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4 .子どもの地域環境の評価:

ドキュメント内 1.「子どもの貧困」の発見 (ページ 73-76)

3 地域環境の養育行動との関連

貧困な地域環境での生活によって子どもがうける不 利には,子ども虐待・成績不振・10代の妊娠・若年出

産などがある。また,米国では不利な環境で育つ乳児

の約50%には学童期に学業不振・情緒的・行動上の問

題などの問題がある(Van Doorninck, Caldwell, Wright &

Frankenburg (1976)),一方,学業成績は母親の言語的

反応や遊戯用具の適切な与え方に有意に関係する。これ は経済的に不利な環境に育つ子どもの全てが問題を持つ わけでもないことを物語っている。米国ではI.Q.の低 い子どもを見つけるために家庭環境測定法(ホーム・イ ンベントリー;Caldwell & Bradley, 1979)が用いられて いる。幼少時の家庭環境評価の結果は,従来の発達検 査の結果よりも子ども発達の予測性が高いといわれる。

JFK Child Development Center(1981)では,子どもの 発達上に問題を発生しやすいリスクの高い乳幼児家庭養 育環境を見つけて,適切な早期支援に結びつけることで 問題を未然に解決する予防的観点から家庭養育環境評価 法Home Screening Questionnaire(通称HSQ)を考案した。

筆者らはこれを日本の乳幼児の実情にあうように項目 の評価基準を検討し,信頼性・妥当性の検証によって実 用化した(上田,1988)。実用化に際してこれまで述べ てきた3地域を含む日本の各地で調査したが,紙幅の制 限のためにここでは子どもの発達にとって豊かな環境刺 激と 貧困な環境刺激との相違の探索に焦点をおき,1)

3地域の横断的調査と,2)同一地域(沖縄群)におけ る歴史的変化として時代差の調査概略を紹介したい。

1 )横断的調査:日本版・乳幼児の家庭環境評価(JHSQ による3地域(沖縄・東京都・岩手)の比較 研究の第1段階として,JHSQは米国版の一部項目の 補正・削除によって東京都群に適応できることを確認し た(上田・小澤,1985a;上田・古屋・横澤,1979)。第 2段階では岩手,沖縄を含む日本各地域におけるJHSQ の実用性を検討した。3地域(沖縄・東京都・岩手)に おける各項目得点率の類似性と差異を比較すると5つの カテゴリーに大別された。すなわちa.3地域に有意差 がなく類似する11項目,b. 岩手群と沖縄群に差がなく,

東京都群が両群よりも得点率が高い(都市型)8項目,c.

東京都群と岩手群に差がなく,沖縄群の得点率がこれら 両群に比較して差がある(本土型)7項目,d. 東京都群 と沖縄群に差がなく,これら両群が岩手群と差がある2 項目,e. 3群の間でそれぞれ差がある2項目などであっ た。

a. の項目(3地域間で類似)は「子どもを買い物につ

れていく頻度」や「親と子どもが一緒に食事」をとる回 数などであり,この年月齢の子どもの親に共通する行動 である。一方,e. の項目(3群間に差がある)は地域に よって特徴ある家庭刺激項目とみなすことができる(「子 どもの遊びに使わせているもの」「家族のなかで食料品 の買い物に行く人」)。また,c. の都市型には「「おもちゃ をしまう場所」を持っている,「子どもに話しかける時

間」,「母の本の持ち数」,「新しい献立を採用」等があり,

親が家庭で子どものために居場所を構成し,多様な刺激 を提供する程度の違いを示している。

3地域の対象者の社会・経済的属性(父の職業と父親・

母親の学歴)を比較した結果は,JHSQの地域差の要因 にこれら社会・経済的要因がかなり関与していることが 明らかになった。これは研究の第一段階で同一地域の東 京都群の中でJHSQの高得点群と低得点群の比較で得ら れた結果と一致していた(上田・小澤,1985b)。

次に,第3段階としてJHSQと子どもの発達との関係 を東京都の保健所管内にある3保育所の2〜5歳児137 名を対象として調査し検討した。これは家庭刺激の貧困 な生活状況が健康・発達・安寧にどの程度に影響して いるかをみるためである。その結果,一次スクリーニ ングとしてJHSQと日本版プレ・発達スクリーニング質 問項目(略称JPDQ)の検査結果から,40名を2次スク リーニングの対象とし,直接法の発達スクリーニング検

