2.3 透過型電子顕微鏡による直接観察
2.3.3 電子線照射による発泡実験
2.3.3.3 観察結果
36
37
ラスター)であると考えられるが,気体分子の数が少ないために気相と液相のコントラスト が小さく界面が明瞭ではない.その後照射時間が経過するにつれて気体分子の数が増える と気相と液相のコントラストが大きくなり界面が明瞭となった.本文では,この二つの状態 を区別するために,気体分子発生直後の界面が明瞭ではない気相を「気体分子の集合体」,
気体分子数が増加し界面が明瞭になった気相を「気泡」と表現した.
一方で,2×105倍で観察した場合,照射70秒後に直径4-5 nmの気体分子の集合体が生 じ,3×105倍で観察した場合と同様に時間の経過につれて気体分子が増加し気泡となった.
本研究において,電子線照射によって生成した気相領域の最小直径は2×105倍で4-5 nm, 3×105倍で7-8 nmであり,倍率によって異なることが明らかになった.ただし,気泡核生 成の開始時間と倍率の相関は見られなかった.
38
Figure 2.9 (a, b) TEM images illustrating the generation of a gas-phase cluster and transformation into a nanobubble during TEM observations. (a) TEM images of water at a magnification of 3 ×105. 23 s after TEM electron beam irradiation was started, an embryonic gas phase was formed, and subsequently transformed into a nanobubble. (b) TEM observations were performed using a magnification of 2×105. It took 70 s of irradiation time for bubble nucleation to occur. The scale bars in all images are 10 nm.
39
観察初期の気泡の発生位置
Figure 2.10に示すように2種類のフリンジが同時に観察されたため,フレネルフリンジ法
を用いてこれらの気泡の高さ方向の位置を特定した.Figure 2.10は,倍率2×105倍で気泡 核生成の時間経過を観察したときの結果を示している.任意の時刻をt = 0 sとした.t = 0 s では,白色の矢印で示したように細く暗いフリンジをもつ気泡がすでに発生しており,時間 の経過につれてさらに成長し,t = 20 sでは界面のコントラストをはっきりと確認すること ができる.細く暗いフリンジをもつ気泡とは別に,t = 20 sでは,黄色の矢印で示したよう に内側に太く暗いフリンジ外側に太く明るいフリンジをもつ気泡が発生した.新たに気泡 が発生する場合,新しい気泡はすでに発生している気泡とは重ならないようにして気泡が 発生していない場所から発生した.
Figure 2.10 Time evolution of TEM images of nanobubble nucleation. White arrows indicate bubbles with narrow and dark fringes. Yellow arrows indicate bubbles with thick and bright fringes on the outside of their edges.
40
t = 55 s (Figure 2.11 (a))のフレネルフリンジの幅の分布を調べた.フリンジの幅を横軸に気
泡の個数を縦軸にとると,Figure 2.11 (b)が得られた.細く暗いフリンジの気泡は黒色の輪郭 の幅を,外側に太く明るいフリンジを持つ気泡は白色の輪郭の幅をそれぞれ計測した.その
結果,Figure 2.11 (b)には二つのピークがあり,左側のピークは(Figure 2.11 (a))で黄色の数字
で番号付けした細く暗いフリンジを持つ気泡から得られたピーク,右側のピークは白色の 数字で番号付けした太く明るいフリンジを持つ気泡から得られたものである.つまり,
Figure 2.10で観察された気泡は「細く暗いフリンジ」をもつ気泡と「太く明るいフリンジ」
をもつ気泡の二種類だけであり,それぞれのピークを成す気泡は同じ高さに存在している ことから,気泡が存在する高さは二種類あるということがわかる.すなわちこれは,気泡は 上側あるいは下側のSi3N4膜表面上に存在していることを示している.2.3.3.2節で述べたフ リンジの明るさとフォーカスの状態の関係を考慮すると,細く暗いフリンジをもつ気泡は 下方のSi3N4膜表面上に,太く明るいフリンジを持つ気泡は上方のSi3N4膜表面上に存在す ると考えられる.ゆえに,t=55 s までに生成した気泡は全て不均質気泡核生成によって生 じたことがわかった.
41
Figure 2.11 (a, b) Measurement of the width of the Fresnel fringes of the interfacial nanobubbles. (a) TEM image following Figure 2.10. Interfacial nanobubbles numbered with white letters have thick and bright fringes on the outside of their edges, and ones numbered with orange letters have narrow and dark fringes. (b) Histogram of nanobubbles numbered as shown in (a). The width of the bright fringes and dark fringes were defined as the width of the white fringes and the black fringes, respectively. The left-hand peak was due to dark fringes, and the right peak was due to the bright fringes.
42
Figure 2.12 では液体セル内で観察される不均質気泡核生成の位置の時間経過を三次元的
に考えた.t = 11 sでは,細く暗いフリンジを持つ気泡aと気泡bが下方のSi3N4膜表面上に
ある.t = 18 sでは,太く明るいフリンジを持つ気泡cが上方のSi3N4膜表面上に生成し,t
= 38 sでは新たに気泡dが下方のSi3N4膜表面上,気泡e,気泡f,気泡gが上方のSi3N4膜 表面上に生成している.t = 44 sでは,気泡fと気泡gは合体している.つまり,液体セル 内では電子線の下流にある Si3N4膜表面上の気泡が先に見え始め,続いて上流にある Si3N4
膜表面上の気泡が見えた.しかしながら,物理的には上流のSi3N4膜表面上がより早く核生 成が起こるあるいは上流下流でほぼ同時に起こると考えられる.この液体セルは自作のも のであるため上下のSi3N4膜表面の濡れ性が不均一な可能性があり,表面の濡れ性の違いに よって物理的予想とは反して下流の Si3N4膜表面から先に核生成が始まったと考えられる.
