4.2.1
心房頻拍(心房内リエントリー性頻拍,心房細動を 含む)
a. 停止を目的とした急性期治療 i. 同期下カルディオバージョン
48
時間以上持続している場合や,より重症な先天性心 疾患を有する患者では,心房頻拍,心房細動にかかわらず 同期下カルディオバージョンの前に血栓がないか評価する 必要がある.循環動態の破綻した患者では持続時間や抗凝 固療法の有無にかかわらず,緊急で行う必要がある.ii. オーバードライブペーシング
心房の抗頻拍ペーシング機能を有したデバイスが植え込 まれている患者では,オーバードライブペーシングが有効 である.心房頻拍をオーバードライブペーシングで停止さ せる際に,心室レートに注意を払う必要がある.
iii.薬物療法
房室回帰性頻拍や房室結節リエントリー性頻拍では,ア デノシン,アデノシン三リン酸の急速静注,非ジヒドロピ リジン系カルシウム拮抗薬の点滴静注が有効である.心房 頻拍の停止に薬物治療を行う場合,
III
群薬によるtorsades de pointes
,Ia
群,Ic
群薬による心室頻拍,頻拍停止後の 高度徐脈など催不整脈性に注意を払う必要がある.成人先 天性心疾患を有する患者において,頻拍停止に用いられる 薬物療法(Ia
群,Ic
群,III
群薬)に関する有効性,安全 性の報告はほとんどない.b. 遠隔期薬物治療
成人先天性心疾患患者に抗不整脈薬を使用する際には,
共存する問題(洞機能不全,房室伝導障害,心不全,併用 されるその他の薬物治療,妊娠の可能性など)を十分に考 慮する必要がある.
i. レートコントロール
解剖学的右心室が体循環心室や単心室の患者において,
上室頻脈性不整脈時に心室レートが上昇することは突然死 の原因となりうる62, 379).β遮断薬,非ジヒドロピリジン系 カルシウム拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム)を用いて 心室レートコントロールを行う.心房内リエントリー性頻 拍(
intra-atrial reentrant tachycardia; IART
)や心房細動の ある成人先天性心疾患患者における適切なレートについて は,いまだ十分な議論はされていない.ii. リズムコントロール
(
1
)I
群薬小児,若年者の
579
人(先天性心疾患患者24%
)にお いて,エンカイニド,フレカイニドはそれぞれ7.5%
,7.4%
で催不整脈作用があり,心停止,死亡は器質的心疾患を 有する患者に多くみられたとの報告380)や,植込み型除細 動器(
ICD
)治療を受けたTOF
患者121
人のデータでは,Ia
群,Ic
群薬の使用で適切作動が増加するとの報告329)が ある.従来,I
群薬は催不整脈性381–384)のため冠動脈疾患 や心不全のある患者には推奨されていない.成人先天性心 疾患患者でも,血行動態異常の残存,切開線による瘢痕,心内バッフル,人工血管とそれに伴う広範囲な線維化があ り,明確にはなっていないが,同様に催不整脈性が危惧さ れる.北米,欧州の複数の学会が合同で発表した成人先天 性心疾患の不整脈に関する
consensus statement
385)では,冠動脈疾患や心室機能不全を有する成人先天性心疾患患 者では
Ia
群,Ic
群薬の使用は避けたほうが賢明であると 説明している.(
2
)III
群薬少数の成人先天性心疾患患者での後ろ向きの検討で,ソ タロールの安全性と有効性が示されたものもあるが,小児 例では有効性は低く,催不整脈性が高いことが報告されて いる.心房細動患者を含むメタ解析では,ソタロール群は 対照群に比較して全死亡率が高く,他の研究でも同様の結 果が示された.この点で北米,欧州からの成人先天性心疾 患の不整脈に関する
consensus statement
385)ではソタロー ルの適応をクラスIIb
としている.アミオダロンは心房細動患者の洞調律維持にもっとも有 効であると報告されており386),心不全患者でも選択され る薬剤である387).
