第4章 日本のマネーロンダリング対策
4.4 疑わしい取引報告とナレッジマネジメントの実践
90
91
が実情である。加えて金融システムは、クロスボーダー取引が活発化しており、そ の仕組みははるかに複雑である。民間金融機関が独自でデータマイニングのシステ ムを開発することが理想ではあるが、グローバル展開を行う金融機関は、ベンダー によって提供されるソフトウェアを使用しているケースが多い。最近、グローバル に事業を展開する金融機関の複数が米国政府の行政処分を受けている。大量の罰金 や過料が課され、当該金融機関がリピュテーションリスクに晒されている。
結果として、グルーバル展開を志す金融機関は、高度なデータマイニング技術で あるベンダーのソフトウェアを採用することを好み、多くのソフトウェアハウスは、
基本的なデータマイニングの概念を採用し、アンチ・マネーロンダリングの手法を 開発している。大手のベンダーでは、IBM、SAS、またアンチ・マネーロンダリング 等に特化した企業として NICE ACTIMIZE がある。国内業者としては、NTT データ ジェトロニクス、みずほ情報総研等がある。
システム設計はいずれのベンダーもほぼ同じコンセプトで、トランザクション・
モニタリング(取引による検知)として、業界毎のマネーロンダリングのガイドラ インに落とし込まれたルールによる取引パターンの検知機能(ルール検知)、個別 の取引に異常値をリアルタイムで検知するプロファイル検知、過去の取引を事後処 理によって検知するリスト検知、フィルタリングと称して、資産凍結等経済制裁者、
反社会的勢力、OFAC、EU リスト、経済産業省外国リスト、PEPs などのリストと照 合し、アラートを発するシステムが中心である67。
67 「不自然な金融取引」IBMビジネスコンサルティングサービス、2008年、NTTデータジェトロニク
ス社ウェブサイト(2017年8月10日アクセス)を参考に作成。
92
図 4.9 アンチ・マネーロンダリング実務の流れ
出典:IBMビジネスコンサルティングサービス(2008:76)
近年、こうしたデータを駆使した疑わしい取引の検知方法が、更に、データマイ ニング→デープラーニング→AIへと進化を遂げている。
メガバンクは AI(人工知能)68を活用し、アウトプットされたプロダクトに対し、
最終的な判断を加える最後の工程のみを担当者が行なう、という体制を構築してい るという69。もはや、取引パターンの判別を AI(人工知能)が実施し、「疑わしい」
かどうかの最終判断のみを人間が行なう枠組みが構築されつつある。
4.4.3 疑わしい取引報告書とグローバルナレッジマネジメントの課題
データマイニングが情報産業において大きな注目を集めている主な理由は、膨大 な量のデータが利用可能であり、データを有用な情報と知識に変えることが切望さ れていることによる。一方、マネーロンダリング検知技術の複雑さは、プライベー ト・セクターに多額の投資負担を強いる可能性がある。 それにも拘らず、当局か らのフィードバックは限定的であり、疑わしい取引について収集された情報/知識は、
どのように利用されるべきか明確に開示されていない事実がある。
筆者はかかる状況の解決策として、民間金融機関がこのような情報共有を得るた めの方法に、国内政府捜査機関からの直接的な照会、FIU(本邦は犯罪収益移転防止
68 人間のような知能をもつコンピュータ(西垣、2016)
69 ACAMSコンフェレンス(東京)でのパネルディスカッションでのメガバンク担当者の発言
(2017/9/8)。
93
対策室)、エグモント・グループとのコミュニケーションの充実と、積極的なタイ ポロジーレポートの還元を提案した。以下の知識フローがグローバルなナレッジマ ネジメントの視点から、疑わしい取引届け出制度に関して、筆者が提言した知識プ ロセスのワークフロー図である。(八坂 2017)
図 4.10 疑わしい取引報告のグローバルな流れ
出典:八坂 (2017:307)