三相配電系統の高調波電流補償 に関する研究
吉田 秀人
2016
年目次
第
1
章 緒論1
1.1
研究背景. . . . 1
1.1.1
電気社会への要求とパワーエレクトロニクス. . . . 1
1.1.2
省エネルギー化と高調波問題. . . . 3
1.1.3
分散型電源による高調波抑制. . . . 4
1.1.4
高調波抑制の方法と考え方. . . . 6
1.2
研究目的. . . . 7
1.3
論文構成. . . . 8
第
2
章 高調波の現状と関連研究11 2.1
高調波の概要. . . . 11
2.1.1
高調波発生源の分類. . . . 11
2.1.2
代表的な高調波発生源. . . . 11
2.1.3
実際の製品から発生する高調波電流. . . . 13
2.1.4
高調波障害. . . . 14
2.1.5
一般的な高調波対策手法. . . . 16
2.2
高調波に関する世界の状況. . . . 21
2.2.1
海外における高調波. . . . 21
2.2.2
日本国内における高調波. . . . 23
2.3
高調波対策に関する研究動向. . . . 25
2.3.1 AF
に関する技術動向. . . . 25
2.3.2 DG
による高調波抑制の研究動向. . . . 29
2.4
実システムと検討回路. . . . 31
2.4.1
三相3
線式電力系統. . . . 31
2.4.2
検討回路と実験装置. . . . 32
2.5
目的に対する本研究のアプローチ. . . . 33
2.6
本章のまとめ. . . . 34
第
3
章 単相アクティブフィルタを一相接続時の高調波抑制35 3.1
三相3線式系統における高調波電流の挙動. . . . 35
3.1.1
線電流の数式表現. . . . 35
3.2
一相での高調波補償が3
次高調波電流に与える影響. . . . 37
3.2.1 AF
非接続時の3
次高調波電流の挙動. . . . 37
3.2.2 AF
一相接続時の3
次高調波電流への影響. . . . 39
3.3
一相での高調波補償が5 · 7
次高調波電流に与える影響. . . . 40
3.3.1 AF
非接続時の5
次高調波電流の挙動. . . . 40
3.3.2 AF
一相接続時の5
次高調波電流への影響. . . . 41
3.3.3 AF
一相接続によるTHD
の変化. . . . 42
3.4 3
次高調波環流法. . . . 46
3.4.1
高調波抑制原理. . . . 46
3.4.2
制御方法. . . . 48
3.5
実験結果. . . . 50
3.6
正相·
逆相高調波電流の実効値を基準とした考察. . . . 53
3.6.1
一つのAF
による高調波抑制の一般化. . . . 53
3.6.2
高調波電流最小化時の正相・逆相・零相電流の状態. . . . 54
3.6.3 AF
出力電流の決定法. . . . 55
3.7
本章のまとめ. . . . 57
第
4
章 単相アクティブフィルタを二相接続時の高調波抑制59 4.1
従来法使用時の高調波電流の挙動. . . . 59
4.2
高調波環流法. . . . 61
4.3
提案法の制御法. . . . 62
4.3.1
各AF
の動作. . . . 62
4.3.2
制御ブロック線図. . . . 64
4.4
所要容量比較. . . . 64
4.4.1
従来法の所要容量. . . . 65
4.4.2
提案法の所要容量. . . . 65
4.4.3
比較結果. . . . 66
4.5
実験結果. . . . 69
4.6
本章のまとめ. . . . 75
第
5
章 単相アクティブフィルタを用いた三相系統の高調波抑制手法の一般化77 5.1 AF
を三相接続時の高調波抑制法. . . . 77
5.1.1 AF
を三相接続時の制御の指標. . . . 77
5.1.2
環流電流を除いた高調波抑制の実験. . . . 78
5.2
高調波最小化制御. . . . 81
5.2.1
提案制御の詳細と動作. . . . 82
5.2.2
制御法. . . . 87
5.3
シミュレーション結果. . . . 88
5.3.1
補償効果の比較. . . . 90
5.3.2
所要容量の比較. . . . 93
5.3.3 period C
およびperiod D
におけるΔ接続負荷環流電流. . . . 93
5.4
本章のまとめ. . . . 95
第
6
章 結論97 6.1
本研究の成果. . . . 97
6.2
今後の課題. . . . 98
6.2.1
実用化における技術課題. . . . 98
6.2.2
技術面以外の課題. . . 100
参考文献
103
研究成果
117
謝辞
121
表目次
2.1
米国の実系統における高調波電流(文献[54]
より抜粋). . . . 22
3.1
三相変圧器一次電流の次数別高調波電流量とTHD
(図3.12
). . . . 52
4.1
従来法と提案法の所要容量. . . . 68
4.2
実験における各定数. . . . 70
4.3 AF
動作前における各電流の高調波成分とTHD . . . . 71
4.4 AF
動作前における各電流の高調波成分とTHD . . . . 73
5.1
三相変圧器一次電流の次数別高調波電流量とTHD
(図5.1
). . . . 80
5.2 3
章,4
章,および5.1.2
にて提案した接続状況別のAF
動作. . . . 82
5.3
