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表面ナノバブルの成長過程

ドキュメント内 水の気液界面のナノスケール直接観察 (ページ 67-70)

2.4.1 概要

TEM の液中観察により,液体セル内でのナノバブルの発生・成長機構にはオストワルド ライプニング効果が強く影響していることが明らかになった.観察された気泡の成長機構 をより詳しく理解するためにオストワルドライプニング現象の古典理論を用いて考察を行 う.

2.4.2 オストワルドライプニング

過飽和蒸気中の液滴や過飽和水溶液中の気泡,溶液中の結晶など,多数の粒子が存在する 二相混合状態では,大きいものはより大きく小さいものはより小さくなる.これはオストワ ルドライプニング(Ostwald ripening)[89]–[92]と呼ばれる現象であり自然界で頻繁に目にする ことができる基本的な物理現象の一つである.

Figure 2.22のように,2 つの異なるサイズの気泡を考える.気液界面には表面張力𝛾𝛾が働

くため2つの気泡の内圧は異なり,式(2.4)で表される.これはYoung-Laplaceの式と呼ばれ,

半径𝑟𝑟が小さいほど内圧𝑝𝑝がより高くなることを意味している.ここで𝑝𝑝0は液体の圧力ある.

𝑝𝑝=𝑝𝑝0+2𝛾𝛾

𝑟𝑟 (2.4)

圧力差による気泡内分子の液中への溶解の違いに加えて系全体のエネルギーは最小になる 方向へと進むため,気液界面の総表面積が小さくなるよう,つまり小さい気泡から大きい気 泡へ気体分子が流入する.したがって大きい気泡はより大きく,小さい気泡はより小さくな り,最終的に小さい気泡は消滅する.

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Figure 2.22 Schematic illustration of the Ostwald ripening between large and small bubbles.

1961年にLifshitzとSlyozovそしてWagnerが初めてオストワルドライプニング現象の理論

を提唱した.現在それは古典理論とみなされ,2 つの理論を組み合わせて

Lifshitz-Slyozov-Wagner theory(LSW理論)[89],[90]と呼ばれている.LSW理論では,粒子のサイズ分布関数の

時間経過を考える.サイズ分布関数は粒子の半径と時間の二変数であるが半径の平均場近 似が成立すると仮定すると時間には依存せずに半径のみの関数となり,粒子の平均半径は 時間のべき乗則になることを理論的に説明している.

粒子の平均半径の時間経過を議論するために,LSW 理論ではKinetic Equationを考える.

過飽和水溶液中の気泡が成長するとき気液界面近傍では拡散と離脱の二種類の現象が起こ る.界面から分子が脱着すると界面近傍の気体分子密度は下がり脱着が起こりにくくなる.

もし,気体分子の脱着速度が拡散速度より極めて速い場合には気泡の成長速度は気体分子 の拡散によって支配される.これを拡散律速(Diffusion-limited)という.逆に,拡散速度が脱 着速度よりも極めて速い場合には気液界面近傍の気体分子の密度は一様であるため脱着が 気泡の成長速度を支配し,これを反応律速(Reaction-limited)という.LifshitzとSlyozovは粒 子の平均半径が拡散律速の場合に時間の1/3乗則で変化することを理論的に示し,それに加

えてWagnerが反応律速の場合は時間の1/2乗則で増加することを理論的に示した[93].

2.4.3 表面ナノバブルの成長過程に関する考察

本研究で観察した表面ナノバブルの成長過程はナノスケールの現象であり表面力の影響 が支配的である.よって,表面張力が駆動力であるオストワルドライプニング効果はナノバ ブルの発生・成長機構に重要な影響を与えていると考えられる.本節では,Figure 2.17の長 時間観察の結果において下流の観察窓表面上で不均質気泡核生成によって発生した表面ナ ノバブルの平均気泡半径を計測し,その時間経過を LSW モデル[89],[90],[94],[95]と比較す る.各 TEM 画像において一つひとつ界面ナノバブルの面積𝐴𝐴を計測し,𝑟𝑟𝑖𝑖≈(𝐴𝐴 𝜋𝜋⁄ )1 2 を用

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いて各気泡の見かけの半径𝑟𝑟𝑖𝑖を求めた[94].平均気泡半径<r>は<𝑟𝑟>= (1⁄𝑁𝑁)∑ 𝑟𝑟𝑁𝑁 𝑖𝑖

𝑖𝑖 を用いて

各照射時間tにおいて計算した.tの範囲はt = 91 sから t = 203 sである.t = 91 s以前は,

気泡の輪郭がはっきりとせず正確な面積を計測することができないと判断した.

t = 143 sまでは<r>は時間の経過とともに穏やかに増加し,均質気泡核生成が始まると急

激に上昇した.LSW 理論によると<r>はべき乗則<𝑟𝑟>=𝛼𝛼𝑡𝑡𝛽𝛽に従うと予想される.その常 用対数lg(<r>)と照射時間の常用対数lg(t)の関係をFigure 2.23に示す.t = 91 s からt = 143 s

の範囲とt = 153 s からt = 203 sの範囲に分けてそれぞれ線形近似を行うとよく一致した.t

= 91 s からt = 143 sの近似直線の傾きは𝛽𝛽1= 0.511 ± 0.068であり,これは反応律速過程と

一致する.このことから,表面ナノバブルの平均成長速度は気体分子の拡散よりも水の放射 線分解に律速されることが分かる.また,t = 153 s からt = 203 sの傾きは𝛽𝛽2= 1.665 ± 0.166

でありt = 143 s以前と比べるとかなり大きい.このとき,成長する大きな気泡と大きな気泡

の距離は非常に近く合体が起こりやすい状況であり結果として表面ナノバブルの平均成長 速度が急増したように見えるからである.この結果はプラチナの結晶成長のその場観察結 果と一致している.[95]

Figure 2.23 Logarithmic relationship of the mean bubble radius (unit: nm) versus irradiation time (unit: s). The black lines are the piecewise linear fits of the logarithmic values, which yield piecewise power law relations between <r> and t in the form of <𝑟𝑟>=𝛼𝛼𝑡𝑡𝛽𝛽 , where 𝛽𝛽1= 0.511 ± 0.068 between t = 91 s and 143 s, and 𝛽𝛽2= 1.665 ± 0.166 between t = 153 s and 203 s.

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