Italic: Maximum traffic amounts
5.3 大規模ユーザ環境におけるコンテンツ配信性能評価 .1 目的
5.3.2 ISP 視点の性能評価
大規模ユーザ数環境における提案NaP2P手法の有効性について,構築したNaP2Pシミュ レータを用いて,ISP視点の評価・検証を行う.本提案手法は,同一セグメントピア選択率Sr により,ISPがP2Pトラフィックのセグメント局所率を制御することを仮定している.ISP にとっては,ネットワーク資源を有効活用するために,P2Pトラフィックが局所化され,か つ,局所化の割合をISPが制御できることが望ましい.本節では,BitTorrentプロトコル自 体の振舞いの影響も含めて,どの程度局所制御が可能か評価した.
実 験 で 使 用 し た ネ ッ ト ワ ー ク モ デ ル を 図 5.11 に 示 す .1 つ の セ グ メ ン ト に 同 数 の
FTTH/ADSLユーザが存在する4つのセグメントを,それぞれ等距離(コスト)に配置した.
サーバ群(n-Tracker,p-Tracker,および,オリジンサーバ)は,ユーザと異なるセグメント に配置した.各セグメントは地理的に近い国内ISP同士と仮定し,各リンクを帯域1Gbps,
伝搬遅延20msecに設定した.ピアは,各セグメント内でFTTHおよびADSLを1台ずつ同
時に起動し,2台目以降を10msec間隔で起動させた.これは,人気のあるコンテンツやゲー ムソフトウェア販売開始時など,多数のユーザが一斉にアクセスし,バースト的にトラフィッ クが発生する状態を想定し,起動間隔を短く設定した.ノードは,ダウンロード終了後10分 後に離脱する.以下各実験の基本パラメータとして,1SUT=100msec, ピアリスト数m=10, ノード数=16,000, コンテンツサイズ=10MByteとした.その他実験諸元を表5.4に示す.
以後断りが無い限り,この値を用いることとする.
評価のための指標として,配信トラフィックが同一セグメント内に局所化された割合を示す 局所率Lrを定義した.局所化率はLrの算出方法は,式4.1の通りである.
n-Tracker
p-Tracker origin server
伝搬遅延
D[msec]1Gbps(10/10)
S-1 S-2 S-3 S-4
・4クラスタ (=セグメント)
・ 16,000 ノード
・ 1Gbps(1/1)
FTTH ピア 2,000 ノード
Up/Down=100Mbps/100Mbps
ADSL ピア 2,000 ノード Up/Down=10Mbps/10Mbps
図5.11.実験ネットワークモデル
表5.4.実験諸元
項目 パラメータ
1SUT 100msec
ノード数 合計16,000
1セグメントのノード数:合計4,000 (FTTH=2,000,ADSL=2,000)
ノード起動方法 各セグメントのFTTH,ADSL1台ずつ同時起動.
2台目以降10msec間隔起動.
ノード離脱 ダウンロード終了10分後 ピアリスト数(m) 10
コンテンツサイズ 10MByte ピースサイズ 256KByte
End Game Mode 無
オリジンサーバ最大unchoke数 4
伝搬遅延(D) 20msec
5.3.2.1 同一セグメントピア選択率の局所化効果
Srに対するLrを評価するために,ノード数16,000, Srを0%から80%まで20%間隔で 変化させた.表5.5は,Srが80%と0%(オリジナル BitTorretに相当)の時の各セグメント のトラフィック分布を示したものである.また,図5.12に,Srを0%から80%まで変化させ
5.3 大規模ユーザ環境におけるコンテンツ配信性能評価 79
た場合の局所率Lrの変化を示す.
表5.5.セグメントの局所率Lr
S-1 S-2 S-3 S-4 origin server
S-1 70.99% 10.24% 8.72% 9.95% 0.10%
S-2 9.83% 70.11% 9.80% 10.16% 0.10%
S-3 9.63% 11.00% 68.78% 10.43% 0.15%
S-4 10.55% 10.29% 9.09% 70.02% 0.05%
S-1 S-2 S-3 S-4 origin server
S-1 28.65% 23.75% 23.07% 24.48% 0.04%
S-2 24.48% 27.41% 24.69% 23.27% 0.16%
S-3 24.65% 23.96% 27.54% 23.77% 0.08%
S-4 24.73% 23.46% 24.72% 27.03% 0.06%
To From
To From Sr=80%
Sr=0%
: Localized ratio Lr
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
局 所 率 L r [% ]
同一 セグ メントピア 選択率 Sr[%]
図5.12.同一セグメントピア選択率Srvs局所率Lr
これらの実験結果より,以下のことが考察される.どのSrにおいても局所率はセグメント によらずほぼ均等であり,セグメント内か否かがトラフィック量に影響している.Srが大き くなるにつれ,その値を追随するようにLrが上昇した.Sr=80%の時には,Lrは70%にし か上がらなかった.これは,流通していないピースを他セグメントのピア間で交換するために 消費するセグメント間のトラフィック量が多いためと思われる.Sr=0%の場合,25%よりも 僅かに高いが,セグメント内に遅延を含まないことが影響しているものと考えられる.なお,
これらのLrの値は,4章の評価結果(図4.7)に,近い値を得る事ができた.
