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完全大血管転位動脈位血流転換術後

完全大血管転位に対する根治手術は,大血管レベルで血 流転換を行う動脈位血流転換術(

arterial switch operation;

ASO

Jatene

手術)が現在の標準術式となっている.動脈 位血流転換術の術後早期死亡率は

1.8

15%

で,長期生存 率は

10

15

年で

86

94%

と比較的良好であるが,遠隔 死亡の多くは術後早期

1

年以内にみられる.死亡原因は冠 動脈狭窄に伴う心筋梗塞および突然死,左心機能不全,術 後

PH

である.遠隔期の続発症は,右室流出路狭窄,大動 脈弁閉鎖不全,大動脈基部拡大,冠動脈狭窄が報告され ている8, 1087, 1109–1127)

動脈位血流転換術後の定期的な経過観察は,肺動脈狭 窄,冠動脈狭窄,大動脈基部拡大,そして大動脈弁閉鎖不 全に注意を向ける.(

1

)心電図は心筋虚血,不整脈,右室 肥大(肺動脈狭窄)に注意する,(

2

)心エコー法は肺動脈 弁上分枝狭窄(

MRI

CT

が必要な場合も多い),大動脈 基部拡大(

MRI

CT

が必要な場合も多い),大動脈弁逆 流,左室機能不全に注意する,(

3

)運動負荷試験は心筋虚 血の検出に用いる,(

4

MRI

は肺動脈狭窄,右室機能,

心筋虚血,心筋線維化の評価に用いる,(

5

CT

と冠動脈 造影は,心筋虚血が疑わしい場合の冠動脈狭窄の検索の 際に行う.定期的な冠動脈造影は推奨されていない.

2.3.1

大動脈弁閉鎖不全の管理 a. 発生頻度と発生機序

術後遠隔期の大動脈弁閉鎖不全の発生頻度は

5

40%

と報告されている.ただし,軽度が

35%

と大部分を占め,

中等度以上の逆流は

5%

前後にみられる.弁逆流は経年的 に増強する960, 1128–1136).弁輪拡大と弁逆流の程度は一定の 見解が得られていない960, 1132)

大動脈弁閉鎖不全の発生機序については,解剖学的肺動 脈弁は大動脈弁にくらべ弁尖が菲薄でコラーゲン線維や弾 性線維が少ないこと,弁輪の脆弱性などの内的要因の関与

が大きい1119, 1134, 1137).外的要因としては,経肺動脈的

VSD

閉鎖に伴う弁損傷1138),先行手術としての肺動脈絞 扼術,術前の左室流出路狭窄の存在,冠動脈移植に伴うバ ルサルバ洞の変形,新大動脈基部と大動脈遠位部の口径 差が関連するとされる960, 1130–1135, 1137, 1138)

b. 診断

術後の大動脈弁閉鎖不全は,十分な専門知識をもつ循環 器内科医による定期的な外来診療がすすめられる.基本的 には臨床症状と心エコー検査で経過観察を行う.通常の慢 性大動脈弁閉鎖不全では,左室の代償機転により比較的長 期にわたって無症状に経過し,左室機能も正常に維持され ていることが多い1139, 1140).しかしながら,動脈位血流転 換術後は大動脈弁閉鎖不全合併がない症例においても,

移植冠動脈入口部狭窄,左冠動脈低形成例がみられるこ

1141),遠隔期の心筋血流評価検査で左室心筋灌流欠損

がみられること,冠血流予備能が低下することが知られて

いる1142–1144).したがって,中等度以上の大動脈弁閉鎖不全

合併例では,比較的早期に有意の心拡大や左室機能低下 が出現する可能性があることを念頭におく必要がある.胸 痛,動悸,失神,労作時呼吸困難などの大動脈弁閉鎖不全 による症状出現に留意しつつ,運動負荷試験や心エコー法 による左室機能の継続的評価が必要である.

c. リスク分類

狭心痛や呼吸困難などの臨床症状がある患者は高度リス クとする.左室拡大がなくても,安静時や運動誘発性期外 収縮を認めるものは中等度リスクである.リスク分類は,

日本循環器学会の「心疾患患者の学校,職域,スポーツに おける運動許容条件に関するガイドライン(

2008

年改訂 版)」に準じ,表64にまとめた1011)

d. 運動・作業許容条件

運動・作業許容条件は,日本循環器学会の「心疾患患 者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関する ガイドライン(

2008

年改訂版)」に準じ,表65にまとめ た1011)

e. 管理と再手術適応

軽度大動脈弁閉鎖不全で左室拡大がない無症状例は軽 度リスクであり,

12

ヵ月ごとの定期検査を行う.中等度で 左室拡大を認める例は中等度リスクであり,選択的冠動脈 造影検査による冠動脈狭窄の有無や

6

12

ヵ月ごとの左室 機能評価が必要である.左室拡大の進行がなければ中等度 の運動まで許容する.慢性大動脈弁閉鎖不全の至適手術 時期については,現在でも議論の多いところである.自覚 症状を伴うものは絶対手術適応であるが,症状が出現した 時点ですでに心機能低下が高度で手術時期を逸している場 合もある.自覚症状がないものでも早期の手術が予後を改 善する可能性が指摘されている.とくに,他の遺残病変を

伴う術後の高度大動脈弁閉鎖不全例では,厳重な定期的臨 床評価が必要である.高度例における管理計画を図6に示 す.手術適応ではない中等度以下の大動脈弁閉鎖不全で は,

ACE

阻害薬が左室拡大,左室肥大の改善に有用であ

1146),推奨される.

