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遺伝,染色体異常,発生頻度

a. 先天性心疾患の発生頻度・成因

先天性心疾患は,生命に直結する主要な先天性異常のな かで,中枢神経系に次いで

2

番目に頻度が高いといわれて いる.日本における先天性心疾患の頻度は

1,000

人の出生 に対して

10.6

人と報告され,欧米は

1,000

人の出生に対して

4.1

10.2

人であり,明らかな人種差は認められない26, 588)

(表3627).ただし,先天性心疾患の表現型は多彩であり,

成因も単一ではない(表38589)i. 染色体異常

染色体異常症では全身性の先天異常症候群を呈し,その 部分症として先天性心疾患を合併する(表38).通常の

G

バンド分染法では検出困難で,蛍光

in situ

ハイブリダイ ゼーション(

FISH

)法により異常を検出することのできる 染色体微細欠失症候群のなかにも,高率に先天性心疾患を 合併するものがある.

ii. 単一遺伝子病・症候群

メンデル型の遺伝形式(常染色体優性,常染色体劣性,

表34  各避妊方法によるパール指数

避妊方法 一般的な

使用

完璧な 使用

卵管結紮 0.5 0.5

子宮内避妊器具 0.8 0.6

プロゲストーゲン徐放性子宮内避妊器具 0.2 0.2 低用量エストロゲン含有避妊薬

9 0.3 プロゲストーゲン単剤避妊薬

コンドーム(男性) 18 2

Trussell J. 2004 585より作表)

表35 成人先天性心疾患において低用量エストロゲン避妊

薬を控えるべき疾患 チアノーゼ性心疾患 PH

低心拍出量 心室拡張 上室不整脈

静脈系の導管内血流の流れが緩徐の場合 高血圧(十分な治療が行われていない場合)

塞栓血栓の既往

Swan L, et al. 1997 586より作表)

表36  先天性心疾患の疾患(表現型)別頻度 小児循環器学会 疫学委員会27)

(20032,654人)

厚生省研究班26)

(1986773人)

米国Hoffman, et al. 588)

(19783,104人)

疾患名 頻度(%) 頻度(%) 頻度(%)

VSD 32.1 56.0 30.3

TOF 11.3 5.3 5.1

ASD 10.7 5.3 6.7

完全大血管転位 4.3 2.2 4.7

肺動脈狭窄 3.7 9.6 7.4

PDA 2.8 3.6 8.6

房室中隔欠損 2.3 1.8 3.2

三尖弁閉鎖 2.0 0.4 1.0

大動脈縮窄 1.9 2.7 5.7

大動脈弁狭窄 1.5 0.4 5.2

総肺静脈還流異常 1.4 1.2 1.1

肺動脈閉鎖 1.1 0.8

左心低形成症候群 0.1 0.6 1.3

その他 1以下 1以下 1以下

注)日本小児循環器学会疫学委員会の調査は,小児循環器専門施設を対象にしているため,厚生省研究班の一般新生児を対 象とした調査結果と比較すると若干の差が認められる.米国の報告は疫学委員会の報告にくらべ,PDA,大動脈縮窄,大動 脈弁狭窄,左心低形成(いわゆる左心系疾患)が多く,TOFASDが少なく,人種差が示唆される。

(松岡瑠美子ほか.2003 27より抜粋)

X

連鎖性)に従う疾患群.疾患責任遺伝子が特定されてい る疾患と特定されていない疾患がある.多くの場合,先天 性心疾患はその部分症として認められ(表38),

NKX2.5

変異,

GATA4

変異など,病因遺伝子により心臓だけが特

異的に障害される症例が単一遺伝子病全体のなかで占める 割合はいまだ少ない.

iii.催奇形因子・母胎環境(表39

胎児の心臓大血管系は妊娠初期(

3

8

週)に形成され る.この時期は,とくに催奇形因子による影響を受けやす く(受攻期),心臓の発生異常がもっとも起こりやすい時期 である.また,母体疾患のなかにも児の先天性心疾患に関 連するものがある.

iv.多因子遺伝

遺伝的素因と環境要因との相互作用により発症すると考 えられるもので,大部分の先天性心疾患,とくに心臓大血 管にだけ先天異常を有する症例のほとんどが該当する.複

数の同義遺伝子(単一では効果の弱い対立遺伝子)が互 いに相加的に働き,さらに環境因子の影響を受け,

1

つの 形質(表現型)を発現させるポリジーン系モデルによって 説明されるもので,換言すれば単一の原因を特定できない ものである(表40).

