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ISP CISP B

3.5 考察

3.5.1 プログレッシブダウンロードの性能分析

メディアプレーヤにおけるビデオストリーミングの再生損失(play loss)に関し,プログレッ シブダウンロードの性能分析を行う.Play loss回避のために,データのバッファサイズを適 切に設定することが重要である.本実験で,データバッファサイズを2ピース分に相当する

512KByteに設定した.つまり,ファイルを512KByte受信後にメディアプレーヤの再生が開

始する.本分析では,ビデオの復号時間はデータバッファ時間に比べ短く,無視できるため考 慮しない.

各ピアのダウンロード動作を,室内実験およびフィールド実験のダウンロード速度に関し,

ダウンロード経過時間に対するダウンロードファイルサイズの相関図を図3.10,図3.11に描

3.5 考察 41

画した.

図3.10(a)から(c)は,FTTHノード数を0,1,2と変化した時の,室内実験におけるダウ ンロード速度のグラフである.両実験において,オリジンサーバの最大unchoke数は1であ る.細線と点線は,それぞれFTTHおよびADSL回線において18MByteのファイルをダウ ンロードした時のダウンロード速度を,また太線は,再生速度384kbpsのファイルをメディ アプレーヤでplay loss無しに再生するために必要なダウンロード速度を示す.ここで,時刻 tはメディアプレーヤの再生経過時刻であり,FTTHおよびADSLの曲線は,時刻t=0で既

に512KByteのバッファリングデータが含まれていることに留意する.

FTTHノード数=0の時,半数以上のノードのダウンロード速度は,メディアプレーヤの再 生速度以下であった.これらのノードは,一時停止せずにビデオ再生するための速度を得るこ とができなかったと推定する.一方,FTTHノード数が1または2の場合,ADSLノードの ダウンロード速度は劇的に改善し,ほぼ全てが再生速度以上となった.ADSLノードの平均ダ ウンロード速度は,FTTHノード数=0の場合0.54Mbpsであるのに対し, FTTHノード数 が1と2の場合,それぞれ1.62Mbps ,2.16Mbpsであった.本分析結果より,FTTHノー ド数が増加することで,ADSLノードのダウンロード速度が向上することを示している.

しかしながら,図3.10(c)の1ノードは,ビデオ再生が停止しない速度を,一時的に得る事 ができなかった.詳細なダウンロード曲線をグラフ上に拡大表示する.ダウンロードは時刻 t=17秒に停止し,45秒間ダウンロードが行われない状態が続いた.また,最後の13秒間は

play lossが発生した.その後ダウンロードが再開されると,ビデオ再生も再開した.このよ

うなダウンロードの挙動は,特にADSLで確認された.

図3.11に,フィールド実験におけるダウンロード速度を描画した.この実験では,サイズ 16MByte,再生速度460kbpsのコンテンツ,オリジンサーバの最大unchoke数を1として配 信した.実験の結果,FTTH回線が13あるものの,ADSL回線でplay lossが発生した.

ADSLノードは低速回線で,tit-for-tat戦略により他ノードからchoke状態にされる確率が 高く,アップロード貢献が少ないことから,ダウンロード停止時間は,全ピアからchoke状態 されることによって発しすると推定できる.

3.10.ダウンロード時間とダウンロードファイルサイズ(室内実験)

3.5 考察 43

3.11.ダウンロード時間とダウンロードファイルサイズ(フィールド実験)

3.5.2 ダウンロード性能の向上に関する提案

図3.4の室内実験の結果,FTTH回線の貢献により,FTTHノード数に比例してADSL ノードのダウンロード速度が改善したことを検証した.ゆえに,品質の良いP2Pストリーミ ングサービス提供のためのシステムコスト算出には,ASPにとってFTTHユーザ数が重要と なる.FTTHユーザの増加は,サーバシステムコストをより低減できるためASPにとって望 ましい.そこで,本節において,現在のネットワークにおいてダウンロード速度改善のための 様々な方法について述べる.

Optimistic Unchoke切替え時間の短縮

 所望のピースを所持するピアが十分に存在するにも関わらず,ダウンロード停止状態 となり,ADSLピアがplay lossとなる問題が存在する.この原因は,3.5.1章で論じた 全ピアからchoke状態となるために発生すると考える.

  optimistic unchoke戦略は,ピアの貢献に関係無く,ピアリストからランダムに

unchokeピアを選択するピア選択アルゴリズムである.上り回線速度が遅いピアは

optimistic unchoke戦略でのみ選択されるため,ADSLピアにとって,choke状態継続 時間が重要な要因であると分析する.そこで,この問題解決のために,全ピアからの choke状態継続時間を減少させるために,optimistic unchokeピア選択切替え時間を短 縮させることが効果的であると推測し,optimistic unchoke時間間隔短縮手法を提案 する.

 この提案手法の有効性を検証するために,optimistic unchokeピア切替え時間を短縮 することで,他のピアから選択される確率が高くなり,choke状態の時間が短縮するこ とを理論的に証明する.

・ ピア数 :n

・ 最大unchokeピア数 :m

(内訳) tit-for-tatで選択される ピア数 :m-1 optimistic unchokeで選択されるピア数 :1

unchoke 選択ピア

※1 選択処理をしているピアを除くtit-for-tat で選択されなかったピア,および,ダウン ロード速度の遅いピア(着目ピア) の中か ら1個ラ ンダムに選択.

つまり,選択肢=n-m個ある.

m (tit-for-tatm-1で選択)

1個(optimistic unchokeで選択※1)

3.12. 着目ピア以外の1ピアがunchokeピアを選択する方法

 証明を簡単とするために,図3.12に示す通り,合計n個のピアが存在し,m個のピ アが特定のアップロードピアとしてunchokeで選択されると仮定する.このうち, m – 1ピアがtit-for-tat戦略で,1ピアがoptimistic unchokeで選択される.ここでアッ プロード速度の遅くoptimistic unchokeでのみ選択される,ある特定のピアについて 着目する.この着目ピアをピアAとする.