電源電流のTHD
とAF
出力電流値. . . . 92
図目次
1.1
実系統における高調波電圧ひずみの推移([25]
より引用). . . . 4
2.1
コンデンサ入力形ダイオード整流回路. . . . 12
2.2
コンデンサ入力型ダイオード整流回路のシミュレーション波形. . . . 12
2.3
コンデンサ入力型ダイオード整流回路のシミュレーション波形. . . . 13
2.4 LED
電流(20
並列)の入力電流波形とFFT
結果. . . . 14
2.5
無線LAN
ルータの入力電流波形. . . . 14
2.6 12
パルス整流回路. . . . 16
2.7 PFC
コンバータ. . . . 17
2.8 LC
フィルタの構成例. . . . 18
2.9
アクティブフィルタ. . . . 19
2.10
実系統における高調波電圧ひずみの推移[67] . . . . 24
2.11 1990–2010
年における高調波障害報告件数の推移[67] . . . . 24
2.12
日本の電力系統の簡易図と研究対象回路. . . . 31
2.13
本研究での検討·
提案事項と各章の関係. . . . 33
3.1
検討回路二次側の等価回路と電流の定義. . . . 36
3.2 3
次高調波電流の経路(平衡負荷). . . . 38
3.3
従来制御法を適用したAF I
接続時の3
次高調波電流の経路(負荷平 衡). . . . 39
3.4
シミュレーション回路. . . . 43
3.5
一相でAF
動作時における相電流. . . . 44
3.6
一相でAF
動作時における三相変圧器二次電流. . . . 45
3.7 AF
補償度合とTHD
・3
次高調波電流・5
次高調波電流の関係. . . . 46
3.8 AF
非接続時の3
次高調波電流の経路(i
Lab> i
Lbc= i
Lbc). . . . 47
3.9
提案法を適用したAF
を一相間に接続時した場合における3
次高調波 電流の経路(i
Lab> i
Lbc= i
Lbc). . . . 48
3.10 3
次高調波平衡制御適用時の制御ブロック線図(AF I
). . . . 50
3.11
特定周波数抽出ブロック(基本波抽出の場合). . . . 50
3.12
実験波形. . . . 51
3.13
一つのAF
による高調波抑制のフェーザ図. . . . 54
3.14
最小化範囲内での差異. . . . 55
3.15
単相系統の高調波抑制を基準としたI
DG II n. . . . 55
3.16 AF
出力電流の低減を基準としたI
DG II n. . . . 56
3.17 n
次高調波の電流経路と線間電圧. . . . 57
4.1
二つのAF
が動作時の高調波電流経路. . . . 60
4.2
二台のAF
が動作時における各高調波電流の関係. . . . 63
4.3
提案法の制御ブロック線図. . . . 64
4.4
従来法と提案法の所要容量比(k
1= 1) . . . . 69
4.5
実験回路. . . . 70
4.6 AF
動作前における各部の電流波形. . . . 71
4.7 AF
動作後における各部の電流波形. . . . 72
4.8 i
bc h とi
zeroの実験波形. . . . 73
4.9 AF
動作前後のi
zero. . . . 74
5.1
実験結果. . . . 79
5.2
三つのAF
の出力電流と各電流の関係. . . . 83
5.3
提案法を適用したAF
が一つ動作している時の高調波電流計路. . . . 84
5.4
提案法を適用したAF
が二つ動作している時の高調波電流計路. . . . 85
5.5
提案法を適用したAF
が三つ動作している時の高調波電流計路. . . . 86
5.6
高調波最小化制御のブロック線図. . . . 88
5.7
シミュレーション波形(period A
). . . . 89
5.8
シミュレーション波形(period B
). . . . 90
5.9
シミュレーション波形(period C
). . . . 91
5.10
シミュレーション波形(period D
). . . . 91
5.11
提案法を適用したAF
が二台動作している時の,i
′zero hとi
Lca hのシ ミュレーション波形. . . . 94
5.12
提案法を適用したAF
が三台動作している時の,i
zero h とi
′zero h の シミュレーション波形. . . . 94
第
1
章緒論
1.1
研究背景1.1.1
電気社会への要求とパワーエレクトロニクス今日,電気エネルギーは当たり前に使用されており,生活から切り離せない存在と なっている。
2013
年度における家庭部門および業務部門のエネルギー消費量は,1973
年度と比較して,それぞれ2.0
倍および2.5
倍にまで増加している[1]
。2010
年12
月,中部電力管内にて発生した
0.07
秒の瞬時電圧低下は,東芝四日市工場に100
億円相当 の損失を引き起こした[2]
。この一事からわかるように,現代社会において,僅かな時 間の電気の遮断ですら大きな悪影響が出るほどに,我々は電気エネルギーに依存して いる。そして,その依存度の高さから,電気事業者には高い信頼性が要求されている。現状,日本の電力系統は高い信頼性を誇っており,
2008
年における一需要家あたりの 年間事故停電時間は6
分と,世界的に低い値となっている[3]
