3.5 ナノ空間に閉じ込められた純水薄膜の安定性の検討
3.5.2 DLVO 理論
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式(3.8)を積分すると式(3.9)が得られる.ただし,𝑁𝑁は単位体積あたりの分子数,𝐶𝐶12は孤立分
子と平板内の分子の相互作用によるLondon-van der Waals定数である.
次に,互いに距離ℎ離れた二枚の厚さ𝑑𝑑の平行平板の単位面積あたりの相互作用エネルギ
ー𝑉𝑉(ℎ)を考える.式(3.9)を式(3.10)のように積分すると式(3.11)が得られる.
ここで,𝐴𝐴=𝜋𝜋2𝐶𝐶𝑁𝑁2は Hamaker 定数である.二枚の平行平板の距離ℎが十分近い(ℎ ≪ 𝑑𝑑)と
すると,式(3.11)は式(3.12)となる.
よって van der Waals 相互作用による単位面積あたりに働く力は𝛱𝛱𝑣𝑣𝑑𝑑𝑣𝑣(ℎ) =−d𝑉𝑉⁄dℎである
から式(3.13)で表される.
この式は間隔ℎの2つの平行平板間に働く力であるが,逆に,厚さがℎの物質に働く力も,バ ルクの状態から2つの平行平板がなくなったと考えれば,同じ式(3.13)で表されることにな る.
ただし 𝑢𝑢(𝜌𝜌) =−𝐶𝐶12
𝜌𝜌6 =− 𝐶𝐶12 (𝑟𝑟2+𝑥𝑥2)3
𝑉𝑉(ℎ) =−𝜋𝜋𝐶𝐶12𝑁𝑁 6 �1
ℎ3− 1
(ℎ+𝑑𝑑)3� (3.9)
𝑉𝑉(ℎ) =� �−𝜋𝜋𝐶𝐶𝑁𝑁 6 �1
ℎ3− 1
(ℎ+𝑑𝑑)3��
ℎ+𝑑𝑑
ℎ 𝑁𝑁dℎ (3.10)
𝑉𝑉(ℎ) =− 𝐴𝐴 12𝜋𝜋 �
1
ℎ2− 2
(ℎ+𝑑𝑑)2+ 1
(ℎ+ 2𝑑𝑑)2� (3.11)
𝑉𝑉(ℎ) =− 𝐴𝐴
12𝜋𝜋ℎ2 (3.12)
𝛱𝛱𝑣𝑣𝑑𝑑𝑣𝑣(ℎ) =− 𝐴𝐴
6𝜋𝜋ℎ3 (3.13)
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拡散電気二重層
電解質水溶液中の粒子の表面は解離基や吸着したイオンによって帯電している.表面電 荷と反対符号のイオンはクーロン力によって粒子表面に集まる.このイオンを対イオンと いう.一方で,表面電荷と同符号のイオンは遠ざけられる.このイオンを副イオンという.
このとき,粒子表面に集まってきた対イオンによって表面電荷を完全に中和することはな い.なぜならば温度𝑇𝑇 >0 Kのときイオンは熱運動をしておりエントロピーが増大するよう に拡散するからである.よって,これらのイオンを引き寄せる効果と遠ざける効果がバラン スするように対イオンは分布し粒子表面のまわりにイオンの雲を作る.これを拡散電気二 重層という.
拡散電気二重層による静電的な力
電解質水溶液中で二つの粒子が近づき互いの拡散電気二重層が重なると静電的な斥力が 働く.イオンのサイズ効果を無視して二枚の同種の帯電した平行平板が距離ℎだけ離れて向 かい合う場合に電気二重層相互作用によって 2 つの向かい合う平行平板に働く圧力を求め る[104].
圧力𝑃𝑃と化学ポテンシャル𝜇𝜇=𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧+𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇log𝜌𝜌は式(3.14)のように表される.
ただし,𝑧𝑧はイオンの価数,𝑧𝑧は電気素量,𝑧𝑧は電位,𝜌𝜌は平行平板間の任意の点𝑥𝑥における価 数𝑧𝑧のイオンの数密度である.二つの平行平板の距離を温度一定で𝑥𝑥′=∞から𝑥𝑥′=ℎ⁄2まで 近づけたときの平行平板間の任意の点𝑥𝑥における圧力は式(3.15)で表される.
ただし,𝑘𝑘𝐵𝐵はボルツマン定数である.Poissonの式より,
�𝜕𝜕𝑃𝑃
𝜕𝜕𝑥𝑥′�𝑥𝑥,𝑇𝑇=𝜌𝜌 �𝜕𝜕𝜇𝜇
𝜕𝜕𝑥𝑥′�𝑥𝑥,𝑇𝑇 (3.14)
𝑃𝑃𝑥𝑥(ℎ)− 𝑃𝑃𝑥𝑥(∞) =𝑃𝑃𝑥𝑥(ℎ) =� �𝑧𝑧𝑧𝑧𝜌𝜌 �d𝑧𝑧
d𝑥𝑥′�d𝑥𝑥′+𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 �d𝜌𝜌 d𝑥𝑥′�d𝑥𝑥′�
ℎ
∞
=− � �𝑧𝑧𝑧𝑧𝜌𝜌 �d𝑧𝑧
d𝑥𝑥′�𝑥𝑥d𝑥𝑥′+𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇d𝜌𝜌𝑥𝑥�
𝑥𝑥′=∞
𝑥𝑥′=ℎ
(3.15)
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ただし,𝜀𝜀0は真空の誘電率,𝜀𝜀は溶液の比誘電率である.また,数学的に式(3.17)の変形が成 り立つ.
