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三尖弁閉鎖,左心低形成)

ドキュメント内 循環器病ガイドラインシリーズ JCS2017 ichida h (ページ 101-109)

a. 解剖学的特徴と病態整理 i. 解剖学的特徴

Fontan

手術は,一方の心室低形成や房室弁異常のため

二心室修復が困難である機能的単心室血行動態を有するチ アノーゼ性先天性心疾患患者(単心室,純型肺動脈弁閉 鎖,三尖弁閉鎖,左室低形成など)の低酸素血症解消と心 室容量負荷軽減をおもな目的とした最終修復術であり,肺 循環への駆出心室(右心)をバイパスした術式である(右 心バイパス術).手術法は,右心房―肺動脈結合(

APC

)法 と心房(低形成右室)収縮の影響の少ない上下大静脈肺動 脈吻合(

TCPC

)法に分類される.

TCPC

法はさらに改良さ れ,年代順に,心房壁の一部を利用する

lateral tunnel

intra-atrial rerouting; IAR

),利用しない

intra-atrial grafting

法が用いられるようになり,最近では心臓外導管や下大 静脈を肺動脈に直接吻合する心外導管法(

extra-cardiac rerouting; ECR

)が主流術式である1192)

ii. 病態生理

肺循環への駆出心室欠如から,おもに中心静脈圧(

CVP

上昇(静脈高血圧)と体心室拡張能が肺循環を維持する.

結果的に,血行動態的には

CVP

上昇,体心室前負荷障害,

後負荷増大による低心拍出量を特色とした慢性心不全病態 を示し,運動耐容能は低下している1193).とくに成人では 低心拍出量であり運動耐容能が低いが,自覚症状と一致し ない場合も多い163).また,成人

Fontan

術後患者では,慢 性的な腹部臓器の静脈うっ血から肝機能,腎機能および 腸管機能への悪影響が懸念されている.術後遠隔期の合 併症を含めた問題を表68に示した.これらのなかで管 理,治療に難渋する合併症は,房室弁機能異常を含む心 機能異常や不整脈を含む心血管系障害1193),肺動静脈瘻

PAVF

)やプラスチック気管支炎1194)を含む呼吸器系の問 題,妊娠出産に関する諸問題,肺血栓,脳梗塞や喀血を含 む止血線溶系異常1195–1197),またこれと関連する肝疾患や 蛋白漏出性腸症(

PLE

),さらに腎機能不全99)などがある.

表68  Fontan術後の問題点

1. 精神 QOL低下

2. 中枢神経 発達障害

3. 栄養異常(カヘキシア,肥満)

4. 心血管 心機能低下

 収縮,拡張,非同期 房室弁異常

aortopathy 内皮機能異常 不整脈

 徐脈,頻拍,房室ブロック 心臓自律神経異常

5. 呼吸器 拘束性障害

PAVF

横隔膜神経麻痺 プラスチック気管支炎 6. 骨,骨格筋 骨代謝異常

サルコペニア

7. 生殖 月経異常

妊娠,出産

8. 内分泌 甲状腺機能異常

9. 糖脂質代謝 耐糖能異常

脂質異常(低コレステロール血症など)

10. 血液 赤血球増加,貧血 低リンパ球,低血小板 凝固・線溶系異常 喀血

11. 消化器 肝疾患(うっ血肝,肝硬変,肝癌)

PLE

12. 腎機能 うっ血腎,心腎連関

これらに加え,最近では糖脂質などの代謝異常の存在が指 摘され,心事故との関連が示唆されている1198, 1199).とくに,

Fontan

循環に関連した肝臓疾患は

Fontan associated liver disease

FALD

)として認識され,肝臓癌の発症を含め多 くの知見が報告されている1200).さらに,

Fontan

患者での

aortopathy

の知見もみられ1201),大動脈解離も報告されて

いる1202).成人

Fontan

術後患者では,特異な循環に由来

する房室弁や心機能不全を含む慢性心不全病態に加えて,

長期間の静脈高血圧による多臓器障害が小児期とは異なる 特殊な病態へ変化する可能性も示唆され,多臓器疾患とし

ての

Fontan

病態を詳細に把握することが長期予後改善を

目指す管理,治療戦略に重要である1203)b. 臨床所見

成人慢性心不全と同様の症状が多い.運動耐容能は低 下し,小児期にくらべ息切れ,疲労などの有症状(

NYHA

心機能分類

II

度以上)の割合は高い1204).また,早朝の軽 度顔面浮腫,下腿浮腫の頻度も低くはない.さらに,頭痛 や起立障害を訴えることも多いが,血行動態の重症度との 関連は不明である.

c. 身体所見

Fontan

術後患者では,その良好な血行動態でも

90%

前半の軽度低酸素血症を呈す場合が多く1204),成人の後天 性慢性心不全病態と異なる.有意な

PAVF

や大静脈肺静脈 短絡(

veno-venous shunt; VVS

)の発達した場合には,強 い低酸素血症を示す.心音の

II

音は単一で,大動脈駆出 音を聴取する.房室弁閉鎖不全や心室流出路狭窄を認めれ ば収縮期雑音を,大動脈弁閉鎖不全では拡張期心雑音を 認める.巨大な冠動静脈瘻で

to and fro

雑音を聴取する場 合もある.肝静脈うっ血に起因する肝腫大を認める.また,

下腿の浮腫に加え,長期静脈高血圧からの色素沈着の頻 度も高く,重症の場合には静脈瘤や潰瘍を示すことがあ る396)

d. 検査所見 i. 心電図

背景疾患の特色を示す.