。また,一年間に発生す る瞬時電圧低下の平均回数は9.1
回との報告があり[4]
,こちらも諸外国と比較して少 ない回数と見込まれている[5]
。しかしながら,停電や瞬時電圧低下の発生件数が零で ない以上,常に一定のリスクが存在する。そういった危険性に対してパワーエレクト ロニクス技術が利用され,さらなる高信頼化に貢献している。代表的な機器として,無停電電源装置(
Uninterruptible Power Supply
,UPS
)が挙げられる。現在,UPS
はオフィスや工場から一般家庭まで幅広い施設で使用されており,出荷台数も増加傾 向となっている[6]
。データセンターのような極めて高い信頼性が要求される施設にお いては,高圧直流給電技術を適用することでさらなる高信頼化と低損失化を実現する 手法が注目されている[7]
。その他の要求として,環境にやさしいクリーンなエネルギーが求められている。
2011
年3
月11
日の東日本大震災に伴い発生した福島第一原子力発電所の稼働停止 により,火力発電への依存度を増加せざるを得ない状況となった。その結果,以降 のCO2
排出量は原子力発電停止前と比べ大きく増加した[8]
。現在,CO2
排出量削 減目標として2030
年には26%
の削減(2013
年度比)が,2050
年には60–80%
の削 減(2007
年度比)が掲げられている[9]–[11]
。この目標を達成する上で,火力発電へ の依存度が高い現状は望ましい状況とは言えない。したがって,環境に配慮した電気 社会を確立することは重要な課題であると言える。この課題の解決に対しても,パ ワーエレクトロニクス技術は大きく貢献している。その役割は,消費電力の削減,お よび再生可能エネルギーによるクリーンな電力の提供である。2015
年6
月に策定さ れた,2030
年のエネルギー需要の見通しでは,一次エネルギー需要削減目標として 約5030
万kl
(原油換算)の省エネルギー化が掲げられた[12]
。発電用に使用される 一次エネルギーは国内供給量の43.9%
(2013
年度実績)であることから,電気エネ ルギーの需要削減も求められている[13]
。具体的な需要削減策として,普及が進む電 気自動車やプラグインハイブリッド自動車など次世代自動車の普及や,LED
照明等 の省エネルギー照明の更なる普及が検討されている[14]
。その他にも,近年研究が進 むHEMS
(Home Energy Management System
)およびBEMS
(Building Energy
Management System
)などの各種エネルギーマネージメントシステム[15]
の推進も検討されている。これら製品
·
サービスにおいてパワーエレクトロニクスは重要な要 素であり,より高効率で便利な製品を生み出すことは,パワーエレクトロニクス技術者 の重要な役割である。また,同見通し内にて,2030
年における電力需要の22–24%
を 再生可能エネルギーで賄うとの目標も掲げられている。これらの見通しを実現するた めには,パワーエレクトロニクス技術の発展は必要不可欠である。太陽光発電や風力 発電に用いられる電力変換器は,現在までに多くの研究がなされてきた[16]
。国内で は,太陽光発電の遠隔制御に関する実証実験に取り組むなど[17]
,普及を進めると同 時に,さらなる発展が求められる分野である。以上のように,パワーエレクトロニクスは現代の電気社会における課題を解決する 上で非常に重要な役割を担っている。そして,今後の電気社会の発展を維持する上で,
よりいっそう重要な分野になると考えられる。
1.1.2
省エネルギー化と高調波問題省エネルギーが発電と同等の効果を有することから,省エネルギーにより得られた エネルギーをネガワットと呼ぶことが提唱されている
[19]
。すなわち,省エネルギー 機器はネガワットの観点で非常に高い発電効果があると言える。インバータエアコン は,従来の断続運転による温度制御と比較して,大幅な小形化·
省エネルギー化を達成 した[18]
。ノンインバータエアコンと比較すると,インバータエアコンは約30%
もの 消費電力削減効果を有する[20]
。文献[21]
は,米国内の照明をすべてLED
照明に置 き換えることで,年間475 TWh
のエネルギー消費が削減できると報告している。以 上のような省エネルギー機器の多くはパワーエレクトロニクス技術を適用することで 実現しており,多くの場合,系統電源の交流を直流に変換する回路が内蔵されている。インバータ機器の直流電圧は,電源電圧の交流電圧を整流することで生成されている。
LED
電球も,交流電圧を直流電圧に整流する必要があり,電源回路部に整流回路が 含まれている[22]
。これら整流回路として,ダイオード整流回路は回路構成が簡易・比較的安価といった特徴から,多くの汎用品に使用されている。しかしながら,ダイ オード整流器は多量の低次高調波(主に
150 Hz
,250 Hz
,350 Hz
)を発生するという 欠点を有する。高調波は電気機器に悪影響を与えることが知られており,系統電圧に おける高調波含有量は電力品質の指標の一つとなっている[23]
。その悪影響は様々で あり,送配電損失の増加や機器寿命の低下など,定量化が困難なものも存在する。ま た,過去には高調波が原因で電気設備が爆発した事例も報告されており[24]
,人命に 関わる問題にもなりうる。上記のような事故を防止するために高調波規格が施行され,その抑制がなされている。規格により,特定の需要家は高調波発生量を基準値以下に 低減することが必要となる。そのため,対象の需要家は各種高調波フィルタを導入す ることで高調波抑制を図っている。