IART
や心房細動を合併する成人先天性 心疾患患者で,心肥大や心不全,冠動脈疾患を有する場 合でも,アミオダロンが洞調律維持のための第一選択とな ると考えられる.ただし,若年者に長期間アミオダロンを 使用する場合は,心外毒性について考慮する必要がある.iii.抗凝固療法
先天性心疾患患者では,血栓・塞栓症の頻度がコント ロールに比較して
10
倍から100
倍高いという報告があ る388).また拡大した心腔,心腔内の人工物(パッチ,ペー スメーカやICD
のリードなど),短絡の残存,Fontan
循環などが血栓・塞栓症の誘因になると考えられている62, 107, 388–399).少数例の報告ではあるが,
19
人の先天性心疾患患者のカルディオバージョン前に経食道心エコー法
(
TEE
)を行い,37%
に血栓を認めたという報告400),カル ディオバージョン前4
週間,国際標準比(INR
)を2
以上 に保つことによりカルディオバージョンに伴う塞栓症の頻度を低下できたという報告401)があり,成人先天性心疾患 患者でも
IART
や心房細動を合併する例では,抗凝固薬は 重要であると考えられる.前述の北米,欧州の
consensus statement
385)では,複雑 心奇形ではない成人先天性心疾患患者でIART
や心房細 動が48
時間以上持続する,または持続時間不明な場合に はカルディオバージョン(もしくはTEE
)前3
週間,カル ディオバージョン後4
週間は抗凝固療法を行うことが推奨 され,複雑心奇形患者では,持続する,または繰り返すIART
や心房細動を合併する場合には長期の抗凝固療法が 必要としている.新 規経口抗 凝固薬(
novel oral anticoagulants; NOAC
) の有用性が成人の心房細動患者で報告されているが,成人 先天性心疾患患者においては十分な情報がない.4.2.2 心室頻拍
a. 停止を目的とした急性期治療
adult cardiac life support
(ACLS
)に準じて行う.ただ し,先天性心疾患に特有の問題(右胸心,正中心)を考慮 し,除細動,同期下カルディオバージョンを行う必要があ る.薬物治療では,アミオダロン,プロカインアミド,リド カインなどの静脈内投与が用いられる.先天性心疾患患者 の心室頻拍には,TOF
術後患者に代表されるマクロリエン トリーによる心室頻拍の報告が多いが,リエントリー以外 の機序の心室頻拍もある.b. 遠隔期治療
成人先天性心疾患患者の突然死の二次予防も,
ICD
によ る治療である.薬物療法は,その作動を予防するために用 いられる.心筋梗塞後や拡張型心筋症では,アミオダロン,ソタロールなどについて十分な検討がなされているが,成 人先天性心疾患では少数例の報告しかなく,心筋梗塞後や 拡張型心筋症などの検討から推測して使用される.
4.2.3
高周波カテーテルアブレーション a. 先天性心疾患患者に対する注意点
成人先天性心疾患患者に電気生理学的検査,カテーテル アブレーションを行う場合,事前にコンピュータ断層撮影
(
CT
),心エコー,外科手術記録などから心内構造を明らか にすること,術後患者では外科手術記録を確認することが 重要である.刺激伝導系の位置を推測するためにも心内構 造の正確な把握は有用である.そのほか静脈ルートの閉塞,先天性心疾患に認められる静脈奇形の有無を確認すること も必要である.また構造上の問題だけでなく,不整脈基質 の原因となりうる血行動態の評価も同時に十分に行う必要 がある.
高周波カテーテルアブレーションを行う際には,不整脈 専門医のみならず,先天性心疾患に詳しい循環器医,麻酔 科医,心臓外科医の協力が必要である.同時に,術後に生 じる予期しない合併症に対応すべく,看護体制,集中治療 室の確保の準備も必要となる.
b. 房室回帰性頻拍,房室結節リエントリー性頻拍
Ebstein
病402),修正大血管転位症(解剖学的右室房室弁輪部で
Ebstein
様の異常を伴うことがある)に副伝導路を合併しやすいことが知られている.特殊な例として内臓錯 位症候群に合併する
twin AV node
によるリエントリー性頻拍403–405)がある.
Ebstein
病,修正大血管転位症の副伝導路はいずれも解剖学的右室に付着する三尖弁周囲に存在す るものが主であり,右房化右室のため三尖弁周囲では分裂 電位や低電位が認められ406, 407),複数本の副伝導路を有し ている症例も多い.また,
Ebstein
病においてはマハイム束 が認められることもある408).このため,副伝導路のマッピ ングが容易ではない.12
誘導心電図から副伝導路の位置 を予測するアルゴリズムは,先天性心疾患患者では通常の 副伝導路の位置を予想するアルゴリズムの精度が低いと報 告されている409).Fontan
術の変法であるBjork
手術は,右心耳を右室流出 路に吻合する方法であり,吻合した心房筋と心室筋のあい だに電気的連続性が生じ,房室回帰性頻拍が生じる例の報 告もある410).先天性心疾患に合併する房室結節リエントリー性頻拍の 報告は少なく411–415),ほとんどわかっていない.
