2.3 透過型電子顕微鏡による直接観察
2.3.3 電子線照射による発泡実験
2.3.3.2 フレネルフリンジ法 (Fresnel fringe method)
TEM観察の欠点の一つが,TEM画像は透過像のため通常の拡大像観察では高さ方向の情 報を得ることができないことである.つまり,従来のTEM画像からは液体セル内で発生す る気泡の高さ方向の位置を知ることができない.しかしながら,本研究では,電子線のフォ ーカスの高さをわずかにずらすとナノバブルの縁にフレネルフリンジと呼ばれる縞模様が 生じ,そのフリンジの幅と明暗は気泡によってそれぞれ異なることに気づき,フリンジの幅 と明暗はフォーカスの高さ方向のずれに依存することに着目して,この現象を利用して試 料の高さ方向の気泡核生成の位置を特定する手法を考案した.この手法を「フレネルフリン ジ法(Fresnel fringe method)」と名付ける.
フォーカスを試料面からわずかにずらすと対物レンズの物面(Objective plane)が試料面か らずれてフレネル回折が起こり,試料の縁にフレネルフリンジが生じる[45].物面とは,対 物レンズの像面上に正焦点像として結像される面のことである.Figure 2.6を用いて試料の 位置とフォーカスの関係を説明する.試料面が物面よりも電子線の上流側(以後,「上方」と 表現する)にあるとき(Figure 2.6 の赤色の領域),この状態をオーバーフォーカス(Overfocus) といい,試料の縁に暗いフリンジが生じる.試料面が物面よりも電子線の下流側(以降,「下 方」と表現する)にあるとき(Figure 2.6 の青色の領域),この状態をアンダーフォーカス
(Underfocus)といい,試料の縁に明るいフリンジが生じる.フリンジの幅はフォーカスが外
れるほど広くなる.試料面が物面と合致するとき(Figure 2.6の黄色の領域),この状態をジャ ストフォーカス(In-focus)といいフリンジは生じない.
Figure 2.6 Schematic illustration of the relationship between the three kinds of focus conditions and the positions of a specimen in overfocus, objective plane (in-focus), and underfocus.
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物面と試料面をずらす方法は基本的に二種類ある.まず1つ目が試料面の高さ(電子線照 射方向の位置)を変化させる方法であり,2つ目は対物レンズの磁励電流を変化させる方法 である.試料面の高さを変化させる場合,対物レンズの焦点距離は変化せず物面の位置は固 定されたままであるため,ジャストフォーカスの状態から試料面を上方に移動させるとオ ーバーフォーカスとなり下方に移動させるとアンダーフォーカスとなる.一方,対物レンズ の磁励電流を変化させる場合は対物レンズの焦点距離が変わるため物面の位置が変化する.
ジャストフォーカスの状態から強磁励にすると焦点距離が短くなるため物面の位置は試料 面の下方に移動しオーバーフォーカスとなり,逆に弱磁励にすると焦点距離が長くなるた め物面の位置は試料面の上方に移動しアンダーフォーカスとなる.フォーカスが試料面か らずれた状態をディフォーカス(Defocus)といい,磁励電流を変化させることによって生じ るディフォーカス量を∆𝑓𝑓で表し,一般的に∆𝑓𝑓< 0のときアンダーフォーカス,∆𝑓𝑓> 0のと きオーバーフォーカスである.これまでに水中の気泡のフリンジの変化を観察した例はな かったため,本研究では,ディフォーカス量と試料の高さ(z 座標:上方を正にとる)の変化 を比較することによってアンダーフォーカスとオーバーフォーカスでそれぞれ気泡の縁に 生じるフリンジの明暗について確認を行った.その結果,ジャストフォーカスの位置(𝑧𝑧=𝑧𝑧0) からアンダーフォーカス(あるいは𝑧𝑧<𝑧𝑧0)に変化させた場合は,気泡の縁の外側に暗いフリ ンジ,内側にわずかに明るいフリンジが生じた.この明るいフリンジは∆𝑓𝑓が小さい場合は 目視で確認することは難しかった.一方でオーバーフォーカス(あるいは𝑧𝑧>𝑧𝑧0)の場合,気 泡の縁の外側に明るいフリンジ,内側に暗いフリンジが生じることを確認した.
ディフォーカスによるフリンジの変化を観察するためには物面と試料面の間の距離をあ る程度離す(本実験では|∆𝑓𝑓| > ~ 100 nmだった)必要がある.一般的な固体試料のTEM観察 では試料は可能な限り薄膜化することが望ましくその厚さは100 nm程度であるため,ディ フォーカスの状態では基本的に1つのTEM画像で1種類のフリンジしか生じない.しかし ながら,本研究で使用した液体セルは厚さが600 nm-1000 nm以上であるため物面の位置 を試料の高さに対して適当な位置にとることによって1つのTEM画像上に明暗と幅が異な るフリンジをもつ気泡が同時に存在し,フリンジの明暗と幅の違いにより気泡の高さ方向 の相対的な位置を特定することができる,これがフレネルフリンジ法の原理である.
Figure 2.7 を用いて,TEM(JEM-3200FSK)で電子線のフォーカスを試料面からわずかにず
らしたときに気泡の縁に生じるフレネルフリンジの変化について具体的に説明する.Figure 2.7では対物レンズの磁励電流を変化させて物面の位置を移動させることによりディフォー カスの状態にした.Figure 2.7 (a)のように電子線のフォーカスを気泡Aに合わせると,Aの 縁には細く暗いフリンジが生じた.これはA がわずかにアンダーフォーカスの状態にある ことを示している.このとき,Bの縁の外側に明るいフリンジ,内側に暗いフリンジが生じ た.これはBが大きくオーバーフォーカスの状態にあることを示している.一方,Figure 2.7 (b)のように,電子線のフォーカスをBに合わせると,Bはわずかにアンダーフォーカスの
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状態になった.このとき,Aの縁の内側に明るいフリンジ,外側に太く暗いフリンジが生じ ており,これは大きくアンダーフォーカスの状態であることを示している.気泡の場合は内 側が気体,外側が液体であるためフリンジの明暗を判断する場合は注意が必要である.以上 のことから,Figure 2.7 (a)とFigure 2.7 (b)のどちらの結果からもAはBよりも下方に位置し ていることがわかる. このようにして,フレネルフリンジ法を用いると気泡の高さ方向の 相対的な位置を特定することができる.
Figure 2.7 (a, b) Fresnel fringe method. Ray diagrams show the concept of each focus condition. (a) TEM image when the objective plane corresponded to the height of bubble A at a magnification of 2
× 105. Nanobubble A is in weak underfocus, and nanobubble B is in overfocus. (b) TEM image when the objective plane corresponded to the height of bubble B at a magnification of 2 × 105. A is in underfocus, and B is in weak underfocus.
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