2.3 高調波対策に関する研究動向
2.3.1 AF に関する技術動向
けて,障害件数は減少傾向にあり,半分程度にまで減少している。一方,2000年以降 においては大きな変化はなく,ゆるやかに推移している。この事故件数の推移からも,
近年の高調波障害発生件数は,以前と比較すると低い水準で推移していることがわか る。以上の結果から判断すると,日本においては高調波の問題は大きな懸念事項では ないように見える。
一方で,文献[69]は,高圧系統の三相負荷から発生する5次高調波電流と,低圧系 統から発生する5次高調波電流の位相関係がほぼ反対であり,結果として5次高調波 電流が打ち消し合っている,と報告している。また,その続報となる文献[70]では,
現在は偶然にも高調波電流の打ち消し効果が最も大きくなる負荷状態になっていると 系統の電力需要のデータから推測している。したがって,現状の系統電圧のTHDが 低いとしても,高調波電流の絶対量が減少したとは限らない。さらに言えば,低圧系 統負荷もしくは高圧系統負荷の一方で高調波抑制が成されると,打ち消し効果が少な くなってしまい,結果として系統電圧ひずみは増大してしまう可能性がある。
以上のように,THDの推移のみに着目すると,現在の日本における高調波問題は深 刻な状態になく,現状の対策で十分なように思える。しかしながら,その安定した状 態は,打ち消し効果による偶然の産物である可能性があり,今後も高調波の動向を十 分注意していく必要があると言える。
調波検出では,p-q理論に基づいた手法が一般的に採用されている。文献[71]は,静止 座標系に回転座標変換を含むハイパスフィルタを実装する手法で高調波検出を達成し ている。この手法により,正弦波のルックアップテーブルが不要になるなど,制御装 置の要件を減らすことが可能になる。また,高調波検出法のさらなる分類として,一 括で高調波を検出する方法と,特定の次数調波のみを補償する方法がある。文献[72]
は特定次数高調波検出の安定性について議論を行っている。回転座標変換とハイパス フィルタによる一括高調波検出法は,安定性の問題で補償ゲインKを大きくすること ができず十分な補償特性を得ることが困難であるのに対し,各次数の高調波の回転座 標変換とローパスフィルタで検出する特定高調波検出方式は,ゲインを大きくしても 安定性を確保できることを報告している。ただし,この文献においては系統インピー ダンスをインダクタンスのみと考えて解析を行っている。文献[73]は,系統インピー ダンスにキャパシタンス成分を含めた,共振を有する配電系統を対象として一括高調 波検出と特定高調波検出の安定性比較を行っている。比較結果から,配電系統の共振 周波数と高調波検出周波数が一致した場合において,特定高調波検出はゲイン余裕が 低下する上,その改善が困難であることを指摘している。一方,一括高調波検出方式 は検出高調波付近では十分な位相余裕を確保できる。また,比較的高い周波数におけ るゲイン余裕の低下が発生するが,電流制御特性の改善により解決する手法を提案し 実験により確認している。単相AFにおいては,p-q 理論を適用できないため三相AF と同様の手法で高調波検出をすることができない。これは,p-q 理論における無効電 力が相間を循環する電力を示しているためである。そのような問題があることから,
単相AF における高調波検出法については,これまでに多くの議論がなされてきた。
文献[74]は,補償電流指令値の生成法として(1)p-q理論を用いた手法,(2)AFの直流 電圧を用いて推定する手法,(3)負荷の平均電力を用いた手法の三種類の方法の高調波 補償特性を比較している。ここでの(1)p-q理論を用いた手法とは,単相回路の電流を 三相平衡回路においてa相に流れる線電流と仮定し,b相·c相の線電流を計算で求め ることでp-q理論を適用している。比較の結果より,上記三つの制御法は同等の補償 特性を有することが示されている。文献[75]は,ヒルベルト変換器を用いて得られた 値を虚軸量として,d-q変換を行うことで基本波成分の検出を行っている。AFの直流
電圧や負荷の平均電力から高調波を推定する手法は高調波検出時間が基本波一周期分 かかるのに対し,この手法は基本波の半周期での高調波検出を可能とした。
