3.5 ナノ空間に閉じ込められた純水薄膜の安定性の検討
3.5.3 架橋された純水液膜に働く力の釣り合い
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Figure 3.23 Plot of 𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 and its components as a function of h for a parallel-plane model. The blue area defines the range of the suspended film thickness observed in our experiments.
Figure 3.23 において,平板形状の液膜に働く力の和が𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠= 0になるとき液膜に働く力は
つり合い,純水液膜の場合はその平衡液膜厚さは27 nmとなる.
次に,中空円筒内に架橋された純水液膜の安定性を考える.ここでは Figure 3.24 に示し
たLechら[109]のモデルを用いて最も液膜が薄い中央部分の直径𝑑𝑑の液膜(Figure 3.24の赤枠
の部分)に働く力のつり合いを考える.この液膜を無限平板形状であると仮定すると,DLVO 理論より,液膜にはvan der Waals引力と静電的な斥力の和𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠が働き,その値は式(3.27)か ら求められる.それに加えて,架橋された純水液膜は Figure 3.24に示すようにメニスカス を持つためメニスカスの曲率と平板形状の液膜の気液界面の曲率の差によるラプラス圧 𝑃𝑃𝐶𝐶= 2𝜎𝜎 𝑟𝑟⁄𝑚𝑚を考慮しなければならない.ただし,𝜎𝜎は表面張力,𝑟𝑟𝑚𝑚はメニスカスの曲率半径 である.よって,架橋された純水液膜に働く力は𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠と𝑃𝑃𝐶𝐶であり,その差∆𝑃𝑃が液膜の薄膜 化の駆動力となる.
液膜の厚さが平衡に達するとき,液膜に働く力は釣り合っているから∆𝑃𝑃= 0である.Figure 3.6より本研究で観察された平衡液膜厚さは3 nm < ℎ < 20 nmの範囲にある.Figure 3.5 (a) の液膜に働く∆𝑃𝑃を考える.𝑃𝑃𝐶𝐶は𝑟𝑟𝑚𝑚 = 25 nmであるから,𝑃𝑃𝐶𝐶= 5.8×106 Paである.一方で
𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠は3 nm < ℎ < 20 nmの範囲において𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 < 0であり,𝑃𝑃𝐶𝐶よりもかなり小さい.つまり,
3 nm < ℎ < 20 nmの範囲において∆𝑃𝑃 > 0であるから液膜には厚さが減少するような力が働
∆𝑃𝑃=𝑃𝑃𝐶𝐶− 𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 (3.28)
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いていることになり純水液膜の安定性は説明することができない.
Lechら[109]はSheludko cellを用いて,𝐷𝐷= 2.5 mm,𝑑𝑑= 0.2 mm,𝑟𝑟𝑚𝑚 ~ 1.25 mmのとき,
純水とイオン強度の異なるNaClの平衡液膜厚さを計測しその実験値と式(3.28)(大気中計測 なため空気の撥水性の影響も考慮してある)で得られた理論値を比較している.NaCl溶液の 場合は実験値と理論値がよく一致したが,純水の場合は平衡液膜厚さの実測値が 126 ± 5 nmとなるのに対し,その厚さの純水は理論的には不安定であるという本研究と同様の結果 が得られることを報告している.彼らは,水の電離にかかわらず液膜の厚さによって純水液 膜の電位が変化する可能性があり,それによって静電的な斥力𝛱𝛱𝑒𝑒𝑙𝑙は変化しうることを示唆 している.
Figure 3.24 Schematic illustration of a thin liquid film in Sheludko cell.
Lech ら[109]のモデルでは,DLVO 理論に無限に広がる平行平板モデルを使用しているた
め液膜に働くvan der Waals引力と静電的な斥力の対象となるのはFigure 3.24の赤色の範囲 で示した領域の分子間相互作用および電気二重層相互作用だけである.しかしながら実際 にはその周りにあるメニスカス内の水分子も液膜の安定性に寄与していると考えられる.
そこで,向かい合う二つの気液界面をメニスカスの部分も考慮して半球と仮定し,小さい距 離ℎ離れた半径𝑟𝑟𝑚𝑚の球に働くvan der Waals引力と静電的斥力を用いた𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠に修正する.𝑟𝑟𝑚𝑚≫ ℎと仮定すると Derjaguin 近似より二つの球の間に働く力𝐹𝐹(ℎ)は二つの平面間に働く単位面 積当たりの相互作用エネルギー𝑉𝑉(ℎ)を用いて式(3.29)のような関係が成り立つ[104].
𝐹𝐹(ℎ) =𝜋𝜋𝑟𝑟𝑚𝑚𝑉𝑉(ℎ) (3.29)
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よって,二つの球に働くvan der Waals引力𝛱𝛱𝑣𝑣𝑑𝑑𝑣𝑣_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒と静電的斥力𝛱𝛱𝑒𝑒𝑙𝑙_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒はそれぞれ式 (3.30)および式(3.31)のようになる[104].
向かい合う二つの気液界面を半球と仮定すると界面の曲率はどの点においても等しくな るため曲率の差によるラプラス圧の影響を無視することができる.よって,𝑟𝑟𝑚𝑚= 25 nmの とき𝛱𝛱𝑣𝑣𝑑𝑑𝑣𝑣_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒,𝛱𝛱𝑒𝑒𝑙𝑙_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒,𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒はそれぞれFigure 3.25のようになり,平衡液膜厚さ は7 nmでLechらの無限平板モデルよりも本研究で得られた実験値に近づく.
Figure 3.25 Plot of 𝛱𝛱𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 and its components as a function of h for a spherical-surface model.
しかしながら,観察された気液界面は曲率が一様ではなく曲率も大きいためラプラス圧 は無視することはできない.よって球面モデルのDLVO理論もCNTに架橋された液膜の安 定性を十分に説明することはできない.
𝛱𝛱𝑣𝑣𝑑𝑑𝑣𝑣_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒=− 𝐴𝐴𝑟𝑟𝑚𝑚
12ℎ2 (3.30)
𝛱𝛱𝑒𝑒𝑙𝑙_𝑠𝑠𝑠𝑠ℎ𝑒𝑒𝑟𝑟𝑒𝑒= 64𝜋𝜋𝜅𝜅−1𝑟𝑟𝑚𝑚𝑘𝑘𝐵𝐵𝑇𝑇𝜌𝜌∞𝛾𝛾2exp(−𝜅𝜅ℎ) (3.31)
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