家電機器など小電力の高調波発生源は,メーカー側が製品に対策を施し,高調波電 流の発生量を基準値以下に抑制することが必要となる。その結果,個々の機器から発 生する高調波電流は微小な値にまで低減されている。しかしながら,系統に接続され る機器の絶対量が膨大であるため,発生する高調波電流の総量は無視できないのが現
図1.1 実系統における高調波電圧ひずみの推移([25]より引用)
状である。図
1.1
は配電系統内の負荷を6
つのグループに分類し,各グループの負荷 が発生する5
次高調波電流の一日の推移を推定したものである[25]
。注目すべきは,低圧系統の単相負荷が発生する高調波電流が一日を通して高い水準にある点である。
地域による格差は存在すると思われるが,低圧単相負荷から発生する高調波電流が全 体として無視できない状況であることは,このデータから明らかである。
近年は
LED
電球が急速に普及するなど[26]
,高調波発生源は増加の一途となって いる。先に示した2030
年の消費電力削減目標を達成するためには,更なる省エネル ギー機器の普及が必要不可欠となることから,今後,高調波電流が増加していくこと は避けることができないと思われる。したがって,省エネルギー化を推進していくた めには,高調波問題への更なる対策を行うことが必要になると思われる。1.1.3
分散型電源による高調波抑制高調波問題を根本から解決する方法は,高調波の発生を抑制することである。しか しながら,高調波抑制回路の追加は,部品点数の増加による機器体積の増大等を招く ため,消費者の観点からは望ましい方法とは言えない。また,現在普及しているすべ
ての機器に対して,今以上の抑制対策を施すことは困難である。その他の方法として,
機器単位でなく需要家単位で対策を行う方法もあるが,系統に接続される全需要家が 高調波抑制装置を導入することは現実的ではない。
近年,新たな高調波抑制の手段として分散型電源(
DG
)を用いた方法が注目され ている。日本においては,太陽光発電(Photovoltaic, PV
)が広く普及してきており,PV
の設置数は増加傾向にある。PV
は,太陽光パネルで発電した直流電力を我々が 使用する交流電力に変換するための電力変換回路を備えている。この電力変換回路を 電力用アクティブフィルタ(Active Power Filter, AF
)として動作させることで高調 波抑制装置の機能を付加する研究が近年盛んに行われている。PV
を例とすると,PV
は夜間や悪天候時は勿論のこと,晴天時においても常に最大定格で動作するとは限ら ない。そういったPV
出力が電力変換器の最大定格に達しない状況において,PV
をAF
として動作させる。この手法の利点の一つは,制御回路の変更のみで機能を追加 可能なことである。すなわち,従来の高調波対策とは異なり,高調波抑制専用の特別 な装置を必要とせずに高調波抑制が達成できる。また,我が国において,先に述べた ように再生可能エネルギー比率の増加を目標に掲げているため,DG
の普及は今後よ り一層進むと考えられる。以上の理由から,高調波抑制機能を有するDG
は,将来の 高調波補償装置として活躍することが期待されている。特に,低圧配電系統の高調波抑制に対しては,
DG
による高調波抑制は効果的であ ると考えられる。先述したように,現在わが国では低圧系統に接続される需要家に対 する高調波発生量の限度値が定められていない。そのため,低圧系統の需要家に高調 波抑制の義務はなく,高調波フィルタを普及させることは困難である。しかしながら,AF
のような高調波抑制専用の装置ではなく,DG
の付加機能としての高調波フィル タならば普及が比較的容易だと思われる。一方で,
DG
に発電以外の機能を付加するためには様々な課題が存在し,多くの研 究がなされている。例えば,太陽光発電の本来の目的である発電を阻害してしまうと,設置者の不利益に繋がる。したがって,有効・無効電力の制御を正確に行う必要があ り,多くの研究がなされている。また,最小限の容量で電源品質を達成するための指 標などを検討している論文も見受けられる。また,多数の太陽光発電装置が並列に接
続された状況において,出力分担を適切に行う手法の報告もある
[27][100]
。以上のよ うに,DG
による高調波抑制の実用化における技術的課題は,多くの研究により解決 法が提案され実用化に近づいている。ただし,
DG
に付加する機能として提案されているのは,高調波抑制機能だけでは ない。たとえば,DG
を用いて系統の電圧調整を行うことで,系統電圧を適正値に維 持する手法が提案·
研究されている[28]
。その他にも,DG
により系統電圧の不平衡 補償を行う研究も報告されている[29][30]
。これらの機能と高調波抑制機能が共存す るためには,各制御と干渉しないことが重要である。現状は個別の機能に関する研究 が主であるが,将来的にはDG
は単なる発電装置ではなく,多くの付加価値を有する 装置になると考えられる。1.1.4
高調波抑制の方法と考え方負荷で発生した高調波電流が電力系統へ流出すると,送配電線のインダクタンス成 分等に起因して高調波電圧が発生する。その結果として,系統電圧に高調波ひずみが 生じ,歪んだ電圧が他機器への悪影響を与える。したがって,高調波電流は発生源の 近傍で抑制し系統電圧への影響を極力抑えた方が良い,というのが従来の高調波電流 抑制の基本的な考え方である。すなわち,住宅用
