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岩手群)と子どもの発達

ドキュメント内 1.「子どもの貧困」の発見 (ページ 70-73)

我が国では地域環境と子どもの発達との関係に注目し た系統的研究は少ない。1967年にFrankenburg, & Dodds

(1967)はリスク児の発達スクリーニングを目的に1960 年の国勢調査資料による米国デンバー市住民の人種的お よび職業的グループ特徴を反映すべく標準化サンプルを 抽出し,家庭・地域で生活する子どもの発達行動を観察・

調査して個人差の幅を報告した。

その後,小児科医,文化人類学者,発達心理学者など

が世界のいろいろな異なる国・地域に住む子どもの行動 発達を調査した結果,子どもに身体的病気・異常がない にもかかわらず,行動発達の速度に違いがあり,それに は従来信じられていた人種よりもむしろ環境による育 て方や生活様式の違いが関係していることを報告した

(Solomons & Solomons, 1975; Solomon, 1978)。 例 え ば,

米国ニューイングランド地方とメキシコに住むズナカン テコ・インデアンの子どもの行動発達には違いがあり,

両者の遅速の違いは,同じ地域に住む子どもにそのよう な違いがあれば,病気を疑わせる程度のものであった

(Brazelton et al., 1969)。また,人種に関しては同じアフ リカの黒人の間でも育て方(排泄させる時に子どもを抱 える姿勢の違いなど)によって運動発達の速度に違いが あることも報告された(Super, 1976)。つまり,人種と いう生物学的要因ではなく,生活様式が深く関与してい るのである。さらに,興味深いことに地理的に居住地が 同じ米国デンバー市で標準化サンプルとなった白人(ア ングロサクソン系とスペイン系)と黒人を,人種ではな く経済的観点から中産階級(A群)とそれ以下(B群)

の2群に分類して比較すると,乳児初期の運動領域と 幼児期の言語領域に違いがあり,A群の乳児初期の運動 はB群に比較して遅く,一方,幼児期の言語発達はB群 より早かった(Frankenburg & Dick, 1973)。これらの結 果は,環境要因としての経済的貧富・養育行動・生活ス タイルと乳幼児発達の遅速の関係を実証するものであっ た。

筆者は我が国で初めての乳幼児発達スクリーニング検 査の標準化を実施し,それと同時に,またそれに続けて 今日まで養育行動,生活スタイル,地域環境と関連して 日本各地で調査を続けてきている。以下は乳幼児期・学 童期・青少年期におけるそれぞれの発達と地域環境がど のように関連するかを検討した結果である。

1 )乳幼児期:日本版Denver Developmental Screening

Test(略称JDDST)の標準化サンプルとそれぞれ

の地域環境における乳幼児発達

乳幼児発達スクリーニング検査の標準化サンプルは地 域社会・家庭で生活し,年月齢・性別による各グループ 構成には偏らない対象を抽出することから開始した(参 加協力の得やすい施設入所児,あるいは中産階級以上の 子ども,疾病を有する子ども等ではない)。そして,東 京都全体あるいは他の2地域はそれぞれの乳幼児を代表 するとみなされるものであった。

ᴥ±ᴦూ̱᥆ᏰɁᄉᤎȻ٥ڒၥہ まず,物理的環境 として地理的に日本列島のほぼ中央に位置し,日本の 人口の約10%占める東京都全域の住民から,以下の3 つの条件を勘案してサンプリングした。具体的には① DDSTと同様に明白な障害のある子どもの除外,②性別・

年月齢に偏りのない総数1,171人(男性588人,女性

583人),③子どもの居住地域は,伊豆七島の島部も含 めて東京都全域にわたり,社会・経済的環境に偏りがな かった。すなわち,サンプルの父親の職業分類と1970 年の国勢調査資料による東京都住民の職業分類は類似 し,また,対象児の地域分布は,健康指標の一つである 乳児死亡率が1971年の東京都平均乳児死亡率11.0に照 らして,11.0未満地域の対象児645人55.1%と11.0以 上地域の対象児526人44.9%とに分けることができ,サ ンプルと東京都全体の比率に大きな違いがなかったこと を確認している(上田,1980)。

次に,東京都群の乳幼児発達に社会・経済的指標であ る親の職業・学歴がどのように関与するかを検討した結 果は興味深いものであった(上田,2000)。

粗大運動領域では,父親の職業が管理・専門職,父母 の学歴が大学・短大卒で社会・経済的背景が有利である 子どもの方が,1歳6ヶ月〜2歳以後において発達が早 い傾向にあった。逆に,これらの子どもは乳児期・幼児 初期には粗大運動が遅い傾向にあって,その後に逆転す る。この傾向は言語領域についても同様である。しかし,

