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実験結果

ドキュメント内 水の気液界面のナノスケール直接観察 (ページ 79-97)

3.3 カーボンナノチューブ内に閉じ込められた水の直接観察

3.3.2 実験結果

TEM観察開始直後,Figure 3.5のように内部に水が残っているCNTを見つけた.CNTの 両端は開いており試料室内の高真空環境(約1×10-5 Pa)に接している.CNTが室温(300 K)で あると仮定する.室温のバルクの水の蒸気圧は𝑃𝑃𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠= 3.6×103 Paであるから真空環境ではす ぐに蒸発して存在することができないはずである.しかしながら,本研究では観察開始まで に試料は数十分以上すでに真空状態にさらされておりまた観察は数時間以上連続で行って いるにもかかわらず水は完全に蒸発せずにCNT 内部に留まっていた.これは CNT の内部 では水が完全には蒸発せずに安定して存在するということを示している.CNT 内部で確認 された水の状態は大きく分けて二種類あった.一つ目がFigure 3.5 (a), (b)に示すような少量 の水が残っている状態である.このとき架橋された水の薄膜とその液膜の裾野にある壁に 吸着した水の薄膜が観察された.二つ目はFigure 3.5 (c), (d)のように比較的多くの水が残っ ている状態である.この場合,Figure 3.5 (c)に示すように,水中にはナノバブルが含まれて いた.また,Figure 3.5 (d)では,Figure 3.5 (b)のような架橋された水の薄膜もあった.

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Figure 3.5 (a-d) TEM micrographs of water inside a CNT. (a) A suspended ultra-thin water film.

Thin water films are colored blue for better contrast. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 1 and TEM: Table 3.2 No. 1) (b) An ultra-thin water film lying on the surface of the inner wall of the CNT. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 1 and TEM: Table 3.2 No. 2) (c) Water area (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2) (d) Suspended water film and water with nanobubbles. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 1 and TEM: Table 3.2 No.

1)

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まず初めにFigure 3.5 (a)のような架橋された液膜について観察した.

使用した試料のCNTは酸素プラズマ処理(Table 3.1 No. 1)が施されておりTEMグリッド はSi3N4膜窓付きのTEMグリッド上にある.まず,低倍率で観察したときの架橋された液 膜の厚さとCNTの内径の関係について説明する.Figure 3.5 (a)のような架橋された液膜は,

低倍率で観察する場合その液膜の形状や厚さに変化は見られなかった.CNT の内径と観察 直後の架橋された液膜の厚さの最小値の関係をFigure 3.6に示す.このとき,液膜の厚さは 電子線の影響を受けておらず,真空状態における平衡状態の最小液膜厚さであると考えら

れる.Figure 3.6より,液膜の厚さは内径が小さくなるにつれて薄くなることがわかった.

また,平衡状態の液膜の厚さは最小で2 nm-3 nmだった.

Figure 3.6 Suspended ultra-thin film thickness as a function of CNT inner diameter. The thickness plotted here is the minimum one on each CNT inner diameters. Scale bars indicate 20 nm.

次に高倍率で架橋された液膜を観察した.架橋された液膜はFigure 3.7に示すように電子 線照射の影響を受けて形状と厚さが変化し最終的に液膜は破断した.高倍率で観察すると 観察領域に照射される電子線の電流密度が増加しドーズ量が増加して水の放射線分解が起 こり,水が水素あるいは酸素の気体分子に分解されて水分子が減少する.

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Figure 3.7 Time evolution of rupture of a suspended ultra-thin water film inside a CNT under the TEM observation at high magnitude magnification. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 1 and TEM: Table 3.2 No.1)

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架橋された液膜の形状は照射時間の経過につれて平坦になる.破断までの液膜の厚さの時

間変化をFigure 3.8に示す.これより,液膜の厚さは単調減少するのでなくしばらく振動を

繰り返してある瞬間に破断することがわかった.

Figure 3.8 (a, b) Time evolution of film thickness of a suspended ultra-thin water film. (a) TEM images of the water film in a CNT. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 1 and TEM: Table 3.2 No. 1) (b) The suspended film thickness of the function of irradiation time. The shape of the water film became flat and the suspended film thickness changed thicker and thinner several minutes after the electron beam irradiation was started.