PV
等による高調波抑制を行う場合 には,住宅から発生する高調波電流をすべて抑制する方法が一般的である。この方法 は,単相回路のみを考えた場合には,もっとも効果的な手法のように思える。しかし ながら,実際の電力系統は三相システムであり,単相回路のみでの考え方が三相系統 の電力品質改善において効果的とは限らない。低圧系統に導入される住宅用
PV
などのDG
は単相系統に連系されるため,高調波 抑制時には単相AF
として動作する。一般的なAF
は,近傍負荷から発生するすべて の高調波,もしくは支配的な次数の高調波を抑制する。したがって,単相AF
が出力 する高調波電流の多くは,高調波の中でも発生量の多い3
次,5
次,7
次高調波成分と なる。一方で,実際に高調波障害の要因として問題となっている高調波次数は5
次と7
次であり,3
次高調波は含まれていない。このことからわかるように,単相回路で 発生する高調波と電力系統で問題となる高調波は,必ずしも対応しているとは限らない。したがって,単相系統で発生する高調波電流が三相系統に与える影響を考慮すれ ば,より効果的な単相高調波補償が可能になるのではないかと思われる。
また,
DG
は需要家が主体となって導入されるため,必ずしもすべての住宅に導入 されるとは限らない。すなわちDG
が三相平衡に接続されるとは限らず,DG
の導入 率が高い特定の相のみ高調波電流が抑制されるような状況になりうる。今後DG
の普 及が進み,設置台数が増加した場合には,高調波電流が著しく不平衡になる可能性が でてくる。現状,系統電圧に含まれる3
次· 5
次· 7
次高調波成分は,それぞれ零相·
逆 相·
正相となっており,高調波電流は平衡状態に近い値であると推定できる[31]
。一 方で,もし現状と異なる不平衡高調波が発生した場合,どのような変化が起こるかは 不明であり,新たな問題が発生する可能性がある。以上のように,単相系統で発生する高調波電流が三相系統に与える影響の検討は,
単相高調波補償装置の普及を進める上で必要不可欠である。
1.2
研究目的本研究の目的は,単相
DG
を用いて三相配電系統の高調波電流を抑制する手法を確 立することである。単相DG
による高調波補償を行う上で,単相の高調波補償装置が 三相系統の高調波に与える影響を検討することが必要不可欠である。本論文では,単 相AF
が三相回路の一部の相のみに接続された場合の影響を検討し,課題点を明確化 する。さらに,AF
の接続状況を考慮した制御法を提案する。従来の高調波抑制に関する研究により,高調波の検出法や制御法は十分に議論
·
提 案されている。また,DG
を高調波抑制装置として使用するにあたり発生する技術的 課題は様々な論文により議論されている。一方で,高調波抑制法については十分に議 論されておらず,DG
の近傍負荷から発生する高調波を抑制する手法が一般的となっ ている。この手法は,DG
が接続された単相の高調波電流の抑制は達成できるが,三 相系統を流れる高調波電流の抑制効果は保証されていない。すなわち,DG
により一 部の相の高調波電流を低減したことで,三相系統の高調波電流が増加してしまうおそ れがある。そういった状況を防ぐために,単相の高調波フィルタが不平衡に接続され た状況を想定して議論する必要がある。また,
DG
の接続状況が三相不平衡な状況下においては,不平衡な高調波電流の発 生に繋がる。不平衡な高調波とは,不平衡負荷から発生する高調波電流を示し,平衡 負荷から発生した高調波とは異なる挙動を示す。文献[37]
は,三相不平衡な3
次高調 波電流によって事故検出用逆相電圧リレーが誤動作したこと報告している。これは,不平衡高調波が誘発した高調波障害の一例であり,不平衡な高調波補償が問題となる 可能性を示唆している。したがって,単相高調波補償が不特定多数ある場合において は,単に近傍負荷が発生する高調波電流を抑制するのではなく,三相電源へ流入する 高調波電流を抑制する手法の検討が必要となる。
以上の理由より,本研究では単相高調波補償装置の研究であるが,三相回路を用い て検討
·
実験を行い,線電流に含まれる高調波電流を低減する。本論文の特徴として,近年普及
·
発展が進む通信技術を使用して[32]–[36]
,三相系統の線電流の情報が得ら れることを前提とした議論を行う。三相系統の線電流の情報を用いることで,三相系 統全体への影響を考慮した高調波抑制が可能となる。本研究は始めに,高調波補償装置が一相,二相,および三相に接続された個別の状況 を議論し,各状況において高調波電流を最小化する手法を提案する。最終的には,個 別の状況で検討した制御法を統合し,あらゆる状況に対応可能な単一の制御法を提案 する。また,本研究が対象とするのは
DG
の付属機能であるため,高調波補償に必要 な容量は小さい方が望ましい。そこで,高調波補償において必要となる所要容量につ いても議論を行う。その結果,提案法は高調波補償に必要となる電力容量を,従来法 よりも低減可能であることを示す。1.3
論文構成第
1
章では,研究背景,目的および本論文の構成を示す。第
2
章では,高調波の概要,具体的な高調波発生源の紹介,および高調波障害につ いて述べる。さらに,現在使用されている一般的な高調波抑制手法を紹介し,基本的 な高調波欧米および日本における高調波規格や高調波の現状についてまとめ,高調波 問題が各国で顕在化しつつあることを示す。さらに,日本と欧米での高調波問題の差 異についても述べる。高調波抑制装置であるAF
