実験結果その4(温度上昇特性)
次に,実験時の温度上昇特性から,特性を判断する.
図8.58は,側面加熱実験時の裏面温度が最高温度を記録したβ5列の温度上昇特性である.また,図 8.59は天板加熱実験時の加熱面,裏面温度が最高温度を記録したβG列の加熱時間に対する温度上昇特 性である.
80 70 60
5)50
懸
図8.58,8.59より,側面加熱,天板加熱双方とも加熱面近傍においては加熱開始からごくわずかの時 間で最高温度近くまで温度上昇していることがわかる.
図8.58より,側面加熱時には加熱面の両面のみ温度上昇し,垂直方向の温度上昇がほとんど見られな かったのに対し,図8.59に示した天椥ロ熱実験時において1ま加熱面から50[㎜】の位置で約15悶程度
(15【℃1から30[℃1)温度が上昇している.また,天板加熱時の温度分布(図8.48〜857)では温度上昇 がはっきりと図の中に反映されなかったが,加熱面から50[㎜1の点(βGl)の,点において加熱開始か
ら1時間後に1蹟上昇を開始し,加熱面から130[㎜1の、点(βG2)では3時間後から醸が上昇し始め ている.しかしながら,βG1では約30fC],βG2では約201℃1で温度上昇が飽和しており,実用化を 考えるならば更なる温度の上昇が望まれる.
なお,図8.59の天板加熱実験において実験中途から加熱面と裏面の温度が逆転するという現象が生じ ているが,この原因として考えられるのは,熱電対の温度計測上の誤差,ないしは内部発熱という誘導 加熱の特性によって裏面に十分に熱量が供給された,抜けきらなかったわずかな空気の気泡がたまたま 熱電対を設置した位置に存在していた,の3点であるが詳細は不明である.熱電対は安定して温度を計 測し続けており,この先に述べる実験の結論などを勘案すると気泡によるもの,というのが一番可能性 が高いと考えられるが確かな原因は定かではない.
以上の実験結果から,大型タンク加熱時の加熱特性,及び運用法について検討する.
図8.60は今回使用した重油の温度一粘度チャートである.
10000
1000
の冒
一 100り
翼 葉
10
1
加熱開始前 2000cSt
吸引可能粘度
. 一− ラノ
約800cSt
一 一・ 一 一曽 ・}
均温度上昇
0
10 2030
温度[℃1
40 50 60
図8.60重油の温度一粘度チャート
一般に,ポンプで重油を引き上げることの出来る粘度は1000〜1500[cSt】程度であると言われている(4).
加熱前の重油温度は平均的に15〜16[℃1程度であり,約2000【cStl程度であると推測される,加熱終了後,
加熱面近傍の重油は平均的に30[℃1程度まで温度上昇したので,粘度は約800[cStl程度まで下がったと
推測される.
側面加熱,天板加熱ともに,加熱裏面近傍の局所的にはごく短時間で温度を上げることが出来るのが わかる。この特性を利用し,局所的に温度が上昇した部分から順次重油を吸引することによって比較的 少ない電力で重油の回収が可能になると考えられる.
その他の運用法として考えられるものは,あらかじめ長時問加熱してタンク内部の重油温度が上昇し た範囲を広げておき,しかる後に重油の吸引を開始する方法がある.この根拠として,特に側面加熱実 験時の重油温度分布にはっきり表れているが,時間がたつごとに温度上昇範囲が拡大していることであ る.この方法は効率の良い運用法とは言いがたいが,重油を確実に回収するという目的には沿うもので あると考えられる.こちらの運用法を選択するにしても,実際の船舶のタンク全体の重油を加熱するわ けではないので(実際上不可能),重油が流動性を持ちすぎることもなく,流出する可能性も低くなるの ではないかと考えられる.
実験結果その5(熱効率)
本節においては,側面,及び天板加熱実験時の熱効率を計算する.各計測点の温度は10秒おきに,又,
入力積算電力は30分おきに値を計測している.