高調波補償をフィードバック制御で行う場合,比例ゲインの設定が非常に重要とな る。設計を誤ると,補償特性が悪化するばかりでなく,高調波を増大してしまう可能性 もある。文献[76]は,高調波拡大現象の抑制を目的とした電圧検出方式の並列形AF を対象にゲイン自動調整機能を付加する手法を提案している。対象とするAFの設計 において,線路の特定インピーダンスと,高調波成分に対するAFの等価抵抗値を等 しく設計することが求められる[50]。しかしながら,電力系統は時々刻々とその構成 が変化し,インピーダンスも時間によって異なるためゲイン設計が困難である。そう いった問題に対して,ゲイン自動調整機能を使用すれば,線路定数や系統状態が未知 の状態でも適切なゲインを設定可能となるため有効であることを実験により示してい る。文献[77]は,数kVAの可変速ドライブから発生する高調波抑制を目的として,二 つのインバータを使用し,一方には安定性に優れるフィードフォワード制御を,もう 一方には定常特性に優れるフィードバック制御を適用する手法を提案している。この 構成は,(1)単一のインバータと比較してよりも定常特性が優れている,(2)一方のイ ンバータには比較的高次の高調波の補償を,もう一方には低次の高調波を補償を割り 当てることで,優れた動特性を得ることが可能,(3)冗長性を有する高調波負荷分担 動作が可能,(4)インバータ間の通信は不要,(5)二台のインバータのスイッチング周 波数を同一とし,インターリーブ動作させることでスイッチングリプルの低減が可能,
など様々な利点を有することが示されており,その動作を実験により検証している。
高調波補償特性の改善に対して,サンプリングを変更する手法も提案されている。
文献[78]は,電流制御におけるAF出力のサンプリングを三角波キャリアの頂点と零 クロスで行う手法を提案してる。デッドビート制御を行う際には,零クロス点でサン プリングを行うことによる電圧誤差が問題となりうることを示し,その解決法を提案 している。結果として,インバータの周波数特性が改善することを理論的に示してお り,AFに適用することで補償特性が改善できることを実験検証している。
高調波電流の制御法について,すべての高調波を単一の制御器で制御する手法と,
高調波次数ごとに制御器を実装する手法がある。高調波次数ごとに制御することの利
点として,(1)悪影響の大きい高調波のみを選択的に補償可能,(2)周波数ごとに制御 器設計を行うことで全体の安定性を改善可能などが挙げられる[79]。一方で,補償次 数の数だけ制御器を実装する必要があるため,すべての高調波を一括制御する場合と 比較して,制御装置に要求される性能が高くなる欠点がある。文献[79]は,一つの次 数調波に対して一つの制御器を使用するのではなく,(6n±1)ωk, n= 1,2, ...の組み 合わせの周波数ごとに制御器を実装することで,制御演算量を低減する手法を提案し ている。
AF設置場所について,特定高調波源の対策としては負荷近傍に近傍に接続するも のが一般的である。一方で,不特定高調波源による高調波電圧·電流の対策としては,
その設置場所も様々なものが提案されている。文献[80]では,高配電系統用並列形 AFの効果的な制御方式·接続場所について解析的な議論を行っている。負荷電流検 出方式·電源電流検出方式·電源電圧検出方式の三方式の比較を行い,電源電圧検出 方式が安定性の面で優れていることを示している。また,AF の設置点における検討 では,高調波発生源とAFの位置を変化させた解析を行っており,高調波拡大現象の 抑制には系統末端に並列形AFを接続するのが効果的であることが示されている文献 [81]は,三相4線式の配電系統において問題となる中性線に含まれる高調波電流の抑 制を目的として,中性線に直列接続するAFを提案している。文献[82]は,受電端に おける中性点電位に3次高調波電圧が含まれる問題に着目しており,同様に中性線に AFを直列接続する方式を採用している。また,文献[83]は,3次高調波電圧および電 流の抑制法について述べ,実験によりその有効性を検証している。文献[81]ではAF を純抵抗として動作させていたが,文献[83]では誘導性リアクタンスとして動作させ ることで,高調波電流補償における系統とAF間の有効電力のやり取りを不要とした。
これら中性線用AFは使用する装置が単相AFであるため,三相4線式AFを導入す るよりもコスト面で優位であることが特長である。文献[84]は,柱上変圧器の低圧側 に一巻線を追加し,並列形AFを設置する方法を提案している。このAFは,一バン ク内の住宅等から発生する高調波を一括で補償することを目的としている。この手法 の大きな利点は,変圧器の漏れインダクタンスが負荷に直列に接続されるため,並列 形AFが苦手とする容量性負荷に対しても良好な高調波補償特性を得ることができる
ことである。