液膜の破断とその物理機構を詳しく理解するために空間分解能および時間分解能が高い

JEM-ARM200CFおよびこのTEMに装備されているカメラ(UltrascanおよびOrius)を用いて,

Figure 3.7およびFigure 3.8とは異なるプラズマ処理(Table 3.1 No. 2)を行ったCNT試料を観

察した.Figure 3.9は二つの気泡の間に架橋された液膜の破断前後の時間経過を示している.

Figure 3.7とFigure 3.8同様に,液膜は電子線照射によって平坦になり,液膜の厚さは32秒

後に一度増加し再度減少した.液膜は1分間以上約3 nm の厚さを維持し,約77秒後から

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約78秒後の1秒間の間に液膜は破断した.液膜の破断の直前直後をFigure 3.10 に示す.液 膜の平坦な部分のコントラストが徐々に小さくなって最終的に二つの気泡の気液界面がつ ながることがわかる.これは,液膜の破断は二つの気液界面が一点で瞬間的に接触して力学 的に界面が破けるのではなく二つの気液界面の間の水分子が徐々に減少してつながると考 えることができる.液膜の平坦な部分で界面がつながると,その後はFigure 3.9 の78秒後 以降のように接合部の気液界面が両端に移動していき最終的に液膜は無くなった.

Figure 3.9 TEM images before and after the rupture of a suspended ultra-thin water film in a CNT.

Length and width of each image are 100 nm. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2)

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Figure 3.10 TEM images just before and after the film rupture of Figure 3.9 every 0.1 s. Length and width of each image are 50 nm.

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一方で Figure 3.11 に示すように破断の直前に曲率を保ったまま接近して平坦な液膜を作

ることなく二つの気泡が合体する場合も観察された.この場合も平坦な液膜の破断と同様

に,Figure 3.11のように二つの気液界面の間のコントラストが徐々に小さくなりそれから界

面の接合部分が広がっていった(Figure 3.11の黄色の矢印).Figure 3.12はその破断の前後を 0.1秒毎に撮影した連続写真である.

このように架橋された液膜は変形や破断を起こすことからこれらが液体の水であること を示唆しているが,その形状変化や破断の時間変化はマクロな水とは大きく異なるもので あった.

Figure 3.11 Time evolution of rupture of a suspended ultra-thin water film keeping their curvature in a CNT. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2) Length and width of each image are 100 nm.

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Figure 3.12 Time evolution of just before and after the film rupture of Figure 3.11 every 0.1 s. Length and width of each image are 50 nm.

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次にFigure 3.5 (b)のような壁面に沿って広がる液膜について観察した.Figure 3.13は観察

開始直後とその60秒後のTEM画像である.Figure 3.13 (a)の気液界面をFigure 3.13 (b)に破 線で重ねて示すと60秒間で気相の領域が広がったことがわかる.またFigure 3.13 (a)で黄色 の矢印で示した部分をそれぞれ計測するとTable 3.3 のようになり各値が増加していること からもわかる.これは電子線照射によって壁面の液膜が薄くなったためであり,観察直前の CNTの内壁には確かに液膜が吸着していたことを示している.

Figure 3.13 (a, b) The decreasing of the thickness of the water film on the surface of the inner wall due to electron beam irradiation for 60 s. (a) is before and (b) is after. (Condition of plasma treatment:

Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2)

Table 3.3 The width of gas-phase area.

(a) Before (b) After

𝑳𝑳𝟏𝟏 33.7 nm 37.1 nm

𝑳𝑳𝟐𝟐 30.8 nm 33.7 nm

𝑳𝑳𝟑𝟑 26.1 nm 29.2 nm

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CNT 内壁表面を水が完全に濡らしているのかを明らかにするために同じ条件のプラズマ

処理(Table 3.1 No. 2)を施した別のCNT試料を用いてTEM観察を行った.Figure 3.14を見る

と0秒では,上方の気液界面ははっきりと確認することができない.しかしながら,電子線 を照射し続けると,Figure 3.14のように,次第に気液界面のコントラストがはっきりとして きて170秒後には液膜は破断している.0秒のTEM画像で確認できる液膜の形状は,Figure