,およびDG
による高調波補償の研究動向をまとめることで,本研究の位置付けを明確にする。本研究の特徴,研究対象 の電力系統モデル,および検討回路についても本章にて示す。
第
3
章では,三相回路の一相で高調波抑制を行った時の影響を検討する。三相回路 の一相にAF
を接続し,従来の高調波補償を行った際の高調波の挙動の変化を議論す る。まず,三相回路においてほぼ同位相で発生する3
次高調波電流について議論を行 う。負荷平衡時において,3
次高調波電流は∆
接続負荷を環流することをで流出抑制 が自然になされていることを示す。一方で,一相のみでAF
を動作させてしまうと,環流経路を失った
3
次高調波が三相電源側へ流出してしまうことを理論的に示す。こ の問題を解決するために,3
次高調波を調整し環流経路を維持する制御法である,3
次 高調波平衡制御を提案する。実験により,提案法は従来法よりも良好な高調波補償特 性を有することを示す。さらに,5
次・7
次高調波も考慮した制御法についても検討 し,幾つかの制御指標を述べる。第
4
章では,三相回路の二相に単相AF
が導入された状況を想定した議論を行う。従来の単相
AF
は近傍負荷が発生する高調波電流を補償するため,∆
接続負荷が発生 する高調波電流を電源へ流さないためには,各相に単相AF
を接続することが必要と なる。そこで,本章では二相に接続されたAF
を用いて高調波を零相電流に変換する,高調波環流法を提案する。零相電流は負荷および
AF
で構成される∆
結線内を環流す るため,三相系統の線電流に含まれることはない。提案法を用いることで,すべての 負荷にAF
を接続することなく,高調波電流が電源へ流入することを防止可能となる。この提案法の妥当性は,二台の単相
AF
を使用した実験により示される。第
5
章の前半では,三相回路のすべての相にAF
が接続されている場合の議論を行 う。AF
の所要容量を最小化することを目的として,∆
接続負荷から流出する高調波 成分のみ補償する手法を提案する。ダイオード整流器負荷を使用した実験により,線 電流への高調波補償効果を維持しながら,AF
の所要容量が大幅に低減可能であるこ とを示す。第5
章の後半では,第3章,第4章,および第5章前半で提案した各接続 条件における制御法を統合することで,あらゆるAF
の接続条件に対応可能な高調波 最小化制御を提案する。この高調波最小化制御の詳細を述べ,AF
一相接続時には第 3章にて提案した動作を,二相接続時には第4章にて提案した動作を,さらに三相接続時には本章の前半に示した動作を,制御プログラムの変更無しに実現可能であるこ とを示す。動作する
AF
の数を変化させるシミュレーションを行い,制御の妥当性を 検証する。さらに,各AF
接続状況において必要となる電力容量や,AF
の動作に伴 う環流電流の変化についても議論を行う。第
6
章では本論文の成果をまとめる。また,今後の課題について述べる。第
2
章高調波の現状と関連研究
2.1
高調波の概要2.1.1
高調波発生源の分類高調波発生源は,大別すると特定負荷と不特定負荷の二つに分類される
[38]
。特定 負荷は,一般的に大容量の高調波発生源を示し,アーク炉や高周波誘導炉などの産業 機器が該当する。これら大容量機器は,通常は大口需要家が設置するため,高調波の 発生元が容易に特定可能である。もう一方の不特定負荷は小容量の高調波発生源を示 し,パソコンやエアコンなどの汎用機器が該当する。不特定負荷は系統に広く普及し ているものであるため,その発生源を特定することが難しい。本研究が対象とする低 圧配電系統においては,不特定高調波負荷が主な高調波源である。2.1.2
代表的な高調波発生源図
2.1
は代表的な非線形負荷であるコンデンサ入力形単相および三相ダイオード整 流回路(6
パルス整流回路)
の回路図,およびシミュレーション波形を示す。このダイ オード整流回路は,回路構成が簡易であることから,直流機器やインバータを搭載し た機器に広く使用されている。家電などの小容量の機器には(a)
単相ダイオード整流 回路が用いられ,比較的大容量な機器に対しては(b)
三相ダイオード整流回路が用い られている。図
2.2
は,図2.1
に示した単相および三相のダイオード整流回路の動作波形を示す。(a)
単相ダイオード整流回路には100 V
,(b)
三相ダイオード整流回路には線間200 V
の電圧をそれぞれ印加した場合の入力電流,出力電圧波形を示す。入力電流波形から わかるように,(a)
単相と(b)
三相で電流波形は異なるが,どちらも断続的な波形にi
sv
out 5 mH1000 µF 40
Ω
(a)
単相ダイオード整流器i
sai
sbi
scv
out5 mH
1000 µF 40
Ω
(b)
三相ダイオード整流器 図2.1 コンデンサ入力形ダイオード整流回路150 0 15 0 150 0
10 ms
入力電圧
入力電流(is)
出力電圧(vout)
(a)
単相ダイオード整流器300 0 10 0 300 0
10 ms
入力線間電圧
入力電流(isa,isb,isc)
出力電圧(vout)
(b)
三相ダイオード整流器 図2.2 コンデンサ入力型ダイオード整流回路のシミュレーション波形なっている。また,出力電圧リプルに関して,三相の方が単相よりも小さくなってい る。直流電圧の脈動成分の周波数は,それぞれ基本波周波数の
(a)2
倍および(b)6
倍 となる。図
2.3
は,それぞれ図2.1
における入力電流(a)i
s,(b)i
saをFFT
