1870
年の規則改訂が政治的事件のために頓挫してから、音楽院は1878
年まで個々の特別 布告によって状況の変化に対応しながら50
年総則を運用してきた。1871年から1878
年ま での間に出された音楽部門に関する院長・大臣の提案・布告には次のようなものがある。-1871
年 器楽と声楽のソルフェージュに区別を設ける布告476器楽ソルフェージュのプログラム:
1.
音楽の基礎概念、2.
イントネーションと リズムの別個学習、3.
聴音、4.
すべての音部記号によるソルフェージュ、5.
移 調。声楽ソルフェージュのプログラム:1~3は器楽ソルフェージュと同じ。4. 1 つの音部記号と複数音部記号によるソルフェージュ、5.
話される言葉を伴う読 譜-1871
年8
月26
日:大臣に対する寄宿学校廃止の提案(A. トマ)477-1871
年8
月31
日:音楽美学・音楽史講座、歴史・劇文学講座、声楽アンサンブル(声楽の様々な古典的楽派の学習)講座の創設の提案(A. トマ)478
-1871
年9
月14
日:寄宿学校廃止の布告(公教育・信仰・美術大臣)479寄宿生のために組まれていた予算を通学の奨学年金受給生の奨学金に充てるこ とを決定。
-1873
年9
月30
日:オーケストラ・クラスの創設提案(A. トマ)480-1873
年10
月13
日:オーケストラ・クラス設置の布告(公教育・信仰・美術大臣)481。-1873
年11
月26
日:オーケストラ・クラスの時間割等を定める布告(A. トマ)482。1878
年9
月9
日、公教育・信仰・美術大臣の報告に基づいて、パリ音楽院の新しい上部 組織を定める政令483が出され、その2
日後に新総則(以下「78年総則」と略記する)が発 布された。教授より上位の組織に関する規定はこれまで総則に組み込まれてきたが、今回 は、この部分は政令(以下「78年政令」と略記する)で定められ、教育内容と教授、生徒、その他人員については総則で取り扱われる形をとった。
28
年ぶりの総則改訂は、音楽院の教授や生徒にいかなる影響をもたらしたのだろうか。この点を明らかにするために、本章第
1
節では、1878年の大統領令と総則に基づいて、音 楽院の管理体制、教員の給与体系、教育セクションおよびクラスの再編成にもたらされた 変更点とその意義を、50年総則、70年草案と比較しながら検討する。章の後半を成す第2
節では、この総則によって新たに定められた入試、定期試験、修了コンクールの規定をみ た後で、1870年代から1880
年代におけるコンクール審査員の構成の特徴を検討する。9-1. 1878年の新総則
1878
年の大統領令および新総則では、音楽院の管理体制、教育セクションおよびクラス476 CP. p. 280-281.
477 CP, p. 302-304.
478 Ibid., p. 310.
479 Ibid., p. 304.
480 Ibid., p. 310.
481 Ibid., p. 311.
482 Ibid.
483 « Décret portant organisation du Conservatoire national de Musique et de déclamation », Ibid., p. 260-261. この 時の大統領は1873年に選出されたド・マクマオン Patrice DE MAC MAHON(1808~1893)である。
の再編成、教授の給与に重要な変化がもたらされた。本節ではこれらの事項について、
1878
年の大統領令および78
年政令・総則を50
年総則、70年草案と比較しながら音楽院が過去 の総則・草案からどの項目を取捨選択し、また新たな要素を加えて教育体制を更新したの かを考察する。9-1-1. 音楽院の管理体制
78
年政令は、次の5
章(titres)で構成される。教育の編成を定める第1
章、院長の任命 と管理部の編成を定める第2
章、教授陣の任命手続きを定める第3
章、教育評議会、入学 審査団、クラス試験委員会、劇部部門のコンクール審査団を定める第4
章、一般的・過渡 的措置(dispositions générales et transitoires)を定める第5
章。まず、人事に関する変更をみてみよう。下の表は
50
年総則と78
年政令における院長、管理部、教員の人事に関する規定を比較している。
表I-9-1. 50年総則と78年政令の比較:院長、管理部、教員の人事に関する規定
史料:CP, p. 255, 257, 260-261.
