第2章 先行研究レビュー
2.5 ナレッジマネジメント
2.5.7 ナレッジマネジメントの最近の動向と理解と二項対立
ナレッジマネジメントの最近の動向として、梅本(2012)は、近年の傾向として、ナ レッジマネジメントの活動主体が従来の企業組織とその事業部門からプロジェクト チームまでに至る様々な部署すなわちグループ・レベルから、個人レベルや社会レ ベルに拡がってきているとしている。
そのうえで、個人の知的創造活動が組織の知的創造活動を介さずに社会の知的創 造活動と分かちがたくつながり、個人と社会が相互に作用し合い互いに強化しあう ような知の生態系が生まれてきており、その背後にあり、その進化の推進力のなっ ているのがウエブであるとしている。
37
さらに、ナレッジマネジメントの対象である個人、集団、組織、社会の拡張を以 下の通り整理しなおしている。
図 2.7 ナレッジマネジメントの対象の拡張
出典:梅本(2012:278)
梅本(2008)は、野中・竹内(1996)が、『知識創造企業』の最終章で、ナレッジ マネジメントは二項対立を超越しなければならないと論じたことを受け、二項対立 を総合する第3のコンセプトと戦略、「ハイブリット戦略」が理論的にも実践的に も必要であるとしている。(梅本 2008:83)
梅本(2008)は、職場のような「リアルな場」とネット上の「バーチャルな場」
の融合こそが、「ハイブリッド戦略」であるとしている。主に知識の共有・活用だ けに使われるネット環境の「バーチャルな場」だけでなく、それを職場環境である オフィスや研究所などの「リアルな場」と融合する「ハイブリッド戦略」こそが、
競争優位を生み出し、ハイブリッドな「場」こそ形式知と暗黙知を等しく取り扱う ことができ、組織的知識創造が効果的・効率的におきる環境であるとする。(梅本 2008:99-100)
38
また、野中(2017)は、アメリカ海兵隊を事例として組織的分析をおこない、知識 経営の「組織的知識創造理論」を押しすすめ「知的機動力」という概念を提唱して いる。
野中・梅本(2017)は、知的機動力は、「二項対立」(dichotomous dualism)25では なく、「二項動態(dynamic duality)というコンセプトが基盤となっているとしてい る。2つの相反しながらも相互補完的な性質を持つ要素は、両極の一方のみが正しい のではなく、どちらも部分的に正しいのであり、両者を相互作用させながら文脈に 応じて両者の配分を変えつつ、ダイナミックに実践し、有効であることを実証して こそ、真理である、というプラグマティックな考え方であるとする。
そして、「二項動態」は、対立する二項を敵対的関係にあると見るのでなく、よ り生産的な対話や交渉によって両方の長所を活かせるように、状況に即応してダイ ナミックに「中庸」を創造し実践することである。、従来の知識創造論を一歩すす めたものが「二項動態」の理論化であるとしている。(野中・梅本 2017:113)
2.5.8 「場」の考え方
ナレッジマネジメントにおいて重要なコンセプトである「場」について整理して おく。
野中・竹内(1996)は、暗黙知の共有が起こるためには、個人が直接対話を通じて 相互に作用しあう「場」が必要であるとし、体験を共有し、身体的・精神的なリズ ムを一致させるのが、この「場」であるとした。
遠山・野中(2000)は、いつ、どこで、誰がどのように知の創造プロセスに参加 しているかという文脈は無視できないとし、知識創造のプロセスにおいて共有され
25 鈴木大拙(1962)は、『心』の中で、「西洋の人々は、物が二つに分かれてからの世界に腰をす えて、そこから物事を考える。東洋は大体これに反して、物のまだ二分しないところから、考えはじ める。(中略)つまりは、西は二分性の考え方、感じ方のところに立脚していることがわかる。そうし て東は、そのまだわかれぬところ、むずかしくいうと、朕兆未分己前に、無意識であろうが、そこに 目をつけているということになるのである。自分の主張では、二分性で人間生活を割り切るべきでな い、また割り切れるものでないということを主張し、そこから、今後に出来上がるべき世界文化なる ものの完全性は、二分性だけでは、どうしても獲らるべきでない、と主張するのである。東洋的考え 方、感じ方(それは無意識であっても、何でもかまわない)、それを護立てることによって、二分性文 化の不備を補足していかなければならぬのだ」と述べている。(鈴木大拙[1962](1997)上田閑照 編:166-169)。
39
再定義される文脈を「場」と呼ぶとしている。さらに、遠山・野中(2000)は「よ い場」の定義を、以下の10項目に整理している。
① 場は独自の意図、目的、方向性、使命等を持った自己組織化された場所でなけれ ばならない
② 場には参加者のコミットメントが存在する
③ 場は参加者に内部からと外部からの2 つの視点を同時にもたらす。
④ 参加者が直接経験をすることができる「創出場(Originating Ba)」と呼ぶ。
⑤ 場においては、物事の本質に関する対話が行なわれる。「対話場(Dialoguing Ba)
⑥ 場は境界が必要であるが、その境界は開かれている。場は参加者が時空間を共有 す る こ と を 可 能 に す る が 、 こ う し た 時 空 間 の 超 越 は 、 特 に 「 シ ス テ ム 場
(Systemizing Ba)(コンピュータネットワークで結ばれたサイバー︎スペース)
において顕著である
⑦ 場においては、参加者は製品コンセプトや製造マニュアルといった形式知を、実 践を通して自己に体現することができる(「実践場(Exercising Ba)」)。
⑧ 場においては異種混合が行なわれる。様々な視点、メンタル︎モデル、知識、情 報を持った参加者がそれぞれ異なった文脈を持ちより、共有することにより、場 は豊かなものになっていく。
⑨ 知識創造においては即興的な相互作用が行なわれる場が必要である
⑩ 場は動いている球体のメタファーで表現することができる。球体は表面積最小体 積最大という性質を持つが、よい場においては知識創造を必要最小限のメンバー で効率的に行うという最小有効多様性が実現されている。(遠山・野中 2000: 5-7)