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紙鉛筆24×45,5cm

 馬と死んだ子供を抱いた母のエスキースである。この母子は完成作においては左の牡牛 の下に登場する。少し調子が付いているが、線を主体として描いている。しかし形がはっ きりして強い印象を受ける。ピカソの《ゲルニカ》のためのエスキースを見ていくと、回 数を重ねるにしたがって抽象的な単純な形になっていく。上に挙げたエスキースなど線描 主体で描いているが、形をしっかりつかまえているという印象を受ける。一つの画面に全 く別々の大きさで登場する馬と女性を描いているが、画面の中で違和感がない。一つの素 描作品としても成立している。面白い作品とも言える。この力強さは構想を練り込んだ結 果出てきたのであろう。画面の中にしっかりと食いつくような線である。

 11日目にはカンヴァスに着手しているのであるが、その後も人物のエスキースを続け ている。ピカソは5月11目にカンヴァスに着手している。そのため、これらの手のエス キースと馬の頭部のエスキースはカンヴァス上で制作を進めながら描いたものである。こ の手のエスキースは画面左側の倒れた人物の右手である。画面の右手と大分手の角度が違 う。本制作に合わせてエスキースを描くのではなく、エスキースで出てきた形と本制作の 形とを衝突させてより練り込まれた形を追及している。

      .〆       ブ       ず 図20《ゲルニカ》の習作デッサン号.

 1937年5月13日

      〜.『

 紙鉛筆

 23, 9×45,4c皿

図21《ゲルニカ》の習作デッサン

 1.937年5月20日紙鉛筆・グワッシュ  29×23, 1cm

 その下に挙げたのは馬の頭部の部分的エスキースである。形や調子を追求するために描 いたのであろう。記録された制作段階のうちの4段階目に馬の頭部が右向きから左向きに 変わる。その際描かれたエスキースであると思われる。ここからはカンヴァスに着手して からの制作段階を見ていく事とする。

図22 第1段階

 この構図は窓から身を乗り出す女性が突き出すランプを中心とした巨大な三角形を中心 に、その左に牡牛と母子、右に炎に包まれる人物を配置した三連衝立の形式をとっている。

母子像と窓の女は、この段階ですでに最終的な姿をとっている。牡牛は第一日目に描いた エスキースと同じ方向を向いている。ある程度の変化はあるのだが大まかなモチーフの配 置は完成作と同じである。調子を使わずに線描によって比較的細かい所までデッサンして

いる。

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図23 第2段階

 第2段階になるとわずかに黒と灰色が塗られ始める。兵士の右手の拳に麦の穂が握られ ている。また、その背後に太陽が現れる。

図24 第3段階

 第3段階になると大体画面に絵の具がいきわたる。画面上方にあった兵士の拳は消え太 陽が目の形に変わる。また、画面中央に向いて横たわっていた兵士が左向きになる。

図25 第4段階

 第4段階になると牡牛が胴体を左にひねり母子像をその下に抱えこむようになる。また、

それまで下を向いていた馬が頭部を太陽の下に向けている。また、画面右上の部分も絵の 具がのせられ暗くなる。右端の炎に包まれる人物にも大分手が入り始める。

図26 第5段階

 第5段階においては色の付いた紙が左端の母子の体の辺りや右側の窓からランプを差し 出す女性の下にいる女性の体のあたりに貼られている。これはピカソがこの画面に着色す るつもりでその色具合を試しているところである。右端の炎に包まれる人物は一旦下げて いた手を上に伸ばし、ほぼ完成作と同じ形になっている。第6段階においては色紙が取り 払われた。この時点で白と黒そして灰色という色調で画面を統一することに決めたようで

ある。

図27 第7段階

 第7段階においてはそれまで下向きであった兵士の頭が上向きに変えられるとともに首 だけになり、馬の顔と牡牛の顔の間の白い斑点が鳩になった。そしてそのしたにテーブル が描かれることとなった。また、左端の牡牛の体の背景が明るくなり、牡牛の形が明確に 浮かび上がることとなった。また、目の形をした太陽周りも暗くなり、より明確な形とな

った。

図28

完成作

 完成作においては目の形の太陽の中に裸電球が描かれ、それまでの屋外という開かれた 空間は、一気に室内を思わせる閉ざされた空間となった。画面の端に室内を思わせるパー スペクティブがあることから室内を感じさせるのであるが、それでいて室外の雰囲気も感 じさせる不思議な空間である。太陽の中に裸電球を描いたことにより室内の要素が強まり 画面に閉塞感や緊迫感が生まれている。ここまでピカソの制作過程を見てみるとある程度

段階的に制作を進めている事がわかる。大まかな枠組みを作った上で細部に至る制作は基 本的なエスキースの扱い方をしている。また、キャンヴァスに着手した時には大分完成作 のイメージが見えてきている。本制作に入る前に多くのエスキースを描いているのであろ

う。しかし本制作に入ってからもいろいろと形を変化させている。倒れた兵士などは比較 的大幅に変化している。また、馬の頭部の位置、そして牡牛の体の向きなどである。この ように本制作を描き始めてからも大きな画面の構成までは動かさないが、大分大きな変更 をしている。その過程においても部分的なエスキースを描いている。このように一つ一つ の細部に至るまで本制作に入る前と本制作に入ってから多くのエスキースを描くことによ りそれぞれの細部に至るまで練り込みがなされ、その形にこだわりや重量感が出てきてい るのがわかる。

 《ゲルニカ》が349.3×776.6c皿という巨大な画面であるためもあるが、ピカソは この作晶を描くにあたって、少なくとも総計45枚のデッサンを残している。キャンヴァ スに着手してから大分経ってからのエスキースでも本制作画面上の形と全く違うエスキー スも残している。これらのものは本制作画面にとらわれずにのびのびとイメージを探るた めに描かれたものと思われる。ピカソの制作においてはエスキースで練り込んで見つけた 形も画面上で流動的に変化していっている。そしてその過程においても多くのエスキース を利用している。まるで本制作画面上でもエスキースを行っているようでエスキースと本 制作の区別があまり明確ではない。エスキースを多く使いながらエスキースに縛られてい ない。エスキースを上手く使っていると言える。

第4項エドヴァルド・ムンク

ムンクの《熱病》を見てみる。

図29《熱病》グワッシュ、鉛筆