5.3.2.2 ノード数,コンテンツサイズによる局所化の影響
その他のパラメータとして,ノード数,コンテンツサイズを変化させた時のLrについて評 価した.
まず初めに,ノード数を変化させた場合のLr の効果について評価を行った.Sr=0,40, 80%の時,ノード数を400,800,4,000,8,000,16,000と変化させた時のLrの値を図5.13 に示す.図よりLrの値はノード数が変化してもほぼ一定であり,Srに依存することが確認で きた.このことから,5.3.2.1節の結果は,ノード数が異なる場合においても有用であると考え られる.
0 20 40 60 80 100
0 4,000 8,000 12,000 16,000
局 所 率 L r [% ]
ノ ード数
×
× ×
×
Sr = 80 % Sr = 40%
Sr = 0%
×
図5.13.ノード数vs局所率Lr
5.3 大規模ユーザ環境におけるコンテンツ配信性能評価 81
図5.14.コンテンツサイズvs局所率Lr
次に,コンテンツサイズを変化させた時のLrについて実験を行った.Sr=0%,および,
80%において,コンテンツサイズ 10MByte,100MByte,200MByte,1GByteと変化させ た.図5.14に結果を示す.コンテンツサイズを大きくすると,Lrが向上した.コンテンツサ
イズ1GByteの場合,Lrは87.2%であった.これはコンテンツサイズが大きいと配信に時間
がかかり,tit-for-tat戦略によるピア選択の切り替えが繰り返し行われ,アップロード速度の 速いピア,つまり,遅延の少ないピアが優先して選択されるために,同一セグメント内の配信 が増えると考えられる.
5.3.2.3 2AS間の局所率
5.3.2.1節では1ASトポロジを対象としたが,本節では,2ASにおいてNaP2Pアーキテク チャを導入した際のSrに対するLrについて評価する.本実験のネットワーク構成を図5.15 に示す.各ASのユーザ数は,1ASの場合の半分8,000ノードとし,2AS合計で1ASの場合 と同じく16,000ノードとした.p-TrackerとオリジンサーバをAS1のみに,n-Trackerは各 ASに1つずつ配置した.AS間の伝搬遅延Dは大陸地域間,国内地域間に位置するASを想 定し,それぞれ100msec,20msecとした.なお,セグメント内の条件は,セグメント内か否 かで判断し,AS内か否かの条件は用いないこととした.
n-Tracker
p-Tracker origin server
FTTHピア1,000ノード
Up/Down=100Mbps/100Mbps
ADSLピア1,000ノード Up/Down=10Mbps/10Mbps
n-Tracker
AS1 AS2
1Gbps 伝搬遅延 D[msec]
図5.15. 2AS間ネットワークモデル
表5.6.2AS間配信トラフィックの割合
AS間伝搬遅延
D [msec] Sr[%] 同一セグメント(=Lr[%]) ① 同一AS
(①②を除く) 他AS ②originserver 100
80 68.81% 17.27% 13.80% 0.11%
40 42.84% 33.09% 23.97% 0.10%
0 18.17% 47.20% 34.54% 0.09%
20
80 67.44% 15.25% 17.21% 0.09%
40 39.21% 27.96% 32.75% 0.08%
0 14.93% 39.19% 45.79% 0.09%
Sr=80,40,0%と変化させた時の配信トラフィックの割合を表5.6に示す.Srが増加する とLrも増加した.Lrの値は,遅延時間には依存せず,Sr毎にほぼ同一の値となった.
また,Lrの値は図5.12の1ASの場合と比較すると,ほぼ同じ値となった.
AS間のリンク伝搬遅延時間Dが大きい場合,同一AS (同一セグメントおよびオリジンサー バを除く)からのダウンロード量は,他ASからのダウンロード量に比べ大きくなった. しか し,遅延時間が短いと,他ASからのダウンロード量の方が,同一ASからのダウンロード量 より大きくなった.提案方式は,tit-for-tat戦略の効果を,さらに高めるためと考えられる.
表5.6のAS間伝搬遅延時間Dが20msecの場合,Sr=80%と0%のトラフィック量の割合 は,それぞれ全体の17.21%,45.79%であり,28.6%削減された.これをトラフィック量に換 算すると,本実験の総トラフィック量は156.25GByte存在し,このうちAS間のダウンロー ドトラフィック量はSr=80%,0%の時,それぞれ71.5GByte,26.9GByteであり,AS間の トラフィック量が44.7GByte削減されたことになる.
