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人民元為替レートの貿易収支調整機能を阻害している原因

7 貿易収支を調整しうる他の要因

7.1 人民元為替レートの貿易収支調整機能を阻害している原因

本節では、為替レートの変動より貿易収支不均衡に対する調整効果が弱い背景を検討す る。これから1.中国貿易構造の変化、2.中国付加価値の変化、3.中国海外投資の変化、

4.外資企業の変化、5.貿易相手国の商品構造変化という5点を説明する。

7.1.1 中国の貿易構造

大谷・白塚・代田(2003)の結果より、原材料類のパススルーは工業製品より高いことが わかる。輸入財別にみた為替レートのパススルーは一次原材料の80%から工業製品の15%

まで多様であると指摘されている。財別のパススルーは、当該市場における市場競争の度 合いによって左右され、工業製品のように市場競争が高い財ほど、為替レートの変動は輸 出企業によって吸収され易く、当該財を輸入する国の通貨建て価格は為替変動の影響を受 けにくい。工業製品の割合が高ければ高いほど、為替レートの変動が輸出に与える影響が 小さくなる。また、付加価値が高く、非価格競争が高い財の場合にも、その輸入価格に対 する為替の影響は小さいだろう。こうした「低パススルー財」の輸入全体に占めるシェア が高まれば、その分だけ輸入財全体で見た為替のパススルーは低下する。中国の石油を除 く輸入に占める資本財のシェアは90 年代の19%から2018年の32%に上昇する一方、エ

111 ネルギーを除く産業用原材料のシェアは 29%から 14%に低下した。資本財のパススルー は、産業用資材よりも低く、その結果、平均的に見ればパススルーが低下しており、こう した動きが現在も続いていると見られるのである。

7.1.2 中国商品の付加価値の変化

中国は、多くの中間財を海外から輸入し、それを組立、加工して、最終財を海外に輸出 しているのであって、従来の貿易統計による貿易収支と付加価値貿易で見た貿易収支とで は、その様相が異なる可能性が高いといえる。図3-20と図3-21からみられるように、中 国の製造業付加価値額(名目、ドルベース)は2010年米国を抜き、世界一位となっている。

しかし、中国の製造業は比較的付加価値の低い消費財輸出に特化して進められていたとい う事実がある。これまでの安価で豊富な労働力を基盤とする労働集約型を依存している中 国製造業の現状を、規模を大きいものの、イノベーション能力、品質などは世界の先進レ ベルと比べるといまだに後れを取っているという認識がある。

2018年中国取引ベース輸出額は2000億ドルであるが、付加価値ベースでは1300億ドル となる。付加価値ベースを取引ベースで除いたものを付加価値比率とすると、中国の同比 率は0.66であり、製造業に限定すると0.39に低下する。例え人民元為替レートが100%

製造業に影響を与えても、輸出の中に61%の部品・原材料は海外から輸入という事実を考 えると、為替レートが輸出に与える影響には輸入品の割合によってかなり相殺されるため、

実は為替レートの変化の39%しか製造業に影響を及ぼさないとわかる。したがって、付加 価値比率が低い場合では、為替レートの変動が中国国内経済への波及効果は取引ベースで 示された貿易収支額に比して少なくなり、中国の輸出は為替レートからの影響を受けにく くなっているといえる。

中国は最終組立地として位置つけられているため、付加価値ベースの輸出額は取引ベー スを下回る。つまり、付加価値比率は低いことと考えられてきた。また、中国は「改革開 放」政策を実施する以来、積極的に対外関係を推進している。対外開放度が高まると同時 に、自国生産より海外輸入の割合も高くなると予想される。そのため、国内付加価値比率 を押し下げるだろう。近年、グローバル化における貿易自由化の推進が停滞している一方、

地域における貿易自由化が推進している。中国は2015年「一帯一路」戦略の提出より、沿 線国との貿易関係が強くなる。そのため、中国の対外開放を一層拡大していくとともに、

国内付加価値の比率が低下する。付加価値ベースから見られるように付加価値の減少は、

112 近年人民元為替レートが貿易収支に対する調整の役割を絶たない原因の一つと思われる。

7.1.3 海外投資の増加

中国は、2000年以降、海外資源の獲得、中国企業の国際競争力強化などを目的に海外進 出のための政策を導入し、対外直接投資を推進してきた。国際的に、2008年金融危機以降、

