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a. 解剖学的特徴と病態生理

大動脈弁が心室中隔に騎乗することにより,多くは傍膜 様部型975),ときに漏斗部型(

conal septal defect

)の心室 中隔欠損(

VSD

)と漏斗部の偏位による右室流出路の低形 成,それに伴う右室肥大を四徴とする.重症度,形態異常 は幅広い.極型とよばれる肺動脈閉鎖を含むこともある.

表56  Marfan症候群における大動脈手術の適応

適応 推奨の

クラス

エビデンス のレベル 大動脈起始部の最大径が以下であるとき,手術を施行する.  

50 mm I C*

• 46〜50 mm

解離の家族歴

反復測定によって確認された>2 mm/ の進行性の拡張

重度のARまたはMR

妊娠の希望

I I I I

C C C C

大動脈の他の部位が>50 mmまたは拡

張が進行性の場合,手術を考慮する. IIa C

* ESCの心臓弁膜症ガイドラインは,これよりもやや厳格で,他

の所見を問わず径45 mmの場合のみを推奨している.

AR:大動脈弁逆流, MR:僧帽弁逆流

2010ESC成人先天性心疾患ガイドラインによる.

Baumgartner H, et al. 2010 10より)

肺動脈弁はしばしば低形成で二尖弁のことも多い.心房中 隔欠損(

ASD

)や完全型房室中隔欠損を伴うことがあり,

ダウン症でよくみられる.また,弁輪拡大や再手術の際に 注意が必要な冠動脈起始異常もまれに合併(

2

9%

)す る976).とくに,左前下行枝が右冠動脈より,逆に右冠動 脈が左前下行枝より起始して,右室流出路前面を走行して いることがある.

b. 自然歴

1

年生存率は

64%

10

年生存率は

23%

で,長期生存を 望めない977).とはいえ個人差が大きいので,解剖学的に

Fallot

四徴(

TOF

)であってもチアノーゼが少なく

VSD

して見過ごされていた例や,体肺動脈側副血行が発達して おり,チアノーゼの発現が緩徐で,診断が遅れた例もある.

大動脈拡張を生じることも少なからずある.自然歴とはい えないが,オリジナル

Blalock-Taussig

BT

)短絡術のみ で長期生存する症例もまれに存在し,

60

歳以上で根治が できた例も報告されている.このような症例では集学的な 成人先天性心疾患治療の介入が必要となる.

c. 修復術および術後の臨床像

心内修復術は,

VSD

の閉鎖と右室流出路の狭窄解除で ある.過去には大きな右室切開からの修復が行われたこと が多く,長期遠隔期の右心不全の原因となっているが,

近年では経肺動脈・経三尖弁アプローチによる修復978)

と右室の線維化が進む前の新生児・乳児期に手術が行わ

れている979, 980).ただし,低年齢では弁輪温存をしない

transannular patch

を用いる頻度が高く,将来の弁機能不 全が懸念される981).とくに弁輪狭小例(弁輪径が

Z value

3

〜−

4

以下)では,一弁付

transannular patch

を用いる 施設が多い982).右室流出路の再建に用いる材料では,ブ タ,ウシ,ウマなどの心膜は石灰化しやすいので現在では 用いられず,ゴアテックス(

expanded

polytetrafluoroeth-ylene; EPTFE

983, 984)が用いられることがほとんどで,中 期成績も良好である.自己肺動脈弁を温存するため,右室 流出路パッチ(肺動脈パッチとわかれた

separate patch

)を

用いたり985, 986),弁輪切開を数

mm

の範囲に限定して漏斗

部機能を温存する方法987)も報告されている.術後の血行 動態異常は,手術時年齢,心筋保護法,術式の影響を受け,

運動能低下や上室,心室不整脈の合併につながる.術後早 期から中期に問題になるのは右室流出路や末梢肺動脈の狭 窄,遺残短絡などであるが,長期遠隔期における最大の問 題は肺動脈弁閉鎖不全である.不整脈や心不全などの自覚 症状のある症例はわかりやすいが,緩徐に進行する右心不 全は自覚症状を認識していないことが多く,フォローアッ プでは継時的,客観的な評価と適切な時期の治療介入が重