b. 先天性心疾患の同胞内発生頻度

多因子遺伝の場合,

1

度近親内の再発期待値は一般人口 頻度のルートに近似する.実際の再発率は経験値によって おり,第

1

子が先天性心疾患の場合,次子の経験的再発率 はおよそ

2

5%

(一般における発症頻度約

1%

2

5

倍 に上昇)である27, 589).同胞内に

2

人先天性心疾患児がい る場合は

7

10%

に,

3

人いる場合は

50%

以上に上昇す る.疾患の一致率は

60%

程度で,動脈管開存(

PDA

),肺 動脈狭窄,心房・心室中隔欠損では比較的高く,

Fallot

徴(

TOF

)では低い.

c. 先天性心疾患の親子間発生頻度

多因子遺伝の場合,母親が先天性心疾患の場合,その頻 度は経験的に

2

12%

,父親の場合

1

4%

と報告されて おり,母親からの再発率が高い(表41590).疾患別では 左心系の閉塞性疾患(大動脈狭窄など)の再発率が高い が,たとえば,母親がチアノーゼ性心疾患である場合には 自然流産の率も高く,各疾患の再発率・疾患一致率の評価 表37 先天性心疾患の成因

染色体異常 8%

単一遺伝子病 5%

催奇形因子 2%

多因子遺伝 85%

Nora JJ. 1991 589より作表)

は慎重でなければならない.

d. 先天性心疾患の遺伝カウンセリングの実際

先天性心疾患の児を生んだ親にとって,次子の心疾患再 発率を知ることは切実な問題である.多くの先天性心疾患 患者が成人に達し,親子間再発率が問題となるケースも増 加している.

遺伝カウンセリングは,適切な成因診断の後,専門的知

識・技能を有する専門医またはカウンセラーによって行わ れることが望ましい.染色体異常

/

遺伝子異常症候群を合 併した成人先天性心疾患患者には,知的障害や精神疾患の 合併も多く,理解力を考慮した適切な説明および親・配偶 者・ソーシャルワーカーなどのキーパーソン同席での説明 が必要である.詳細は,日本循環器学会の「心臓血管疾患 における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイ 表39  先天性心疾患の催奇形因子と環境要因

先天性心疾患の頻度(%) おもな病型

催奇形因子

  アルコール 40 VSD,PDA,ASD

  アンフェタミン 10 VSD,PDA,ASD,完全大血管転位   ヒダントイン 2〜5 肺動脈狭窄,大動脈狭窄,大動脈縮窄   トリメタジオン 15〜30 完全大血管転位,TOF,左心低形成症候群   リチウム 5 Ebstein病,三尖弁閉鎖,ASD

  レチノイン酸 15〜20 VSD,ASD,PDA

  性ホルモン 2〜4 VSD,完全大血管転位,TOF   サリドマイド 5〜10 TOF,VSD,ASD

感染

  風疹 35 末梢性肺動脈狭窄,PDA,VSD,ASD 母体疾患

  糖尿病 3〜5(30〜50) 円錐動脈幹異常,VSD,心肥大

  ループス 40 房室ブロック

  フェニルケトン尿症 25〜100 TOF,VSD,ASD

表38  先天性心疾患患者にみられるおもな染色体異常症候群および単一遺伝子症候群

おもな合併心疾患 合併頻度

染色体異常症候群 染色体

Down症候群 Turner症候群

21トリソミー 45X

VSD,房室中隔欠損,TOF,ASD,PDA 大動脈狭窄,大動脈弁狭窄,大動脈二尖弁

40〜50%

35%

微細欠失症候群 染色体/遺伝子 22q11.2欠失症候群

Williams症候群

del.22q11.2: TBX1など 7q11.23: elastinなど

TOF,VSD,肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損,主要大動脈肺動脈側 副動脈,大動脈離断(B型),総動脈幹

大動脈弁上狭窄,大動脈弁狭窄,大動脈二尖弁,僧帽弁逸脱,

僧帽弁閉鎖不全,肺動脈狭窄,ASD,VSD,末梢肺動脈狭窄

80%

75%

単一遺伝子症候群 遺伝子

Noonan/RAS/MAPK症候群

Alagille症候群 Marfan症候群 Loeys-Dietz症候群 Holt-Oram症候群

PTPN11,RAF1,KRAS,

SOS1,HRAS,BRAF,

MEK1,MEK2 JAG1 Fibrillin1 TGFBR1,

TGFBR2 TBX5

ASD,VSD,肺動脈狭窄,PDA,肥大型心筋症

TOF,末梢性肺動脈狭窄,ASD,VSD,大動脈狭窄

僧帽弁逸脱,僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁輪拡張,大動脈弁閉鎖 不全

PDA,大動脈弁輪拡張,大動脈解離 ASD,VSD

93%

70%

50%

ドライン」591)や日本医学会の「医療における遺伝学的検 査・診断に関するガイドライン」592)を参照のこと.

i. 多因子遺伝の先天性心疾患の再発率

前述の経験的再発率を基盤としてカウンセリングを行う.