左室拡大の程度は,日本循環器学会の「弁膜疾患の非 薬物治療に関するガイドライン」1147)を目安にする(表661147)f. 術式選択と予後

術後大動脈弁閉鎖不全に対する再手術は,通常大動脈 弁置換術が行われるが1138, 1147–1149),大動脈弁形成術の報 告も散見される1150–1155).しかしながら,弁尖が元来は肺動 脈弁であること,動脈位血流転換術後で大動脈が肺動脈 後方に位置すること,移植冠動脈に対する処置など通常の 弁尖温存術式が困難なことから,弁形成術の適応は限定さ れる.なお,大動脈弁閉鎖不全がない大動脈基部拡大例

(基部径

55 mm

以上)は大動脈弁を温存する基部置換術の

適応である8).大動脈弁置換術における代用弁としては機 械弁と生体弁に大別されるが,現時点において動脈位血流 転換術後例は大多数が非高齢者であり,機械弁が選択され ることが多い.術後の大動脈弁閉鎖不全に対する大動脈弁 置換術および弁形成術の手術成績,遠隔成績に関する多数 例の報告は少ない.

2.3.2

大動脈基部拡大の管理 a. 発生頻度と発生機序

術後遠隔期の大動脈基部拡大の発生頻度は

33

66%

と 報告されている1130–1132, 1134, 1137, 1156, 1157).経年的に大動脈 基部拡大が増悪するとの報告や1130, 1132, 1134),改善すると

の報告1137),遠隔期には拡大傾向が認められなくなるとの

報告1131)があり 一定の見解が得られていない.発生機序

については,生来の肺動脈壁は平滑筋細胞や弾性線維が 大動脈壁と比較して少ないことによる内的要因が報告さ

れている1138).外的要因としては両大血管右室起始や先行

手術としての肺動脈絞扼術が関連するとされる1131, 1157)b. 診断

診断は心エコー

CT

MRI

や血管造影検査で行われる.

c. 管理と再手術適応

現在までのところ動脈位血流転換術後で拡大した大動脈 の解離や破裂の報告はないが,手術適応は成人領域の大動 脈瘤の手術適応である

55 mm

を参考にされる.

d. 術式選択と予後

Bentall

術,大動脈弁を温存する基部置換術や

Switch-back

術が行われる1149).予後については多数例の報告はな いが,少数例の報告では比較的良好である1149, 1155). 表64  完全大血管転位動脈位血流転換術後の大動脈弁閉鎖不全のリスク分類

リスク分類 身体所見 胸部X 心電図 心エコー

左室拡大 逆流の程度

軽微 心雑音2度以下 心拡大なし 正常 なし 微小

軽度 心雑音3度以上 心拡大あり 正常 なし 軽度

中等度 心尖部Ⅲ音あり 心拡大あり 左室肥大 あり 中等度

高度 心尖部Ⅲ音あり 心拡大あり 左室肥大 あり 高度

(日本循環器学会.2008 1011より改変)

表65  完全大血管転位動脈位血流転換術後の大動脈弁閉鎖不全および右室流出路狭窄のリスク分類別運動・作業許容条件

軽い運動 中等度運動 強い運動

運動・作業強度 3 METs未満 3〜6 METs 6 METsを超える 望ましい運動耐容能 5 METs未満 5〜10 METs 10 METsを超える

リスク

軽微 許容 許容 許容

軽度 許容 許容 許容あるいは条件付許容

中等度 許容 条件付許容 条件付許容あるいは禁忌

高度 条件付許容 禁忌 禁忌

(日本循環器学会.2008 1011より改変)

2.3.3

右室流出路狭窄の管理 a. 発生頻度と発生機序

術後右室流出路狭窄は

3

30%

と比較的高頻度に認め られる術後続発症である8, 1087, 1109–1126, 1128, 1150, 1154, 1158–1160). 狭窄部位は,肺動脈弁および弁下,吻合部(弁上部),左 右肺動脈幹,左右末梢肺動脈に単独あるいは複合して発生 する.狭窄の発生原因は,

Lecompte

法における大動脈の 後方からの圧迫と左右肺動脈の過伸展,肺動脈再建に用い るパッチの肥厚・退縮,肺動脈弁輪部および吻合部の成長 障害,小口径の旧大動脈弁などが考えられる.動脈位血流

転換術における肺動脈狭窄発生はある程度不可避な合併 症であり,その発生頻度は経年的に増加し,狭窄の程度も 進行する.

b. 診断

動脈位血流転換術後の右室流出路狭窄は,完全大血管 転位に対する

Rastelli

手術後の管理基準に準じ1161),十分 な専門知識をもつ循環器内科医による定期的な外来診療が すすめられる.基本的には臨床症状と心エコー法で経過観 察を行う.通常は,右室の代償機転により長期にわたって 無症状に経過し,右心機能も正常に維持されることが多い.

一側肺動脈狭窄例では有意の右室圧上昇がみられないこと 表66  完全大血管転位での体格を考慮した大動脈弁閉鎖不全における左室拡大の程度

LVDs(mm) LVDd(mm)

BSA(m2 1.4 1.7 2.0 1.4 1.7 2.0

高度拡大 48 52 55 65 70 75

中等度拡大 43〜48 47〜52 5055 60〜65 65〜70 70〜75

軽度拡大 43 47 50 60 65 70

LVDd:左室拡張末期径

(日本循環器学会.2002 1147より)

再手術

3ヵ月後の再評価 612ヵ月ごとの評価

高度

進行性

なし あり 他の残存病変

(肺動脈狭窄,冠動脈狭窄など)

臨床評価+心エコー

症状の有無

なし 不明 あり

運動負荷

左室機能評価(エコー)

駆出率(EF)≧50% EF50%

左室径拡大

図6  動脈位血流転換術後高度大動脈弁閉鎖不全の管理方針 軽度・中等度