査JDDSTとJHSQとの関係を検討した。環境面と子ど

もの発達面の両者の組み合わせからvery high risk 9.7%,

high risk 25.8%,moderate risk 32.3%,low risk 32.3%と 評価され,JDDSTが正常でない群には正常群に比較す るとJHSQ低得点のものが有意に多かった(p < 0.005)。

さらに,保育所訪問調査で詳細に調べるとJHSQ低得点 群には,調査時点において子どもの発達上に明白な「遅 れ」はないものの,家庭での放任・無関心などネグレク トと子どもの発達に理解の乏しい保護者が約50%ある ことが明らかになった。なお,子どもの身体的既往歴・

現症にはJHSQおよびJDDSTの高得点群と低得点群の

間にそれぞれ有意差はなかった(上田・花岡・赤穂・小 澤,1987)。他の地域でも同様の結果であった(Ueda &

Kubo, 1992)。

これらの結果はJHSQが貧困な家庭環境で発達上の潜 在的問題をもつ子どもを見つけ,支援に結びつける一つ の技法として役立つことを示唆していた。

2 )時代差の調査:同一地域における歴史的地域環境の 変化

日本の戦後における環境の劇的変化は全国的に著し いが,特に沖縄県は本土復帰後(1972年)の急速な都 市化現象が地域環境の豊かさ・貧困と子どもの生活・発 達・健康との関係を実証的に示すことのできる貴重な例 である。経済的指標の一つとして生活保護年度保護率 は1975年〜2009年まで10年毎の推移をみると,沖縄 は全国よりも高く経過するが,1975年26.5(全国12.1) から下降し,変動しながら2009年は19.2(全国13.8) となる。なお,生活保護受給の理由について,1997年 と2009年を比較すると「遺棄世帯」が減少傾向(沖

縄3.1 > 0.3)にあるものの,「未婚の母子世帯」(沖縄

11.8 > 11.5)や離婚率の高さにはあまり変化がない(沖

縄県,2003)。

著者らは沖縄県の本土復帰前後に離島における養育行 動調査を子どもの生活・健康・発達との関連で実施した。

その後1984年と約20年後の2006年に同一地域で,ま た,2007年には異なる離島でも同様な調査を実施した。

以下は時代による地域環境の変化と親の養育行動との関 係を検討し,その結果を発達生態学的観点から貧困と深 く関係する子ども虐待行為類型と関連づけて考察する。

同一地域で今日と過去の親の養育行動を比較することか ら,親の直面する子育て上の今日的問題を顕在化し,子 育て支援の方策を探索する試みでもある。なお,1970 年代初頭の調査結果は文献(上田・山本,1976;上田・

古屋,1978)を参照されたい。

ᴥ±ᴦ̓ࢺзɁᜆɁ᭴ᑎᚐӦɁ஽͍ࢃ 対象地域は沖 縄県離島A市であり,乳幼児の親(養育者)を対象と して3つの調査(①②③)を実施した。①はA市の実 施する乳幼児健診を訪れた親子を対象とし,②③は子ど も虐待リスクが一般に高いとされる若年出産の親子を調 査対象とした。

①の調査は2006年に乳幼児の親(養育者)82人を対 象とし,それと1984年の乳幼児の親(養育者)62人の 養育行動とを比較した結果,親(世話をする者)の養育 行動や家庭刺激には約20年間に有意な変化があり,そ の内容は,以下に要約されるものであった。

a. 子どもの知的・言語的刺激は量的,質的に高まって いた.

b. 子どもへの罰や行動制限など幼児の行動を方向づけ る基本的生活習慣形成に関する躾に変化は少ないもの の,躾の開始時期が遅くなり,個人差の幅が広がり,む しろ放任に向かっている傾向があった.

