• 検索結果がありません。

 人物を移動した際に残った以前の形を利用して線描の要素を残した。細部をまとめて完 成とした。結局、エスキースにおいて描いた形の中で最後まで残った形は画面左上の歪ん だ黄色い円筒の下にある握った手だけとなった。

手の部分

 この作品においては最終的に参考にしようと思ったエスキースの画面の比率と本制作画 面の比率との違いが大分制作に影響を与えたと思われる。それはエスキースの画面の比率 を本制作の画面の比率に合わせれば解決すると思われる。さらに正確さを求めれば、エス キースの画面と本制作画面に升目をひいて形を写し取ればよい。本制作を制作中に新たな イメージが出てきたらあまりエスキースにこだわりすぎずに柔軟に対応していきたいと考 えている。もしエスキースのイメージに最後までこだわるのであればエスキースに愛着が 湧くくらいエスキースを徹底的に練り込むようにした方が効果的であると思われる。その 場合は原寸大により近いサイズのエスキースも描く方がよい。しかし現在の所本制作に入 る前のエスキースをそれほど重視していない。エスキースを描く場合どのような大きさの 画面に描くためのエスキースか、という事を体感するためにエスキースを描く前にキャン バスを張って地塗りをすましてしまう。その前でエスキースを描くことにしているが、な にも描いていないキャンバスは全くの空白である。その空白に何のイメージもなしに描き 始めるのは準備がなさ過ぎるような印象を受ける。そのためエスキースを描くようにして いる。エスキースで描いた構図で描くという意識はあまりない。感覚的に本制作に入って いいと思えば本制作に入る。助走のような感覚でエスキースを利用している。

 そのため本制作とエスキースの間に明確な区別がなく、本制作画面上においても引き続 きエスキースを描いているような感じがある。このような制作過程を行う原因には本制作 画面の持つ臨場感という問題がある。エスキースを描く場合ある程度本制作の画面に描く 時の事を予測して描く。しかし、それはあくまでも予測である。エスキースである以上ど

うしても本制作を意識して描く。しかし、本制作の画面に描いているわけではない。本制

作の画面に制作している時の臨場感は感じない。このため、筆者のエスキースにおいては 分析的な視点が多く感覚的な部分が少ない。そのため、はやく本制作に取りかかって描い ている、という感覚を味わいたくなる。このような理由で筆者はエスキースをあまり厳密 に描かない。しかし、エスキースを一つの素描作品として捉えたなら、そのようなエスキ ースを描いている時の臨場感の無さは感じないかもしれない。例えば第2章第1節第5項 においてとりあげたポール・デルボーのエスキースなどは一つの素描作品として成立して おり、画面の中に空間、っまり臨場感を感じさせる。そのためにはエスキースを描く時に 一つの素描作品を描く、という意識が必要になる。また、それに見合った画材と支持体、

そして支持体のサイズに気を配る必要が出てくる。分析的、客観的エスキースと主観的、

感覚的傾向のエスキースとを使い分ける必要があると思われる。

第4項 2006年制作F130号の油彩画の制作

 F130号においてはエスキースを一枚も描かずに本制作画面に入った。そのため、本 制作画面上でエスキースを描く事となった。本制作画面を制作する前にエスキースを描か ずに本制作画面に着手すると本制作画面に直接エスキースを描くことになる。そのため、

事前にエスキースを描いた場合よりもやはり画面の動きが激しい。

第1段階

 上から落ちてくるような設定と画面中央に右側を向いて浮かんでいる設定とを思いつい た。どちらにするか迷ったのでどちらも描いて試すこととした。それと同時に周りの物も 描き進めた。その結果右側を向いている方の構図を選んだ。

第2段階

 真ん中の人物をもう少し描きこんだ。体だけでなく顔もつけることにした。左後ろの黄 色い四角は残すことにした。しかしまだ上から落ちてくる人体の構図も捨てきれていない。

右向きの人体にかぶせて上から落ちてくる人物の腕を具体的に描いてその印象を試してい る。また、画面右上にもう一匹蝶を描き加えている。中央の人物の顔の横に葉っぱを描い たが、その葉っぱを顔にもかぶせてみた。その連動で顔の上部にも大きな葉っぱをかぶせ てみる。これは真ん中の人物のイメージがあまり速い段階で決まってしまうのを嫌ってあ えてそのイメージを潰すものを描き入れた。

