Italic: Maximum traffic amounts
5.4 考察
NaP2P提案手法を実用化するためには,ISPおよびユーザ視点のそれぞれで有効であるこ
とが要求される.有効性を検証するために,ISP視点およびユーザ視点それぞれで実験・評価 を行い,次の事が確認できた.ISP視点においては,同一ピア選択率Srを増加させると,局 所率Lrも向上し,ISPが制御したいトラフィックの割合を指定すると近い値でトラフィック を局所化できることを確認した.同一セグメントピア選択率Sr=100% の時,最も高いLr値 であった.
また,ユーザ視点においては,Srの増加に比例してダウンロード時間および可視聴率が向 上した.しかし,ダウンロード時間に関しては,Sr=90%に対して,Sr=100%は,少し劣化 した.しかし,ピア選択優先度制御の有無で比較すると,ピア選択優先度制御をした場合の方 が,ダウンロード時間および可視聴率が向上した.Sr=90%の場合がユーザへの効果が最も得 られる値となった.
両視点の評価を総合的に分析すると,NaP2P制御方式を用いる場合は,Srを約90%とす ることが,ISPおよびユーザに対し最も効果的に貢献できると言える.
本提案手法がISP,および,ユーザに対し効果があることを検証した.現在既に ASPで P2Pコンテンツ配信サービスを実施していることから,実導入のために,配信サービスを担 うASPに利点があることが望ましい.従来のP2Pは,ASPが各ISP内部のネットワーク情 報を取得することが困難なため,物理ネットワークトポロジを考慮せずにピア選択を行ってい た.文献[6]の手法は,ISPとASPの協力のもとネットワーク情報を使用したピア選択を行 う手法であるが,このためにはASPは新たにネットワーク情報を取得機能,ネットワーク情 報を使用したピア選択機能の実装,および,ネットワーク取得のための高速回線設備が必要で あり,ASPの導入負荷が増大する.一方本提案手法の導入は,従来ASPが管理しているピ ア情報をISPへ提供するだけで,新たな機能の追加を行うことなく,ピア選択機能をISPへ 移行することができ,かつ,物理ネットワークトポロジを考慮したネットワーク状況に応じた ピア選択が行われる.従って,ASPのさらなる負荷が軽減されるという利点があり,ASPに とって有益な手法であると言える.
5.5 まとめ
本章では,ネットワークトポロジ作成機能とネットワーク情報に基づくピア選択機能を有し,
10,000人規模のユーザのP2Pコンテンツ配信のトラフィック特性を評価可能とするNaP2P
シミュレータの設計,機能,ならびに,本シミュレータを用いたセグメントの局所化に関する 実験評価について述べた.NaP2Pシミュレータは,アクセス,中継ネットワークを模擬する クラスタと各クラスタ間のリンクを定義することで,任意のネットワークトポロジの構築を可 能とし,各種イベントを用いて他のノードとの通信を行うものである.また,P2Pアーキテク チャとしてBitTorrentプロトコルをベースとし,従来のBitTorrentが有するTrackerに加え
5.5 まとめ 89
て,ISP毎にn-Trackerを配置し,n-Tracker自身が管理するネットワーク構成情報を用いて ピア選択を決定する仕組みを取り入れた.
本NaP2Pシミュレータを用いて,ピアリストに設定する同一セグメントピア選択率Srを
変化させた時のセグメント局所率Lrについて評価し,同一ピアリスト選択率80%の時,コン テンツサイズ1GByteにおいて約87%のトラフィックをセグメント内に局所できることを確 認した.また,2AS間における配信において,各ASで1ASの場合と同等の値で局所化でき ることを確認した.
上記トラフィックの局所化に関する評価は,ISPに対する利点を評価したものである.しか し,提案手法を実用化するためには,ユーザ視点の評価も必要である.そこで,さらなる実験 評価として,本提案NaP2P手法をユーザ視点におけるコンテンツのダウンロード時間,およ び,ストリーミング配信におけるユーザの視聴可否について評価を行った.ノード数を変化 させても同一セグメントピア選択率Srに対する局所率Lrは殆ど変化しないという知見から,
ノード数を1,000または2,000で実験評価を行った.同一セグメントピア選択率Srの増加に 伴いダウンロード時間が短縮した.Sr=90%の場合が最もダウンロード時間が短く,ピア選択 制御を行った場合,最大で38.1%改善した.しかし,100%になるとダウンロード時間が増加 した.この原因は,セグメント内だけで配信を行うことを試みるため,希少ピースが収集しに くくなり,かつ,同じピースを多くのユーザが要求するために,ピースがセグメント内に十分 に展開されるのが遅くなるためと推測する.本検証については今後行う.
また,可視聴率は,再生前バッファを5秒間,つまり625KByteバッファリング後に再生し た場合,1ASモデルでSr=90%の時,可視聴率が99.97%となった.また,2ASより1ASの 方が可視聴率は向上した.さらに,2ASモデルでも,Sr=90%の場合がユーザへの効果が最 も得られる値となった.
以上より,両視点の評価を総合的に分析すると,大規模ユーザ環境において,NaP2P制御 方式を用いる場合,Srを約90%とすることが,ISPおよびユーザに対し最も効果的に提案手 法が貢献できると事が検証された.