先天性心疾患に合併する房室回帰性頻拍,房室結節リ エントリー性頻拍に対する高周波カテーテルアブレーショ ンは有効であるが,急性効果は正常心の患者に比較して
低く404, 416, 417),約
80%
と報告されている418).Ebstein
病患者のみでも,高周波カテーテルアブレーションの急性効 果は
75
〜88%
と低く,再発が27
〜40%
に認められてい る407, 419, 420).c. 心房頻拍
術後遠隔期に生じる心房頻拍の頻度は,心奇形の種類 や術後期間により差があるが,
4
〜30%
と報告されてい る119, 421, 422).成人先天性心疾患術後患者には,外科手術による広範囲 な心房筋の障害,持続する心負荷,洞不全を含む刺激伝導 系の障害などがあり,心房頻拍の誘因となる.もっとも多 い心房頻拍の機序はマクロリエントリーであり,心房内リ エントリー性頻拍(
IART
)とよばれる.解剖学的構造,瘢 痕組織,切開線,カニュレーション部,外科的に使用した 人工物などが障壁になり,リエントリー回路が形成される423–426).カテーテルアブレーションはこれらの不整脈に
対する安全性,有効性が認められている416, 427–429).術後患 者は正常構造と異なるため,三次元マッピングシステムを 用いることが推奨される430–434).同時にエントレインメント を併用することが有用である.また,イリゲーションカテーテ ルを用いることにより成績の向上が期待される434–436).高周 波カテーテルアブレーションの急性効果は約
81%
426, 434–442),再発率は
34
〜54%
429, 434, 439, 441)と高く,再発はアブレーション後1年以内が多いと報告されている439).先天性心 疾患術後患者の心房は多くの障害を有するため,再発した 不整脈は異なる機序の心房頻拍であることも考えなければ ならない.
d. 心房細動
心房細動は,左室流出路狭窄性疾患,未修復の先天性 心疾患患者,
Fontan
術後患者に認められることが多い.ま たTOF
患者では,55
歳以降にIART
より心房細動の頻度 が増えると報告されており421),加齢,左房拡大,左室収 縮能低下,手術回数が独立した危険因子として報告された.未手術の心房中隔欠損(
ASD
)の報告でも,40
歳までに 手術が施行された患者では,心房細動の頻度が減ることが 報告されている443–446).成人先天性心疾患患者の心房細動に対するカテーテルア ブレーションは,薬物治療でリズムコントロールが不成功 の場合に考慮される.その際に心房細動のカテーテルアブ レーションに精通した専門医に相談することが必要である.
房室結節に対する高周波カテーテルアブレーションと心室 ペーシングの併用も治療法の
1
つにあげられるが,心室 ペーシングが行われる単心室循環の患者では正常洞調律の 患者より死亡率が高く,心房細動が持続することは血栓・塞栓症のリスクであり,レートコントロールが不可能な場 合の最終的な方法であると考えられる.
e. 心室頻拍
TOF
は持続性心室頻拍の頻度がもっとも高く,これは 右室流出路の外科手術による侵襲により心筋が障害され234, 241, 447, 448),マクロリエントリー回路が生じやすいため
かもしれない.
TOF
術後患者においては,プログラム刺激 による心室頻拍の誘発性は,心停止の危険因子の1
つにあげられる329, 449).
TOF
術後の心室頻拍のマッピングで,右室流出路切開部位と三尖弁輪間が狭部として重要である ことが報告され450–452),より詳細なマッピング453)により 三尖弁輪近傍の心室筋と円錐中隔を含む右室流出路のマク ロリエントリーであることが明らかになってきた.
そのほかの先天性心疾患では,心室頻拍は十分に検討さ れていない.突然死のリスクが高い心房内血流転換術後の 大血管転位症患者では,心室頻拍の誘発性と臨床的に認め られる心室頻拍の頻度に相関関係は認められないと報告さ