要である578, 701, 988, 989)(表578).肺動脈弁閉鎖不全の病

状の進行には段階があり,

1

)右心負荷の初期より不整脈 が出現する場合,

2

)右室容量負荷により右室機能不全か ら右心不全症状が出現するもの,

3

)右心のさらなる容量 負荷により右室拡張末期圧が上昇し,拡張期に心室中隔が 左室側に凸になることで左室の拡張障害が生じてくる末期 の段階54)がある.心機能が可逆的であるうちに,これら の段階に応じた適切な対応が必要である.

d. 検査所見(表58,59)8)

i. 心エコー法

非侵襲的であるので,定期健診の際に遺残右室流出路狭 窄や肺動脈弁閉鎖不全の程度,三尖弁機能を評価する.右

表57  TOF術後の問題点 1. 肺動脈弁閉鎖不全

2. 肺動脈弁閉鎖不全や三尖弁閉鎖不全による右室拡大と機能不

3. 遺残右室流出路狭窄

4. 肺動脈狭窄(分岐部狭窄および末梢肺動脈低形成)

5. 不整脈 

1)持続型単形性心室頻拍,

2)房室ブロック,心房粗動・細動 6. 突然死

7. 遺残短絡;VSDASD,卵円孔開存(チアノーゼ,血栓塞 栓)

8. 進行性の大動脈弁閉鎖不全

2008米国心臓病学会(ACC/米国心臓協会(AHA)成人先天性 心疾患ガイドラインを参照すること.(Warnes CA, et al. 2008 8 より作表)

表59  TOF術後患者の問題点と見落としやすいポイント 1. 胸部X線上の心拡大は,早急な血行動態の評価が必要である.

多くは,肺動脈弁閉鎖不全を伴っている

2. 上室,心室不整脈の出現も早急な血行動態の評価が必要であ り,肺動脈弁閉鎖不全を伴うことが多い

3. チアノーゼが存在すれば,卵円孔やASDの有無を確認する 4. 右室拡大や機能不全,三尖弁閉鎖不全がみられる場合は,遺

残病変,とくに肺動脈弁閉鎖不全の検索を早急に行う 5. 左室機能不全の原因は,修復術時の不十分な心筋保護,手術

時の冠動脈損傷,大動脈弁閉鎖不全による左心負荷,加齢に 伴う高血圧・冠動脈疾患に加え,高度の右室機能不全から二 次的に起こる場合もある

Warnes CA, et al. 2008 8より作表)

表58  TOF術後外来診察の要点

1. 成人先天性心疾患の専門知識をもつ循環器専門医による定期 的な外来診療

2. 心エコーは毎年,MRI2〜3年ごと,CT は随時(MRI 忌例)

3. 心電図は毎年,ホルター心電図は1〜2年ごと

4. 運動機能検査(心肺運動負荷);運動耐容能の評価や運動誘発 性の不整脈の検出

Warnes CA, et al. 2008 8より作表)

室圧,肺動脈圧の推定,遺残

VSD

の有無を確認する.し かし,エコー検査では右心系の定量的評価が不十分で再 現性に乏しい.三尖弁輪収縮期移動距離(

TAPSE

)や組 織ドプラの右室での有用性も確立されていない990, 991).右 室容量や肺動脈弁逆流量の計測や右室壁運動の解析は信 頼性に乏しかったが992, 993)

3D

検査による定量的な評価 も今後の発展が期待される994).右室の

myocardial perfor-mance index

Tei index

)は,収縮力の重症度評価に用い られることがある995).心房の大きさ,大動脈基部計測や 大動脈弁閉鎖不全の評価も同時に必ず行い,継時的記録を 残すことが数十年の単位で診療していくうえで重要である.

ii. 磁気共鳴像(MRI)

再現性の高い右室機能の定量的評価のゴールドスタン ダードである996)

TOF

の遠隔期のフォローアップを行う 際には必ず行わなければならない.形態評価はもちろん

regurgitation fraction

,右室容積の推移,上行大動脈の拡 大の評価にも有用である54, 997, 998).左心系の評価も可能で ある.遠隔期の肺動脈弁置換術前後の

wall strain

の評価で,

右心機能の予後を正確に判定できると考えられる.また,

心筋の質的評価(線維化)も可能である.運動負荷

MRI

999)

