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図7.83 フェライトの有無による温度上昇特性の変化(ワーキングコイル端10番の熱電対)

 図7.82は一番端に設置した6番の熱電対(位置は図7.50参照)で計測した温度上昇特性である.

 これより,フェライトゴムシートがある場合,ない場合に比べて急激,かつ大きく温度上昇している が,加熱開始から30分後を境に徐々に温度が下降し始め,最終的にフェライトゴムシートを使用しない 場合と同じ温度になってしまっている.

 図7.83は,その他の点の例として,ワーキングコイル端に位置する熱電対(10番)が計測した温度上 昇特性である.この場合も,図7.82の端点の場合と同様に,フェライトゴムを使用した場合は一旦水の 沸点まで温度が上昇し,約30分経過時から徐々に温度が低下して最終的にフェライトのない場合と同じ 温度まで低下してしまう.

 フェライトを使用したとき,なぜこのような特性が現れるかを考察する.

 ワーキングコイルより大きなシートで覆って加熱した場合,今回の実験のように,いわゆる天板加熱 状態でさらにゴムシートで上から蓋をするような配置を取ると,加熱された水は容積を拡大し,覆い被 さるゴムシートを押し上げてワーキングコイル直上の部分は山のように盛り上がる(ゴムシートが黒い のでゴムシートの盛り上がりをうまく写真に収めることができなかった).また,シートの盛り上がりは,

フェライトゴムをシートに貼り付けた場合とそうでない場合のいずれでも発生している.

 したがって,加熱を開始した際には,図7.84(a)のように被覆用ゴムシートはほぼ水平の状態にあり,

被覆用ゴムシートに貼り付けたフェライトゴムシートはワーキングコイルや鋼板に近い位置にあり,磁 気的な結合が比較的強く現れているものと考えられる.よって,フェライトゴムシートを貼り付けて加 熱したほうは,わずかに温度上昇特性に優れ,さらにより大きな温度上昇を得ることができた.

 ところが加熱開始後しばらくたつと,図7.84(b)のようにワーキングコイル周囲の水は加熱されて容積 を拡大し,被覆用ゴムシートに圧力を加えてワーキングコイルとフェライトゴム(を貼り付けた被覆用 ゴムシート)は山のように盛り上がり,両者は引き離される.これによってワーキングコイルとフェラ イトゴムシートとの間の磁気的な結合は非常に小さくなり,結果的に被覆用ゴムシートに何も張らない

状態と変わらなくなってしまう。よって,フェライトを用いない場合の状態より上がりすぎた温度は徐々 に低下して最終的に同温度になったものと考えられる.

       被覆用ゴムシート       /

ワーキングコイル導線

(a)加熱開始時

被覆用ゴムシート

ワーキングコイル導線

(b)加熱開始から十分時間が経過した状態 図7.84加熱時の被覆シートの状態の概念図

 以上をまとめると,フェライトゴムを用いてワーキングコイルと鋼板との間の磁気的な結合を強くし,

より大きな磁束を誘起して同一入力電力という条件下でより高い鋼板温度を得るということはこのまま では不可能である.

 ならば,ゴムシートを固定するための永久磁石の配置を工夫してワーキングコイル,もしくは鋼板に シートを密着させた場合はどうであろうか.本来この実験の目的は加熱された水が対流によって逃げて しまうのをできる限りワーキングコイルの周囲にとどまらせ,この水を新たな熱源としてより広い加熱 面積を得るというものであった.もし,シートと鋼板(もしくはワーキングコイル)との密着性が高く,

シートの動きに柔軟性がなければ,加熱された水は圧を開放するためにすぐに広がってしまうものと思 われ,加熱された水がワーキングコイル周辺に薄く膜を張るように分布する,今回の実験における状態 に比べて温水による加熱効果は現れにくいのではないかと考えられる・

 ただし,今回の実験ではワーキングコイルに対してゴムシートの大きさが約2倍強であり,すぐに鋼 板の端部まで到達してしまうので被覆シートが山になってワーキングコイル周囲に温水がとどまるほう が効果が高いといえる.

 では,さらにその比率が拡大して5倍,10倍になったときの状態を考えてみる.この場合,加熱され た温水は,大きな熱量を有している間にできるだけ早く広範囲に拡散するほうが望ましいというのは,

一般的な要請として思い浮かべることができる.ならば,ワーキングコイルの周囲に加熱された温水が とどまってしまう現在の加熱状態よりも被覆シートが山にならないほうが,すなわち,ゴムシートとワ ーキングコイル,または鋼板が密着した状態のほうがよりよい結果を得ることができる可能性も考えら れる.この様に配置した場合にはフェライトゴムシート,ワーキングコイル,鋼板それぞれの磁気的結 合が強いまま維持できるであろう、そうであるならば,図35,36における加熱開始から30分までの状

態がそのまま維持されるので,フェライトゴムシートを被覆用シートに貼り付ける意味は非常に大きく なってくる。

 したがって,この両者のどちらかが有効であるのかが確認されない限り,ワーキングコイルを覆う被 覆用ゴムシートにフェライトゴムシートを貼り付ける必要があるか否かは,現在のところ一概に断定す

ることはできない。

 次に述べる,ゴムシートの厚さを可変した場合の実験においては,すべて701cml四方のゴムシートを 用いて実験を行っているが,特に10[㎜1厚のゴムシートは自動玉重く,前節や本節の実験時に使用した 3[㎜1厚のゴムシートのように加熱時1こワーキングコイノレ周囲が山のように盛り上がる現象がほとんど 見られない.よって,ゴムシートが鋼板に密着した状態での加熱条件を模擬した状態になるので,薄手 のゴムシートを用いてワーキングコイル周囲に温水を蓄えるのが良いのか,それとも厚手のゴムシート を用いて温水をすばやく拡散させるのが良いのかの検討もあわせて行う.