さらに,上流側のSi3N4膜表面上の核生成の位置は,下流側のSi3N4膜表面上にある気泡の 真上を避けた位置であることがわかった.
Figure 2.12 (a, b) Images of the time evolution of bubble nucleation on the top and bottom Si3N4
membranes. (a) TEM images when the position of the objective plane corresponded to near the surface of the bottom Si3N4 membrane, at a magnification of 2 × 105. The white arrows indicate interfacial nanobubbles a, b, c, d, e, f, and g. Nanobubbles a, b, and d have narrow and dark fringes, and c, e, f, and g have thick and bright fringes on the outside of their edges. The scale bars in all images are 20 nm. (b) Schematic illustrations of heterogeneous nucleation in the area surrounded by the white dotted line in (a). Nanobubbles e, f, and g formed apart from the position above the nanobubble a.
43
気泡の成長速度
Figure 2.13 Time evolution of the average diameter of bubbles A, B, and C, as illustrated in the TEM images on the right (taken using a magnification of 3 × 105). 0 s is the time when bubbles A, B, and C emerged. The scale bars in all images are 20 nm.
高倍率で電子線を照射し続けると気泡は成長した.合体せずに単独で成長する個々の気 泡の見かけの成長速度について3個の気泡を比較した.Figure 2.13は3個の異なる気泡A, B,Cの見かけの気泡半径rの時間変化を示している.観察倍率は3×105倍である.それぞ れの気泡が発生した時間を0秒として1秒ごとにプロットしている.見かけの半径rはTEM 画像上に投影された気泡の面積 A を画像処理ソフトウェアで計測し,気泡の形状を真円と 仮定して式(2.3)から求めた.
𝑟𝑟=�𝐴𝐴 𝜋𝜋⁄ (2.3)
Figure 2.13の気泡A は照射61秒後に生じ,気泡Bは照射 66秒後に気泡A の近くに生じ
た.二つの気泡は成長して,Aの生成から20秒後に接触した.見かけの気泡半径は時間に 対してほぼ線形に増加し,傾きを成長速度とすると,A の成長速度は0.59 nm/s,Bの成長
速度は0.17 nm/sであった.さらに,Bと同程度の最小半径を持ち周囲に気泡がない気泡C
44
の成長速度を求めると0.26 nm/sであった.つまり,気泡の成長速度は,近傍により大きな 気泡をもつ気泡,周囲に気泡がない気泡,近傍により小さい気泡をもつ気泡の順に大きくな ることがわかった.
気泡の合体
Figure 2.14 TEM images of nanobubbles, all of which generated due to heterogeneous nucleation in water. Time shows the electron beam irradiation time, respectively. Small bubbles are indicated by yellow dashed circles, which coalesced into bubble D. White arrows indicate the moving direction of interfaces. Red dashed lines indicate the overlapping interface of bubble E. Inserted schematic illustrations are possible three-dimensional views of small and large nanobubbles.
45
気泡は単独で成長するだけでなく,他の気泡と接触すると頻繁に合体を起こした.Figure 2.14に気泡の合体過程を示す.これらの気泡は全て下方のSi3N4膜の観察窓上で発生した表 面ナノバブルである.電子線照射t = 38 sの気泡Aと気泡Bは各々成長して時間の経過とと もに気液界面同士が近づく.t = 49 sではAとBの気液界面は接触しているがその境界のコ ントラストはt = 54 sでも完全には無くならず徐々に消えていき最終的に消滅してAとBは 合体した.コントラストが徐々に消えた理由は,A とBの気液界面が接触して結合しても 固体表面に吸着した水がしばらく残っていたためであると考えられる.このような気泡の 合体過程は生成直後の小さい気泡と小さい気泡が合体する場合に頻繁に観察された.液膜 が破断して気泡が合体する瞬間はTEMの画像取得速度よりも速いため捉えることはできな かった.一方,ある程度成長した大きな気泡C,D(AとBの合体後の気泡),E,Fは異なる 成長過程を示した.CとDの間の水の液膜の厚さの時間経過をFigure 2.15に示す.CとD の気液界面の距離は一様ではなかったため,液膜の最も薄い二ヶ所の距離を計測しそれぞ れL1 ,L2とした.
Figure 2.15 The time evolution of the thickness of a thin water film between C and D as shown in the inserted TEM image and in Figure 2.14. Black lines indicate the thickness fluctuation of the film on the interacting stage.
Figure 2.15より,CとDが接近する過程には3段階(自己成長(Self-growing stage),相互作用 (Interacting stage),平衡(Equilibrium stage))に分けられることがわかった.Self-growing stageで は液膜の厚さは単調に減少することから気泡は互いに物理的に干渉することなく各々成長
46
していると考えられる.t = 52 sからt = 63 sまで,CとDは液膜を介して押し合いをし,そ れによってCとDの気液界面は前進と後退を繰り返す.この様子をFigure 2.16に示す.こ のような相互作用は小さい気泡間の接近時にはみられず,成長した大きな気泡で観察され た.最終的にCとDの間の液膜の振動は止まり,CとDの気液界面は平坦になり液膜の厚 さは一定となる.このときCとDの間の液膜は平衡状態に達し安定していると考えられる.
同様に,Eが成長してFに接触したとき,それらは合体せずに間に水の液膜を維持したまま EがFの上を覆いかぶさるようにして成長する.ZhangとLohseら[88]は,大きな気泡の気 液界面が表面ナノバブルの上を移動するとき気泡間に水の薄膜を維持することを報告して おり,本研究の実験結果は彼らの研究結果と一致している.大きな気泡と大きな気泡の間の 薄膜もしばらく平衡状態を保った後は破断して二つの気泡は合体する.