家系内の心疾患発生状況を綿密に調査し,発端者が属する 家系が一般的な素因の家系か,家族性の強い家系(家系に 複数の先天性心疾患患者がいる)かを確認する.発端者の 妊娠初期に,表39のような催奇形因子の関与がなかった

かどうかを,母に罪悪感を抱かせることのないように十分 に配慮しながら聴取する.家系内にあった先天性心疾患の 自然治癒(とくに

VSD

の自然閉鎖など)についても,十分 に聴取し,家族歴ありとみなす.

ii.染色体異常・先天異常症候群を原因とする先天性心疾患 の再発率

染色体異常,単一遺伝子病による先天性心疾患は少数で あるが,(

1

)遺伝学的検査による診断,(

2

)保因者診断,

3

)再発率,(

4

)先天性心疾患と他の全身症状(症候群)

の自然歴,予後,包括的管理,(

5

)出生前診断など,遺伝 カウンセリングの内容は多岐にわたる.とくに,

22q11.2

失症候群593, 594)

Noonan

症候群など,比較的頻度が高く,

妊孕性のある症候群の成人例が遺伝カウンセリングの対象 となる.常染色体優性遺伝の症候群では,症候群の再発率 は

50%

だが,児に染色体異常ないし遺伝子異常が確定し ても,児の臨床表現型(自然歴・予後)を確実に予測する ことができない場合が多いことが問題である.両親に過度 の不安を与えることなく,症候群についての幅広い知識を もって,長期的に包括的な管理を行っていくことが大切で ある.詳細は,日本循環器学会の「心臓血管疾患におけ る遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライ ン」591)を参照のこと.

表41  父または母に先天性心疾患がある場合の児の再発率

13研究のメタ解析)

疾患 両親 % / 症例数

大動脈弁狭窄

8.0

3.8 2.1 36/248(12/46)

18/469(8/74)* 心房中隔欠損

6.1

3.5 1.7 59/969(6/48)

16/451(8/57)* 大動脈縮窄

6.3

3.0 2.1 14/222(6/38)* 9/299(3/26)* 心内膜床欠損

11.6

4.3 2.7 5/43(0/7)* 1/23(1/7)* 動脈管開存

4.1

2.0 2.1 39/828(9/83)

5/245(0/18)* 肺動脈弁狭窄

5.3

3.5 1.5 24/453(7/36)

14/396(8/43)*

Fallot四徴

2.0

1.4 1.4 6/301 5/362 心室中隔欠損

6.0

3.6 1.7 44/731(17/78)

26/717(10/94)*

合計

5.8

3.1 1.9 222/3,795 (57/336)

93/2,961 (38/319)*

(Whittemore 女/男 = 1.4)

* Whittemore R, et al. 590aのデータを含む.括弧内は同文献のみのデータ.

Nora JJ. 1994 590より)

表40  多因子遺伝の一般的および先天性心疾患の特徴 1. ありふれた疾患は,一般人口頻度0.1〜1%

2. 1度近親の経験的再発率が √―p (p=一般人口頻度)に一致,

一般に1〜5%

3. 一卵性双生児の一致(両児とも疾患を有する)率は二卵性の 5〜10倍(先天性心疾患では一卵性46%,二卵性4%)

4. 季節,社会階層,催奇形因子などの環境要因により,発生頻 度に差が認められる

5. 発生頻度に性差あり(ASD,PDAは女性に多く,大血管転位,

大動脈狭窄は男性に多い)

6. 頻度の少ないほうの性で,1度近親の再発率が高くなる 7. 1度近親に患者数が増せば増すほど再発率は上昇する(先天

性心疾患では,同胞に1人で2〜5%,2人で1530%,3 人で50%以上)

8. 発端者の疾患が重症なほど,同胞の発生率が増加する 9. 近縁の度が少なくなるほど急激に再発率が低下する.1度近

親で一般人口頻度の数十倍,2度近親で数倍,3度近親では 一般人口頻度にほぼ等しい