APC

では

P

波増大がみられ

1205).幅広い

QRS

時間は心機能や運動耐容能低下と関

連する簡便な指標である1206, 1207)ii.胸部X線

APC

では拡大し,右房で心陰影が拡大する.

TCPC

で は一般に心陰影の大きさは小さいか正常であるが,心外導 管術後では導管陰影が心陰影と重なり,心胸郭比は必ずし も心陰影を反映しない.導管の石灰化を認める場合がある.

有意な

PAVF

を有する患者では異常陰影を肺野に認める場 合が多い.

iii.心エコー法

経胸壁で体心室収縮性や房室弁閉鎖不全はある程度判 断できる.しかし,成人

Fontan

術後は静脈系の狭窄の判 断は困難である.房室弁閉鎖不全の詳細や血栓の評価は

TTE

では困難で,

TEE

の評価が推奨される.

iv.MRI,CT

心房,心室のみならずガドリニウムを用いた遅延心筋像 から心筋線維化を,時相コントラスト

MRI

から非侵襲的に 大動脈肺動脈副側血行を介した左―右短絡

量を正確に評 価できる224).心室筋線維化は心室不整脈と心機能低下と の関連が示唆され236),心不全を有する成人

Fontan

術後の 心血行動態に加え,体肺副側血行路の定量化にも適用され ている224).血栓の検出には心エコーよりこれらの画像が優 れている.

v. 血液生化学,神経体液性因子

低ナトリウム血症を示す割合は高く1208),肝うっ血を反 映してビリルビンやγ

-

グルタミルトランスフェラーゼ

GGT

)は高値を示す場合が多いが1194),アラニンアミノト ランスフェラーゼ(

ALT

)やアスパラギン酸アミノトラン スフェラーゼ(

AST

)は上昇しない場合が多い.また,リ ンパ球低下と肝障害との関連が示唆されている1209).血清 脂質ではコレステロール値が低く,心不全や脂質代謝バラ ンスの障害が示唆されている1198, 1210, 1211).血中ノルエピネ フリンや脳性ナトリウム利尿ペプチド(

BNP

)値は上昇を 示す場合が多いが,

APC

では

BNP

値が

TCPC

より有意に 高く,心房由来とされる1212).また,高い血中ノルエピネフ リン,

BNP

高値,高尿酸血症は心事故の予測因子であ

1213, 1214).レニン

-

アンジオテンシン

-

アルドステロン系

RAAS

)の遺伝子型異常と

BNP

高値との関連が示されて いるが,成人心不全で観察される遺伝子型異常と心筋特性 や予後との関連はない1215)

vi.運動負荷試験

Fontan

術後患者では重度の心臓自律神経活動の異常を認

めることから,心拍応答は低下し,最高酸素摂取量(

peak · VO

2)からみた運動耐容能は健常者の

50

60%

で,とく に成人

Fontan

術後で低い163, 166, 1200, 1216)

Fontan

術後患者 の運動負荷試験から得られる主要な心肺機能指標は心事故 や死亡を予測し,とくに

peak · VO

2の予測力は強い166).成 人心不全患者で有用とされる運動中の呼吸の揺れ(

exercise oscillatory ventilation; EOV

)や

cardiac power

も予後予測

力がある1217, 1218).一方,

Fontan

循環の特色の

1

つである

軽度低酸素血症が換気亢進の原因であることから,換気指 標である二酸化炭素排出量に対する換気当量(

VE/ · · VCO

2

slope

)や酸素摂取効率(

oxygen uptake efficiency slope;

OUES

)の解釈には注意が必要である1219).運動負荷試験

中の不整脈出現と予後との関連は不明である.

vii.ホルター心電図

不整脈はもっとも多い術後遠隔期合併症であり,房室

2

1

伝導などでは無症状なこともあり定期的な検査が望まし い.

viii.心臓カテーテル検査,心血管造影

心形態や機能評価では,最近では心エコー,

MRI

CT

が非侵襲的で画像の解像度もよいことから,心内圧測定を 必要とする場合やカテーテル治療を要する場合を除き,心 臓カテーテル検査の頻度は減少している.しかし,成人

Fontan

術後患者の心血行動態は不明な点も多く,綿密な心

不全管理,冠動脈異常,

PAVF

VVS

評価には依然として 有用な情報を提供する.

e. 予後

術後

20

年の死亡回避率は

69

87%

程度であり62, 1220,1221), 術式と医療の進歩に伴い,いずれの施設でも改善している.