これらの結果は対象者の家庭環境の変化,すなわち親

(父母)の属性・背景の変化を無視できない。島内外の 人口移動によって親(父母)にはA市出身者の割合の 減少と年齢の上昇,高学歴化があり,父親の職業も変化

(第1次産業から第2・3次産業へ)し,また,家族構成 としてひとり親家族の増加などがあった。そして,父母 の転入や転出を含む対象者の属性の変化には地方自治体 が若者の地域定住を図る施策としての地域開発・家屋の 高層化(平屋の一戸建築物の減少)が関係していた。高 層住宅に住む子どもの生活は遊び方や友達関係,近所の 人々との交流の仕方に変化をきたし,伝統的地域社会か ら近代的地域社会に移行したことによる変化に巧く対 応できない側面が明らかになった(上田・安田・前田,

2008)。これは沖縄のこの地域のみならず日本全体の都 市化の動向と矛盾しないものと考えられる。

ᴥ²ᴦᔌࢳᜆɁ᭴ᑎᚐӦɁ࿑ौᴷȰɁ ± 沖縄県は若 年出産に関して,都道府県別の20歳未満女子の出生率

が第1位12.04で,第2位の茨城県7.31に比較してか

なり高率である。10代の妊娠・出産は貧困や子ども虐 待とも関係する。本調査②の対象者は沖縄県離島A市 に住み,第1子妊娠時20歳未満,調査時に3−6歳児を 養育中の母親40人(B群と称す)であった。調査方法 は2006年に家庭訪問法による面接調査であるが,対照 群としてほとんど同じ時期にA市の実施する3歳児健 診受診の養育者53人(C群と称す)を調査し,両群の 母親の養育行動を比較すると以下の3項目に若年母親の 特徴がみられた。

a.「大人がテレビ番組を決める行動」はB群15%対 C 群39.0%で,若年母親群の方が有意に少ない(p < 0.02), b.「子どもに期待して行っている行動」はB群50.0%対 C群75.8%で,若年母親群が有意に少ない(p < 0.034), c.「しつけの方針に食い違いがある」はB群45% 対 C 群24.4%で,若年母親群が有意に多い (p < 0.05)。

すなわち,若年母親の養育行動を一般母親と比較する と,若年母親の特徴として a. 大人がテレビ番組を子ど ものために選んで決めることが少なく,b.子どもへの 期待はあるものの,そのために具体的な行動をとること が少なく,c.家庭では躾の方針に食い違いがある者が 多かった。そして,その他のデータから育児情報源とし てマスコミよりも祖父母などの口コミを利用する傾向が あり,子どもを「たくさんたたく」者が1割程度あった。

一方,若年母親の属性を対照群と比較するとa.若年 母親のパートナーの年齢は低く,b.核家族が少なく,c. 母親の学歴は中卒者がより多く,d.パートナーの学歴 も高卒以上の者が少なく,これらにはいずれも有意差が あった。

ᴥ³ᴦᔌࢳᜆɁ᭴ᑎᚐӦɁ࿑ौᴷȰɁ ² 沖縄本島の産 科医療施設7箇所に受診中の若年母親(妊娠確定時20 歳未満の者で,産後1ヶ月時に自分の子どもを養育して いる母親)を対象として養育行動と「新生児に対する知 覚」を調査した結果には,以下のような特徴があった。

a. 家 族 形 態 は 核 家 族46.7%, 夫 婦 で 実 家 に 同 居 40.0%,母子のみ実家に同居13.3%であり,若年母親の 約50%は実家に同居して支援を受けていた。b. 母親の 33%は自分の子どもを普通の赤ちゃんと比較して低く 見なしていた(否定的な知覚)。c. 母親は育児の大部分 を実施していたが,自分の赤ちゃんを否定的に知覚する 母親は赤ちゃんの「衣類の世話」の実施率が有意に低 かった。これはオムツの汚れによる不快さの表現に気づ くのが遅いと解釈できる。言い換えれば,放任・ネグレ クトなどの徴候である。

以上の3つの最近の調査結果(①②③)は,親の養育 行動を子ども虐待予防との関連でみると,子ども虐待行 為類型のうちのネグレクトの増加が懸念されるという内 容であった。これは全国の他府県で身体的虐待相談が多 い(全国50.1%対沖縄40.3%)が,沖縄県ではネグレク

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