微細運動−適応領域と個人−社会領域ではいくらか違っ た様相を示し,学歴の高い母親の子どもの方が乳児中期 から早い傾向を示した。

これらの結果は,Frankenburgらがデンバー市におい てみた1歳6ヶ月以前では経済的に不利な子どもの発達 がより早く,その後に逆転するという報告と一致してい た。一方,驚いたことに,東京都の子どもは,デンバー 市に比較して運動発達が乳児初期に遅く,また,幼児期 には言語発達の「表現」において遅く,デンバー市の評 価基準を変更する必要があった。言語理解や「色の区別」

などでは両者は類似し,90パーセンタイル値ではむし ろ東京都の子どもの方が早かったにもかかわらずなので ある。理由は養育行動を介した両国の文化的・社会的・

教育的態度の違いであると考えられた(Ueda, 1978b)。

ᴥ²ᴦّю٥ڒၥہȻ̓ࢺзɁᄉᤎᴷూ̱᥆Ᏸˁฏᎆ Ᏸˁࠨਖ਼ᏰɁᄉᤎᬱᄻɁ෗ᢎ 北は北海道から南は沖縄 に連なる日本列島の地理的条件(寒暖)と都市化の程度 に注目した地域環境を視野に3地域を選んでサンプリン グをした。これは子どもの生活様式に関して生態学的観 点から東京都と比べ最も違うと考えられる地域の選択で あり,緯度の上で東京より北に位置する岩手県盛岡市近 郊(以下岩手群)と南に位置する沖縄県先島諸島(沖縄 群)は年間平均気温がそれぞれ盛岡10℃,東京都14℃,

先島諸島22℃である。なお,岩手県よりも北にある北 海道を選択しなかった理由は,北海道は家屋内の冬の暖 房が整備され,冬期の乳幼児の家屋内での日常生活は東 京都とあまり変わりないとの予備的観察からであった。

それぞれの地域環境の違いは,気温や家屋の構造ばか りでなく,近隣の人付き合いの仕方や子育ての仕方など

人的的環境にも違いがあった。また,沖縄群は亜熱帯に 属し,本土とは地理的,文化・社会的,歴史的にも違い,

これは生活様式や子育てにも影響していた(上田・山本,

1976)。

以下,東京都群と同じ発達項目による子どもの発達検 査と親の面接調査の結果を中心に地域環境による乳幼 児発達の類似性と差異について述べよう(上田・古屋,

1978;Ueda, 1978a;上田・古屋・横澤,1979)。当然の ことながら,調査対象児の岩手群564人と沖縄群775人 は東京都群と同様に子どもの年月齢・性別のグループに 偏りなく抽出されている(上田,1980)。

国内3地域における乳幼児発達を比較すると,乳児期 の「首すわり」・「ねがえり」・「つかまって立っていられ る」など一連の乳児期発達は暖かい地域環境の方が寒い 地域環境に比較してより早く,気候条件が,乳児期の粗 大運動発達に影響していた。一方,幼児期の言語領域の 発達には都市化の程度が関与し,「色の区別」や言葉の「反 対類推」などの発達で遅速があり,東京都群は他の2地 域より早かった。これは後に家庭環境調査JHSQで述べ るように東京都群が子どもに「話しかける時間が多い」

ことや「母親の所有する本の数が多い」など家庭での言 語刺激がより多いためと考えられる。同時に,経済的指 標となる両親の職業の種類・学歴も関係していると考え られる(上田,1980)。

2 )学童期における3地域の行動発達の比較

子どもの発達過程には大人から見ると問題行動ともい える一過性の行動や微症状がある(Gesell & Amatruda,

1947; 上田,1990)。学童期においては行動発達だけで

なく,むしろ発達の負の側面ともいえる一過性の問題行 動・微症状に焦点をあてた3地域での調査結果は以下の ようであった。

日本のみならず他の先進国でも学童期の「いじめ」・

「うつ」などが大きな社会的問題の一つであるが,発達 過程に出現する一過性の問題行動・微症状と地域環境と の関係を検討した。ここでは母親の記載した調査用紙か ら3地域(東京都群・沖縄群・岩手群)における調査対 象児の微症状・問題行動の頻度を地域別に分析した結果 を示すことにする。調査方法は小学生1,246名(東京都 群368名,沖縄群461名,岩手群417名)を対象とし,

第一次スクリーニングは父親・母親用と,別に調査対象 児用に作成した質問紙法を用い,第二次スクリーニング は調査対象児の観察・面接法,および教師から学校生活 での調査対象児に関する情報を得て相談・支援に応じる 方法であった。

分析では身体面と行動面に分けたが,身体面で頻度の 高い項目は,1位「小食」18.1%,2位「偏食」14.8%,

3位「食べすぎ」8.3%であり,いずれも食事に関係して いた。そして,「小食」には有意差があって,沖縄群が

ドキュメント内 1.「子どもの貧困」の発見 (ページ 70-73)