熱効率を計算するに当たり,小型タンク実験時には実験開始前と終了直後にタンク内部の重油を撹幹 し,タンク内部の重油温度がほぼ一定になるようにして重油温度を計測し,その温度差によって重油が 受け取った熱量を計算し,投入電力量に対する比として熱効率を計算していた(2).しかし,本実験にお いてはタンクの天板を開放することができず,内部の重油の撹搾は不可能である.よって,本実験にお いてはタンク内部の重油温度分布から重油の受け取った熱量を概算し,投入電力量に対する比を計算し て熱効率とする.
温度を時系列に添って計測しているので,これまでの実験のように実験開始・終了時のみの温度デー タに基づく熱効率ではなく,熱効率の加熱時間特性が計算できる.なお,ここで計算する熱効率は海水 中に設置されたタンクが周囲の海水によって冷却される冷却効率をも含んでおり,使用したタンクにっ いてのみ成立する全体の熱効率であることに注意が必要である.
重油の受熱量は物体に与えられた熱量の基本式,
QニmC△T ...(8.3)
から計算する.ここで,Q:熱量[Jl,m:質量[kg】,△T:温度差区]である.
重油の質量は,実際には温度によって変化するものと考えられるが,資料がないので,表8。1の密度 に体積をかけあわせる方法で分割した各部分の重量を計算した.なお,分割ブロック内では温度一定と
して計算しているので,ここで計算する熱効率はあくまでも概算である.
重油の定圧比熱は,以下の式によって推定できるとされている④ 1.6848+0。00339tC1= _(8,4)
再
ここで,C1:液体重油の定圧比熱(Cp)[」/gKl,t:摂氏温度fq,d:15.6fqにおける密度[g/cm31である.
実験時において,重油は発生ガスを逃がすための気抜穴を通して大気開放されている状態であったの で,上式の前提である定圧の状態(大気圧)であったと考えられ,比熱は上式を用いて求めて良いとい
う前提で計算した。
熱効率の具体的な計算法をまとめる.
タンク内を熱電対の位置によって,側面加熱時は188ブロック,天板加熱時は170ブロックに分割し,
その分割ブロック内部の重油温度を簡易的にその中の熱電対温度で代表させた.
温度のサンプリングタイムは10[s】ごとに,加熱初期値との温度差△Tに基づき,各ブロックの積算受 熱量伍を計算し,すべて足し合わせ,ΣQを求め,加熱開始時からの投入積算電力量Ptsを計算し,
㌦一 糊
として,10秒毎の熱効率を計算した.
図8.61は10秒おきに計測した温度データを用いて熱効率の時間変化を詳細に計算したものをグラフ 化したものである.なお,投入積算電力量は30分おきのデータしか存在しないので,30分の積算電力 を180等分して10秒おきの積算電力量としている.
35
30
25
器20
冊 誤
篠15
10
5
0
ヒ ヨO
董2 3
4 5 6時間1岡
7 8 9
10図8.61熱効率の加熱時間特性
側面加熱実験時の熱効率についてまずまとめる.
側面加熱時の熱効率(図8.61中の青点)は熱効率は加熱開始から1分ほどで30[%1強にまで達し,そ こから指数関数的に減少して最終値である6〜7[%1近傍の値に落ち着くことがわかる.
おおよその時間変化を見ると,熱効率が最高点約311%1を記録するのは加熱開始から50秒後,そこか ら約半分の15[%】まで熱効率が減少するのが加熱開始から18分後,10[%1を切るのが39分後,その後1 時問以上をかけて最終値である6[%]強の値までじわじわと下がっていく。その後は図8。61で見たように 加熱時間中にわたってほぽ一定値をとる.
続いて天板加熱実験時の熱効率の特性についてまとめる.
天板加熱時の熱効率(図8。61中のピンクの点)は加熱開始直後に15[%1弱まで達した後に徐々に減少 する.側面加熱時と異なるのは,熱効率は2時間後までに急激に減少した後に安定せず,徐々に減少を
し続けていることである.
