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ピアノ科は、音楽院の教育編成においてどのような位置を占めていたのだろうか。草案作 成委員会では、クラス編成の再検討が給与システムに次ぐ重要な論点となった。本章では、

まず音楽院教育を構成する諸科の新編成を、

48

年草案と

50

年総則に基づいて提示する。続 いて、ピアノ科およびピアノ科に関連する諸クラスの位置づけ、クラス相互の関係を検討す る。

次頁から

2

頁に亘って掲載した表

I-3-1

と表

I-3-2

は、それぞれ

1841

年の総則に定められ た旧クラス編成と、

50

年総則で規定された新クラス編成を示している。

1842

年と

1850

年の クラス構成を比較すると、

50

年総則では、

41

年総則でばらばらに併記されていた

27

の教育 部門が

8

つの大きなセクションに分類されたことが分かる。ここではまず、ピアノ科に直接 的・間接的に関係するセクションとして、基礎教育(とりわけ鍵盤楽器学習クラス)、ピア ノ科、器楽合奏クラスについて検討し、次いで

50

年総則で新たに設置された器楽合奏クラ スと民衆合唱クラスについて考察する。これらのクラスは、19世紀後半の音楽活動をめぐ る環境の変化を反映しており、ピアノ科を取り巻く状況を理解する上で考察に値する。

3-1. 基礎教育

1

カテゴリーの基礎教育は、ソルフェージュ、口頭和声、役学習、鍵盤楽器学習クラス の

4

区分で構成された。このカテゴリーは、各科の専門教育に入る前か、あるいは並行して 行われる教育の基礎を提供する科目を含んでいる。ソルフェージュは音楽に関わる科目に進 む多くの生徒が履修しており、教員の数も再編成前後でほとんど変わらず

16

名前後と、全 科目の中でもっとも多かった。ソルフェージュ科は一人の教員に対して複数の生徒が合同で 行われる合同ソルフェージュ(2クラス)と、個別ソルフェージュ(声楽生徒向け

6

クラス、

器楽生徒向け

6

クラス)の

2

段階が設けられた。48年総案は、複数の生徒による合同ソル フェージュをより上位に位置づけたが、その理由は次のように説明されている。

音価や拍といった基本的な原則に係る一般諸概念は、教師が生徒に直接実践して 見せる必要のないものであり、より多数の受講生に向けられればそれだけよく感じ 取られやすいものである。声を合わせることは、発声と拍子の感覚を修正する効果 がある。集団の直観的知性が御しがたく怠惰な個々人を訓練し、進歩させる129

口頭和声は、1848 年の再編成以前から引き継いだ科目130で、生徒に「耳の訓練と声によ る訓練を通して和音の分析、和声の予備知識」への手ほどきを行い、基礎教育と和声の高等 教育の橋渡しをすることを目的としていた131

129 « Il est des notions générales, comme celles des principes rudimentaires, des valeurs et des temps, qui n’ont pas besoin d’une démonstration directe du maître à l’élève, qui se perçoivent d’autant mieux qu’elles s’adressent à un plus grand nombre d’auditeurs. A un degré un peu plus avancé, la réunion des voix a pour effet de rectifier l’intonation et le sentiment de la mesure; l’intelligence instinctive d’une masse entraîne et fait progresser les individualités rebelles ou paresseuses. » CP, p. 355.

130 1840年の教員一覧の中にはこのクラス名が記載されている。CP, p. 422.

131 Cf. CP, p. 355. « Cette classe, qui initie les élèves par le travail de l’oreille et l’exercice oral à la décomposition des accords et aux notions préliminaires de l’harmonie, forme une sorte de lien entre l’enseignement élémentaire et l’enseignement supérieur. »

I-3-1. パリ音楽院クラス一覧(1841年総則)

N.B. 本表は次の史料に基づき作成:Anr, 1842, p. 780-783.

