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第 1 部 叙景詩解説

10. Ita so ka ta 「板床の上で」

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109 詩法

1 he rutun rutun 2 he rutun rutu 3 ita so ka ta 4 kani pon 5 kutosintoko

第1・2行He rutun rutuはほぼ同じ語句の繰り返になっていて、いわば頭韻および脚韻

になっている。

第4行kani ponと第5行kutosintokoが子音kで頭韻、母音oで脚韻。

第1行He rutun rutun、第2行He rutun rutu、第3行Ita so ka taの行末がtun, tu, taで子音tで子音韻の脚韻。

第1行He rutun rutun、の行末rutun、第2行He rutun rutuの行末rutuと、第4行 kani pon kutosintokoの行末-tokoが類似の母音で韻を踏む。

また、分かりにくいが、第3行Ita so ka taのsoと第4行kani ponのponは母音oが 前から数えて同じ3拍目(3音節目でもある)にあり、行中韻を踏んでいる。

この歌は「歌い方」として示したように、行を次々に詰めて歌うが、その際のフレーズ内 の同位置に現れる韻、つまり行中韻がある。歌うときのフレーズを①~④で表す。

① |he ru|tu n|ru tu|n ○|

② |he ru|tu n|ru tu|i ta|

③ |so (o)|ka ta|ka ni| po n|

④ |ku to|si n|to ko|○ ○|

①のtun、②のtun、④のsinが不完全韻による行中韻。

③のsoと④のkutoが、不完全韻による行中韻(フレーズにおける頭韻の位置)。

110 鑑賞

この詩は全体に子音 t, k が繰り返されており、独自の音の面白さを志向している。特に 特徴的なのは、不完全ながら一種の回文構成になっている点である。これも音の面白さを追 求した結果であろう。

1 He rutun rutun 2 He rutun rutu 3 Ita so ka ta 4 kani pon 5 kutosintoko

この詩では第4行と第5行にかけてkani pon kutosintokoという名詞句が、アイヌ語韻 文では珍しい「2行またがり」になっている。連体修飾句kani pon「金属製の小型の」被連

体修飾語kutosintoko「タガ付きシントコ」が2行になったこのような詩句構成は破格だが、

その代わり、回文という独特の構成を持つ。

第1行He rutun rutunとHe rutun rutuの最初の「He」というかけ声に続く、rutun rutu(歌うさいには第1行の最後のnは次のフレーズに送られている)はru-tu-n-ru-tuと いう回文になっている。rとnはシンメトリーになっていないが、近い子音である。

第3行Ita so ka taの最初のi-は歌うさいに第2フレーズの最後に続けて発声されるので、

そちらにくっつけておく。そうするとta so ka taとなる。これは最初と最後がtaだが、中 央のo-aも近い母音である。

第4行のkáni ponの母音配列a-i-oは第3行の中央部の母音配列o-aと逆位になっている。

kániは本来は2拍だがここではponと同じく1拍になっている。無アクセントのiが無視さ

れ、アクセントがあるáだけが数えられている。

第5行kutosintokoはku-to-sin-to-koという一種の回文である。最初の母音がoではな

くu、中央のsinの子音は同じではないが、これらは大きな差異ではない。

111 リズム

軽音節(○)と重音節(●)の配列

1 ○○●○● He rutun rutun 2 ○○●○○ He rutun rutu 3 ○○○○○ Ita so ka ta

4 ○○● kani pon

5 ○○●○○ kutosintoko

第4行以外はまとまりがよい。全行が同じようなリズムであり、第 1行のみ行末に重音 節があるのもアイヌ伝統歌謡で好まれる配置である。

ただし、行を詰める変則的な歌い方のためか、実際に歌われるさいには、以下のように重 音節が全て2拍に分割されて平板な印象になっている。

① ○○○○○○○× |he ru|tu n|ru tu|n ○|

② ○○○○○○○○ |he ru|tu n|ru tu|i ta|

③ ○○○○○○○○ |so (o)|ka ta|ka ni| po n|

④ ○○○○○○×× |ku to|si n|to ko|○ ○|

音節末のnは前の拍に近づけて歌われる。極端に示せば以下のようになる。

① ○○●×○●×× |he ru|tu n|ru tu|n ○|

② ○○●×○○○○ |he ru|tu n|ru tu|i ta|

③ ○○○○○○●× |so (o)|ka ta|ka ni| po n|

④ ○○●×○○×× |ku to|si n|to ko|○ ○|

とはいえ、拍への配分をそのままにして無理矢理リズミカルにしようとしても限界があ り、やはりリズムの観点からは平板な印象が否めない。むしろ、回文的な対称性や繰り返し の感覚に身を任せるのが正しい楽しみ方であろう。

112 補遺:形成過程の推測

この詩は第4行がkáni ponという3音節であり、そのまま歌おうとすると2拍もしくは3拍 が余ってしまう。この第4行はなくとも意味は通じるので、もともとはなかったのかもし れない。その場合は以下のような4行詩だったことになる。

He rutun rutun さあ、おしずらせ、おしずらせ

He rutun rutu さあ、おしずらせ、おしずらせ

Ita so ka ta 板床の上で

kutosintoko タガ付きシントコ

これはこれでいささか押韻が物足りないにしても、詩としての形はできている。

その場合には以下のように第3音節目(3行で重音節になっている)を2拍にし、歌詞を 単純に6拍に当てはめ、2拍の休止を追加した4拍子でそのまま歌うことができたであろ う。

|He ru|tu n|ru tun|○ ○|

|He ru|tu n|ru tu|○ ○|

|i ta|so (o)|ka ta|○ ○|

|ku to|si n|to ko|○ ○|

だが、これではあまりに単調である。何よりも最後に追加された休止の部分が物足りない。

そこで休止を埋めるために、2行目の後ろに3行目を繰り上げてそのままつめてしまった。

もともとアイヌ伝統歌謡においては、ウポポのような多人数で歌う歌でさえなければそう いう方法はありうる。1人で歌う限り、各フレーズは同じ長さでなくても良い。だから、こ の歌を面白く工夫しようとした歌い手が、たまたま詰めてみたのであろう。

|He ru|tu n|ru tun|○ ○|

|He ru|tu n|ru tu|i ta|

|so (o)|ka ta|○ ○|○ ○|

|ku to|si n|to ko|○ ○|

そうすると第3フレーズが 4 拍分空白になるが、4 拍の語を追加してここを埋めればち ょうどまとまりがよくなる。もともとの詩に戻って考えると、

113 He rutun rutun

He rutun rutu Ita so ka ta

○○○○

kutosintoko

上記の○○○○を埋めるということである。詩としてみれば、意味が通じるだけでなく、で きればIta so ka taかkutosintokoと押韻したい。そして結局kutosintokoの前に置いて意 味が通じ、Ita so ka taと行中で押韻するkani ponを入れた……。

この推測が当たっているかどうかはもちろんわからないが、この部分もよくできている ことは確かである。

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