「楽しい」を核とした地域食生活マネジメントの運営手法を明らかにすることを目 的に,「鴨川郷土料理研究会いろり波田」を研究者と鴨川農家民泊経営主婦らの協働で 立ち上げた。
2009
年~2014年(現在継続中)に太巻き祭り寿司,地域食材を用いたおやつの体験提 供能力開発を目的にクッキングWS
を行った。会の運営・話し合いにおける参与観察,面接聞き取りによるヒアリング,写真記録を行った。
第二節 マネジメント主体の形成
(1)オピニオングループの形成
本研究で研究対象とする「鴨川郷土料理研究会いろり波田」は,大山地区の鴨川農 家民泊経営主婦を中心に立ちあげた組織である。大山地区は第
1
章で挙げた鴨川市の 4つの食文化キャラクタのうち「果物・山菜料理」地域である。千葉県で開業第一号 である農家民宿の「鴨川農家民泊」は,「農家の暮らしを体験できる宿」として2009
年7
月に開業した。一般の農家民宿と異なる点として,「農家が営む民宿に泊まる」で はなく,「農家の家に泊まり,農家の暮らしを体験する。」をコンセプトとしている。この「鴨川農家民泊」は,農家
4
軒から始まった。4 軒の農家民泊で「鴨川農家民 泊組合」を設立。農家民泊を開業したものの,どの様な農家の暮らしが「体験活動」として宿泊客に提供出来るかについて,農家自身はよく分からないとの不安の声から,
研究者がファシリテータとなり,2009 年
10
月に「農業・農家暮らし体験プログラム 開発WS」を 4
回実施した。その中で,農家民泊経営主婦ら(4名)から,農業体験と 連動し「地域の料理づくり体験を提供したいが,自分で作ることの出来る料理も,人 に教えるとなると自信がない」との声を受け,筆者らが呼びかけ主婦ら皆で練習会(郷 土料理作り体験WS)を行うこととした。
(2)問題点と目標の形成
農家民泊の家で作り食べている郷土料理を,宿泊者が体験者として作って食べるこ とは,大きな魅力となると考えられる。その理由として,
1)自分の手でとった食材を使って料理ができ,現在は分離されてしまった農業と食,
すなわち生業と暮らしを一体で捉えられること
2)食事を自分で作る楽しみや格別においしく感じる手作りの味を楽しめること 3)行事食と結びついた料理は地域文化に親しむ窓口となることから,農家民泊経営
の中軸になる
以上のことが考えられる。しかし,問題点として郷土料理づくり体験のインストラ クターと見込まれる農家民泊経営の主婦でも郷土料理づくり体験を提供するだけの経 験を持っていないことや,自分では郷土料理を作れてもそれを伝える技術を持ってい ないこと,さらには地域の魅力に結びつける方法を理解していないことなど,すぐに 体験として提供できる状態ではないことが挙げられる。鴨川農家民泊組合準備会の定
127
例会で農家民泊が提供する体験例を考える“農業体験・農村の暮らし体験365”作成WS を行った際に,「私は太巻祭り寿司を作ったことがない。郷土料理づくりを勉強する会 をやって体験でやりたい」という話が農家民泊経営者の主婦の間から出た。農家民泊 経営者の主婦達は料理に自信のある人達であるが,他の人が挙げた料理の作り方を知 らなかった,今まで自己流の作り方だったので作れるもののいざ人に教えるとなると 自信がない等という意見(表25)から,料理体験ができるレパートリーが限られてい るので増やしたい,人に教えられるような物を作れるように練習したい,という目標 が形成された。
意 見
積 極 的 意 見
・漬物石を川に拾いに行くのも体験メニューに出来るのには驚いた。
・食事に関わる体験メニューはたくさんある。
・漬物作ったり,ジャムや梅干しを作ったり。
・太巻き祭り寿司は大山千枚田保存会で教えているけど,小学生も自分で作ると喜んで。祭り寿司を嬉しそう に食べる。子供でも簡単に作れるから農家民泊の体験メニューにいいかもしれない。
・干し柿作りは手間なので体験してもらって一緒に作れば,仕ことが減って楽になる。
・漬物作りは一回では終わらないから何度かに分けて来てもらう。
・お客さんに食の体験を提供できるように,美味しく作る作り方やお客さんへの体験での教え方を覚えていき たい。
不 安
・体験してもらうための準備が大変。
・どんな料理を体験メニューにしていいか分からない。
(3)基本ロードマップの作成
郷土料理づくり体験プログラムは,「自分で料理がつくれた」という感動の提供が体 験の目的に据えられる。その下で,体験者の学習段階を1ランクずつ上げるよう働き かけることが重要と考えられる。郷土料理づくり体験者の学習段階と,そこでのテー マを整理すると以下のようになる。
第
1
段階:料理を作って感動を得られる体験の提供。それによって郷土料理づくり が“楽しい”といいう感情が形成されるようにする。この段階は「つかみ」であり,高 いモチベーションをつくることにより第2
段階に繋げていく。太巻き祭り寿司をつか みとして利用することで,体験者への郷土料理づくり体験の楽しさを提供することと した。第