クラス種別 1842年時点での教員数

(復習教員を含む)

1 発声 1

2 フランス語とその書法 -

3 舞台作法 1

4 役学習 1

5 オペラ朗唱 3

6 ソルフフェージュ(含合唱) 17

7 鍵盤楽器学習(声楽生徒向け) 3

8 声楽 6

9 声楽アンサンブル 1

10 和声・実践伴奏 5

11 和声 2

12 対位法・フーガ・オペラ作曲 4

13 ピアノ 4

14 オルガン* 1

15 ハープ 2

16 ヴァイオリン 4

17 チェロ 2

18 コントラバス 1

19 フルート 2

20 オーボエ 2

21 クラリネット 1

22 ファゴット 1

23 ナチュラル・ホルン 1

24 ピストン付きホルン 1

25 トランペット

キー付きトランペット 1

26 トロンボーン 1

27 劇学習 4

その他 フェンシング 1

*4

分の

1

は女子生徒を受け入れた

I-3-2. パリ音楽院クラス一覧(1850年総則)

N.B. 本表は次の史料に基づき作成:An, 1852, p. 830-833. グレーの欄は新設のクラスまたは特別な変更が行

われたクラス。

区分 クラス種別 1852年時点での教員数

(復習教員を含む)

1. 基礎教育

ソルフェージュ (合同、個別クラス)

口頭和声 16

役学習 1

鍵盤楽器学習(声楽、和声、作曲生徒向け) 5

2. 声楽 声楽 8

声楽アンサンブル 1

3. - オペラ朗唱 5

4. - ピアノ 5

ハープ 1

5. 弦楽器

ヴァイオリン 4

チェロ 2

コントラバス 1

6.管楽器

フルート 2

オーボエ 1

クラリネット 1

ファゴット 1

ナチュラル・ホルン 1

ピストン付きホルン 1

トランペット 1

トロンボーン 1

器楽アンサンブル(ピアノ、管・弦楽生向け) 1

7. 和声・オルガ ン・作曲132

オルガン(オルガン・即興) 1

和声書法 2

和声・実践伴奏 4

作曲(対位法・フーガ、理想作曲) 4

8. 劇朗唱

劇朗唱 3

舞踏 0

フェンシング 1

その他

舞台作法 1

上級合同民衆歌唱教育 1

朗読法 1

132 オルガンが和声、作曲とともに理論系学科に分類されたのは、48年草案によれば、次のような理由から であった。「この楽器の学習が主に即興を目的としており、オルガニストには欠かせない和声および作曲の 学習と本質的に関係しているからである。」Cf. CP, p. 358.

48

年草案によれば、役学習科は上演に関する技術修得を目的とするオペラ朗唱クラスに 進む前段階の学習として位置づけられ、「純粋に音楽的な練習を通して、オペラ朗唱クラス の勉強の準備をする」ことを目的としていた133。つまり、このクラスは実際に舞台所作を学 ぶのではなく、オペラ作品に登場するアリアやレチタティーヴォを演技なしで練習するため のものであった。「役学習」とは、演技学習以前にオペラの様々な役柄の基礎を、音楽的訓 練を通して学ぶ、という意味であったと考えられる。

鍵盤楽器学習科(男子

2

クラス、女子

3

クラス)は、実質的にはピアノを学ぶクラスだっ たが、声楽、和声、作曲科の生徒のみに開かれていた134。いわゆる専攻外ピアノ・クラスで ある。48 年草案は、これらのクラスの目的を、声楽科の生徒がピアノで弾き歌いしながら 練習できるようにすること、和声や作曲を学ぶ生徒が自作品を演奏できるようにすることと 規定している135。この科目においては、ピアノはあくまで専科の技能を補うための手段とし て位置づけられている。48年草案におけるこのクラスの位置づけは次の通りである。

この教育は、生徒のさまざまな領域で必要とされる事柄を可能にする限りにおいて行 われ、これら[声楽、和声、作曲]の生徒たちにのみ割り当てられるべきである。こ の教育は、ピアノ科の予備的教育に変更されることはできない[…]136。(傍点強調 は筆者による)