式(3.16),式(3.17)を式(3.15)に代入すると式(3.18)がえられる.ただし,𝑃𝑃𝑥𝑥(∞) = 0である.
ここで,平行平板の中央面𝑥𝑥=ℎ⁄2における全イオン濃度を∑ 𝜌𝜌𝑖𝑖 𝑚𝑚𝑖𝑖とすると
であるから,式(3.19)を式(3.18)に代入して,
∑ 𝜌𝜌𝑖𝑖 𝑚𝑚𝑖𝑖(∞)=𝜌𝜌∞はバルクでの全イオン濃度である.平行平板間のイオン分布がBoltzmann分 布に従うとすると任意の点𝑥𝑥におけるカチオンとアニオンの濃度はそれぞれ式(3.21),式
(3.22)のように表すことができる.
𝑧𝑧𝑧𝑧𝜌𝜌=−𝜀𝜀0𝜀𝜀 �d2𝑧𝑧
d𝑥𝑥2� (3.16)
d d𝑥𝑥 �
d𝑧𝑧 d𝑥𝑥�
2
= 2�d𝑧𝑧 d𝑥𝑥� �
d2𝑧𝑧
d𝑥𝑥2� (3.17)
𝑃𝑃𝑥𝑥(ℎ) =�−1
2𝜀𝜀0𝜀𝜀 �d𝑧𝑧 d𝑥𝑥�
2
𝑥𝑥(𝐷𝐷)+𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 � 𝜌𝜌𝑥𝑥𝑖𝑖(ℎ)
𝑖𝑖
�
− �−1
2𝜀𝜀0𝜀𝜀 �d𝑧𝑧 d𝑥𝑥�
2
𝑥𝑥(∞)+𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 � 𝜌𝜌𝑥𝑥𝑖𝑖(∞)
𝑖𝑖
�
(3.18)
� 𝜌𝜌𝑥𝑥𝑖𝑖
𝑖𝑖
=� 𝜌𝜌𝑚𝑚𝑖𝑖+
𝑖𝑖
𝜀𝜀0𝜀𝜀 2𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 �
d𝑧𝑧 d𝑥𝑥�
2
𝑥𝑥 (3.19)
𝑃𝑃𝑥𝑥(ℎ) =𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 �� 𝜌𝜌𝑚𝑚𝑖𝑖(ℎ)
𝑖𝑖
− � 𝜌𝜌𝑚𝑚𝑖𝑖(∞)
𝑖𝑖
� (3.20)
𝜌𝜌+=𝜌𝜌∞exp�−𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑥𝑥
𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 � (3.21)
𝜌𝜌−=𝜌𝜌∞exp�+𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑥𝑥
𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 � (3.22)
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圧力は平行平板間で一様であると仮定し,式(3.21),式(3.22)を式(3.20)に代入すると,アニ オンとカチオンがそれぞれ1価の電解質水溶液の場合は𝑧𝑧= 1であるので,
𝑧𝑧𝑚𝑚がそれぞれの平板表面から距離𝑥𝑥 =ℎ⁄2における電位の和であると仮定すると,𝑧𝑧𝑚𝑚≈ 2(4𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇𝛾𝛾 𝑧𝑧⁄ )exp(−𝜅𝜅ℎ⁄2)となる.ただし,カチオンとアニオンが1価の電解質水溶液のとき 𝛾𝛾と𝜅𝜅はそれぞれ式(3.23)と式(3.24)となる.ここで,𝑧𝑧0は表面電位,𝜅𝜅−1はデバイ長である.
したがって式(3.23)に式(3.24)と式(3.25)を代入すると,平行平板に働く電気二重層相互作用 による単位面積あたりの静電的な斥力𝛱𝛱𝑒𝑒𝑙𝑙は式(3.26)で表される.
𝑃𝑃=𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇𝜌𝜌∞��exp�−𝑧𝑧𝑧𝑧𝑚𝑚
𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇� −1�+�exp�𝑧𝑧𝑧𝑧𝑚𝑚
𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇� −1��
= 2𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇𝜌𝜌∞�cosh�𝑧𝑧𝑧𝑧𝑚𝑚
𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇� −1�
≈𝑧𝑧2𝑧𝑧𝑚𝑚𝜌𝜌∞
𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 for 𝑧𝑧𝑚𝑚< 25 mV
(3.23)
𝛾𝛾= tanh�𝑧𝑧𝑧𝑧0
4𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇� (3.24)
𝜅𝜅=�2𝜌𝜌∞𝑧𝑧2
𝜀𝜀0𝜀𝜀𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇 (3.25)
𝛱𝛱𝑒𝑒𝑙𝑙 = 64𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇𝜌𝜌∞𝛾𝛾2exp(−𝜅𝜅ℎ) (3.26)
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