チッコカタメターノが好きか否かでは,「好き」と答えた人が
52.4%と,「嫌い」は
わずか
3.9%だった(図 54)
。「好き」な人の特化度はいずれの属性もばらつきが少なく,属性と関係なく好まれていることが分かる(表
11)。
「嫌い」は,40~50歳代の鴨 川市外出身の男の人という特徴を持っている。5)チッコカタメターノの料理者
チッコカタメターノの料理は誰が作っていたのかをたずねたところ,「その他」が最
も多く
32.0%,
「母」27.2%,「自分」13.6%,「妻」が1.9%の順となった(図 55)。
「その他」は,「酪農家が料理して持ってきてくれる」が多かった。「母」は属性に偏りが 少なく,チッコカタメターノ料理は「母」が作ったものを食べていたことを示してい る(表
12)
。「自分」が作ると答えた人は,60歳以上の女に特化していた。「妻」は,60
歳以上の男で,鴨川市外に居住する人に特化していた。6)チッコカタメターノ料理を作れるか
チッコカタメターノ料理を作れるかをたずねたところ,「作れない」が
59.2%と過半
数に達した(図56)
。「今も時々作っている」と「今は作らないが前は作っていた」を 合わせてチッコカタメターノ料理を作ることが出来る人は4割弱にとどまった。「作れ ない」は属性による偏りは少なく,「今も時々作る」は太海,田原,西条と酪農が早く から少なくなった地域に住む人に特化している(表13)。
「今は作らないが前は作って いた」は60
歳以上で,主基,江見,曽呂と,最近まで酪農地帯でありながら酪農家が 著しく減少した地域に住む人に特化している。7)チッコカタメターノの材料(初乳を中心とした牛乳)の入手先
初乳を中心としてチッコカタメターノを作る時に用いる材料をどこで入手している かをたずねたところ,「近所の酪農家」が最も多く
32.0%,次いで「自分の家」が 21.4%,
次いで「知り合いの酪農家」で
20.4%,「親戚」11.7%,「市販牛乳」8.7%の順であっ
た(図
57)。「市販牛乳」はわずか 8.7%であるが同じ量の牛乳を使ってもチッコカタ
メターノとして固まりになる量は初乳に比べ少量しか作れず,味もコクのない味にな るにもかかわらず市販牛乳でチッコカタメターノを作っていることから,チッコカタ メターノを好んで作る人とみられる人がいることは注目される。「離れた知り合いの酪 農家」から入手している人も,「市販牛乳」を用いている人と同様,チッコカタメター ノを作りたいために材料を入手している人である。このことから,チッコカタメター ノを“食べたいと思う食物”であることが分かる。これに対し,酪農家が少なくなっ ているために,「自分の家」で搾った生乳を使う人
21.4%にとどまった。しかし,最も
多い「近所の酪農家」を合わせると53.4%に達し,酪農地帯であることがチッコカタ
メターノを食べる文化を創り出していることが分かる。89
属性別特化度でみると,「自分の家」は鴨川市外出身者の男の人で主基,鴨川,天津 に住んでいる人,「親戚」は大山,東条に住んでいる人に特化している(表
14)。「近
所の酪農家」から入手する人は,男性が大変低く,女性の入手先の一つとして選ばれ ていることが分かる。住まいでみると,太海,吉尾,曽呂,大山,田原で,酪農地帯 及びそれに隣接した地域に住む人に特化している。「離れた知り合いの酪農家」は鴨川,田原に住む
40~50
歳代の人に,「市販牛乳」は,太海,主基,天津,西条に住む人に 特化している。8)よく食べるチッコカタメターノ料理
よく食べるチッコカタメターノ料理としてあげられたものをみると,「砂糖がけ」が
一番多く
26.2%,次いで「牛蒡やねぎを入れた煮物」,「その他」が多く 25.2%であっ
た(図
58)
。「七味醤油がけ」,「卵炒り」がそれぞれ16.5%で,「天ぷら」1.0%であっ
た。チッコカタメターノ料理は,醤油や砂糖をかけるだけなど極簡単に料理する場合 と,野菜を炒め煮にする料理など,しっかりと料理を行う料理がある。「その他」の料 理としては,「そのまま」,「サラダ」,「醤油煮」,「砂糖醤油煮」,「すき焼き風」などで,簡単な料理法のものが多かった。
属性別特化度でみると,おやつに食べる「砂糖がけ」は,20~30歳代で江見,田原 に住む人,主に酒のつまみにする「七味醤油がけ」は
40~50
歳代の大山,曽呂,東条 に住む人,おやつやおかずにする「卵炒り」は,60歳以上の人で吉尾,西条に住む人 で特化度が高かった(表15)