この但し書きは、1848年以前にピアノ科志望の生徒が、本来の学科設置趣旨に反してこ の学科に在籍しながらピアノ科への転科を待機していたという実状137を踏まえている。しか し、50年総則が適用されてから数年後には、鍵盤楽器学習科での経験がピアノ科転向の意 志を刺激し、ピアノ科に転向する生徒が少なからず現れた。鍵盤楽器学習科からピアノ科へ の転向は、志望者の多かった女子クラスに特有の現象で、1852-1853年度から

1854-1855

年 度にかけて

13

名の生徒が鍵盤楽器学習科からピアノ科に転向している。次頁の表は、これ らの年度のうちにピアノ科へ転向した生徒の一覧138である。

133 Cf. CP, p. 356. « Elle a pour objet de préparer les élèves, par des répétitions purement musicales, aux travaux des classes de déclamation lyrique, auxquelles sont réservées la mise en scène des morceaux appris, l’indication du sentiment et de l’action dramatique que comporte leur exécution au théâtre. »

134 50年総則第15項。Cf. CP, p. 256. 作曲と和声は男子にしか開かれていなかったので、女子でこのクラ スを履修できたのは和声・実践伴奏科および声楽科の女子生徒である。

135 50年総則第16項。Ibid. 48年総則における該当箇所はIbid., p. 356.

136 « […C] et enseignement doit rester dans les limites que comportent les besoins de ces divers ordres d’élèves, leur être exclusivement affecté, et il ne peut être converti en un enseignement préparatoire aux classes de piano […] » CP, p. 356.

137 Cf. FG, p. 85.

138 この表は、フランス国立古文書館に所蔵されている次のパリ音楽院生徒名簿に基づく。Tableaux annuels des classes, première série, AN, AJ 37 154/5 ; AJ 37 155/1-2.

I-3-3. 鍵盤楽器学習科からピアノ科へ転向した生徒 1852-1853

鍵盤楽器学習科クラス担任 生徒名 転科先(ピアノ科)のクラス担任 転科日 転科先での最終成績 他の学科における最終成績

ボフール夫人 ルユエデ Lehuédé コーシュ夫人 1853/1/20 3次席 (1855)

ソルフェージュ:1等賞(1850);声・

実践伴奏:1等賞(1855);オルガン:

2次席(1866)

フリド Fridot コーシュ夫人 1853/1/20 - -

1853-1854

鍵盤楽器学習科クラス担任 生徒名 転科先(ピアノ科)のクラス担任 転科日 転科先での最終成績 他の学科における最終成績

ボフール夫人

シャンポン Champon ル・クーペ 1854/5/9 3次席 (1856) ソルフェージュ:1等賞(1857)

シュヴァーブ Schwaab ファランク夫人 1853/12/26 3次席 (1856) 鍵盤楽器学習:選外優良(1853);

和声・実践伴奏:第1次席(1860)

ルクレルク Leclerq エルツ 1853/12/26 1等賞(1858) ソルフェージュ:1等賞(1855);和 声・実践伴奏:第2次席(1860)

ルマルシャン夫人 ヴィレール Vilers エルツ 1853/12/26 - ソルフェージュ:第2次席(1853);

鍵盤楽器学習:第2選外優良(1853)

ド・ロード de Roode ル・クーペ 1854/3/9 - -

ジュースラン夫人

バルル Barles ファランク夫人 1853/12/26 2次席 (1855)

ソルフェージュ:1等賞(1853);鍵 盤楽器学習:主席選外優良(1853);

和声・実践伴奏:1等賞(1857)

トゥーヴネルThouvenel エルツ 1853/12/26 2等賞(1854) ソルフェージュ:第1次席(1853);

鍵盤楽器学習:主席選外優良(1853)

ランスビュルグ

Rensburg ル・クーペ 1854/3/9 1次席(1858) -

1854-1855

鍵盤楽器学習科クラス担任 生徒名 転科先(ピアノ科)のクラス担任 転科日 転科先での最終成績 他の学科における最終成績

ルマルシャン夫人

ブリュネ Brunet エルツ 1854/12/21 - - ステインヴェンデール

Steinwender ファランク夫人 1854/12/18 - -

ジュースラン夫人 ブーキエ Bousquier コーシュ夫人 1854/12/19 - 盤楽器学習:主席選外優良(1854)