した結果を示す。FFT
結果からわかるように,(a)
単相ダイオード整流器の入力電流波形は電圧の周波数
50 Hz
に対して,3
,5
,7
倍周波数といった奇数次の高調波成分を含んでいる。また,各次高調波電流の振幅は次数が大きくなるほど小さくなる。したがって,単相ダ イオード整流器の入力電流における支配的な高調波成分は
3
,5
,7
次となる。一方,(b)
三相ダイオード整流器の入力電流波形は3
の倍数を除いた奇数次の高調波成分を 含んでいる。したがって,三相ダイオード整流器の入力電流における支配的な高調波 成分は5
,7
次となる。本研究においては単相高調波発生源を対象とするため,3
次高(a) FFT i
s0 100 200 300 400 500 (Hz) 8(A)
(b) FFT i
sa0 100 200 300 400 500
(Hz) 8
(A)
図2.3 コンデンサ入力型ダイオード整流回路のシミュレーション波形
調波を考慮することが必要となる。
2.1.3
実際の製品から発生する高調波電流本項では,実際に使用される家電機器から発生する高調波電流の測定結果について 述べる。
まずは,
LED
電球を負荷とした測定の結果を示す。電球の定格入力電流は180 mA
, 定格消費電力は11 W
である。測定の際には,20
個のLED
電球を並列接続し入力電 圧,入力電流の波形をそれぞれ測定した。図2.4
はLED
電球負荷実験における電源電 流波形とそのFFT
結果を示す。なお,図2.4
におけるLED
入力電流は,CT
を介し て電圧として測定している。図2.4
より,入力電流の波形が大きく歪んでいることが 確認できる。また,FFT
結果からこの電流は多量の奇数次高調波電流を含むことが確 認できる。特に,3
次高調波電流は基本波に対して50 %
程度の大きさであり,比較的 大きいことがわかる。次に,無線
LAN
ルータを負荷とした測定の結果を示す。図2.5
は無線LAN
ルータ の入力電流波形を示す。無線LAN
ルータの入力電流も大きく歪んでおり,断続的な 電流波形となっていることがわかる。この波形は図2.2(a)
に示した,単相ダイオード 整流回路の入力電流と同様の波形である。したがって,無線LAN
ルータからも奇数 次の高調波電流が発生していることがわかる。10 ms 5 V
50 Hz 500 mV LED入力電流
FFT結果
図2.4 LED電流(20並列)の入力電流波形とFFT結果
10 ms 1 A
図2.5 無線LANルータの入力電流波形
2.1.4
高調波障害高調波障害は,高調波によって引き起こされる悪影響の総称である
[39][40]
。以下に 高調波障害の具体的な内容を紹介する。•
電力システムの電流増加に伴う悪影響高調波電流は無効電力の要因の一つである。したがって,電力系統の力率は高 調波電流の増加に伴って低下する。結果として,無効電力の増加による送配電
損失の増加や設備利用率の低下に繋がる。三相
4
線式配電システムなどにおい ては,3
次高調波の重畳により中性線が過負荷になることがあるため,中性線 の電線径を太くする場合などがある[41]
。また,変圧器に対しても,電流実効 値の増加に伴う機器の効率低下を招くほか,発熱による寿命の低下などの悪影 響を引き起こす[42]
。そのため,定格設備容量に余裕を持たせたり,K
ファク ター変圧器を導入するなどの対策が必要となる。•
調相設備の発熱・焼損周波数に反比例してインピーダンスが減少するコンデンサとその直列機器(リ アクトル)は高調波の影響を受けやすく,その障害報告も他機器と比較して多 い。
2010
年に報告された高調波障害においては,全障害発生台数85
台に対 して調相設備への障害は56
台であり,65%
は調相設備に対するものであった[67]
。主な障害内容は,設備が振動することによる異音,過電流·
損失増加によ る過熱であるが,最悪の場合は焼損などにより設備の破壊に至る。また,コン デンサと直列に設置されるリアクトルが磁気飽和を起こすことによって,直列 共振が発生し過大な高調波電流が設備に流入するケースも存在する。そのため,現在では過電流時のリアクタンス特性が規格により定められている
[68]
。平成6
年に子供向け博物館において受電設備のリアクトルが焼損・爆発した事故[24]
は,上記の熱的障害の顕著な例と言える。
•
波形ひずみによる影響電力変換変換器の制御において,波形がゼロ点を通過するポイントを基準とし てするものが多くある。このような制御回路の場合,波形ひずみが著しくゼロ 点が本来のものより多数存在するケースにおいては制御が困難と成る。また,
高調波が含有する電圧波形のゼロ点は,基本波のゼロ点と異なる場合があるた め,力率改善回路の動作に影響を及ぼす。回転機等においては,高調波周波数 の回転磁界に伴うトルク脈動が発生し,回転機自身の振動を引き起こす
[43]
。図2.6 12パルス整流回路
2.1.5
一般的な高調波対策手法高調波対策手法を大別すると,高調波の発生量を低減する方法と,発生した高調波 を低減する方法の二種類に分類できる。前者の例としては,「多パルス化」「
PFC
コン バータ」が挙げられ,後者の例としては「LC
フィルタ」「電力用アクティブフィルタ」などが挙げられる。以下では上記で挙げた手法の概要についてまとめる。
•
多パルス化多パルス化は変圧器と整流器を組み合わせることで,高調波抑制を行う技術で ある。図
2.6
は12
パルスダイオード整流回路の回路図を示す。この回路は,二 次巻線がΔ結線とY