先進国低迷の経済状況と比較して、中国の経済成長は明らかに良いとしている。国内的に、

中国の賃金水準は、2008年から2018年までの10年間で4倍近く上昇しており、安価で豊 富な労働力を確保できるという利点が失われつつある。中国企業が「もっと安価な生産拠 点」かつ「中国経済の転換と高度化を加速させる」を考え、海外直接投資と続いていく。

海外投資に関する法制度の整備・緩和を累次実施したことも功を奏し、対外直接投資は右 肩上がりに増加してきており、2014年には従来の海外投資の許可制から登録制が主となる 制度に移行したことで投資額が一段と増加した。その結果、中国企業の海外生産比率は上 昇した。

中国の対外直接投資を残高ベースでみると、2000 年から一貫して増加してきており、

2016年時点ではピークを達し、1961億ドルになっている。また、フローベースでみても、

2000年から2016年にかけて一貫して増加し、2015年には日本を追い抜き、米国に次ぐ世 界第2位の投資国になった。さらに、同年初めて対外直接投資の額が対内直接投資の額を 上回った。この背景の下で、中国企業の国際的な事業展開により、国境をまたいだ企業内 貿易を行い、海外子会社は地元の安価な労働力・資源を用いて中間財・部品を生産して、

中国国内の母会社をそれらの中間財・部品を輸入し、組み立てて、また海外に輸出する。

中国の企業は、国境をまたいだ企業内貿易においては、為替レートの取引価格にあまり転 嫁させないため、中国企業の国際的な事業転換は、輸出入物価への為替レートのパススル ーを低下させる可能性が高い。

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7-2 中国海外直接投資額 単位:億ドル

出所:中国統計年鑑より作成

第5章と第 6章の実証分析結果では、中国の為替レートパススルーは2015年にかけて 低下したことを示した。この時期は、前述の中国企業の国際的な事業展開の推進とそれに 伴う貿易構造の変化が見られた時期と軌を一にしている。

7.1.4 外資企業の割合

中国の貿易黒字が急拡大した背景にはいくつもの要因があるが、とりわけ、貢献度が高 いのは 2003 年以降の投資ブームによる生産能力の飛躍的な増強という原因である。世界 有数の貿易黒字国となった中国だが、依然として外資系企業の寄与によるところが大きい。

外資企業は中国の輸出増にも大きく貢献しているのであり、中国経済において大きな存在 となっている。多国籍企業は中国に進出するのは、世界全体の経営資源の最適配置によっ て利潤最大化を追及するため、相対価格の変化や需要の変動に対して各国の企業内輸出入 を敏感に変化させる。外資企業は税制や投資相手国の規制などに対応するため多国籍企業 が市場での取引価格とは異なる価格付けをする可能性がある。市場によって価格を設定す る手段により、相対価格の変化には敏感に反応しないだろう。また、中国の子会社と自国 の母会社間の企業内貿易としての貿易額が変動する可能性もある。もし企業内貿易が行わ れれば、為替レートや税制などの動向に左右されても、相対価格に対してはあまり敏感に 反応しないだろう。したがって、為替レートが貿易収支に対する調整メカニズムをうまく 働くことを阻害する要因の一つは、外資企業の活動と考えられる。

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2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017

114 7.1.5 中国と貿易相手国の商品構造

人民元切り上げが中国と貿易相手国の貿易収支に与える影響は、人民元切り上げに伴う 貿易相手国の貿易財価格と中国の貿易財価格の変化が貿易量に直接与える効果である。そ の場合、中国と貿易相手国の貿易構造が代替的か補完的かによって効果は異なる。例えば、

中国とタイの商品が代替的な関係である。人民元の為替レート切り上げにより、中国の商 品価格が高くなり、タイの需要が減退し、中国から東南アジア諸国に対する輸出が減少す る。また、中国と米国の商品が補完的な関係である。人民元の為替レート切り上げにより、

中国の商品価格が高くなっても、米国国内の需要が減退しなく、中国が米国に対する輸出 が減少しないと考えられる。2000年から2018 年にかけて、米国貿易赤字総額の9割以上 を占める商品は主に生活関連製品であり、それらは米国国内で生産されておらず、ほぼ海 外からの輸入を依存している。その中で、特に中国への依存度が高い。米国の対中赤字は 主に電気製品、紡績類などの品目に集中している。その中で、88%が米国国内では生産さ れていない。したがって、それらの商品に対して、米国国内には代替的な商品がない。人 民元為替レートが増価しても、米国国内の需要がそのまま維持し、輸出量は下落しないと 考えられる。