しかしながら,とくに成人

Fontan

術後には種々の遠隔期合 併症に遭遇する場合が多く,綿密な治療と管理を要する.

f. 術後遠隔期合併症

おもな合併症や続発症に対する治療,管理について以下 に記述するとともに,表69に示した.特異な

Fontan

循環 に由来する合併症が多く,最優先事項は

Fontan

循環の正 確な把握にある.必要に応じて心臓カテーテル検査などに より血行動態を把握する必要があり,心血行動態の改善が 合併症の管理と治療効果の改善に欠かせない.

(1)心血管機能異常

経時的な血行動態観察から,術後遠隔期の体心室収縮 性低下,高後負荷持続による体心室の仕事効率の低下が

Fontan

術後遠隔期の心機能破綻につながることが推察さ

れている1206, 1222).最近の

MRI

による心室容積の解析か

ら,

PLE

合併とともに,心室拡大(体心室拡張末期容積係 数>

125 mL /

体表面積[

BSA

m

2)が予後不良因子であ ることが示されている1223).体心室形態も重要な心機能規 定要因である.非左室型体心室の

QRS

幅は左室型体心 室にくらべ幅広く,内因性の体心室非同期収縮の原因と なっている可能性があり1206),頻拍時や運動時の不利な 要因である1206, 1207).また,大血管の伸展性低下が示唆さ

1201),心室の後負荷増大に加え伸展性低下からの脈圧

増大は冠循環低下をもたらし,心機能低下の要因となる.

さらに,内皮機能低下が観察され,運動耐容能と関連

1224, 1225),肺血管1226)とともに体循環での一酸化窒素

NO

)に関連した内皮機能維持の重要性が指摘されている.

治療については,成人

Fontan

患者での薬物による抗心 不全療法は確立していない.利尿薬は浮腫,腹水や胸水な どの不適切な体液貯留には有効である.しかし,成人慢性

心不全患者と同様に,利尿薬の使用は死亡の独立した危険 因子であり,不用意な使用は避ける必要があるかもしれな

62, 1227).小児での単心室血行動態患児での

RAAS

抑制

効果は明確でない368).成人

Fontan

患者でも,比較的短期 間の

RAAS

抑制による心臓自律神経や運動耐容能からみ た改善効果は否定的である360, 1228).しかし,死亡率改善を エンドポイントとした臨床試験はなく,心筋や内皮機能保 護からみたより長期的な効果は不明である.成人慢性心 不全患者で確立した心収縮性低下に対するβ遮断薬の効 果については,成人

Fontan

患者での有効性の報告は少な

1229)

Fontan

患者を含め,成人先天性心疾患術後患者

では一般的に洞機能機能障害を有する割合が高く,徐脈傾

向にあり1230),不用意なβ遮断薬使用はむしろ血行動態を

悪化させる.したがって,不整脈治療も含め,ペースメー カ植込みも考慮した循環管理の必要性も少なからずある.

房室ブロックでの心室ペーシングやアンバランスな二腔心 を有する体心室では,

CRT

を意識し,慎重に心室ペーシン グ部位を選択する必要がある1231).右室型体心室では,長 軸方向にアンバランスな二腔心室では両心室を挟み込むよ うなペーシング部位の選択がよいとされ,非左室型体心 室では左室型体心室にくらべ

CRT

の効果は低い1231, 1232)

(2)房室弁閉鎖不全

非左室型体心室での三尖弁や共通房室弁では,僧帽弁に くらべ房室弁閉鎖不全が多く,予後規定要因である1192). 房室弁閉鎖不全の進行から容量負荷,体心室機能低下を 合併することが懸念される.

治療については,中等度の房室弁閉鎖不全では

RAAS

抑制が有効かもしれない.重度の房室弁閉鎖不全は,積極 的に手術による人工弁も考慮した対策が必要である.心機 能低下,高年齢や腎機能低下は房室弁閉鎖不全修復時の 危険因子であり1233),成人

Fontan

患者では比較的早期の 対策が重要かもしれない.

Fontan

術前の房室弁修復は将 来の機能不全を予防するが,同時に,修復後患者では血栓 形成,脳梗塞やペースメーカ治療などの合併症が少なから

ずある1234).僧帽弁以外の房室弁閉鎖不全の修復は困難で,

人工弁置換も常に考慮する.また,中等度以下の房室弁閉 鎖不全の進行の有無は不明である1235)

(3)肺血管抵抗上昇

肺循環への駆出心室欠如が

Fontan

循環の特徴であるこ とから,良好な肺循環維持は

Fontan

術後遠隔期成績向上 に欠かせない.したがって,肺血管抵抗(

PVR

)上昇は

Fontan

循環の破綻につながる.また,術後遠隔期で

PVR

上昇が示唆され1236),これまでに肺動脈血管拡張薬の有用 性を探る無作為化比較試験(

RCT

)が報告されている.ホ スホジエステラーゼ(

PDE

5

阻害薬のシルデナフィル(

6

ドキュメント内 循環器病ガイドラインシリーズ JCS2017 ichida h (ページ 101-109)