3D MRI

1000)の有用性も報告されており,現在もっとも 信頼性のある検査法である.

iii.コンピュータ断層撮影(CT)

末梢肺動脈の描出が可能で,狭窄や低形成の程度を評

価できる1001–1003).ペースメーカや植込み型除細動器(

ICD

植込み後で

MRI

が行えない症例でも,右室容積,収縮力 の評価が可能である.造影剤による充盈が不十分で,右室 容積の計測ができない例もある1004)

3D CT

は再手術の際 の大血管関係,冠動脈の走行などの評価に欠かせない検査 でもある.

iv.運動負荷試験

右心不全症状の進行は緩徐であるため,症状の自覚に乏 しい患者を客観的に評価するために重要である.運動耐容 能,労作性不整脈の発現の有無の評価に役立つ1005–1007). 最大酸素摂取量を測定することで1008, 1009),最大運動機能 の評価,酸素摂取量,心拍数,酸素脈,二酸化炭素排泄量,

分時換気量,換気当量を測定でき,

anaerobic threshold

時,

respiratory compensation

時,

peak

前後での運動の安全性 の評価が可能となる175).バルーン形成術の効果判定にも 用いられる1010).運動負荷試験についての詳細は,日本循 環器学会の「心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける 運動許容条件に関するガイドライン(

2008

年改訂版)」1011)

を参照のこと.

v. 心臓カテーテル検査による診断および治療

1

)心臓カテーテル診断

成人では再手術の前に右心系,肺動脈の形態を調べるの はもちろんであるが,冠動脈の走行および病変の有無を精 査することも重要である.表60 8)の項目に従って,できる だけすべてのデータを収集することが数十年にわたるフォ ローアップにおいて重要である.

2

)カテーテル治療

術後のカテーテル治療は,外科治療の適応とコンビネー ションなどにつき,専門の外科医とよく協議する.末梢肺 動脈狭窄に対するバルーン形成術はもっともよく行われる 手技で,血流量の増加,血管床の発育,血管抵抗の減少に よる右心圧負荷の軽減が期待できる.体肺動脈側副血行

(異常血管および短絡)の閉鎖や冠動脈病変に対するカテー テル治療も行われることがある1012–1014).バルーン形成術の 適応は明確ではないが,右室圧が体血圧の

50%

を超えた 場合,右室機能低下例や左右肺血流の不均衡(

75%

25%

を超えた場合)では適応となる.高圧バルーンや

cutting balloon

が導入され1012, 1015),成果をあげている.ス テントも有効で,中枢に近い分岐部や主肺動脈への留置は よく行われる.とくに,術後早期の狭窄(内膜フラップ,屈 曲など)に対するステントは効果的である.中・長期成績 も報告され1016, 1017),ステント再拡張は挿入後最長

10

年で も有効とされる1018, 1019).バルーンとステントを組み合わせ た手技は,成人例の末梢肺動脈狭窄に対しても行わ

1020,1021),外科的解除が困難な末梢肺動脈狭窄に対して

有効性が高い.ただし,将来外科手術が行われる可能性の ある病変に対するステント留置は,慎重に行う必要がある.

術中のステント留置も近年有効な手段として報告が増えて

いる1022–1024).遺残

VSD

(筋性欠損も含む)に対するカテー

テル閉鎖は,手術に代わる方法として有用である1025–1027)

(わが国では未認可).チアノーゼ例では,卵円孔や

ASD

の閉鎖が行われる.経カテーテル肺動脈弁置換術(生体弁)

も,適応は限定されるものの有用な方法である1028, 1029)(わ が国では未認可).

表60  TOF心内修復後のカテーテル診断,治療の目的,適応 1. 肺血流量,血管抵抗の測定,側副血行,肺動脈形態の把握 2. 肺動脈弁閉鎖不全と右室機能不全の評価

3. 右室流出路狭窄,肺動脈狭窄の評価 4. 冠動脈走行異常の診断

5. 僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全の重症度,心機能,遺残 VSDの有無,短絡量の評価

6. 卵円孔,ASDの閉鎖

Warnes CA, et al. 2008 8より作表)