電力変換器とパッシブフィルタを使用して AF の容量低減を図る,ハイブリッド AFも多くの研究がなされ,様々な回路方式が提案されている[85]–[88]。文献[88]は,
7次高調波の周波数近傍に同調したフィルタと並列形AF を直列接続した構成のトレ ンスレス・ハイブリッドフィルタを提案している。直流側電圧を交流電源電圧よりも 低い値に設定することが可能になるため,電源電圧よりも低耐圧なスイッチングデバ イスを使用可能となる。また,AFと同一の回路構成で高調波の共振抑制を行うアク ティブダンパの研究も近年活発である[89]–[93]。
以上のように,AFは設置場所から制御法まで数多くの議論がなされ,高調波補償装 置としての技術は確立されている。一方で,単相AFを三相システムで使用すること に着目した文献は見受けられない。これは,AFが高調波を抑制するために接続され る装置であり,三相システムには三相AFを使用するのが最適なためである。本研究 が着目しているのはDGの付属機能としてのAFであることから,その設置目的が高 調波抑制ではない。したがって,必ずしも装置が三相システムの高調波抑制に適した 構成であるとは限らないことを考慮しなければならない。このような視点は,本研究 の独特な点であると言える。
2.3.2 DG による高調波抑制の研究動向
先述したように,高調波補償単体の制御に関する部分は並列形AFの技術を適用可 能である。そのため,研究報告の多くは,DGに高調波抑制機能を付加する際の課題 に着目している。
文献[94]では,電圧検出方式の高調波補償をDGに適用した際におけるシミュレー ションの動作報告を行っている。系統電圧ひずみが存在する場合においても良好な高 調波補償特性が得られることを報告している。文献[51]では,電圧検出方式の高調波 補償を行うDGの詳細な解析が行われている。高調波補償機能実装に伴う,DG側の DCコンデンサ電圧の脈動の変化や変換器容量の増加量などを評価し,大幅な体積増 加には繋がらないことを示している。また,高調波電圧源と高調波電流源に対する補 償評価を行い,双方に対し効果があることを示している。
DGによる高調波補償を行う場合,基本的には装置の余剰定格で行われる。すなわ ち,使用できる電力容量が限られているため,状況に応じた最適な動作を検討する 必要がある。文献 [95]は,二つの動作を提案している。一つは,文献内で示される CPQI(comprehensive power quality index)と呼ばれる電源品質の指標に基づいて,
最小限の品質改善を行う動作で,もう一方は,最大限の電源品質改善を行う動作であ る。このような,DGの動作の指標を決めることは大きな課題の一つである。
発電と電力品質改善を行うためには,正確な有効·無効電力制御が必要となる。そ の制御法についても,多くの論文により様々な手法が提案されている[96]–[100]。文 献[96]は,電力制御器と高調波電流制御器を分離することで,高調波検出を除去可能 な制御を提案している。また,電力制御を閉ループ制御とすることで定常状態の電力 誤差を零にするとともに,PLL(Phase Locked Loop)を不要としている。
DGは系統連系動作だけではなく,自立運転が求められる場合がある。そのような 動作も考慮した場合の制御法の検討も行われている。文献[101]は,DGの制御方法と して電流制御と電圧制御の比較を行っている。電圧制御は電流制御と比較して,高調 波補償・無補償・単独運転などの様々な動作への柔軟性が高い利点がある。また,V-f ドループ制御による協調制御が容易であることから,マイクログリッドへの適用性も 高いことが報告されている。
DGは基本的に系統連系されて運用されるため,系統電圧と同期して運転を行う。
系統電圧に同期する手法の一つとして,電圧ゼロクロスを検出する手法がある。しか し,系統電圧がひずんだ場合においてはゼロクロスの位置が基本波のそれと一致しな いため,基本波位相の検出が困難となる。結果として,ゼロクロスのずれに伴って同 期にもずれが生じ,高調波補償特性の悪化につながる。文献[102]は,系統電圧の基本 波位相検出方法としてFast-zero-phase detection(FZPD)法を提案し,系統電圧が大 きくひずんだ場合における高調波補償特性の向上を実現している。
以上のように様々な研究により,DGによる高調波抑制の手法が確立しつつある。
一方で,上記の研究は三相負荷には三相DGを,単相負荷には単相DGを接続した構 成で検討している。したがって,本研究が対象とする三相回路内での単相DGの振る 舞いについては議論されていない。単相DGの不平衡接続に関連した研究は見られる