2
段階: “もっとつくってみたい!”という興味喚起段階である。地域食材を使っ たおやつを作ることで体験者へ地域食材の生産方法に興味をもってもらうようにする。第
3
段階:第1
段階・第2
段階は特別な食の体験の提供である。第3段階であるお かずづくりを第1
段階として行うことも考えられるが,この段階を楽しいと思えるの は,地域食をある程度体験として知っている体験者でないと楽しいと感じるのは難し い。その段階まで持って行くのは体験提供者の能力によるところである。第
4
段階: “この料理はこうして作った農産物を使っているから美味しい”という食 べ物づくりに対する学習の段階である。これにより,農業体験と料理づくり体験がと もに暮らしとって重要なことが理解できるようになる。この学習段階を体験提供者と なる会員が行う基本ロードマップとして作成した(表26)。
表25 農家民泊における食事体験に対する意見
128
段階 料理 学習プログラムのテーマ
1 太巻き祭り寿司―切った瞬間に笑み がこぼれる料理―
1)季節に合わせた太巻き祭り寿司 2)奥行きが広がる太巻き祭り寿司 3)基本の祭り寿司を高度に巻く 2 おやつ作り―非日常だからやる気に
なる―
1)季節に欲しくなる和菓子 2)自分で作れる洋菓子
3)地元食材を使った昔のおやつ 3 おかずづくり―手料理の醍醐味―
4 ご飯づくり―鴨川食の魅力“ご飯”に挑戦
(4)予行演習的活動
予行演習的活動として
2009
年12
月17
日,23日に太巻き祭り寿司づくりを行なっ た。第1回目の郷土料理づくり体験WS
は2009
年12
月17
日鴨川市青少年研修セン ターで行った。参加した4名の民泊経営者の主婦の内2名は,月に一回程度大山地区 で行われている太巻き祭り寿司の講習会に参加しているため,インストラクターとな った。近年,見た目の華やかさ,面白さから注目されている鴨川の郷土料理である太巻き 祭り寿司の練習を行った。太巻祭り寿司の絵柄は多数あるが,第1回目は,インスト ラクターが作りなれており,作りやすく見た目が美しい梅の花,カタツムリの太巻き 祭り寿司とした。この2つは,
NPO
法人大山千枚田保存会が行う太巻き寿司づくり体 験を行う際にも作られているものである。絵柄が出来る太巻き祭り寿司を巻くのは初めてという2名の主婦は,「難しい」と苦 戦気味であったがインストラクター役の主婦らに子供達にどのように教えると良いか 尋ねる場面も多くみられた(図
76)。巻いた祭り寿司を切って絵柄が出てきた時は歓
声の声が挙がった。梅の花は花弁の位置が少し場所がずれたと言いながらも綺麗に出 来あがり,皆満足そうであった(図77)。カタツムリハバランスが難しく目の場所が
ずれ過ぎてしまい「カタツムリに見えない」などの声が挙がった。作った料理を食べ ながらの検討会で,表27
のような意見が出された。図77 カタツムリ(奥)とつばき(手前)
図76 仲間同士で教え合う
表26 鴨川郷土料理研究会基本ロードマップ
129
・太巻き寿司作りはこれからも練習していきたい。他の料理も勉強してみよう。
・皆で一緒に料理を作ると,ああ,こうした方が美味しくできるとか技を盗めるからいい。
・今度の勉強会はいつにしようか?
この感想を見ると,インストラクター役と教わる側に分かれているもの,仲間同士 が教え合う形での
WS
のため,こうしたWS
に対する意欲が促進されたことが分かる。第
2
回目の料理勉強会は12
月23
日,鴨川市青少年研修センターにて行われた。今 回は,パンダ(図78)と薔薇の太巻き祭り寿司づくりをおこなった。第 1
回WS
の際 に,外部カタリストである研究者が「パンダの祭り寿司は簡単に作れるし,可愛い」と伝えたことから,「作ってみたいから教えて」と依頼されたものである。
第
2
回WS
では第1
回WS
でインストラクターを努めた2
名と研究者らのみ参加で あった。この2
名の主婦は太巻き祭り寿司を作り慣れているもののパンダの祭り寿司 は初めて作る柄であったため「結構バランスが難しいね」,「パンダの目がずれた」な どと話しながら真剣な面持ちで作っていた。・パンダは目がポイントだね。
・パンダは可愛くて子供に人気がありそう。今度,民泊のお客さんが来たら体験で作ってみよう。
・初めて作ったからパンダじゃなくて犬みたい。
・先生のパンダが一番うまいね,黒米で目を作っていたみたいだけど,今度から黒米で作ってみてもいいかも。
・パンダは大山千枚田の太巻き祭り寿司の講習会でも練習してみようか。
・各家々で家庭の味が違うのは個性というか魅力だと思うの。だけど体験で人に料理を教えるとなったら,練習し てないと教えられないし,作るのも手間になるから練習は必要。
・これからも皆の時間が合えば料理の練習会を続けていきたい。
図79 作り方を検討する
図78 パンダの太巻祭り寿司
表27 郷土料理づくり体験プログラム開発第1回WSの感想
表28 郷土料理づくり体験プログラム開発第2回WSの検討結果及び感想