 着目ピアA以外のある1つのピアが,ピアAをoptimistic unchoke戦略で選択しな い確率pは,

p= (n1)(m1)1

(n1)(m1) = n−m−1

n−m (3.1)

で与えられる.これは,他の全ピアにおいても,ピアAが選択されない確率は同じであ る.ゆえに,ピアAが他の全ピア(n – 1)個から選択されない確率P’は,

P0=

(n−m−1 n−m

)(n1)

(3.2) となる.

optimistic unchoke時間間隔をτ秒と定義すると,一定時間T秒間に,T/τ回ピア選 択が行われる.従って, T秒間に全ピアがピアAを選択しない確率Pは,次式で表す ことができる.

P =

(n−m−1 n−m

)γτ(n1)

(3.3)

3.5 考察 45

 上記の式を用いて,提案手法の検証を行う.ここでTは,メディアプレーヤの最大 バッファリングされている時間とする.すなわち,T秒以上choke時間が続くと,play lossが発生することになる.

 図3.10(c)の実験結果より,optimistic unchoke時間間隔をT=30秒とし,これと短 縮したT=10秒における確率Pを算出し比較する.その他パラメータは実験と同様,

総ピア数n=29,unchokeピア数m=4とした.

 optimistic unchoke時間間隔Tが30秒,10秒の時の確率Pは,3.2式よりそれぞ れ0.32,0.03となり,Tを短縮すると,全ピアがピアAを選択しない確率Pが減少し た.言い換えると,optimistic unchoke時間間隔を短縮すると,他ピアから選択される 確率が増加したことになる.

 以上の結果,optimistic unchoke時間間隔を短縮すると,低速回線のピアがchoke状 態になる確率が減少することが確認され,optimistic unchoke時間間隔を変更すること

がplay lossの削減に有効であることが定量的に検証された.

 また,optimistic unchoke戦略は,ランダムにunchokeピアを選択するため,ピア が特定の時間に全てのピアから選択されない可能性が発生する.従って,optimistic

unchoke戦略のピア選択ポリシーをランダムからラウンドロビンに変更することが有益

である.ラウンドロビンを実装した場合,特定のピアが長時間選択されない最悪のケー スを避けることができ,低速ピアでも,optimistic unchokeでピアが選択される確率が 増加する.

 このように,低速回線ピアが他ピアから頻繁に選択されることが,ダウンロード性能 向上に有効であると言える.

キャッシュの効果

 FTTH回線を効果的に利用するために,FTTHノードをキャッシュ機能として常駐 させる方法が考えられる.もし,コンテンツファイルがこのようなキャッシュに配信 された場合,キャッシュはBitTorrentの中でシーダとして動作する.コンテンツファ イルの全ピースを所持するシーダは,高速FTTH回線を使用して,順次ピースのアッ プロードに貢献する.室内実験において,いくつかのFTTHノードは,ダウンロード 速度が飛躍的に向上した.この方法は,ダウンロード性能の向上に効果的であると言 える.

 キャッシュ効果を検証するため,キャッシュノードとして動作するシーダを増加させ た時のダウンロード時間を評価するために実験を実施した.FTTHノードをシーダと して選択した.ADSLノード数29であるのに対し,FTTHノード数を0から8へ変 化させた.全FTTHノードはシーダとするために最初に起動し,コンテンツをダウン ロードした.FTTHノードのダウンロードの完了後,ADSLピアを5秒間隔に起動さ せた.図3.13はシーダ数に対するダウンロード時間,および,シーダからのファイル ダウンロード率のグラフで,複数回実験した平均値でプロットした.シーダ数の増加

0 50 100 150 200 250

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0 1 2 3 4 5 6 7 8

Download Time [sec] Fractional Download Trafficfrom Seeders

The Numbe r of S eeders

Fr actional Download Tr affic from Seeder s

Download Time

3.13.シーダ数に対するダウンロード時間とシーダからのダウンロードトラフィック率

に伴い,ダウンロード時間は減少した.例えばシーダ数=1と8を比較すると,ダウン ロード時間は,それぞれ94.8秒,62.8秒であり,ダウンロード性能が33.8%向上した.

シーダからのダウンロード率は,シーダ数を1から8へ増やした時,0.486から0.602 に増加した.

 以上の結果より,シーダ数の増加がダウンロード時間を減少し,また,シーダからの ダウンロードトラフィック量も増加することから,FTTHシーダは効果的に配信時間 を向上するためのキャッシュノードとして動作することが検証された.

バッファリング時間の調整

 P2Pプログレッシブダウンロードは,データバッファが存在することで再生を可能 としている.3.5.1章の分析によれば,512KByteのデータバッファサイズがビデオス トリーミングの適切な運用を可能とした.しかし,512KByteバッファリングするため に,室内実験およびフィールド実験において平均0.7から1.6秒,最長で2.0から9.0 秒のバッファリング時間が発生した.データバッファリングに要する待ち時間は,現在 のインターネットストリーミングサービスに相当するものの,何人かのユーザには受け 入れ難い.ゆえに,さらなるダウンロード性能向上手法の検討が必要である.

アプリケーション加速手法

 より効果的にピース交換するために,ポッドキャストとP2Pプログレッシブダウン ロードの統合が有効である.ポッドキャストは,予定時刻に最新コンテンツのアップ ロードを更新する.全ピアに対し最新コンテンツのアップロードメッセージを通知する ことで,P2Pスワームは積極的に開始され,ピース交換が効果的に実行される.