。チッコカタメターノの料理の中で,美味しいおかずと 言われることが多い「牛蒡やねぎを入れた煮物」をよく食べる人は,太海,曽呂,大 山に住む男の人に特化していた。9)他地域との比較
鴨川市におけるチッコカタメターノ喫食状況を他地域と比較するため他地域を対象 にアンケートを行った(参考資料
3)。千葉県酪農家 202
人,神奈川県松田町寄地区59
人,静岡県東伊豆町89
人の回答を得た。千葉県酪農家は酪農家戸数全体の約半数の回 答を得た。その結果,チッコカタメターノ(牛乳豆腐)を,「食べている人」が45.5%
と,非酪農家(千葉県嶺岡地域・神奈川県松田町寄地区・静岡県東伊豆町の地域住民)
に比べると,非常に多いことが分かる。しかし,その一方で酪農家であっても「今ま で知らなかった」という酪農家が
41.1%いた。牛の初乳が手に入る環境にあったとし
ても,その食べ物を知らなければ食物選択の選択肢の中にも入らないことが明らかと なった。このことから,食物選択が生業によるものではないということができる。非酪農地域である神奈川県松田町寄地区では食べたことがある人が
20.3%,食べた
ことはないが知っている人が15.3%,と合わせると 35.6%の人がチッコカタメターノ
を知っている。静岡県東伊豆町では食べたことがある人が9.0%,食べたことは無いが
知っている人が6.7%,と合わせると 15.7%の人しかチッコカタメターノを知らない。
寄地区,東伊豆町では,チッコカタメターノを今まで知らなかったという人が
62.7%,
68.5%と,全体の多くを占めこの 2
地域ではチッコカタメターノの認知度が低い (表16)。
90
10)アンケート調査にみる鴨川市のチッコカタメターノ食文化
以上のアンケート調査から,鴨川市のチッコカタメターノ食文化の姿及び課題を整 理すると,以下のようになる。
①鴨川市はチッコカタメターノを半数の人が知っておりチッコカタメターノ食文化 地域とみることができる。チッコカタメターノ料理の材料である牛乳を自分の家や 近隣の酪農家,知人の酪農家から入手していることが多いことから,チッコカタメ ターノ食文化は,鴨川が嶺岡牧で始まった伝統的酪農地域で,安房酪農地域の中心 地として酪農をしている家が多かったという歴史的・社会的環境条件により形成さ れたものといえる。
②しかし,チッコカタメターノノ喫食経験を持つ人の中でも,今も食べているのは
31.1%の人で,20
年以上食べていない人が5
割以上を占めること,高齢者層はチッコカタメターノを食べたことがあるが,中年層はチッコカタメターノを食べたこと は無いが知っており,若年層はチッコカタメターノを知らない人が大半を占めるこ とから,チッコカタメターノ食文化はすでに歴史遺産化が始まっているとみること ができる。
③チッコカタメターノ料理は選好度が高いことから,味によってチッコカタメター ノ食文化の歴史遺産化が生じたのではなく,材料となる初乳が入手困難になったこ とが食文化破壊の要因と考えられる。この材料入手が難しくなったことには2つの 理由を挙げることが出来る。第1に,酪農家が減っていることから,自分の家でチ ッコカタメターノの材料である牛乳を入手できる人が少なくなっていること。第2 に乳等省令で近隣の酪農家から入手することが困難になったことである。とりわけ,
法令により食文化が壊されたことが明確なケースとして,鴨川市のチッコカタメタ ーノ食文化の歴史遺産化現象は,食品関係法令のあり方に警鐘を鳴らしている。
④小湊を除いて鴨川市はチッコカタメターノ食文化地域であることが確認されたが,
より主要な食べ物になっているかでみると,大山,曽呂のおかず・つまみ地域,吉 尾,太海のおかず地域,西条,東条,鴨川のつまみ地域,江見,田原,主基のおや つ地域として捉えることができる(図
59)。
⑤チッコカタメターノ食文化は歴史遺産化してきているが,チッコカタメターノを 好きと答えている人が過半数を超えており嫌いという人は僅かである。そのため,
美味しいチッコカタメターノ料理の食体験や,美味しいチッコカタメターノ料理の 開発を進めれば容易にチッコカタメターノ食文化を再生できるものと考えられる。
歴史に裏打ちされた地域の味として,チッコカタメターノ食文化の再生を図ること が望まれる。それを行う上で,「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」は桎梏と なっている。特区制度を活用するなど,食品の安全性,品質保証の維持を犯さない なかで,生乳の地域内自由提供システムを保証する制度にしていくことが求められ る。