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4 人民元為替レートと貿易額の関係

4.3 実証結果

4.3.2 ARDL アプローチ

ARDLアプローチは、Engle and Granger (1987)やJohansen (1988)のような共和分検定 の手続きと異なり、和分の次数が1より小さいが、または1に等しい変数からなるモデル に適用される。すなわち、ARDLアプローチでは、すべての変数について和分の次数が同

66 じでなければならないという前提としていない。このため、本節ではPesaran et al.(2001)

に倣いARDLモデルを用いて推定を行う。(4-20)式と(4-21)式を以下のように変形する。

ΔlnEX𝑖,𝑡 = 𝛼0+ ∑ 𝛼1

𝑛

𝑘=0

Δ𝑙𝑛𝐸𝑁𝐸𝐸𝑅𝑖,𝑡−𝑘+ ∑ 𝛼2Δ𝑙𝑛𝐼𝑃𝐼𝐹𝑖,𝑡−𝑘

𝑛

𝑘=0

+ ∑ 𝛼3Δ𝑙𝑛𝑃𝑃𝐼𝐹𝑖,𝑡−𝑘

𝑛

𝑘=0

+ ∑ 𝛼4Δ𝑙𝑛𝐸𝑋𝑖,𝑡−𝑘

𝑛

𝑘=1

+ 𝛿1𝑙𝑛𝐸𝑁𝐸𝐸𝑅𝑖,𝑡−1 + 𝛿2𝑙𝑛𝐼𝑃𝐼𝐹𝑖,𝑡−1+ 𝛿1𝑙𝑛𝑃𝑃𝐼𝐹𝑖,𝑡−1+ 𝜇𝑡

(4-24)

ΔlnIM𝑖,𝑡= 𝛽0+ ∑ 𝛽1

𝑛

𝑘=0

Δ𝑙𝑛𝐼𝑁𝐸𝐸𝑅𝑖,𝑡−𝑘+ ∑ 𝛽2Δ𝑙𝑛𝐼𝑃𝐼𝐶𝑖,𝑡−𝑘

𝑛

𝑘=0

+ ∑ 𝛽3Δ𝑙𝑛𝑃𝑃𝐼𝐶𝑖,𝑡−𝑘

𝑛

𝑘=0

+ ∑ 𝛽4Δ𝑙𝑛𝐼𝑀𝑖,𝑡−𝑘

𝑛

𝑘=1

+ 𝜃1𝑙𝑛𝐼𝑁𝐸𝐸𝑅𝑖,𝑡−1 + 𝜃2𝑙𝑛𝐼𝑃𝐼𝐶𝑖,𝑡−1+ 𝜃1𝑙𝑛𝑃𝑃𝐼𝐶𝑖,𝑡−1+ 𝜀𝑡

(4-25)

先行研究では、為替レート変動による貿易収支の最終的な調整効果(長期的効果)だけ を理論的に導出しており、短期的には逆効果を持つこと(いわゆるJカーブ効果)を排除 していない。つまり、短期的にはML条件は成立しないといえる。そのため、本節は(4-24) 式と(4-25)式に基づいて、輸出額と名目実効為替レート、海外工業生産指数、海外同質商 品価格指数4変数間の長期均衡関係と、輸入額と名目実効為替レート、中国工業生産指数、

中国同質商品価格指数4変数間の長期均衡関係を検証する。

まずは、Pesaran et al.(2001)に従い(4-24)式と(4-25)式の推計結果からバウンドテス ト(長期均衡式に含まれるレベル変数の係数がすべてゼロであるという帰無仮説のテスト)

を行う。これにより、輸出額と名目実効為替レート、海外工業生産指数、海外同質商品価 格指数、輸入額と名目実効為替レート、中国工業生産指数、中国同質商品価格指数の間に 長期的な均衡関係があるかどうかを確認ことができる。表4-4は推計結果をまとめたもの である。表4-4より、集計データと部門データにおいても、計算されたF統計量の値は5%

の有意水準で上方の臨界値を上回るため、共和分関係が存在しないという帰無仮説は棄却 されることがわかる。そのため、検定結果がすべての方程式において、為替レートと輸出 及び輸入の間で共和分関係が存在することを支持しているといえる。

67 表4-4 共和分バウンド検定

輸出モデル F 輸入モデル F

総合 4.579 総合 4.800

食料品・飼料 4.605 食料品・飼料 3.861

鉱物性燃料 6.715 鉱物性燃料 4.790

化学製品 4.254 化学製品 4.065

木材・同製品 3.478 木材・同製品 6.334

繊維品 4.34 繊維品 3.521

金属・同製品 5.71 金属・同製品 4.461

電気・電子製品 4.789 電気・電子製品 4.566 機械及び輸送用機器 4.636 機械及び輸送用機器 4.599 注:F検定の下方の臨界値と上方の臨界値は、5%の水準でそれぞれ2.373.2である。

**は5%水準で有意であることを示す。

共和分関係が存在する下で、長期均衡式の中、為替レートに関する係数が有意であるこ とは、為替レートの変動が輸出額・輸入額に影響を与えることを示す。また、その数値は 輸出・輸入の価格弾力性をそれぞれ表す。(4-10)と(4-14)に基づいて輸出価格弾力性(𝜂𝑋) と輸入価格弾力性(𝜂𝑀)の定義を見ると、𝜂𝑋は(4-24)式に基づいて推定した長期均衡式 の名目実効為替レートにおける係数を直接使うことができるが、𝜂𝑀は(4-25)式に基づい て推定した長期均衡式の名目実効為替レートにおける係数を-1をかける結果となる。そし て、交易条件mを含めて、中国におけるTML条件とGML条件の結果は表4-5のようにま とめられる。ここでは、従来のマーシャル・ラーナー条件を基礎として、人民元為替レー トがどの程度中国の貿易収支調整効果を持つのかを考察したい。表4-5は、上記の実証分 析から得られた中国の輸出入価格弾力性を示すとともに、それらをTML条件とGML条件 に変換して整理したものである。

68

4-5 輸出価格弾力性と輸入価格弾力性

部門 𝜂𝑋 𝜂𝑀 𝜂𝑋+ 𝜂𝑀 1

𝑚 𝜂𝑋+ (1 𝑚⁄ )𝜂𝑀 総合

-0.564**

(0.388)

0.412*

(0.258) -0.152 0.833 -0.220

食料品・飼料 -0.870*

(0.523)

-0.546*

(0.396) -1.616 1.413 -1.924

鉱物性燃料

-0.800***

(0.223)

0.342

(0.282) 0.458 9.835 2.564

化学製品 1.063**

(0.486)

0.369**

(0.173) 1.432 1.166 1.493

木材・同製品 0.825**

(0.406)

0.322**

(0.618) 1.147 0.796 1.081

繊維品 0.664* (0.266)

1.458

(0.807) 2.122 0.116 0.833

金属・同製品 0.718*

(0.134)

0.680**

(0.322) 1.398 0.852 1.297 電気・電子製

0.568**

(0.273)

0.507*

(0.347) 1.075 0.652 0.899 機械及び輸送

用機器

0.559*

(0.259)

0.539*

(0.325) 1.098 0.638 0.903 注:1/mの値はサンプル期間内の平均値である。

*****はそれぞれ10%、5%、1%レベルで有意である。