第3段階

 この段階においては真ん中の人物の形が大分明確に見え始めている。画面上から落ちて くる人物の形もなくなった。また、顔に重なっていた葉っぱも取り払った。その分入物の 形が強く出てくることになった。また、左上の四角の左側に人物の足をデッサンした。こ のことにより人物の存在感が増すこととなった。しかし人物のイメージだけがあまりに強 くなってしまうと画面が単調になってしまうため人物のイメージを弱くするために人物の 体に重ねて長細い箱を描くこととした。真ん中の人物を描くのと同時に周りの物も具体的 に描いていく。例えば人物の顔の横にあった葉っぱを弱くしてそのかわり人物の手をより 具体的に描いたりしている。

第4段階

 先の段階で真ん中の人物のイメージがあまりに明確になりすぎた。そのためまた違うイ メージを探りたくなってきた。そこで、まず人物に重ねて描いてあった柱を少し真ん中に 寄せてみた。先の段階においては人物のイメージを損なわないように切り取られた腕を避 けて描いていたのであるが今度は人物の体に重ねて描いた。このことによって人物のイメ ージが大分弱くなった。そうなるともっと人物のイメージを壊したくなったので人物に重 ねて大きな蝶を描いた。そこまですると今度は人物のイメージがほとんど消えてしまった。

そこで、代わりに画面上部に横たわった人物のイメージが湧いてきたので試しに画面右上 に人物の顔だけ描いてみた。

第5段階

 第5段階においては先に描いたイメージをより描き進めている。真ん中寄りの柱をより 明確にし、その横にあった柱の形を消すこととした。真ん中の柱を描き込んだことにより そこにあった大きな蝶が弱くなった。また、画面左下に葉っぱを描き入れた。画面上部に ある左と右の四角が繋がってテーブルのようなイメージになった。

第6段階

 第5段階のテーブルのイメージで描き進めようかとも思ったが再び画面中央に一旦潰し た人物を描き入れることとした。また、画面右上にあったテーブルのイメージを潰して画 面右上の顔の形とつなげてみた。画面中央の下にある細い筒を少し明確にする。また、画 面右下にも細い筒を描き入れる。

第7段階

 画面右上の形をより明確に描き込み人物の上半身にする。中央の人物を描き込んだら人 物のイメージが強くなりすぎたので再ぴ人物の形に重ねて柱を画がき込むことにした。中 央の人物の体の後ろ、画面左上と画面真ん中の柱の中に木の枝を描き入れる。また、中央 の人物の手の右側に横に長い箱を描いた。また、蝶の下に板を描き入れた。画面左下の葉

っぱを描き込んだ。ここまで描いてみてこの画面のいろいろな欠点が見えてきた。まず、

画面全体の色が似かよっている。ていることである。また、画面全体の描きこみの量が均 一的であるということも欠点としてあげられる。これらの事を考慮に入れながら次の段階 へと進むこととする。

第8段階

スケッチ 27×19cm

 第7段階においては背景が真っ暗であった。第7段階を見て、画面上の色がよく似てい てメリハリがないという事に気づきなんとかしたいと思っていた。そこで背景の明度を大 きく分けてみたら少しは画面上に明確な違いが出るかと思い画面の上部を明るくした。そ

うすると画面の上部に山のようなシルエットが浮かぴ上がる事となった。そのため、第7 段階までは閉塞的な印象があった画面が戸外の印象に変わり開放感が出た。第7段階と第

8段階の制作の間には大分時間が空いていて、その間に戸外でスケッチをする機会を得た。

モチーフは鉄塔である。鉄塔のイメージには以前から何か惹かれるものがあった。このス ケッチはF130号を意識したものではないが、画面上部に山のイメージが出てきた時に 使う事とした。線描では形が浮かびあがらないので面で鉄塔の形を描いた。この形を画面 の左右と中央人物の上に描いた。また、画面右下の細い棒とその隣の板を1つにして太い 棒にした。その他画面中央に人物の体に重ねて長い棒を描き入れた。第9段階においては 画面上部の明るい部分の汚れを利用して画面真ん中の鉄塔の横にカラスのシルエットを描 き入れた。また画面中央の人物に重なって描いた棒をもう少し長くした。そして画面の調 子を整えて完成することとした。

第9段階  F13Q号 完成作

 以上F130号の制作過程を見てきた。絵の具の厚みが少ないという欠点があったので 今回は始めの地塗りにおいて大分厚めにライトレッドを塗りつけた。そのため描き始めの 段階において下地のライトレッドがなかなか消えなかった。その原因は描き始めた時に比 較的薄塗りで制作を進めたからである。厚塗りで制作を進めれば恐らくこの問題は解消さ れると思われる。始めの段階で他画面においてエスキースを描いていなかったので、本制 作の画面上で色々とエスキースを行うこととなった。それはそれで、本制作画面上で感じ