間の基底は一意的ではない. しかし,基底を構成するベクトルの 個数は一定である. 実際,a1,a2, . . . ,ar とb1,b2, . . . ,bsが共にW の基底であるとすると
b1,b2, . . . ,bs∈ ⟨b1,b2, . . . ,bs⟩=⟨a1,a2, . . . ,ar⟩(=W)
であるから,命題6.17よりs≤rが得られる. 同様にしてr≤sもわかるから,r=sでなければならない.
以上をまとめて:
定理7.4 An の任意の部分空間W ̸={0}は基底をもつ. さらに:
7 部分空間と次元II 43 (1) 1次独立なa1,a2, . . . ,as∈W が与えられたとき,a1,a2, . . . ,as,as+1,as+2, . . . ,arがW の基底と なるようなas+1,as+2, . . . ,arが存在する.
(2) 基底を構成するベクトルの個数は基底の選び方に依らず一定である.
部分空間W の基底に用いられるベクトルの個数をW の次元といい, dimW で表す. ただしW ={0} のときにはdimW = 0と定める.
例 7.5 例7.2よりdimAnr =r.
上の定理より,直ちに次が得られる:
系 7.6 An の部分空間 W1, W2 が W1 ⊂ W2 をみたすとき dimW1 ≤ dimW2 が成り立つ. さらに, dimW1= dimW2となるのはW1=W2 のときに限る.
上の系より, dimW =rとするとき,a1,a2, . . . ,ar∈W が1 次独立ならば, これらのベクトルはW の 基底を与えることがわかる.
注意7.7 W =⟨a1,a2, . . . ,as⟩のときには,a1,a2, . . . ,asの中からW の基底を選ぶことができる. 実際, j= 1,2, . . . , sのうち
⟨a1,a2, . . . ,aj−1⟩(⟨a1,a2, . . . ,aj−1,aj⟩ (j= 1の場合には{0}(⟨a1⟩) をみたすものをj1, j2, . . . , jr とすると, aj1,aj2, . . . ,ajr はW の基底を与える.
問 7.8 上の注意において,aj1,aj2, . . . ,ajr が実際にW の基底を与えることを示せ.
上の注意より, dimW =rとするとき, a1,a2, . . . ,ar∈W がW =⟨a1,a2, . . . ,ar⟩をみたすならば,こ れらのベクトルはW の基底を与えることがわかる.