結線の多巻線変圧器の出力を二台の6
パルスダイオード で整流することで直流電圧を生成している。二つの二次巻線の出力は互いに30
度の位相差があるため,全波整流することで等価的に12
相整流器となる。その 結果,三相ダイオード整流回路と比較して,DC
サイドの電圧リプル,および 交流サイドの電流ひずみを低減可能となる。三相-
九相変圧器を用いた18
パル ス整流器など,よりパルス数を増やすことで12
パルス整流器よりも直流電圧リ プル,入力電流ひずみを低減した回路も存在する。多パルス整流器のみで高調(a)
昇圧形PFC
コンバータ(b) PWM
コンバータ 図2.7 PFCコンバータ波規格
IEEE 519
を満たそうとする場合,18
パルス以上の整流器が必要となる[44]
。一方で,パルス数の増加にともなって,変圧器巻線の複雑化,体積の増 大,およびコストの増加といった欠点も存在するため,検討が必要である。文 献[45]
では,12
および18
パルス整流器よりも,6
パルス整流器にDC
リアク トルとパッシブフィルタをつけた構成の方が,コストや重量など総合的な観点 で優れていると述べられている。• PFC
(Power Factor Correction
)コンバータ図
2.7
は(a)
昇圧形PFC
コンバータ,(b)PWM
整流器の回路図を示す。(a)
昇 圧型PFC
コンバータは,整流部とPFC
部により構成される変換回路である。後段の昇圧チョッパ回路のスイッチを制御することで入力電流の高調波を除去 することができる。昇圧コンバータを介しているため,出力の直流電圧は入力
6
パルス整流器5
次調波フィルタ
7
次調波フィルタ
11
次調波 フィルタハイパス フィルタ
図2.8 LCフィルタの構成例
の交流電圧のピーク値よりも大きな値になる。
(b)PWM
コンバータは4
つの スイッチを用いて整流および力率改善を行う。PFC
コンバータも,スイッチン グ素子を制御し入力電流を正弦波形状にするため,低次高調波電流を抑制可能 である。また,(b)
の回路を直流側から見るとフルブリッジインバータとなる。したがって,直流から交流への逆変換も行うことができるという特徴を有する。
• LC
フィルタ図
2.8
は,高調波抑制用パッシブフィルタの構成例を示す。図2.8
に示される ように,高調波抑制用パッシブフィルタとしては,LC
共振フィルタ一般的に用 いられる。 共振フィルタは抑制したい高調波の周波数に同調しており,周波数 の数だけ共振フィルタを接続する必要がある。そのため,発生する高調波電流 の中でも支配的な次数の同調フィルタを設置するのが一般的である。長所は構 成が簡易であり,受動部品のみで構成されることからメンテナンスフリーであ る点である。一方で,以下のような短所がある[46] · [47]
。–
補償特性が系統インピーダンスの影響を受ける–
系統とフィルタ間で反共振が生じる–
系統から高調波電流が流入するi
sv
ci
si
Li
cv
pcc(a)
直列形単相AF (b)
並列形単相AF
図2.9 アクティブフィルタ
•
電力用アクティブフィルタ(Active Power Filter, AF
)AF
は,電力変換回路を用いて高調波電圧・電流を補償する装置であり,優れた 高調波補償特性を有する。また,AF
の高調波補償特性は系統インピーダンス に影響されない点も特長の一つである。その他にも,主要な次数の高調波を一 台で補償可能である上に,装置体積も比較的小型であるなど,パッシブフィル タと比べて様々な利点を有している[48]
。図2.9
は,(a)
直列形単相AF
と(b)
並列形単相AF
の回路図を示す。双方共に,インバータ,DC
キャパシタ,およ び連系要素から構成される。直列形
AF
は負荷に対して直列に接続され,インバータ出力電圧v
c が以下式 のように制御される[49]
。v
c= K × i
s h(2.1)
ただし,
K
は増幅ゲインを示す。ことのき,AF
は高調波成分に対してK Ω
の 純抵抗として振る舞うことで高調波電流を抑制する。回路に直列接続する回路 構成であるため,系統事故時の短絡電流などの影響をうけやすい。そのため,回路保護の観点からトランスを介して系統接続するのが一般的である。
並列形
AF
は負荷に対して並列に接続される。負荷が発生する高調波電流と 逆相の高調波電流を出力し打ち消すことで,高調波電流の流出を抑制する。基本的な制御方式の一つとして,負荷電流
i
Lの高調波成分を抽出しフィードフォ ワード制御を行う方法がある。このとき,インバータ出力電流指令i
∗c は以下式 で表される。i
∗c= − i
L h(2.2)
この方式は負荷電流を使用するため,特定の高調波発生源に対して高調波補償 を行う際に使用される。その他の代表的な制御方式として,電源電流
i
sまたはPCC(Point of Common Coupling)
電圧v
pcc の高調波成分を抽出しフィード バック制御を行う方法がある。この場合,インバータ出力電流指令i
∗c はそれぞ れ以下式で表される。電源電流検出方式
i
∗c= − K × i
s h 電圧検出方式i
∗c= − K × v
pcc hただし,
K
はフィードバックゲインを示す。これらの方式は系統側の電流を使 用するため,複数の高調波発生源に対して一括で高調波補償を行う際に適した 方式である。また,電圧検出方式は高調波拡大現象[50]
の抑制に対して効果的 といった利点も有する[51]
。直列形