5.3 大規模ユーザ環境におけるコンテンツ配信性能評価 83
以上の実験結果より,Srを用いることで,ISPが想定した値に近いトラフィック量に局所化 制御することが可能であり,本提案手法はISPにとって有効であることを確認した.
5.3.3 ユーザ視点の性能評価
5.3.2章では,大規模ユーザ環境における提案NaP2P手法の有効性を検証し,本手法はP2P
トラフィックをセグメント内に局所化でき,また,Srを用いることで,ISPが想定した値に近 いトラフィック量を制御可能であることを確認した.この評価は,ISPに利点があることを示 したが,本手法を導入した場合のユーザに対する効果について評価したものではない.
そこで,ユーザ視点において本提案手法の効果を検証する.具体的には,本手法を導入した 場合のユーザのファイルダウンロード時間に関して,局所率に比例してダウンロード時間が向 上することを検証する.さらに,プログレッシブダウンロード配信におけるユーザの視聴可否 に関する評価を行い,本手法がファイルのダウンロードだけでなく,配信と再生に同期が必要 なストリーミング配信の適用に関する評価も行う.
5.3.3.1 ファイルのダウンロード時間
ユーザ視点の評価を行うために,これまでと同様,同一セグメントピア選択率Srを変化さ せた時に,局所率と同じくダウンロード性能も向上することを検証する.ダウンロード性能 は,ユーザへのコンテンツダウンロード時間で評価する.
表5.7.ダウンロード時間実験諸元
項目 パラメータ
実験ネットワークモデル 1ASの場合:図5.11 2ASの場合:図5.15
ユーザ数 1ASの場合:1,000(1クラスタ:FTTH=125,ADSL=125) 2,000(1クラスタ:FTTH=250,ADSL=250) 2ASの場合:2,000(1クラスタ:FTTH=125,ADSL=125) ノード起動方法 各セグメントのFTTH,ADSL1台ずつ同時起動.
2台目以降100msec間隔起動 ノード離脱 ダウンロード終了10分後 コンテンツサイズ 10MByte,100MByte コンテンツ再生速度 1Mbps
ピースサイズ 256KByte
End Game Mode 無
オリジンサーバ最大unchoke数 4
AS間伝搬遅延(D) 100msec(2ASモデルの場合)
実験は,AS 数の異なる2つのモデルで行い,1ASの場合は図5.11 を,2ASの場合は図 5.15のネットワークモデルを使用した.5.3.2.2 節のユーザ数を変化させた場合の評価結果 から,ユーザ数が増加しても,Srに対する局所率はほぼ一定であることが確認された.ゆえ に,本実験のユーザ数は前述までと異なり,1ASの場合,合計1,000 ユーザ(1クラスタに FTTH=125,ADSL=125),および,2,000ユーザ(1クラスタにFTTH=250,ADSL250), 2ASの場合,合計2,000ユーザ(1クラスタにFTTH=125,ADSL=125)が存在するモデル とした.また,コンテンツサイズは10MByte,100MByteの2種類を用いた.その他実験諸 元を表5.7に示す.
0.00 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0
0 20 40 60 80 100
ダ ウ ン ロ ー ド 時 間 [s ec ]
Sr[%]
1000ノード, 10MByte 1000ノード, 100MByte 2000ノード, 10MByte 2000ノード, 100MByte
図5.16.Srに対するダウンロード時間(1ASの場合)
まず始めに,図5.11の1ASのネットワークトモデルにおいて,コンテンツサイズ,ノード 数の違いによるダウンロード時間について評価した.この実験結果を,図5.16に,Srに対す るダウンロード時間のグラフで示す.実験の結果,Sr=90%の時が最もダウンロード時間が 短くなり,Srが小さくなるほどダウンロード時間が長くなった.ピア選択制御を行った場合 (Sr>0)%は,ピア選択制御を行わないオリジナルのBitTorrent(Sr=0%)よりもダウンロー ド時間が短縮した.Sr=0%の場合と比較すると,ノード数2,000ノード,コンテンツサイズ
10MByteの時が最大で38.1%,4つのケースの平均で30.86%ダウンロード時間が短縮され
た.また,Sr=100%とすると,Lrは90%以上に向上するものの,ダウンロード時間は低下 した.これは,セグメント内だけで配信を行うことを試みるため,希少ピースが収集しにくく なり,かつ,同じピースを多くのユーザが要求するために,ピースがセグメント内に十分に展 開されるのが遅くなるためと考えられる.本検証については今後行うこととする.ノード数の