実験結果その3(ゴムシートの厚さを可変した場合)

 本節においては,ワーキングコイルを覆うゴムシートの厚さを可変して,ゴムシート厚さは薄手のほ うが有利か,それとも厚手のほうが有利かを検討する.

 3[mml厚ゴムシートを使用している際は,ゴムシート表面に気泡が浮かび上がるほど温度が上昇して おり,シート表面からの熱損失が大きいように思われる.ただし,断熱材を使用するには,先に述べた とおり大きな浮力が働いてシートが浮かび上がって隙間が大きくなってしまい,かえって加熱された温 水をワーキングコイル周囲を加熱する熱源にうまく転化できなくなる可能性が高い.

 したがって,水中加熱時においては通常の断熱材の使用をあきらめ,ある程度熱損失が大きくなって しまうことに敢えて目をつぶり,ゴムシートを厚くすることによって,ゴムシート表面から周囲の水へ 放散する熱量をできうる限り小さくすることを検討する.

 また,実験結果その2の最後で述べたように,ゴムシートが厚くなれば,その自重で加熱時のワーキ ングコイル周囲の盛り上がりはほとんどなくなるので,加熱された温水がワーキングコイル周囲にとど まるのが良いのか,それともすばやく広範囲に拡散するのが良いのかという疑問についても解答が得ら れるものと思われる.

図7.85に加熱開始から2時間後の醸分布を示す.(a)がゴムシート厚3[mml,Φ)が5[㎜1,(c)が10[㎜]

である.

27 102 27 102 27 102

(a)厚さ3[mm]   Φ)厚さ5[mm]   (c)厚さ10[㎜】

 図7.85 ゴムシート厚可変時の加熱面温度分布(加熱開始から2時間後)

 図7.85より,ゴムシートが厚くなると最高温度,もしくはそれに近い温度を計測する点は増加するが,

温度が上昇する範囲は狭くなっていくことがわかる.最高温度に関しては,厚みが増したことによる保 温効果が一定の効果を発揮したのではないかと考えられる.逆に,温度上昇範囲が狭くなったことに関 しては,厚みが増すと自重が重くなってシートが盛り上がらず,加熱された温水がすばやく拡散してし まうことにより,温水と周囲の水との間の対流が促進され,温度が上昇する範囲が限定的になったもの

と考えられる。

 まとめると,ゴムシートを厚くするとある程度保温効果を発揮するが,加熱された温水を更なる熱源 として利用することを考えれば柔軟性の高い薄手のゴムシートを用いて温水をワーキングコイル周囲に 蓄積することが望ましい,ということになる.

被覆用ゴムシートを用いた実験のまとめ

 以下,ゴムシートでワーキングコイルを覆って温水を新たな熱源として加熱面積を拡大する実験につ いて,得られた結果をまとめる.

1) ワーキングコイルをそれよりも大きいシートで覆うことは加熱面積拡大に対する効果が発揮され

  る.

2)加熱面積拡大効果をできうる限り発揮させるには薄手の柔らかいシートを用い,ワーキングコイル   の周囲に加熱された温水を蓄積させることである.

3)2)に関連して,このとき,鋼板に密着したワーキングコイルに対し,ゴムシートは加熱され,容積   が拡大した水によって膨らむので,ゴムシートにフェライトゴムシートを貼り付けても磁気的な結   合が小さくなるので,フェライトゴムの効果が発揮できない.したがって,ゴムシートにフェライ   トゴムシートを貼り付ける必要はないと考えられる.

4) ゴムシートを厚くするとある程度保温効果を発揮するが,加熱された温水を更なる熱源として利用   することを考えれば柔軟性の高い薄手のゴムシートを用いて温水をワーキングコイル周囲に蓄積   することが望ましいと考えられる.

7.4あとがき

 本章においては船側鋼板誘導加熱システムを運用する際に必要となると考えられる加熱面積の拡大法 について検討を行った。その方法として,ワーキングコイルを複数枚設潭して加熱面積を拡大する方法 と,ワーキングコイルを覆って加熱された水を新たな熱源として活用する方法について検討した.これ らの実験から得られた結果をまとめる.

1)ワーキングコイルを複数枚設置する際に,ワーキングコイルの作る磁東の相互干渉が発生すること  は避けられないので,それらが正の干渉をして強め合うような全対向結線が効率良く加熱可能であ  ろうと予想し,それを実験で確かめた.

2)シーリングボックスを用いた実験の結果から,実際に使用する際はシーリングボックスの断熱が必  要になり,さらに,加熱面温度を水の沸点以上に上げるには圧力鍋のようにシーリングボックスの  内外に圧力差を生じさせる必要がある.よって,実際の使用時を想定すると,座礁船の水面下での  加熱やダイバーが潜水できる範囲での加熱時であること,シーリングボックスと船体を固定する際  に圧に耐えられるくらいの強度で固定できること,加熱面温度を上げるためにシーリングボックス  内部の圧を常圧以上に上げることといった条件をクリアする必要がある.すなわち,使用可能な範  囲が非常に限定される.