第3章 アンチ・マネーロンダリングレジームにおけるアクターの機能と役割
3.5 ACAMS
3.5.1 設立背景と運用形態
世界的なマネーロンダリング、およびテロ資金供与対策の専門家を支援するグロ ーバルな協会組織である公認AMLスペシャリスト協会(Association of Certified
Anti-Money Laundering Specialist 以下ACAMS)の設立は1989年である。マネーロンダリ
ング対策の関連法令体系を整えつつあった米国において、Charles A. Introago 氏が、
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ニュースレター「Money Laundering Alert」の編集を開始、その後、ニュースレター を定期購読誌として定例発行化、併せて、米国各地でセミナーの展開していったこ とが起源である。主な活動は、マネーロンダリングに関する専門知識を有する人材 を育成するための資格認定、オンラインニュースおよび情報リソースの提供、業界 専門誌の出版、国際コンファレンス、Web セミナーを含め各種セミナーの提供、会 員間でのネットワーク構築のためのコミュニティの形成等、多岐に及んでいる50。会 員のカバレッジは 175 カ国、30,000 人の会員を有し、アンチ・マネーロンダリング の専門家の会員組織では業界でも最大手に属する51。
ACAMSは、現在、世界各国においてマネーロンダリング対策及びテロ資金供与防
止対策に関するコンファレンス(会議とセミナーのセット)で展開している52。中で も、米国ラスベガスにおいて毎年 9 月に開催される会議は、年次総会の様相を呈し、
2015 年開催の会議では FATF 前議長が基調講演を実施、2016 年開催の会議では、米 国財務省高官が同様基調講演を行なった。パブリック・セクターでの実務経験者を 招き、プライベート・セクターが交流する貴重な「場」としてマネーロンダリング 対策専門家が集まる一大イベントとなっている(2016 年度は 2,500 人以上が参加)。
本邦でも、2008 年より、年 1回の定例コンファレンスを開催、2016年は政府政 策関係者(金融庁担当者)が基調講演を行い、金融関係者をはじめ多数のマネーロ ンダリング対策に従事する関係者を集めた(金融ソリューションを提供する企業53も 参加している)。
50 ACAMS日本事務局インタビュー(2016/3/7)、ACAMSウエブサイト他をもとに作成。
(http://www.acams.org/、2017/8/18アクセス)。
51 同様の会員組織でグローバル展開する団体としてイギリスを中心に事業展開するInternational
Compliance Association: ICAがある。会員数非公開。認定セミナー受講者は延べ10万人以上。
(https://www.int-comp.org/,2017/8/18アクセス)。
52 2017年計画ベースで開催会議は世界各地で30回以上に及ぶ。(http://www.acamsconferences.org/、
2017/8/18アクセス)。
53 NTTデータジェトロニクス社、トムソンロイター社など
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図 3.10 ACAM会議パンフ
出典:ACAMS第15回国際会議パンフレット
3.5.2 専門的な個人知の高度化のための「場」としてのACAMSの会議を捉える 野中・竹内(1996)は、暗黙知の共有が起こるためには、個人が直接対話を通じ て相互に作用し合う「場」が必要であり、体験を共有し、身体的・精神的なリズム を一致させるのがこの「場」であると説いたことは先に述べた。
この「場」の視点から ACAMSの会議の役割を捉えてみると、ACAMSが主催する 一連の会議は、パブリック・セクターとプライベート・セクターのマネーロンダリ ング対策専門家がフェイス・トゥ・フェイスで意見交換ができる数少ない機会であ ること、当局のルール設定者が、実務家より実態を直接聴取できる数少ない機会で あること、プライベート・セクターにとっては、政策動向、法令の制度設計趣旨な どが聴取できる数少ない機会であること、会議には、民間部門からは、金融ソリュ ーションを提供する企業も参加し、マネーロンダリング対策の技術進歩が確認でき る機会であることなどが確認できる。
「知識創造企業」(1996)では、「場」は組織的知識創造を促進するためのもの であり、その典型的な場として、共有目標を実現するためにさまざまな職能部門か らのメンバーが一緒に働く自己組織化チームが必要であるとした。この視点で
ACAMSの会議を捉えると、一連の会議には、一見、組織的知識創造は存在しない。
一方、ACAMSの主催者側はこうした一連の会員がとる行動をネットワーキングの構 築と称している54。会議参加者の多くは、マネーロンダリング対策の社会現象に興味〇 〇
54 ACAMS日本事務局インタビュー、2016/3/7。
米国財務省高官
前FATF議長(元オーストラリア政 府弁護士事務局(The Attorney-General’s Department)長官
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がある人達であり、自らのマネーロンダリング対策の知識のアップデートを目的と したネットワーキングの構築と考えるはずである。
目的は個人知の高度化である。自らの知識レベルを高めその知識を実務家として、
みずからの所属企業における実務に還元する。この知識フローには組織への貢献が 含まれている。つまり、ACAMSの会議への参加により知識創造が個人知のレベル行 われているが、そこには、組織的知識創造も内在し、「場」が存在しているといえ る。
3.5.3 FATFとACAMSのインターアクション
ACAMSの会員組織の特徴のひとつは、同協会が独自で行っている資格認定制度で
ある。
同協会の資格認定の実施の目的は、「アンチ・マネーロンダリングという専門的 職業の基準を設けることであり、同資格の認定をうけた個人は、教育され、認定さ れたスペシャリストとして、広く認識されている」であるとしている55。ACAMS は、
厳しい認定試験の合格者は、民間および政府機関の中で、マネーロンダリング対策の 業務遂行の専門家として認識されているとしている。
実際、ACAMS の資格維持のためには、3 年毎の更新が必要であり、会議の参加、
Web セミナーを含めたセミナーへの参加、所属する支部への貢献等をポイント制で 換算され、ポイントをクリアしないと資格が更新されない仕組みになっている。
Findley ほか(2015)は、こうした ACAMS の厳しい認定制度による専門家の育成
を FATFが評価している例として、FATFが、カナダの第三次相互審査の報告書のな かで、ACAMSの資格認定を受けた職員が政府機関のマネーロンダリング対策専門家 の職についていること、オランダの第三次相互審査の報告書の中で、中央銀行の職
員が ACAMSの研修を受講したことを記載していることを挙げる。、FATFはパブリ
ック・セクターであり、ACAMSは FATFとの資本関係もないプライベート・セクタ ーであるにも拘らず、協働が生まれており、オーケストレーション56が存在している と結論づけている。