50年総則 78年政令
院長 大臣により任命 大臣の提案に基づき大統領令により任命(第 5項)
管理部の構成 1. 事務官(secrétaire)
2. 会計監査官 3. 監学官
4. 事務長官補佐および諸々の下役 5. 司書
6. 図書館員
1.事務長官(chef du secrétariat内部規律、備品、
会計責任者)
2. 司書
3. 楽器博物館管理官
4. 事務長官補佐および諸々の下役(第6項)
教授・伴奏者の 任命
教授は大臣により任命。この任命は 音楽・劇学習委員会と院長それぞれ 提示する3名の候補者を記したリス トに基づいてなされる。
* 但し 1856 年の布告により院長の 提示に基づく大臣の任命という方式 に変更(1856年5月25日の布告)
教授と伴奏者は院長の提示と美術局長官の提 案に基づき公教育・信仰・美術大臣が任命(第 8項)
復習教員の任命 復習教員(répétiteurs)は、各人が指 導を受けている教授の提案に基づ き、院長によって任命される。任期 は3年まで。
復習教員は院長によって任命され、3 年の任 期を務める。申し出れば更新可能。(第9項)
まず院長に関して、50年総則で院長の任命権は大臣に属していたが、78年政令では、任 命権限が大統領に移され、音楽院は共和国の長から直接信任を受けることとなった。管理 部に大きな変更はないが、会計監査官の役割が事務長官の権限に統合された。また、1871 年以来、楽器博物館の管理官が置かれるようになった。教授の任命は、1850 年の定めでは 教育委員会と院長がそれぞれ作成した候補者リストに基づいて行われることになっていた が、既にみたように
1856
年5
月25
日の布告でこの民主的な手続きは廃止され、教授およ び教授資格者は院長の提示に基づき、国務大臣により任命されるものとされていた。78 年 総則では、大臣の人事への直接的な介入は、間接的な手続きに変更された。すなわち、教 授(および教授資格者、有給の伴奏者)は院長の提示(présentation)、美術局長官による提 案(proposition)、公教育・信仰・美術大臣による任命(nomination)という3
段階の手続き を経て任命が行われることなった。これによって、マチアスの任命の際に生じた大臣の独 断的な任命権の行使は生じにくくなった。とはいえ、指名権は50
年総則に立ち返ることは なく、教授候補指名権が教授たちの手に戻ることはなかった。生徒にとって教授職を得るための重要なキャリアの
1
つであった復習教員に関しては、3 年の任期の後に更新可能という定めが加わった。管理部の構成はこのように大きくは変化しなかったが、教授任命方式に関しては第二共 和制下で成立した
50
年総則と比較すれば、政権の音楽院に対する主導権は強くなっており、教授たちで構成される内部組織よりは、院長と政府役員の権限が重視されるようになった といえる。
管理部の下に置かれる教育評議会、入学審査団、クラス試験委員会は、
1871
年11
月9
日 の布告に由来している484。これらの内部機関は、50 年総則で定められた教育委員会に代わ って、生徒の管理を効率化するために1871
年の布告で設置された。それまで入試、定期試 験、教材の採用、認可等に係る決定を一手に引き受けた教育委員会の機能は、教育一般に 関する決定機関、入試審査機関、定期試験審査機関の3
つに分散された。1871
年の改訂条文と78
年政令条文の間には幾つかの相違が見られる。次の表は、両者を 比較し、相違する箇所を網掛けで強調している。表I-9-2. 教育評議会、入学審査団、試験委員会に関する
1871年の改訂条文と1878年の政令条文の比較 史料:CP, p. 260-261 ; AN, AJ 37/195-1, p. 155-157.
項目 1871年改訂条文 1878年政令 教育評議会
(conseil
d’enseignement)の 構成・議長
音楽学習評議会と劇学習評議会から なる。議長は院長が務める。
音楽学習評議会と劇学習評議会からなる。議 長は大臣または美術局長、彼らが不在の場合 は院長が務める(第10項)。
音楽教育評議会の 成員
1. 音楽院院長(議長)
2. 芸術庁長官 3. 劇場局長
4. 学士院音楽部門の成員 5.音楽院作曲科教授 6. 事務官
1. 美術局長 2.音楽院院長 3. 美術局副局長
4. 学士院音楽部門の成員 5. 音楽院作曲科教授 6. 事務長官(第11項)
音楽教育評議会の 役割
音楽院教育についての一般的利害に 関わる問題と措置について検討す る。
同左
入学審査団 各科に設置され、教育評議会のメン バー(一部)とその科の正教授で構 成される。院長が団長を務める。
同左(第14, 15項)
試験委員会の構成 各教育セクションに設けられる。教 育評議会の成員と音楽院正教授から 選出された6名、および音楽院外部 の芸術家で構成される
同左(第16, 17項)
試験委員の任命と 資格
音楽院正教授の6名は音楽院院長の 提示と芸術庁長官の提案に基づいて 大臣により任命される。
音楽院正教授の 6 名は大臣により任命され る。[提示・提案の定めなし]
試験委員の交代 委員は2年ごとに半数を入れ替える ことができる。
委員は2年ごとに1/3を入れ替えることがで きる。(第17項)
試験委員の再選 委員を外れた者は、外れてから2年 を経なければ同じ委員会に召集され ることができない。
なし
委員の資格に関す る制限
教授は、自身のクラスないし自身の 所属する教育科目の審査のための召 集された委員会には参加することが できない。
同左
484 本論文I-7-1-2参照。