7 貿易収支を調整しうる他の要因
7.2 貿易収支に影響される他の要因
7.2.2 消費の視点から
前節で取り上げた貯蓄とは、今期の商品の消費を犠牲にすることによって得られる21。つ まり貯蓄と消費の決定要因は同時に存在していることになる。したがって、貯蓄・投資バ ランスを構成する貯蓄、すなわち消費の多様な変動要因を探ることを意味する。したがっ て対外不均衡の変動をいくつかの要因から考えると、消費と貿易収支の関係を検討する。
図7-9 は中国の貯蓄と消費の対 GDP 比率の推移である。中国の最終消費対 GDP 比は
1994年の57%から2000年の63%まで上昇したが、それから2008年の金融危機まで低下
の傾向を示し、2008年中国の消費がGDPの半分以下、48%になった。2009年から徐々に 回復したが、消費率の上昇は緩やかに進行し、2018年の消費対GDPは55%である。また、
消費の成長率は決して低くないが、1994年は34%の伸び率を持つが、近年ほぼ10%を維 持しており、他の項目の伸び率と比較すると低い伸びにとどまっている。消費対GDP比率 の成長率が中国の経済成長率と比べると、消費の依存度はそれほど大きくない。消費意欲 の低下によって、消費財の輸入規模が小さいことがあげられる。また、消費がGDPに対す る割合が小さくなると、貯蓄対GDPの比率は高くなる。近年中国4割の貯蓄率水準は、家
21 松林(2010)より
120 計消費を最大化するような貯蓄率の水準を超えてしまっており、更なる貯蓄率の上昇は貿 易収支黒字かつ GDP を増価させることがあっても、消費をむしろ低下させる可能性が高 い。中国の消費率はほかの国と比較すると低く、かつ消費の伸び率が低いため、過少消費 が中国貿易収支不均衡を解消できない原因だと考えられる。
図7-9 中国貯蓄と消費対GDP比率の推移
出所:中国統計年鑑より作成 注:消費の成長率は右軸に参照
図7-10 中国部門別消費の推移
出所:中国統計年鑑
121 7.2.3 投資の視点から
(7-1)式によると、中国の投資が多ければ多いほど、貿易収支黒字を縮小できる。図 7-11は中国投資の推移である。投資額からみると、中国の投資が上昇傾向を維持し、2018年 に対して投資額が約60000億ドルに達し、1994年の2310億ドルの26倍、2000年の12140 億ドルの5倍である。また、投資対GDPの比率から見ると、中国の投資は2000年から投 資を急成長に対し、2004年をピークに達し、43%になった。その後若干低下するが、2006 年から再度投資ブームが起こり、2011年には48%に達した。近年投資意欲が少し減退した
が、ほぼ45%のレベルで維持している。理論的に、投資の増加とともに、貿易収支黒字は
縮小できるが、現実中国のケースを見れば、投資の増加にもかかわらず、貿易収支黒字も 増加していく。その原因は、投資は生産能力増をもたらしているためである。投資は、基 本的にはより長期的な視野に基づいて行われていると考えられる。中国の貿易黒字は2000 年代から急成長した。これは投資の拡大という動きと関係していると推測できる。つまり、
今期の投資を通じて企業の長期的な将来収益に影響を与え、結果的に投資の増加とともに、
貿易収支黒字も増加を示している。
図7-11 中国投資の推移
出所:IMFの「World Economic Outlook」より 注:投資率は右軸参照
中国がWTOに加盟した2000年以来、労働力優位性と為替安定を持つため、輸出競争力 を上昇させ、輸出の拡大をもたらしたと考えられる。為替レート改革を実施した2005年以 来、人民元は切り上げの傾向により、企業の海外投資コストが低くなり、海外投資は増え