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第 6 章
結論
本論文では,ブロードバンド環境におけるP2Pコンテンツ配信の性能・課題分析,および,
ISP間や地域ネットワーク内の非効率なP2Pトラフィックを削減するための,ネットワーク 構成情報を考慮したP2Pコンテンツ配信制御技術に関する提案・評価について述べた.
第1章では,本研究に関する背景について述べ,本研究のアプローチおよび論文構成につい て説明した.
次に第2章では,このコンテンツ配信技術の一つで,かつ,本研究のテーマである
Peer-to-Peer(P2P)の配信手法について技術的な説明を行った.また,インターネットトラフィックの
現状について述べ,P2P配信によるインターネット上のトラフィック輻輳要因となるP2Pト ラフィックの課題について整理した.さらに,課題解決のための関連研究および標準化動向と 本論文で対象とする課題について述べた.
第3章から本論文で行った分析・提案に関する記述である.まず第3章では,始めにP2P コンテンツ配信の性能・課題分析のため,ブロードバンド環境下におけるP2P配信技術を用 いたビデオストリーミング配信に関し,実験によるP2P配信特性調査・分析結果について述 べた.P2Pストリーミング方式としてファイルをダウンロードしながら再生を行う,P2Pプ ログレッシブダウンロード配信を使用して,FTTHおよびADSLが混在したブロードバンド
環境を,GE-PONシステムを用いて疑似的に構築し,約30台のPC間でP2Pプログレッシ
ブダウンロード配信実験を行った.これにより高速なFTTH回線が配信に貢献することを明 確にした.さらに,インターネット上で実証実験を行い,実験で生じたダウンロードパフォー マンス劣化の原因を分析した.この結果,FTTH回線の貢献を確認する一方,回線速度の遅 いADSLにおいて,再生時にplay lossが発生するという知見が得られた.そこで,現在の
FTTH/ADSL混在ネットワーク環境で,P2Pプログレッブダウンロードを用いたビデオスト
リーミングサービスを提供するために効果的な手法として,optimistic unchoke時間間隔短縮 手法を提案し,この有効性を理論的に証明した.そして,高速ピア選択と低速ピア選択の重要 性について明らかにした.
第4章では,ISP観点の課題であるISP間リンクに対する冗長化トラフィック削減のため,
ネットワーク構成情報を使用して,セグメント内にトラフィックを局所化させる
Network-awareアーキテクチャを提案した.本手法は,ISPが管理するネットワーク情報を公表するこ
となく,展開容易で,かつ,スケーラビリティ可能な,ISPが運営管理するn-Trackerを導入 した.また,商用で既に運用しているソフトウェアの改修を最小限とすることで,ASPにお いても導入を容易とする仕組みとした.本提案手法の効果を評価するために,48台のPCと 商用ネットワークの一部を模擬したネットワーク装置で構成される実験環境を構築し,トラ フィック局所化に関し評価した.実験の結果,各ネットワークセグメントにn-Trackerを配置 すし,Sr=100%の時,80%以上のトラフィックがセグメント内に局所化できることを示した.
さらに第5章では,実用化を想定し,実用ユーザ規模における提案Network-aware P2P配 信手法の評価を行った.実用規模のユーザ相当数の機材を用意することは困難である.そこ で,提案手法を大規模ユーザ数で評価するために,構築したNetwork-awareアーキテクチャ とBitTorrentベースのP2Pプロトコルを実装したNetwork-aware P2Pシミュレータの設計 方針,システム構成,システム性能について述べた.そして,このNaP2Pシミュレータを用 いて,アクセスが集中し大量のトラフィックが発生するケースにおいて(例えば人気あるコン テンツやゲームソフトウェアの販売開始時など,多数のユーザが一斉にアクセスをする場合を 想定),トラフィック局所化に関する実験評価を行い,同一ピアリスト選択率80%の時,コン テンツサイズ1GByteにおいて約87%のトラフィックをセグメント内に局所できることを確 認した.
このトラフィックの局所化評価は,ISP視点の評価あり,提案手法を実用化するためには,
ユーザ視点の評価も必要である.そこで,さらなる実験評価として,本提案NaP2P手法を ユーザ視点におけるコンテンツのダウンロード時間,および,ストリーミング配信における ユーザの視聴可否について評価を行った.その結果,同一セグメントピア選択率Srの増加に 伴いダウンロード時間が短縮した.Sr=90%の場合が最もダウンロード時間が短く,ピア選 択制御を行った場合,最大で38.1%改善した.しかし,100%になるとダウンロード時間が増 加した.また,可視聴率は,再生前バッファを5秒間,つまり625KByteバッファリング後に 再生した場合,1ASモデルでSr=90%の時,可視聴率が99.97%となった.さらに,2ASモ デルでも,Sr=90%の場合がユーザへの効果が最も得られる値となった.そして,両視点の評 価を総合的に分析すると,大規模ユーザ環境において,NaP2P制御方式を用いる場合,Srを 約90%とすることが,ISPおよびユーザに対し最も効果的に提案手法が貢献できると事を検 証すると共に,同一セグメントピア選択の重要性を明らかにした.
本論文で提案した ピア選択 手法とその効果を表6.1に示す.本論文の提案は,表に示す 表6.1.提案ピア選択手法と効果
ピア選択 ユーザ配信性能向上 回線使用効率化
高速ピア選択 ○
低速ピア選択 ○
同一セグメントピア選択 ○ ○
通り,ユーザ配信性能向上,および,回線品質の向上に貢献できる.同一セグメントピア選択