3.5 (a)のような対称の架橋された液膜と比較すると非対称であり比較的厚さのある液膜で

あることがわかる.さらに注目すべきことは壁面に吸着した液膜の中に気泡があることで ある(20秒後のTEM画像).気泡は次第に小さくなり最終的には消失し,60秒後では気泡が あった付近の気液界面が凹んでいる.170秒後には液膜は破断するが,このとき 60秒後に 観察された凹面は依然として凹面のままであり,これ以上この凹面の界面の移動は観察さ れなかった.よって,20秒後のTEM像で見られた気泡は内壁の凹部にキャプチャーされた 空気気泡あるいは電子線分解によって凹部から発生した気泡と考えられる.しかしながら0 秒のTEM画像では上方の気液界面がはっきりしておらず壁面にすでに気泡があるかは確認 することができなった.

Figure 3.14 TEM images of the deformation of the meniscus before and after a liquid film broken and the time evolution of disappearing of a bubble inside the liquid film lying on the surface of the inner wall. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2)

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最後に Figure 3.5 (c), (d)のようにCNTの内部に水が比較的多く残っている場合の気液界

面の挙動について観察した.水に電子線を照射するとすぐに変化が生じた.また,Figure 3.5

(a), (b)のような水の薄膜だけが残っている場合よりも低倍率で変化が起こり気液界面の挙

動も激しくなった.

Figure 3.15 を見ると電子線照射によって気相が広がっていく様子が確認できる.このと

き,気相はCNTの軸中心あるいは軸対象ではなく一部の壁面に沿って広がっている.また,

気相の進む先には黄色の破線で示したようにすでに発生していたナノバブルがありそれに 向かって進んでいるようにみえる.一方で気相が広がらずに液相が残っている部分の気液 界面近傍にはナノバブルは見つからない.

Figure 3.15 Time evolution of gas phase spreading along the surface of the inner wall. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2) Yellow arrows indicate nanobubbles.

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さらに時間が経過すると,Figure 3.16 に示すように,気相が一部の壁面に沿って広がった ことによりそれ以外の部分に残った液体が分離されて液滴が生じた.液滴の気液界面は曲 率が緩やかになるように変形し,15 秒後には液滴が再び壁面に接触して架橋された液膜と なり気相を分断した.この架橋された液膜は Figure 3.11 で説明したように最終的に破断し た.

Figure 3.16 Time evolution of transformation of a droplet into a suspended ultra-thin water film.

(Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2)

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次に水中にあるナノバブルの挙動を観察した.Figure 3.17のように,水中のナノバブルの界 面はいびつな形をしていることから固気液三相界線がピニングされた表面ナノバブルであ ると考えられる.黄色の破線で示した表面ナノバブルは時間の経過とともに画像上方に進 んだ.このとき,気泡の三相界線はピニングとディピニングを繰り返しながら進む.そして 上方の大きな気泡との間に平坦な水の薄膜を形成し,Figure 3.9と同様にして合体した.上 方の大きな気泡の気液界面は水が多く残る領域の末端でありその気泡の内圧は真空に近く 液中の表面ナノバブルの内圧よりも低いと考えられる.黄色い破線で示した気泡のように 末端の気液界面近傍にある水中の気泡はこの末端の気液界面に向かって移動し合体したが,

この末端から離れた下方にある表面ナノバブルは上方にも下方にも動く様子が観察された.

Figure 3.17 Time evolution of pinning and depinning of a triple contact line of a surface nanobubble.

(Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2)

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表面ナノバブルの気液界面がディピニングされた後にその場に気泡が残っている様子が 繰り返し確認された.その様子をFigure 3.18に示す.0秒のとき黄色の破線で示した小さい 表面ナノバブルは4.3秒後に別の大きな気泡に覆われる.7.8秒後のTEM画像において一点 鎖線で示した界面はディピニング直前であり,10.9 秒後にはディピニングされた場所に気 泡が残っている.これは0秒で示した気泡の位置とほぼ同じ位置である.

Figure 3.18 Time evolution of small nanobubbles left just after a large bubble depinning. (Condition of plasma treatment: Table 3.1 No. 2 and TEM: Table 3.2 No. 2)

ドキュメント内 水の気液界面のナノスケール直接観察 (ページ 79-97)