このような特性が現れた原因として,側面加熱時には加熱された重油が加熱側面に沿って上昇し,天 板裏に蓄積されたのに対し,天板加熱時には,加熱された重油は天板に沿って横方向に拡がり,タンク の端まで到達してそこで海水によって冷却されてしまうためと考えられる.したがって,天板裏側に加
熱された重油はあまり蓄積されず,加熱面に対する垂直方向にはあまり熱が伝わらないので内部の重油 の温度はあまり上昇しなかったのではないかと考えられる.
また,側面加熱,天板加熱双方とも加熱開始直後に最高熱効率を記録して,徐々に低下していってい るが,今実験で得られた熱効率はタンクの冷却まで勘案した全体の熱効率になっており,長時問加熱す ることによって,加熱された重油がタンク内部に拡散し,加熱面以外の側面からの冷却効果によって徐々 に熱効率が低下していったものと考えられる.したがって,図8.61に示した熱効率の加熱時間特性はあ
くまでも使用したタンクに関して成立するものであり,実際の船舶タンク加熱時はその特性が変化する ことが予想され,その意味で一般性を有しているものではない.ただし,加熱開始直後は加熱された重 油層が大きな拡がりを有していない状態においてはタンク加熱面以外の側面からのタンク内重油とタン ク側壁海水温度との温度差に起因する冷却はほとんど無いはずである.この状態において観測された比 較的高い熱効率は実際の重油タンク加熱時にも得られるものと考えられる.したがって,実システムに おいて加熱したそばから重油を吸引するような運用法をとった場合,加熱された重油が加熱面近傍から その他の範囲へ拡散しにくいため,比較的高い熱効率で,かつ比較的少ない電力量で重油を加熱回収す ることが可能になるのではないかと期待される.
8.2.7実験のまとめ
以上,天板加熱,側面加熱実験の結果と次の検討課題についてまとめる。
1)双方の実験においても高周波誘導加熱によるタンク側壁鋼板加熱からのタンク内部重油を加 熱することは可能であることが示された、
2)装置が大型化すると加熱面に対して重油の容積が大きくなるので,この大型タンク加熱実験時 においては加熱面近傍のごく薄い範囲内において温度が上昇し,内部の重油の大部分は温度上 昇することはなかった.温度が上昇する範囲は加熱開始からわずかの時間で温度が上昇してい る.
3)実際のシステムにおいても,この特性を利用するならば温度が上昇した部分から徐々に重油を 吸引していけば比較的少ない電力で重油の吸引が可能になるのではないかと期待される.また,
別の運用法として考えられるのは,あらかじめ長時間加熱して予熱しておき,内部の重油温度 が上昇している範囲をある程度拡げておいてから吸引を開始するという方法も考えられる.
4)タンク内部の重油すべてを加熱するわけではないので重油が流動性を持ちすぎることはない 5)天板加熱はワーキングコイルで蓋をするように加熱するので側面加熱時に比し重油温度が上
昇しやすい
ただし,これ以上のシステムの特性を改善するためには,更なる工夫が必要になると考えられる.
実際のシステムの運用時を考えると,実際に作業を行う深海では海水温度が最低で約4[℃]であり、タ ンク内部重油の熱伝導率λ[W如Kl,熱伝達率α[W/m2K』1が今回の実験よりも小さくなり,同一の電力を投 入した場合,温度上昇の幅も小さくなって加熱効果がさらに落ちる事が予想される.また,実際の吸引 時においては,吸引された重油が持去る熱量と,内部に残された重油を吸引可能粘度まで上昇させるの に必要な熱量を加えただけの熱量が重油に供給される必要がある.現在は吸引可能な粘度まで温度上昇 する範囲が非常に狭く,かつ加熱面温度も低く,それだけの熱量がタンク内部重油へ供給可能かどうか 非常に懸念される.
よってシステムの特性を改善するには,加熱面の温度を上げることが一番簡単な方法であるが,特に 浅海で使用する場合においては海水の沸点(この場合100βC])以上に上げられないという制約がある。